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冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた  作者: 灰銀猫


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狙われたので森に潜む

 背中に衝撃を受けた俺は、バランスを崩してそのまま落下してしまった。念のためにと防御魔術をかけてあったから怪我はなかったが、さすがに飛んでいる時に後ろからの攻撃は勘弁して欲しい。


「あだだだだだだっ!!!」


 木の中に落ちたら、次々と枝にぶつかって痛かった。魔術で怪我はしなくても痛いものは痛い。何とか人化を試みる。枝に引っかかって地面に落ちるのは免れた。


「いってぇ……」


 思いっきり太い枝で胸を打った。そのお陰で落ちずに済んだけど、痛い。森の上空だったのが幸いだった。平地で真っ逆さまに落ちていたら多少なりとも怪我をしたかもしれない。


(それにしても……さっきのは何だったんだ?)


 急に背中に受けた衝撃は、何の音もしなかった。当然気配も。防御魔法のお陰で怪我はなかったけれど、接触がなかったから何がぶつかったかもわからない。直ぐに動くのは危険だろう。攻撃してきた相手も目的も手段もわからないだけに、警戒するに越したことはない。念のために認識疎外の魔術をかけた。これで一層相手から見つかる確率は減るだろう。


 そろそろ休憩を、と思っていたところだったので、用心しながら太い木の枝に移動して、幹に寄り掛かった。深い森ではないが、しっかり枝の張った木々が多いのは幸いだった。隠れるにはうってつけだ


 半日以上飛びっぱなしだったから、さすがに疲れた。まだドラゴンの身体で空を飛ぶことに慣れていないのもある。それにドラゴンになってわかったが、俺は高いところが苦手らしい。自分で飛ぶ分にはいいが、飛ぶよりも水の中を泳いで移動する方がずっと好きだとわかった。水属性のブルードラゴンだから、水の中が安心するのかもしれない。


 懐から乾燥させた木の実を取り出して口に放り込んだ。これはデルに教わった保存方法で、乾燥させた分甘みが増して中々に美味い。口が渇くが栄養補給にはもってこいだ。


(うん、うめぇ)


 ドラゴンになって味覚も変わった気がする。以前は甘い物は苦手に感じていたが、今は美味く感じる。果物などの酸味がある甘みもだ。以前は酸っぱいと苦手意識が強かったのに不思議なもんだ。


(ん?)


 草を踏む音が聞こえた。耳を澄ませると、左後ろの方向から音が近づいてきた。足音からして人間だろうか? 草を棒か何かで払いながら進んでいるようだ。こちらに近づいているところをみると俺を襲った奴だろうか。


(あれか……)


 かなり離れたところを、男が左後ろから前の方向に進んでいるのが見えた。俺に気付いた様子はない。背が高いし身体付きからして騎士あたりだろうか。周りの草や木々よりも少し薄い緑の髪を後ろで一つで結び、背には大きくて不思議な形の剣を背負っていた。手にした小刀で草を払いながら進んでいる。周囲を気にしているところを見ると、何かを探しているようだ。


(あいつが、俺を襲った奴か?)


 顔がよく見えないが、背格好は俺の記憶の中に合致する奴はいなかった。そもそも異界に知り合いはいない。俺の視線に気付かないまま、その男はゆっくりと俺から離れていった。


 どれくらい経っただろうか。高かった日は既に傾いて赤みを増していた。このままじゃ夜になってしまうが、今動いていいのかの判断がつかなかった。あの男は離れて行ったけれど、どこかで折り返して戻ってきているかもしれないと思うと、迂闊には動けなかった。


(しゃーない。今夜はここで過ごすか)


 ドラゴンになったせいか、数日寝なくても困らなくなっていた。まぁ、普段はすることもないから寝てばっかりだけど。帝国にいた頃は完徹なんてざらだったし、あの頃から比べると十二分に睡眠はとれている。


 夜の森は真っ暗だが、今の俺は夜目が利いて困ることはなかった。まぁ、夜は魔獣の動きが活発になるから、下手に動かない方がいいだろう。ドラゴンで狙われたのだろうから、人化は解かずにいた方がよさそうだ。認識障害と魔獣除けの結界をかける。これだけで魔獣に襲われることもないだろうし、俺がここにいることを気づく者もいないはず。帝国にいた時も結界は得意だったから。


(星が、綺麗だな……)


 空を見上げると、木々の間から星が見えた。子供の頃に兄さんと一緒に見た星空を思い出した。





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