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アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会①



さて! 今回お仕事はお休み。休暇を頂き、社外…というより実家一泊経由でとあるところへ。



いつものスーツではなく悪魔族の伝統装束ドレスを纏い、髪も角も羽も尾も高雅に整えて。手に社長はおろか荷物すら持たず、代わりに幾人かの荷物持ち召使や護衛騎士達を侍らせて。移動も徒歩や単独飛行ではなく、竜や馬に引かれたキャリッジ(絢爛な馬車)に乗って。



まあ別にこんなものを引っ張り出す用事でもないのだけど……一応、グリモワルス(魔界大公爵)の名で動いているから仕方ない。立派で派手にいかなければ。



ふふっ。社長と暮らす『普通の生活』に、もっと言えば秘書兼経理役として経費の削減とかに慣れてしまったから、こういうのはちょっと落ち着かなくなってしまった。良いのだか悪いのだか。



最も『必要な無駄』というのも、とても大切。グリモワルスの権威を示すため、会社の余裕を示すために。……その場合、無駄、と呼ぶには相応しくないのでは?




――と、どうでも良い事を考えていたら到着したらしい。では、従者に手を引かれ降りるとしよう。








「ようこそお越しくださいました、アスト・グリモワルス・アスタロト様。 まぁ…! 相変わらずの麗しき御姿、そして鮮やかなる魔力! 見惚れることをどうかお許しください」



降り立つと、訪問先の衛兵長、そして待機していた召使達が深々と頭を下げ出迎えを。私はクスリと笑い、挨拶がてら軽く詫びを。



「大分遅れてしまいまして。他の方々は?」



「皆様、既にお揃いになっておられます。ではこちらへ、ご案内致します」



衛兵長に招き入れられ、建物の中へと。護衛騎士のみ引き連れ、荷物持ちの召使達は別の場所へ。因みに今回持ってきた荷物は宝箱なのだが、あれも以前の帰省時と同じく、我が社の……――へ? ここは何処かって?



ふふふっ。私の実家であるアスタロト家とは雰囲気が違い、洗練されてこそいるものの剛強さや堅牢さが前面に押し出された難攻不落の要塞の如しここは、『バエル家』。私達アスタロト家と同じグリモワルスにして、魔王軍総帥を代々務めているあのバエル一族の居城である。



そんなここへアスタロトの娘である私が来たということは即ち、魔王軍に関する重大な機密事項の……――なんちゃって!




さっきも口にしたが、そんな大それた訪問内容ではない。第一私、まだアスタロトの家長を継いだわけでもないし。そういうことは当代同士が行う事、私では力不足。



ではなんのために来たかと言うと……今日は『グリモワルス女子会』の開催日なのだ!








前からちょこちょこ話題に挙げていた会合、グリモワルス女子会。その名の通りグリモワルス(魔界大公爵)一族による女子会で、つまりはグリモワルスの娘達による集会。



そして女子会なのだから……特に大きな話し合いなんてない、ただの友人同士による駄弁り会なのである! 適当な近況報告あり、思い出話あり、予定立てあり、時折ちょっと真面目な話ありな感じで毎回進行しているのだ。



ね? わざわざ従者を幾人も引き連れ、煌びやかな馬車でやってくるほどの用事ではないでしょう? なんならどこかのカフェや酒場でも開催可能な会合なのだもの。 



まあ敢えて見合う言い方に変えるとするなら……『次代グリモワルス当主陣として、早期の内から互いの連携を密にし、来るべき時に備え意識向上を望むための懇親会』、とか?





と、それは置いといて。現在、そのグリモワルス女子会に参加しているのは私を含め五名。開催毎に参加者それぞれの居城を順番に会場としているのだが、今回はバエル家が担当の回。



そして他参加者は土産や付け届け、使用人達への労いの品を手にして訪れるのが習わしとなっている。先程召使達に持たせていたあの宝箱が、私の今回のそれ。中身はまたも菓子類。両親達が喜んでくれたものから、その後に見つけた美味しいものも加えて沢山用意してきた。



更に…その宝箱自体は、箱工房謹製の見た目以上に沢山入る『魔法の宝箱』! 以前、我が家の衛兵長が『この宝箱が他の大公爵家にも広まっている』と言っていたが……あれは本当らしい。だから贈り物に最適かなって。喜んでくれるといいけど!




……そこに社長は紛れてないか、って? 大丈夫、今回はしっかりばっちり確認をした! 絶対に社長が紛れ込まないように気を張った!



トランクの中も、馬車の中も、持ってきた宝箱の中も、騎士の鎧の中も、私の服の隙間も、全て魔法と自分の目を駆使して精査済み! 100%……とは社長相手だから言い切れないけど……ほぼ間違いなくついて来てない! 今日こそ置いてきた!



なにせ五人だけとはいえ娘達とはいえ、次代グリモワルスの集まる会なのだ。前回の帰省時とは違う。そもそもあの時は蓋を開けてみれば私の両親達と社長の結託だったけど……今回は絶対にそんなことはない。



(女子会メンバー)には私が社会経験のために外に出ていることは伝えてこそいるものの、やっぱりミミック派遣会社に勤めてることは言ってないのだもの。そこで社長が出てきたら混乱が起きるのは目に見えてるし……単純にちょっと恥ずかしいし。



あと……何分箱入り娘であったため、友人らしい友人はそうは出来ていないのだ。なのに、もし仕事のことが知られて皆に嫌われるなんてことになったら……!! 皆、その程度で嫌う子達じゃないのは間違いないのだけど…!




だから、今回こそは私だけ。社長秘書じゃなく、アスタロト家令嬢としての私だけ! 社長に振り回されず、優雅に駄弁ろう!



「本日はこちらの間でございます。御歓談くださいませ」



あ、丁度部屋に着いたらしい。バエル家衛兵長にお礼を述べ、護衛騎士達も下がらせ、単身扉をくぐって――!



「ごめんなさい、遅くなってしまって!」



謝罪しつつ、席へ。――さてではご紹介しよう。私以外のグリモワルス令嬢達を!







「お待ちしておりましたわ! 珍しいですわね、貴女が遅刻だなんて!」



私の顔を認めて早速声を高らかに響かせたのは、大きな縦ロール髪を揺らし、私と同じ伝統装束ドレスに加え意匠を凝らした剣と手足甲冑を身につけた威風堂々たる彼女。その名は――!



「ですが、お気になさらず! このルーファエルデ、寧ろ心をときめかせておりましたわ~!」



――【軍総帥】バエル家 令嬢 『ルーファエルデ・グリモワルス・バエル』――!







「もち、あーしらもね! あっすん! てかたいして遅れてもないでしょ~★」



ルーファエルデに続いたのは、私のことを『あっすん』と呼び、ケラケラ笑いながら手を振ってくれる彼女。シュシュで可愛く髪を纏め、キラキラメイクやアクセサリー、伝統装束ドレスの至る所に施されたデコレーションで輝いているのは――!



「でもホントめっずらー★ どしたのあっすん、いつもあーし達より早いのに?」




――【全大使】レオナール家 令嬢 『ネルサ・グリモワルス・レオナール』――!







「そんなことより!!! アーちゃん、お菓子は!? お菓子持ってきてくれた!?」



そんなネルサの質問を吹き飛ばすように、フォークを手にしたまま目を輝かせ、口元にお菓子の欠片をつけたまま涎を垂らしガタッと立ち上がった彼女。ハート型の髪結びを備え、案外露出多めの伝統装束ドレスを更に改造した、サキュバス並みの衣装を纏っているのは――!



「持ってきてくれたの!? やった!!! アーちゃん大好き! ちゅーしたげる!」




――【催事長】エスモデウス家 令嬢 『ベーゼ・グリモワルス・エスモデウス』――!







「落ち着きがないわね、ベーゼ。とりあえず口元を拭いなさいな」



今にも私の所へ飛び出してこようとするベーゼを窘めたのは、逆に伝統装束ドレスに露出を減らす改造を施している彼女。床につくほどに長く流麗な髪をパサリと揺らし、閉じた扇子を口元に当てているのは――!



「因みにアスト、33分9秒の遅刻よ。ふふっ、遅刻常連のネルサやベーゼより遅いなんてね」




――【王秘書】アドメラレク家 令嬢 『メマリア・グリモワルス・アドメラレク』――!







以上4名! そして私、【大主計】アスタロト家 令嬢 『アスト・グリモワルス・アスタロト』を含めた計5名!




さあ、悪魔星(デビルスター)があしらわれた円卓を取り囲み――始めるとしよう、グリモワルス女子会を!



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