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3.異世界

 目が覚めると、僕は天蓋付きのベッドに横たわっていた。

 隣にはレムがいて、僕に笑顔を向けている。

「おはようございます」

「……えっと……おはよう」

 僕は夢の中の出来事を思い出した。この子に誘われて、僕は異世界に行くことを承諾したのだ……!


 思わず飛び起きる。レムが驚いて目を見開いた。その時、初めて僕がレムと手を繋いでいることに気付いた。

「……ここは!? 異世界? 本当に!?」

「目が覚めたのならレム様から離れて」

 突然冷たい声で言われ、部屋の中に他の人がいたことに初めて気付いた。

 そこにいたのも少女だった。晴れた日の空のような、青い髪の少女だ。

 元の世界では見たことのない色の髪だが、あれは、きっと染めたものではないのだろう。

「ミミ、何を怒っているの?」

 レムが不思議そうに尋ねても、ミミと呼ばれた少女は不機嫌そうな表情で僕を睨んだままだった。

 どうして、僕は初対面の少女に嫌われているのだろう?

「すいません、ヒカリ様。この子はきっと、長い間待たされて疲れてしまったのですわ」

「……レム様が謝る必要はありません」

 ミミと呼ばれた少女が困った様子で言った。それでも、不満げな表情は消えないままだ。

 どうしたものかと考えていると、唐突に自分が着ている服のことが気になりだした。

 僕は普通のパジャマを着て寝ていたはずなのに、いつの間にか高級そうな服を着ていた。

「……この服は一体……?」

「これはミミに用意してもらった服ですわ」

「……これ、着替えさせたのは?」

「ミミですわ」

 恐る恐る尋ねる僕に、レムは笑顔で告げた。

「ちょっと待ってよ! 僕、この子に裸にされたの!?」

「つまらないことで叫ばないで」

「いや、でも……!」

「あんな得体の知れない格好のまま、貴方をベッドに寝かせるわけにはいかなかった。何が付いてるか分からなかったから」

「人のことを、汚い物みたいに言わないでよ……」

 どうやら、ミミは僕のことが嫌いみたいだ。

 これまでの人生で、女の子には散々からかわれてきたけど、はっきりと嫌われたことはあまりなかった。結構ショックだ

 まあ、女性の中には男らしい男が好きな人も多いから、僕を嫌う子がいても仕方がないのかもしれない。

 ミミという少女を改めて観察する。青くてレムよりも短いストレートの髪、白いドレス。身長は140cmくらいだろうか?

 歳はレムより下だろう。こんなに小さい子なら、男の裸を見ることに抵抗なんて無いのかもしれない。

「……私、今16歳……」

「……」

 ムッとした表情で言われてしまった。

 この子、高校生の歳だったのか……。

 それにしても、僕、声には出してないはずなんだけど……。

「ヒカリ様は色々な感情を持ち過ぎなのです。まるで子供ですわ。それでは何を考えているのか簡単に分かってしまいます」

「魔法使いには他人の感情が分かるの?」

「魔法というのは願望の実現なのです。そのために、多くの人から放出された感情を集めて魔力に変換し行使いたします。なので、魔法使いは自分に向けられた感情には敏感なのです。それが好意であっても、嫌悪や殺意であっても」

「えっ!!」

 それじゃあ、気に入らない相手には、そう思っていることが伝わってしまうのか!

 それでは、心を読まれて暮らしているに等しい。そんな世界で、人は暮らせるものなのだろうか?

 ていうか、僕がレムに対して考えていたことはセーフだったのかな……?

「ご安心ください。ヒカリ様は突然のことで驚いていただけでしょう? 第一印象が悪くても、その後相手の良いところを知れば、印象は改善されていくものですわ」

「……うん、そうだね……」

 まずい。下手なことを考えたら、怒り出してしまうかもしれない。

 でも、誰かを嫌いになったらそれがバレる世界なんて、お互いにとって辛いだけだと思う。

 元の世界に帰りたい。僕は強くそう思った。

「……あのさ、僕が突然いなくなったら、親も友達も心配すると思うんだ。だから、一度帰らせてくれないかな……?」

「ヒカリ様、それはできませんわ」

「どうして!?」

 僕がレムに詰め寄ると、ミミが強い口調で言ってきた。

「一度来た異世界人は、元の世界に帰らせてはいけない。それがこの世界の掟」

「そんな……」

「それに、この世界からヒカリ様がいた世界に移動するのは私でも不可能ですわ。魔力濃度が違い過ぎますもの」

「……魔力濃度?」

「世界に漂っている魔力のことですわ。世界転移は極めて高度な魔法です。それを可能にしたのが魔力濃度の差を使う技術なのです。世界を繋いだ瞬間に、濃い方から薄い方へ魔力が流れることを利用することで、楽に人を移動させるのです」

「僕の世界の魔力は濃くて、この世界の魔力は薄いの……?」

「その通りですわ」

 僕の世界は、魔力が充満していたのか? とても信じられない。誰でも魔法が使えるこの世界で、魔力が薄いというのもピンとこなかった。

「このお話は、今のヒカリ様には難しいでしょう。ですが、魔法に関する知識を一から学べば、理屈は分かっていただけるはずですわ」

 レムにそう言われて、僕は渋々納得した。

 でも、今の話、どこかおかしい気がするんだけど……。

「貴方はもうこの世界の住人になった。なら、この世界の掟に従って生きてもらう。それができないなら死んでもらうしかない」

 ミミが怖いことを言ってきた。心を読むまでもなく、この子が本気であることが伝わってくる。

 見た目は非力な子供でも、どんな魔法を使えるのか見当もつかない。魔法で切り刻まれる瞬間を想像してしまい、僕の体は震えた。

「ミミったら、怖がらせてはいけませんよ? ヒカリ様はこの世界に来たばかりなのですから」

 レムに宥められて、ミミから殺気が消える。この子、年下のレムの言うことは素直に聞くんだよな……。

「さて、異世界から人を招いたら、この世界で一番の実力者に会わせるのが決まりです。ヒカリ様にも、これから会っていただきますわ」

 そう言って、レムは僕の手を取った。

 それを見て、ミミは何か言いたそうな顔をしたが、今度は何も言わず、僕達についてきた。


 レムに連れられて歩きながら、僕は大変なことを思い出した。

 そうだ。レムは僕の世界に来ていたではないか! ということは、レムが僕の世界に転移できないというのは嘘ではないのか?

 そういえば、この世界に来ることを承諾した時の僕はおかしかった。まるで、この世界に行くことを当然のように受け入れて……。

 思わず、僕と繋いだレムの手を見る。そうだ、あの時、僕はレムに手を握られた。あれは、何かの魔法を使う前準備だったのではないか?

 まさか、僕は魔法で洗脳されたのではないだろうか?

 そんなことを考えていると、レムが振り返って、僕に笑顔を向けてきた。

「何も心配なさらないでください。私は、ヒカリ様を騙してなどおりませんわ」

「……うん」

 僕の感情を読み取って、安心させようとしているのだろう。彼女の顔を見て、僕の疑惑は消え去った。

 レムは、悪いことができるような子じゃない。根拠なんて無くても、僕にはそう思えた。

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