難しいと有名な人だった
聞けば二人も、ネイトさんに魔道具作成をお願いしに来たという。俺は知らなかったけれど、彼はこの辺りではかなり有名な魔道具技師で、依頼しに来る人が後を絶たないのだという。デルは魔道具狂いの変態だと言っていたけれど、そんなに立派な人ならちゃんと教えて欲しかった。そりゃあ、既に引退世代のデルからしたら、ネイトさんは若造にしか見えないのかもしれないけど。
「ネイトさんは今、俺が頼んだ魔道具を作ってくれているんだ」
「ええっ?!」
ネイトさんを訪ねて来たが何度呼んでも出てこない、裏にいるのかと思ってこちらに来たのだと言うのでそう説明すると、盛大に驚かれてしまった。なんだろう……何か変な事を言っただろうか?
「ど、どうかしたか?」
「ルークさんは、ネイトさんと懇意なのですか?」
「え?」
「ネ、ネイトさんは凄く人気のある魔道具職人で、しかも気に入った方の依頼しか受けないと有名なんです」
確かに癖がありそうな感じはしたけれど、それでも魔石を見せたら張り切って行っちゃったから、てっきり依頼は断らないのだと思っていた。依頼が難しい人だったなんて。
「私たちも、何度かお願いに来ているのですが……」
「それって、もしかして……」
「はい。ずっと断られています。かれこれもう……十回、十一回目かしら?」
(なんてこった! そんなに有名な人だったのかよ……)
デルはそんなことは言っていなかったんだけど……でも、ネイトさんがデルのことを凄く好きなのは感じた。いや、あれは心酔しているというレベルだろうか。あんなばあさんに……と思わなくもないけど、まぁ、昔は美人だったのかもしれないし、若い頃に色々あったのかもしれない。俺の頭の中に、デルに踏みつけられて喜んでいるネイトさんの姿が浮かんだ。ダメだ、似合いすぎている……俺は頭を振ってその妄想を追い出した。
「俺も知り合いに紹介して貰っただけで、何の伝もないんだよなぁ」
「そうですか」
「俺が頼んで聞いてくれるかはわからねぇけど、一応話してみるくらいなら……」
「本当ですか?!」
「わっ!」
いきなり抱きつかんばかりに近づかれてビックリした。もう十回も断られていて藁にも縋る……ってところか。でも、あんまり期待されてもなぁ、俺自身は何の影響力もないんだよ、残念ながら。
「俺も初対面なんだ。期待はしないでくれ」
「はいっ! でも、そう言って頂けるだけでも嬉しいです!」
随分と素直な性格らしい。隣の男と足しで二で割ればちょうどいいんじゃないだろうか。
「それで、二人は何の魔道具を依頼しに来たんだ?」
「え?」
「あ、ああ。俺からも頼むなら、一応どんなものかは知っておきたいと思って」
俺だって無条件で受けるつもりはない。ちゃんと真っ当な品物で、頼むに値する依頼なのが条件だ。そうでなければ紹介してくれたデルにも顔向けできないし、ネイトさんの好意を無駄にしてしまう。こっちに知り合いもいない俺は、そんな不義理なことはしたくなかった。
「なるほど、特定の魔獣を追跡する魔道具かぁ」
詳しくは教えて貰えなかったがフィンは魔獣ハンターで、とある魔獣を探しているのだという。その魔獣は家族の仇だそうで、もう三年も追いかけているのだとも。
「魔獣の一部があれば追跡出来ると聞いたことがあって」
「それでネイトさんに?」
「ええ。今は噂を頼りに探しているのですけど、それじゃ間に合わなくて……」
噂が広まるには時間がかかるから、辿り着いた頃には既に移動した後なのだという。これではいつまで経っても見つからない。せめておおよその位置がわかる魔道具があるのなら、とネイトに頼みに来ているが、今のところ話を聞いてもらうことすら叶わないという。
「なるほどなぁ。それで、探している魔獣ってのは……」
「ブルードラゴンです」
「……は?」
「これがそのドラゴンの鱗です」
フィンが懐から取り出したそれは、どこかで見たことがあるもので……
(いやいやいや。同じブルードラゴンなら鱗の色も同じだろうし……)
そう、それが俺の鱗だとは限らないだろう。うん、そうだ、その筈だ。俺は人を襲ったことはない。ないけど、それはここ最近の話だ。この身体に入る前のことはわからない。これって……
(手掛かりになるかもしれないけど、もし俺がその仇だったら……)
ドラゴンは希少種だ。しかも同じブルードラゴン。
(もしかして俺、墓穴を掘ってないだろうな……)
その可能性を完全に否定出来ないところが、何とも頭が痛かった。




