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プロローグ

ようやく連載版を投稿できました。プロローグは短編と同じ内容です。

思えばあまりのショックで、今まで潜在意識レベルでしかなかった前世の記憶というものが顕在意識レベルに浮上したんでしょうか。




ええと、例えれば太古の地殻変動で山ができるみたいにぐぐぐぐっとせりあがった的な感じ?たとえが合ってるかちょっと自信がありませんけど実感としてはそんな感じです。




ごきげんよう皆様


わたくしはレティシア。レティシア=ドゥ=ルーセル。


隣国ルーセル国の第一王女にしてこの度、大陸でも大国として隆盛を誇るここフルール国の国王シャルル5世の側妃として輿入れしてきた花も恥じらう16歳なのです。




…なのですが。


輿入れしてから3ヶ月。一度も夫たる陛下にお渡りどころかそもそもお目通りが叶わず、肩身を狭くして輿入れ時に与えられた離宮で過ごしておりました。




今朝、やっと陛下の使いという名目で宰相がやってきたかと思うと、おもむろに「陛下はしばらく王宮に戻れないので、お持ちの公爵領に滞在なさるように」と告げられました。




はい。あからさまに厄介払いですよね。軽んじられまくってますね。不要だと言われてますね。




辛さがマックスに達して失神しかけて、そのとき急に今までなかった別の人生の記憶―きっと前世というものだと思います―が頭の中に流れ込んだのです。




その負荷に耐えきれず、そのまま本当に失神してしまいましたわ。


はたから見てそれはそれは不憫に見えたでしょう。






窓から差し込む明かりの感じからして、朝の6時ごろでしょうか?




あらやだ、どうも丸一日くらい失神したままだったようです。




いま自分のベッドの中にいるので、失神した後ベッドに運ばれてそのまま夜を越したのでしょうか?


そっと気配を探ると部屋の隅の椅子に侍女が控えているようです。




あれは、わたくしが故国から連れてきたマリーですね。


亜麻色のまっすぐな髪にブルーグレイの瞳の清楚系美人で有能な侍女です。


多分いっぱい心配させたのでしょうね。


心なしかいつもより疲れてますオーラが感じられます。


そろそろ安心させてあげないと。






なるべく今目覚めましたと言わんばかりに身じろぎしてみます。自然に見えるように、頑張れわたくしの演技力。




気配を察してくれたみたいで、マリーがパッと立ち上がってこちらにやってきます。


「姫様!」


ああ、やっぱりとても心配させてしまったようです。


顔に全然余裕がありません。


「おはよう。マリー。…心配させてしまったわね。私どれくらいベッドにいたのかしら?」


「…!昨日の朝お倒れになったのでちょうど一日でございます。お加減は?どこか痛むようなところはございませんか?」


「大丈夫のようよ。ああ、喉が渇いてるの。お茶を淹れてくれないかしら?」






いつもにも増していっそう手際よく入れられたお茶をいただきながら思案いたします。




(やっぱり勧告された以上ここは素早く立ち去るべきよね。)






もちろん、倒れた事を理由に出発を引き延ばす事もできるとは思いますが。


長期的に考えて得策ではないでしょう。


これ以上ここにいても事態は好転するわけではない。


ならばとりあえずは言われた通り公爵領に向かうべきでしょう。どのみち行かなくてはいけない場所でもあるのだし。




ゆったり飲み終えて、横に控えていたマリーに伝えます。


「公爵領に向かいます。すぐに支度をお願い」






そして2日後。ただいま4頭立ての豪華な馬車の中です。


昨日のお昼に離宮を出発して、今は王都から公爵領に向かう途上、さきほどお昼をいただいて再び馬車に乗って1時間といったところでしょうか?




マリーはじめルーセルから来た侍女たちは、まあ、予想通り出発に難色を示しました。




「お倒れになったばかりで旅なんてとんでもございません!」




しかしそこは、わたくしも生まれながらの王女。


優雅ながらきっぱりと指図しました。




「沙汰が下った以上、見苦しい真似はしたくありません。」




幸いというべきかどうか微妙ですが、建前としては滞在であって戻って来る可能性込みなので、離宮は相変わらずわたくしの宮。


完全に退去するわけではないとのことですので、荷物も全てではなくそれなりに残し、当面必要なものを1日で荷造りして慌ただしく出発しました。




まあ、そうは言ってもすごい荷物ですけどね。


道中考え事がしたいと、通常は必ず同乗する侍女にも別の馬車に移ってもらって車内はいま、わたくし1人の状態です。




さて、傍目には冷遇にショックを受けて打ち沈んでいるように見えているであろうわたくし。




心の内をよくよく分析すれば確かにショックも受けているのでしょうけど、正直なところそれどころではないのです!


だって、わたくし急に前世を思い出してしまったのです!




前世のわたくしは「日本」という国で確か「社畜」という身分でした。働いて働いて、ある日、大きい仕事が終わってやれやれと自分の部屋にたどり着いて、そこからの記憶がありません。


あのままきっと過労死でもしたのでしょうね。30代に入ったところで、大変かわいそうな事でした。




そこから行くと、王女として生を受け、側妃ながらも大国に輿入れした今生はかなり恵まれた人生と言えるのでしょうか?




いえいえ、これが中々今生もハードモードかも。




まず、わたくしはれっきとしたルーセル国王エドワード3世の第一王女ですが、母のプリシラ前王妃はわたくしが幼い頃に亡くなってしまいました。




加えて母は北方のとある王国の王女でしたが、近年のフルール王国の隆盛に国力を削がれてすっかり小国となってしまっております。




今の継母にあたる現王妃は国内の有力な侯爵家出身で、母が存命の頃から側妃として父王の側にあがっておりました。王太子、第二王子とも現王妃の子で国内勢力は盤石。


逆にわたくしは有力な後ろ盾もなく、父も私の事はあまり可愛がりもせず、王宮の隅の方に設けられた離宮にてひっそりと目立たないように生きてまいりました。




このまま忘れ去られたように生きていくんだわ…と自分でも思っていたのですが、15歳のある日、急に父である国王陛下に呼び出され、これまた急に縁談を告げられ、私の意思なんてどなたも気にかけたりせず、あれよあれよという間に輿入れさせられたのでした。




勿論、国力に差があるとはいえ、国同士の政略結婚なのですから、私の輿入れにあたっては両国の間で交渉があり、契約が締結され、わたくしの側室としての支給予算や持参金なども取り決められました。




向かっているユイス公爵領はその持参金の一部です。


お金、宝石、ドレスなどと共に、亡き母から私自身が相続したユイス公爵領―平たくいえばルーセルからは飛び地となり所有していても全く手を出せない土地。


現実的にはフルール国の一部。




元はと言えば亡き母の持参金でしたので、ルーセルの中でも私に相続権があり、でもルーセルにとっては使いにくい=今となっては価値のない土地。




フルールにとっても実効支配してもいいものの、とりあえず長年放置されていてさびれている土地を外聞の悪さも気にせず積極的に併合するほど旨味のない土地。




私の輿入れによって、名実ともにフルールに属し私が子を残せばその子に継承される取り決めもされています。


そうする事によってフルールにとっても余計な軋轢を産まずに正式に国土に組み込むというメリットがございました。


…そう考えるとわたくしは言ってみれば権利書ですわね。




いやだ、なんだか考え方に可愛げがありませんわ。


せっかく王女様に生まれてきたのだから全体的にもっと可愛らしく華のような感じにならないものかしら?どうも前世を思い出したからこちら、考え方がドライというか潤いがないかも。少し前でしたら、ひたすら悲しんで落ち込んで…となりそうでしたのに。




華のようといえば、正直このビジュアルも今ひとつです。


素材はね、我ながらなかなか良いんじゃないかと思うのですわ。


金髪に紫の瞳。イエローゴールドみたいな純粋に金色と言っていい髪だと思うんです。但し、手入れが行き届いていれば。


瞳だって、こちらの世界でも滅多にみないアメジストのようなきれいな色ですわ。


肌だってとても白いし、顔立ちも繊細華麗な美女だったお母様に似ているので超絶美少女のはずなんです。


…磨きあげていればね。




全体的になんだか少しぽっちゃりしているのよねー。


はっきりぽっちゃりしてるわけではなくて少し。


肌だって髪だって侍女が一応は手入れしてくれてる。


でも、今までの私は目立ちたくない、目立つのが怖い、と全てに消極的だった。




なんだか、色々吹っ切れたみたい。


せっかくの素材なんだから磨きあげてみよう。


前世で通っていたヨガと、それにジョギングでもしてみようかな?




それに長い間放置されてる公爵領もちゃんと手を入れて!


領地に着いたらさっそく家令と相談しなくちゃね。




きっと、良いことばかりではないだろうけど、今までで一番自由になったのだわ。


もう、このまま名ばかり側妃でいい。いえ名ばかり側妃「が」いいですわ。


領地を快適にしてずっと優雅に引きこもっていましょう。




そう考えると自分でもすごくうきうきしてきて領地に着くのが待ち遠しくて仕方なくなってくるのでした。




この時は、後々王宮に呼び戻す使者が相次ぐことや、痺れを切らした国王陛下が直々にやってくることなど全く考えもしませんでしたの。引きこもり生活もままなりませんのね。



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