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ミミック派遣会社 ~ダンジョンからのご依頼、承ります!~  作者: 月ノ輪 
顧客リスト№29 『ロック鳥の霊峰ダンジョン』
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人間側 とある冒険者の毛刈

「急げ急げ! まだロック鳥の姿はない、さっさと肉の下に潜り込んじまえ!」


 地面にドサッと落とした、人の十何倍かは確実にある巨大な生肉。それに太いロープをパーティ全員がかりで巻き付け、端を命綱代わりに身体に結わえる。


 そして、地面と生肉の間に身体を滑り込ませる。重いし、なんかねとつく…。だが、これも金儲けのためだ…!





 俺達はとある商団お抱えの冒険者。まあ護衛兵兼傭兵みたいなもんだ。商人連中から依頼を受けダンジョンに潜ったりとかが基本の仕事。


 そんな俺達によく任される仕事がある。それは、ロック鳥が棲む『霊峰ダンジョン』の麓に、このお肉を置いてくることだ。




 商団になにかと出入りしているとわかるんだが、実は魔物の肉って結構余りやすい。


 魔物狩りを生業としてる奴は察しが付くだろ? なんで魔物を狩るかというと、それは高値がつく爪やら皮やら骨やら内臓を得るためだ。 つまり、『肉』は目的じゃない。身体のほとんどを占めるのに。



 いや、勿論使い道がないわけじゃない。魔法薬や漢方薬を始めとした調合に使われることだってあるし、加工すれば冒険のお供、『干し肉』となる。魔物をおびき寄せる餌にだってなる。捨てるとこなんてない…


 …と、言いたいとこだが、物と状況によるというのが事実。薬や魔物の餌の在庫が余っている時に無理に作っても保存コストがかかるだけだし、そもそも食べるしか使い道がない肉だってある。


 しかしそれも、牛肉や豚肉を大量に仕入れられた時には売れなくなる。肉食魔獣の肉とか、筋張って美味しくないし仕方ない。案外それを乙だっていう輩もいるが、少数派だ。



 ということで、時折この生肉のような『廃棄品』が出る。まあそこいらに転がしときゃ魔物が食って片付けてくれるのだけど、俺達の雇い主である商人達はしたたかなだけあって、変わった処理方法を思いついた。



 それが、ここ『霊峰ダンジョン』に投棄すること。この麓には、結構な確率でロック鳥の羽や折れ爪とかが落ちている。巣の掃除ってことだろう。本人…もとい本鳥には体の垢みたいなゴミだが、俺達には宝だ。


 その金づるを逃がさないため、居付いてもらうよう餌を捧げるって寸法なわけだ。





 しかし、ロック鳥と言えば獰猛なる巨大魔物。人間なんて狙われたら、一口でパクリ。おぉ怖い。


 だから肉投棄には俺達冒険者が行くことになっている。仕事は簡単、肉をぽいっと捨て帰るだけだ。


 …だが、それを何度も続けていると、面白くなくなってくる。そもそもクソ重い肉を運んでるのに報酬安いし…。


 それで俺達が思いついたのは、『頂上の巣に潜って、金稼ぎしよう』というアイデアだった。




 かといって、ロック鳥にはよっぽどの腕と装備と人員がなきゃ勝てない。霊峰ダンジョン自体も、登るのはクソ面倒。


 どうしたもんかと頭を悩ませていると、とある冒険者が書いた冒険譚が目に入った。確か…シンドバなんとかの。


 そいつが行ったとある場所にもロック鳥はいたらしいが、そこでもここと同じく肉を投棄してたらしい。シンドバなんとかはそれに身を潜め、奇跡の脱出を…! ん…?なんか違う気が…?



 まあいい。重要なのは、俺達もそれに倣うことにしたってことだ。肉に隠れ、ロック鳥に持ち上げてもらい、巣へとひとっとび。


 正直、最初は冗談のつもりで試したんだが、これが予想外に上手くいった。好き放題取れて、ウハウハ。帰りの険しい道も、下りだから楽だった。


 何回か前は卵も持って帰ったな…! ここの山、ロック鳥が魔物をほとんど狩ってるから狂暴なやつがいないんだ。ゆっくりと、ロック鳥にだけ気をつけて降りれば問題なかった。



 そうそう、ロック鳥のやつ、子供産んでたんだ。まあ人よりでっかいひよこが何匹も何匹もぴよぴよぴよ…。あいつらの羽毛も高ーく売れるんだ。


 そうだ、今日はあのひよこ共を丸刈りにしてやろうか。楽しみだ…!







「ケーーーーーーン!!」


「お…来たぞ…!」


 天に響くかのような高らかな鳴き声に、俺達は身を固くする。と、次の瞬間…!


 グオッ!


 生肉ごと勢いよく身体が持ち上がり、足は地面から遠ざかる。うぐぇ…これ結構衝撃が大きいんだよ…!


 だが…これで第一段階クリア。しめしめ、馬鹿な鳥め。もう何度もこの方法で登っているのに、気づかないと来た。やっぱり鳥は鳥頭だな。





「―お、そろそろ降りるぞ…! 気をつけろよ…!」


 ぐんぐんと高度が上がり、気づけば雲の上。幾度か見た景色に、俺は仲間に号令を出す。


 ロック鳥の羽ばたきが収まって、降りられる高さになった時に降下する。バレないように静かにと…。


 スタッ


(おい、こっちだ! 岩伝いにあの骨の山の中にいくぞ…!)


 ひそひそ声で、ロック鳥の様子を逐一伺いながら匍匐で隠れ場所に。案外バレないのは、ロック鳥がひよこ達の方しか見てないからだ。


 あの恐ろしい鷹の目にも、今は子供しか入らない様子。へっ、馬鹿め…!これからその子供が丸刈りにされるというのにな。





「クルルルゥ!」


 少しして、ロック鳥はどこかへと飛び立つ。夜飯でも取りにいくのだろう。…飛び立つ瞬間、こちらのほうを見た気がしたが…気のせいなはず。


 あの巨体が空の彼方に消え、残るは生肉を貪るひよこ達。よし…!


「行くぞ、毛刈りの時間だ…あれ? 一人いなくないか?」


 意気揚々と飛び出そうとした瞬間、とあることに気づく。一緒に来た仲間が1人いないのだ。


 肉からの降下、そして匍匐で潜入までの間は集中していた。だから確証はないが、確か普通についてきてたはずなのに…。軽く骨山の中を探っても、いる様子はない。



 少々気になるが…今は探している場合じゃない。ロック鳥が戻ってくるまでの短い間で色々回収しなければいけないため、時間との勝負。


 まあ最悪死んでも、復活できる。碌な装備も持ってきてないしな。じゃあ改めて…


「ひよこ共! そのフワフワな毛を全部毟りとってやる!」





「「「ピヨ!? ピヨーピヨー!!!?」」」


 剣やバリカンを手に、骨を散らかしながら飛び出してきた俺達を見て、ひよこ達はびっくり仰天。わっと逃げ惑い始めた。


 だが、あの狂暴なロック鳥の成鳥とは違い、まだ雛であるこいつらは飛べないし鈍足。黄色な毛をもるんもるん揺らし、俺達が走れば簡単に追いつけるほどの遅さでとてとて。


 正直、見てるだけでなんか楽しくなってくる。ついつい不必要に「ガオー!」と脅かしたくなってしまう。…ガオーと吼える魔物なんて、こいつらが成鳥になったら餌でしかないだろうが。



 …そういえば、今日は俺達を倒そうと突撃してくるひよこはいないな。前までは、必ず何匹かはそんな奴がいたのに。


 そういう奴は、カモ。ロック鳥だけど。 簡単にバリカンの餌食になるし、素手でも毛を毟りとることができるからだ。 あと、ふわふわがぶつかってきて気持ちいいんだが…。


 おっと、んなこと考えてる暇はないってな。どれ、誰を禿げさせてやるか…!




「ピヨヨ! ピー!」


 ズズズズズズ…


「ん?」


 なんだ? ひよこの一匹が何かを嘴で押してきた。それは…え?…宝箱?



「なんでこんなとこに宝箱が?」


 俺は眉を潜める。ロック鳥が人を襲った時の戦利品とかだろうか。 と、仲間の1人が手をポンと打った。


「あれじゃねえか? 『これあげるから見逃してください』みたいな?」


 あぁ、なるほど。命乞い…ならぬ毛乞いってわけか。案外頭いいな。



「まあ、中身見てからだな…!」


 仲間の別の奴がにやにやしながら、箱に近づく。そして蓋に手をかけた…その瞬間だった。


 パカッ

「えっ」

 バクッ!


 …食われた。その仲間が。



 唖然とする俺達をよそに、かぶりつかれた仲間は箱の中に。数秒後、ペッと吐き出された。涎まみれで気絶して。


「「ミミック…!」」


 キラリと光る牙と、真っ赤な舌。間違いない、宝箱ミミック…! 何が袖の下だ、完全に罠じゃねえか!




「ふ、ふざけやがって…!!」


 剣を構え、怒る仲間。そりゃそうだ…! 逃げ惑う弱いひよこしかいないと思ったら、こんなやつを仕込んでおいたとは…!


 許さねえ…! 装備は少ないが、宝箱ミミック一体ならなんとか勝ってやる!



「ピヨピヨ!」


 と、ひよこが鳴く。すると、臨戦態勢をとっていたミミックはカポンと蓋を閉じ沈黙したではないか。


 なんだ…?もう一回引っ掛けようってか? そんな子供だましが成功するわけ…



 ゴロゴロゴロゴロ…


 …今度はひよこ数匹がかりで卵を転がしてきた。人間大はあるそれは、俺達の前でぴたりと止められた。


「…今度はこれを持っていけってか?」


 命が宿ってるかはさておき、自分の家族にも等しいそれ()を差し出すとは。よほど俺達の怒鳴り声が堪えたと見える。


 まあいい、卵は羽以上に高値で売れる。盗むのは一苦労だが、差し出してくれるなら有難い。それで勘弁してやるか。


「相変わらずでっけぇ卵だな…! オムレツにしたらどれくらいになるか…」


 唯一無事だった残りの仲間が、ふらりと卵に近づく。おいおい、食べる気かよ。売った方が良いモン食えるだろ。


 さて、じゃあ今のうちにミミックに気絶させられた仲間を起こして…



「…んん?」


 …何かが、おかしい。 あの卵、何か違和感が…。 普通じゃありえないような…。


 大きいのはそりゃ特異だが、色は普通だ。殻にヒビが入っている様子もない。立って置かれているし…。


 …!? 待て、なんで立って置かれているんだ…!? 床は平らな岩だぞ! 普通横倒しになるだろ!


「おい近づくな!」


 慌てて警告を飛ばす。が…遅かった。


 パカッ


 ヒビすら入ってなかった卵の頭に、突如切れ込みが。そこから勢いよく現れたのは大量の触手。近づいていた仲間は声も上げられず、キュッと締め上げられた。


「……嘘だろ…?」


 触手型ミミック…。巨大卵に擬態してたのか…。だいたい、転がる卵が俺達の前で止まった時点でおかしかったじゃねえか…! クソッ、あっという間に孤立してしまった…。



 冗談じゃない…!ミミック二体に勝てるかよ…! 逃げる…! 確か、あっちの方に山へと繋がる細道が…!


「おっと、仲間を置いてどこ行く気かしら?」


 ゴスッ


「うげっ…!」


 妙な声と共に、俺の背に重い何かがぶつけられる。こ、今度は一体…!?


「ひっ…!?」


 思わず引きつった声をあげてしまう。ぶつけられたのは…最初に()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。


 しかも、顔の肉が全部削がれて骨だけに…!! …あ、いや違う、猿の頭蓋骨を被せられてるだけか…なんだ…気絶はしてるけど…。





「さーてさて、可愛いひよこちゃん達を虐めた罰、どうとらせようかしら?」


 またも聞こえてきた声にそちらを見やると、大きい獣の頭蓋に入った女魔物。上位ミミックだ…。そうか、あの時既に、骨山の中に潜んでいたのか…。俺達は最初からずっと見られていたってわけか…。


「ピヨ!」


 力なくへたり込む俺を余所に、ひよこの一匹が元気に鳴く。すると、上位ミミックが翻訳をした。


「んー?なになに? え、食べてみたいの? 踊り食いで?」


 は…!? 俺をか…!? いや待て待て待て待て…! 嫌だ! 食べられたくない!



「じゃあちょっと待っててねー。鎧とか堅い物外しちゃうから」


 言うが早いか、上位ミミックは触手を伸ばし俺を縛る。そして、鎧やら剣やらを次々と剥がしていく。


「んー。口当たり気に入らないかもだし、髪の毛も剃っちゃいましょう!」


 と、上位ミミックは俺が持ち込んだバリカンを起動する。や、止めてくれ!それだけは…! 


 何故かわからないけど、復活魔法陣は髪のカットを反映するんだ…! 怪我とかじゃなく、そんな床屋のようなことをしたら、復活しても禿げのまま…あ、ああ、あぁぁぁぁ…!




「はい、どうぞ!」


 丸禿げにされた俺は、ひよこの前に差し出される。うぅ…黄色毛玉を丸刈りにするつもりが、俺が刈られるとは…。


 もういい…。さっさと食べてくれ…。そして、早く復活させてカツラと毛生え薬買いに行かせてくれ…。



「ピヨ!」

 カプッ  …ぺっ!


「うおっ…!」


 少し口の中でモゴモゴされた後、俺は吐き出される。 た、助かった…のか?


「あら、どうしたの? …あんまり美味しくないって? ざんねーん、口に合わなかったのね」


 翻訳したミミック曰く、そういうことらしい。そりゃ魔物によって美味しいと感じるものは違うだろうが…廃棄の肉よりマズいのか俺は…。


 なんか複雑な気分になっていると、上位ミミックは腕を組み唸った。


「うーん…私達が食べてもいいんだけど、お腹いっぱいなのよねー…。ロック鳥のご飯って量あるから…」


 あぁ、だから仲間誰も食われてないのか…。いや、納得してる場合か! 食われないってことは…


「じゃ、捨てちゃいましょうか」


 そういうと、ミミックは俺と気絶している仲間全員を掴みズルズルと引きずる。連れてこられたのは、この場の端。つまり…。


「ぽいっとな!」


 やっぱりかぁ! 霊峰の頂上から放り投げられたぁあ!


 刈られた頭が落下の風で冷た痛いぃ! あああああああぁぁぁぁ!!!!

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