魔道具には魔石が必要
人間の姿を保つ魔道具を作るには、相当な魔力とそれを溜めておける魔石が必須らしい。質がいいものほど効果が長持ちするんだそうだ。
「……魔石、ですか」
「ああ。そのままじゃ失くしちまうから、指輪やネックレスなんかにすることが多いな」
「なるほど」
「お勧めはペンダントだな。長めの鎖を使えば服で隠せる。一番安全ではある」
魔石は貴重だから、指輪やピアスにすると狙われることがあるのだという。確かにペンダントなら見えなくてよさそうだ。アクセサリーを付ける柄でもないし。
「けど、魔石と言ってもどんなのがいいんですか? 俺、その辺はさっぱりで……」
魔術師していた頃も魔石を使ったことはあったが、それらは全て帝国からの支給品だった。自分で用意することはなかったので、何がいいのかさっぱりだ。それに、こっちの世界と帝国では使われている物も違うかもしれない。
「そうだなぁ……一番効果が高くなるのは、自分の属性の石だな」
「属性……それなら水か風、光かな」
「な……! お前さん、三属性持ちなのか?」
「え? あ、ああ。デルさんにそう言われた」
「そう、か。デルミーラ様が……」
ネイトさんのデルへの信用度はかなりのものらしい。それで納得されてしまった。そしてデルの言う通り、三属性持ちは珍しいのか。
「今はブルードラゴンだから、水属性が一番強いんじゃないかと思う」
「あ、ああ。そう、か……」
どうやらまだドラゴンだったショックは抜けていないらしく、表情を引き攣らせてしまった。気持ちはわかる。
「水属性か……だったら、透碧晶辺りがお勧めだな。あれは風との親和性も高い」
「そうですか。それってどこで手に入るんですか?」
魔石が必要なら取りに行けばいいだろう。残念ながら金はないから買うのは無理だ。幸いというべきか、今はドラゴンの姿だから大抵の場所に行けるし、魔獣に襲われる心配も少ないだろう。
「透碧晶は魔素が強い湖や川の底に出来る魔石だ。かなり希少だから買うと飛んでもねぇ値段が付く」
「湖や川……」
「色は名前の通り碧色で透明度が高い。色が濃くて透明度が高いほど質もいい」
なるほど、透碧晶は碧色で透明度が高いのか。う~ん、金がないし、やっぱり自分で採りに行くしかないか。あれ? でもそれって……
「ネイトさん、それってこんな感じ?」
そう言って取り出したのは、湖の底で見つけた綺麗な石だ。この前デルにも渡したあの碧雲石だった。他にも価値がありそうな石をいくつか持ってきた。デル曰く、謝礼代わりになるかもしれないし、どこかで役に立つかもしれないと言われたやつだ。
「え? あ、ああっ?! お、お前、どこでこれを……?!」
碧雲石を見たネイトさんに、またしても顎が外れそうなくらいに驚かれてしまった。この人、見た目の割に驚くリアクションが大きいというか、気持ちいい驚きっぷりを見せる人だ。見た目は冷静沈着で表情変わらなそうに見えるのに。
「え? ああ、これはねぐらにしている湖の底に落ちていた碧雲石だ。デルが欲しがるから、時々拾ってるんだ」
「碧雲石…… ああ、透碧晶のことをそう呼ぶ地域もあったな」
そう言いながら俺が手にしていた碧雲石を受け取ったネイトさんは、それを目に近づけて覗き込むように見つめた。
「な! お、おい! こりゃあ一級品だぞ!」
「え?」
「こんなに色が濃いのに透明度も高いなんて、滅多に手に入らねぇ一級品、いや特級品だ!」
「これが?」
ネイトさんが驚いているけど、あんまり実感はなかった。だって本当に底にゴロゴロ転がっていたのだ。デルの様子から魔術の素材になるんだろうとは思っていたけど。
「これがあれば……とんでもなく強力な魔道具が作れるぞ!」
そう言うとネイトさんの表情が一気に明るくなった。ウキウキしているとでも言うのだろうか。まるでおもちゃを前にした子供みたいだ。
「待ってろ! これで最高の効果がある、とびっきり丈夫な魔道具を作ってやる!」
そう言うとネイトさんは、俺が手にしていた魔石の入った小さな袋を手に、奥の部屋へと消えていった。




