アルデバラン、冬の花は炎魔法で夏に咲く
私の名前はアルデバラン・オデッセイ。
アルデバランとは冬に咲く青い花のことで私の髪と瞳の色がとても青かったのでそう名付けられた。
私はオデッセイ男爵の末娘で6歳になったばかりだ。
今日から魔法学園に入学する。
貴族は貴族でも貧乏貴族で馬車も乗り合い馬車だし着ているドレスも姉のお下がりだ。
乗り合い馬車の中は入学する生徒でぎゅうぎゅう詰めだ。
8人乗りなのに12人乗車している。
この中で私だけが貴族だと思う。
もっとも服装をみる限り似たり寄ったりで皆くたびれた服装をしているけれど。
「ねぇねぇワタシは北の開拓村
出身でヨッシー。アナタは?」
赤毛の女の子が元気よく話しかけてくる。
「えっ?私はアル⋯⋯」
何となく貴族と言えなかった。
(言わなくてもいいよね。畑仕事も洗濯も料理も姉と私がしてたしメイドや執事の仕事も分担していたし)
と、急に馬車が急停車した。私の鼻はドアにぶつかり鼻血とともに真っ赤に腫れる。
突然ドアが開いた。マスクで顔を隠した男がドア近くの私の顔を見て息を飲む。
更に順繰りと顔を見て呟く。
「駄目だこりゃイモばっかりだな、売れやしねぇ」
(え?イモばかり⋯⋯)
後続の馬車から女の子の泣き声がする。
こわごわ覗くとピンク色の髪をした美少女がマスク男に連れ去られようとしていた。
(私はイモ⋯⋯⋯⋯だから無事なんだわ)
「その子を放せ!」
ジャガイモ顔をした男の子が後続の馬車から飛び出す。
手には短剣を握っている。
「邪魔だ!」
マスク男が男の子を蹴り飛ばす。
護衛で雇われていた冒険者たちは既に倒れている。
覗いていた私は今できることを無意識に唱えていた。
「森羅万象にして有象無象なりて荒唐無稽がごとくアルデバラン狐炎きたれ!」
小さな狐火が辺りに浮かぶ。
敵味方関係無く衣服を燃やす。
「きゃあぁぁ」
ピンク髪の女の子の髪がチリチリと焦げた。
マスク男のマスクや服がチロチロと燃えている。
「いやぁ!私の髪がぁ」
ピンク髪の女の子は焦げたカーリーヘアーになり、ドレスも焦げて灰と化した。
マスク男はてっぺん禿げのカーリーヘアーに変化している。
倒れた護衛達もチリチリの黒いカーリーヘアーと一糸纏わぬ情けない姿だ。
二台の馬車から恐る恐る降りた子供達は泣いているカーリーヘアーの女子にコートを着せる。
ジャガイモ顔の男子も意識を取り戻し裸に近い自分の姿に赤面した。もちろん赤いカーリーヘアーだ。
「この魔法に名前をつけたわ」
私は燃えてチリチリ頭の人達を見る。
「カーリーの祝福⋯⋯」
と名付けた。
⭐
魔法学園に到着したのは深夜だった。
「校長のサンドラです。今夜は部屋で休みなさい」
校長は砂色の髪をトグロのように高く結い上げヒラヒラのネグリジェを着ていた。
私は校長にトグロ姫というニックネームを付ける。
寮の部屋は古びているが掃除はきちんとしてたし、何より部屋を独り占めできるのが嬉しかった。
実家では姉と一緒だったから。
するとどこかで叫び声がする。
慌てて廊下に出るとピンク髪が叫んでいた。
バタンバタンとドアが開く。
「髪がカーリーヘアーに!」
校長が魔法で彼女や他の人たちの髪を元のサラサラのピンク髪や赤髪に戻したはずだった。
私は後退りドアをそっと閉じ
ベッドに座る。
カーリーの祝福じゃなくてカーリーの呪いだわ。
明日から彼女の頭を見れないなぁ。
でも必ずこの魔法を解いてみせるから待っててね。
窓から見える満月に私は誓う。
私は金貨を稼いでお姉さまの持参金もつくってみせますわ。
持参金が無い為に結婚できないなんて⋯⋯。
私はお姉さまに相応しい婚約者も見つけてみせますわ。
⭐
旅行鞄をベッドの下に置きながらパンティーを履き替える。
下着をポケットに入れて裏庭に行く。
「井戸があったわ」
下着を水で洗う。絞ってパンパンしてから部屋で干そうと振り返ったらピンクのカーリーヘアーの女の子が立っていた。
「あなたのハンカチ貸して」
そう言うと私の下着を頭に被り走り去る。
下着の隙間から覗いたピンクのモジャモジャが風に揺れていた。