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星継の鉄剣 ミーティリト

RPGとかに良くある武器のフレーバーテキストが大好きで、あんなのを書く仕事ってどんなのかなぁと思った結果がコレです。楽な仕事なんてないっていう身体に染みついた考えは抜けなかったよ……。


 流行り廃りというものは何時の時代にだってある。具体的に何がきっかけなのかはわからなくても、数年もすれば「なんであんなことやってたんだろう?」と首を傾げたくなるようなものにみんなが熱中する。

 それはファッションかもしれないし、生き様や死に様だったりもする。文字どおり命を懸けるほどに誰もが夢中になり、あるいは夢中にならない者が異端扱いされてしまうこともある。


 では今僕がいるこのマテリア王国で、特に上流階級たちに流行りのものは何かというと―――自分の持ち物にカッコいいストーリーをつけることだ。


「サイクスぅ! ガンガルダ男爵のやつは進んでんのか、ああん!?」

「あんなクッソショボい普通の剣にどんなストーリーつけろってんですか! 男爵家はかなりの歴史があるからどうかと思えば……! 室長こそディーン将軍の分は終わったんですか!?」

「ああ終わったさ、鎧はな! さすがの将軍様だ、鎧を五揃いも持ってきやがったと思ったら剣も盾も同じだけ追加だとよ! お前、それ終わったら手伝えよ!」


 木簡やら巻物やら羊皮紙やら、記録資料が山と積まれた机を挟んで吠える僕と室長。オーガのようにゴツイ体格の室長が相手でも知ったことかと、手に持った下書き用の粘土板を投げつけんばかりの勢いで握り締める。

 何度も書き直しをするから下書きくらいではインクも使ってられないので用意された粘土板は、すでに憎悪の対象であり僕らの最後の武器でもあるのだ。


「いつも言ってますけどね、いくら僕らが暇を持て余してるからって一部署だけでやることじゃないでしょう! 人員の増加を希望します!」

「うるせぇ、できるならとっくにしてるわ!王命ならやるしかねぇだろうが、仮にも宮仕えの分際で文句垂れんな給金削るぞ!」


 ―――うむ、皆の持つ武具の由来や逸話、実に素晴らしい。こうなればいっそ、それらを取りまとめて図鑑を作るのも面白いかもしれぬ。


 自分の発言の重さを知っている国王陛下らしくもないが、流行りというものは一国の主の頭もおかしくするみたいだ。そして上がしょうもないことを言うとしわ寄せは下の者に来る。

 どうせ作るならちゃんとしたものを、ということで学術研究所でやることになった武具図鑑の作成は研究所内でのたらい回しの結果、僕が所属する資料編纂室へとぶん投げられた。


 そうして始めた図鑑作成だが、ぶっちゃけ問題が山積みだ。意外と予算は潤沢なのだが、逆に言えば予算以外のすべてが問題であると言える。


 まず、単純に数が多い。国王の命で作られる図鑑ということで大小問わず国中の貴族やダンジョン踏破で名を馳せた冒険者、武芸者なんかが大挙して押し寄せ、自分の持つ武具を載せろと迫ってくるのだ。

 自分の持ち物を載せて欲しいというその気持ちは分からなくもない。学術研究所がきちんと調べた由緒ある説明文が武器につけられ、国が認めた名物ということになるのだから。


「だからって何でもかんでも持ってきすぎなんですよ、誰かが分別をしてくれたらいいのに」

「言いたいこたぁわかるがよ、何も一大サーガを書き上げろっつってんじゃねぇ。ページの半分は宮廷絵師が描くスケッチになるんだ、残り半分をご立派な文章で埋めてやりゃあいい」

「十割の嘘ででっち上げてもいいならこんなに悩む必要はないんですけどね」


 この図鑑制作が難航している一番の原因は、持ち込まれた物の大半がただ先祖代々受け継がれているちょっと拵えのいい武具だとか、そういう図鑑に載せるまでもない物ばかりだということだ。

 図鑑に載せないという判断もできなくはないが、それは持ち込んだ人たちの面子を潰すということにもなるのであまりやりたくない。掲載させようとしてそれなりの寄付金をくれる貴族たちによって、上から圧力がかかっているのもあるけど。


 そうなれば僕たちが物語を作らなくてはならないというのに、特に貴族連中は見栄っ張りで面倒くさくて一から百まで嘘で固めたものはプライドが許さないと(のたま)いあそばされる。そんなクソみたいな理由が僕の頭痛の元になっているという事実が僕は許せないのだが。

 だいたい、特別な物語がある武具なんてそれこそ王家に伝わる宝剣とかそんなもんだけでいいだろ。そういうのは少ないからこそ特別感が出るんだよ、わかってないな。


「とにかく、俺もお前も締め切りが近い。気分転換と意見交換を兼ねて、今できているところまで見せ合おうや」

「あーいいですね。言葉の響きも確認したいんで、読み上げていいですか?」

「おう、じゃあお前からな」


 了解でーす、と下書き用の粘土板を両手で持つ。予定されている図鑑の一ページと同じ大きさがあるから、けっこう重たいんだよなコレ。


「それでは……」


【クラムチャウダー】

 ガンガルダ男爵、オーメンド家に伝わる名剣。男爵領で採掘された鉄で作られており、武骨で装飾の少ない実用的なつくりをしている。魔法の力は込められていないが、それがゆえに持ち主の力量を映す鏡のような剣ともいえるだろう。

 剣とは飾られるものではなく、敵を叩き斬るために振るわれ、また道を切り開くもの。歴代の男爵とともに戦場を駆け幾多もの騎士を打ち倒してきたこの剣は、紛うことなき騎士の魂である。


「以上です」

「以上です、じゃねーよ! クラムチャウダーってなんだお前、それって確かモンスターの生息域調査をやってる時にどこかの港町で食った貝のスープだろ!?」

「だって剣に名前が無いからカッコいいやつをつけてくれと頼まれましたんで……」


 響きはカッコいいだろ、クラムチャウダー。なんかめっちゃ切れそうじゃん。たしか男爵領は海岸に面してるはずだし、大いなる海の力でも宿ってるんでしょ。知らんけど。


「だとしてもテキトー過ぎんだろが……。それにパッとしない文章だしよ、後半なんて別にこの剣じゃなくても書けることじゃねぇか」

「それぐらい書くことないんですよ、クラムチャウダー。王都の武器屋を何件か探したら似たようなの十本は出てきますって」


 騎士剣っていう割には若干短いけど、どうせ長らく使ってる間にすり減ってきたとかそんなところでしょ。その辺の冒険者が使ってるロングソードと大して変わらないよ。

 むしろなんでこんな普通の剣を代々伝えてきたんだ、男爵家は。他の貴族が持ち込んだ物は多少なりとも装飾されていて見栄えは良かったりするもんなのに。


「お前は頭はいいはずなのにバカだからなぁ。しょうがねぇ、俺の手本を聞かせてやる」


【聖天鎧 シエルアーク】

 天騎士ディ・ロンドベルが着用していたと伝えられる、蒼穹に形を与えたかのような青鋼の鎧。超希少な魔法鉱石であるセルリア鉱を使用しているため、光の当たり方により表面が薄っすらと七色に染まる。

 凝った装飾の一つ一つに魔法的な意味が込められていて、縁取りの模様に見えるものは全て古代魔法文字。それらの配置は綿密な計算下にあると見られ、小さな魔法をいくつも折り重ねて相乗効果を発揮し、いかなる苦境からも着用者を守護する。

『あくまで自分は武の者であり、平和のために戦い民の命を守ることこそが王より与えられし使命なり。そのことを武門の衆が忘れた時、国は亡ぶだろう』

 マテリア王国の開祖である祖王ノーティスの忠実な騎士にして、最も信頼した友といわれる天騎士ディ・ロンドベル。彼の騎士は平時であってもこの鎧を着こみ、常に戦に備えたという。


「チッ!」

「聞くなり舌打ちってなんだ、ケンカ売ってんのかテメェ」

「いやいや、どう考えても題材が優良すぎるでしょ。こんな逸話だらけのもんならいくらでも書けますよ、むしろページに収まるように調整する方がメインになりますって。それにこういうのは僕向きのシロモノでしょう」


 ふざけるな、なんだその勇者が着るタイプの鎧は。スケッチをする宮廷絵師もさぞかし気合が入るだろうよ。天騎士様のセリフなんて引用しちゃってよ~、カッコつけてんじゃねーぞオッサンが。

 ていうかどんなものでもスケッチと注釈で一ページって国王陛下が定めたらしいけど、マジでこの天騎士の鎧とクラムチャウダーが同じだけスペースを取るの? シエルアークだけで余裕で五ページはかける自信があるよ。


「オイオイオイオイ、サイクスくぅーん。将軍家の持ち物を担当するってことは、ヘマこいたら将軍に目ぇつけられるってこったぜ? ド田舎の芋男爵と一緒にされたら困るんだよなぁ~」

「芋みたいな顔してるのは室長の方では? それと、将軍なんて怖がってもない癖にテキトーいうのやめてもらえます?」

「いい根性してるじゃねぇか、俺に正面から言い返してくるなんてなぁお前くらいのもんだぜ?」

「そりゃ室長が引退したとはいえダンジョン三つを踏破した凄腕の冒険者だからでしょう。オーガも泣いて許しを乞う鬼のダグラス・バックと言えば、知らない人はマテリアにはいませんよ」


 室長はおよそ学術の徒には見えない筋肉ダルマの中年オヤジだが、実際に見た目通りの筋肉ダルマだ。数年前に突如冒険者稼業を辞めたら所長とのコネで無理やり学術研究所に入所したという力任せの履歴の持ち主で、そのくせ案外書類なんかにうるさい。

 そんな感じで研究所内でも異端中の異端であるので基本的に誰も近づかないし、資料編纂室もぶっちゃけると問題児どもの左遷先扱いなので室長と僕を含めて五人しかいない。そのせいで今これだけ忙しいのだからすべては室長のせいだ、そうに違いない。


「そういうのを理解した上でそんな態度だから資料編纂室に配属されんだよ。もうちょっとうまく生きることを覚えろ。じゃねぇといつまで経っても俺の部下だぞ」

「それが嫌ならとっととこんなところ辞めてますよ」


 僕も、現在とある貴族のところへ出張調査に行っている三人も、室長には恩がある。日ごろからバカ、アホ、マヌケ、クズと散々な言われようをしている僕らだが、それでも恩知らずのクソ野郎にはなりたくない。少なくともこの図鑑作りが終わるまでは全員で協力し合うと決めたんだ。

 まあ、あいつらはビックリするぐらい文字通りのアホとマヌケとクズだからいない方が作業も進むかもしれないけど。出張調査が上手くいってるのかめっちゃ心配だもん、絶対なんか問題を起こすよ。


「ふん、好きにしろバカが。……そんじゃあ話を戻すぞ。いいか、本気じゃないとは思うがクラムチャウダーはやめとけ。片っ端から資料を漁って、こじつけでも何でもいいからそれっぽい名前に変えろ」


 やはりクラムチャウダーはダメか、名前のインパクトなら負けない自信が密かにあったのだけど。何百単位の武具を掲載する図鑑になる以上、名前だけでも凄みを出していかないとただでさえ剣自体が地味だから埋没してしまう。

 目次を開いてその名前を見た時のことを考えよう。ぱっと見だけで大体のイメージを掴めつつ、それでいて思わずそのページを読みたくなるような名前にしないといけない。


「うーん名前、名前……ああそうだ、室長のやつみたいに【○○○ □□□】の形で剣自体に二つ名をつけるのはどうですかね?」

「いいんじゃねぇか? 乱発すると逆に没個性になっちまうが、それっぽさは出るな」


 冒険者とかが二つ名だの通り名だのを持つのだって、本人の名前だけだと覚えにくいからという理由もあるんだし。聞き覚えの無い固有名詞だけをドンと出されるよりは遥かに馴染みやすいはずだ。

 えーっと、剣なんだから○○剣とか○○刃とかがいいかな。それでいて剣の特徴を簡潔に表した冠詞を乗せればいい。

 ふむ、だとすると……


「これこそがガンガルダ男爵オーメンド家に伝わりし伝家の宝刀、その名も【貝鍋剣 クラムチャウダー】……!」

「ぶふっ! だからクラムチャウダーから離れろっつったろ、バカ!」


 怒られたけど結構ウケたからよし。

 それにこの型の名付け方もなんとなく理解した。確かにこれはやりやすいけど、そのお手軽さゆえに依存しちゃいそうだ。用量を決めて使わないとこの型でしか名付けられなくなる。


「クラムチャウダーをやめたとして、それっぽい名前って何かあります? 【赤鍋剣 ミネストローネ】とか?」

「いい加減ぶん殴るぞ、スープの名前シリーズをやめろ」

「はい」


 どこまでふざけていいのか引き際を見極めるのは大事、室長は殴ると言ったら殴るからね。それでクズのやつが十メートル以上ぶっ飛ばされて一週間くらい治癒術師の世話になったのを見たことがある。


 そろそろ真面目に考えよう、ということで机の上に積み重なった資料の一つに手を伸ばす。これらは図鑑に載せる説明文のためにと男爵家から送られてきたもので、男爵家の武功の記録だとか領内にある伝承だとか、そういうものだ。もちろん原本ではなく写し。

 ここ一ヶ月でほとんどに目は通してあるそれらの資料によると、男爵家の領地経営は堅実で領民に慕われており、戦歴も特に目立ったものは無いが下手を打ったこともない。領内も聖獣や竜種がいるわけでもなく、ダンジョンも確認されてない。


「地味なんですよね、ガンガルダ男爵家。歴代当主はすごく真面目だし、資料を読めば読むほど好感が持てるんですが果てしなく地味」

「元冒険者としても、あの辺りは平和過ぎてなにもなかった覚えがあるな。ゆっくり体を休めるにゃあ、いいところだったがね」


 そんな真面目な男爵家ですら図鑑に剣を載せたがるあたり、流行というものは本当に怖い。お前らが直接調べに来いとおっしゃられるクソ貴族もいる中では、自発的に資料を送ってきてくれるだけありがたいけどね。

 そんなわけで改めて領内史を眺めてみても、ビックリするくらい何も無い。モンスターの大量発生なんかも素早く対応してるし、農作物の不作なんかが時折あっても日ごろから計画的に行われている備蓄で乗り切っている。ここまできちんと対応されては神が手を差し伸べる暇もないというものだ。


「おや、これは……?」


 自然災害の記録に書かれた一文に目が止まる。地味すぎる他の記録に比べて、明らかに特別感のある出来事がそこには書かれてあった。


 王歴百十二年 巨蟹の月 四日

 オント村に流星が墜ちたとの報告あり。墜落した場所は村から離れた場所であり、住民に被害なし。現場に残された流星は男爵家によって回収された。


「百五十年くらい前ですけど、男爵領に隕石が落ちたみたいですね」

「いいねぇ、隕石は高く売れるぜ。保有魔力がどうとか含有金属がどうたらと、エルフやドワーフが欲しがるんだ。小石くらいの大きさでも相当な値段になるぞ」

「ふーん。回収されているみたいですし、当時の男爵家も儲けたんでしょうね。その隕石で作られた剣とかだったら書きやすくて助かるのに……いや待てよ?」


 その時、天才研究員サイクス・ペディアの頭脳に電流が走る。これ、使えるのでは?

 嘘をつくのはご法度だけど、伝承や過去の事実にあやかるのは禁止されていない。室長だって過去の偉人である天騎士様の言葉を挿入しているし、いけるはずだ。

 問題があるとしたら質実剛健っぽい男爵が気に入るかどうかだけど、それはもうやってみるしかない。室長みたいな筋肉ダルマが天騎士の鎧に説明文をつけているような世の中だ、他人の好みなんてわかるもんか。


「へへへへへ。見えた、見えましたよ室長。こりゃ僕が先に終わりそうですねぇ」

「言い方は腹が立つが終わるんなら何でもいい。明後日に男爵のチェックが入るんだろ? その前に俺がもう一回見るからな」


 了解でーす。まあ楽しみにしといてくださいよ、ってね。

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