βルート
♦︎♢♦︎♢ βルート
「俊ちゃん! 俊ちゃん!! 起きて! 間に合わなくなるよ!」
「……梨花」
「なぁに、ぼぉーっとしてるの! お父さん達、空港に迎え行かなきゃなんだから早く準備するっ!」
梨花が生きている?
梨花が生きている。
梨花が生きている!
俺は力の限り梨花を抱きしめた。
「えっ? ちょっと、俊ちゃんいきなりどうしたん? 痛いよー」
「夢見てたんだ。梨花がいなくなる夢。それで変な老婆が梨花とまた会わせてくれてさぁ……」
「なにその夢! あたしはいなくならないし、ここには変な老婆もいません! てかよりによってこんな日にそんな夢見るなんて、縁起悪いなぁ!」
抱きしめた腕の隙間から梨花がひょっこり顔を覗かせる。
少し怒っている?
そんなの関係ない。梨花が目の前にいる。梨花に触れられる。ただそれだけでいい。それだけで幸せだから。
しばらく抱きしめたあと、夢の話を梨花にしながら、大急ぎで準備をして空港に迎った。
空港には俺の両親、そして梨花の両親が待っていた。
そして軽く挨拶を済ませ、式場へ向かった。
グレーのタキシードに着替えを済ませ、壇上の前で待っていると教会の大きな扉が開く。目を向けると梨花のお父さんとドレス姿の梨花が立っている。横の席には沢山の友人や親族の姿もあった。夢で見た結婚式とは何もかもが違う。
一歩ずつゆっくりと歩く梨花の姿は、まるで今まで過ごした家族との時間を噛み締めているように見えた。
俺の横までくると今度は俺が梨花をエスコートする。
そしてリハーサル通り、式が進んでいく。
「汝【佐藤俊介】は、この女【金子梨花】を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」と神父が俺に問いかける。
不思議な夢で体験したことは、梨花の大切さや今ある幸せに気付かせてくれた。だから俺は全く迷いのない堂々としした声で答える。
「はい。誓います」
梨花も同様に誓いの言葉を述べ、指輪の交換、そして誓いのキスへと式は進行した。
ゆっくりとヴェールを上げて梨花の顔を見つめる。
そして小さな声で
「世界一綺麗だよ」と囁いた。
「ありがとう」と幸せそうな笑みを浮かべる梨花を見て、やはり思ったことは恥ずかしがらず伝えるべきだと思った。
この先もちろん辛いことや悲しいことはきっとある。だけどどんなことがあっても、この笑顔を精一杯守っていこう。そんなことを考えながら俺の唇は梨花の唇に触れた。
βルート End
お読み頂きありがとうございます!
この作品は少し特殊な手法で二つのエンディングに分かれています。
分かりにくいというかたもいると思いますので少し解説をさせて頂きます。
まずαルートでは梨花が死んだのは事実で、お香を焚いて気を失ってからのことが夢だったというルートです。
そして老婆の見させた夢が俊介にもう一度生きる力を与えて、立ち直っていくというストーリーでした。
そしてβルートでは梨花は死んでおらず、小説の一番最初の文章からずっと夢だったというルートです。
ですので書き出しの冒頭にも♦︎♢♦︎♢このマークを付けています。
こちらは夢の出来事がきっかけで、梨花の大切さに改めて気付き、強い決心を胸に結婚式に向かうというストーリーです。
簡単にいうとハッピーエンドですね。
なぜこんな書き方をしたかというと、この『触れる』というテーマで書こうと思った時からこの二つのエンディングが頭に浮かんでいて、単純にどちらかを選ぶことができなかったから、二つ書いちゃえー的なノリで書きました。笑
皆さんはどちらのエンディングが好みでしたか?
是非感想にてお聞かせ頂けたら嬉しく思います。