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金髪美少女によって異世界へと連れ去られた僕の話  作者: たかまち ゆう


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19/20

19.計画

 次に目が覚めた時も、まだ全く動きたくない気分だった。

 それでも、多少は身体に力が入るようになってきた。

 ローファが、僕のことを心配そうに見つめていたので、微笑みかけると少し安心した様子だった。

 ローファのベッドにはファラが寝ていた。ローファによると、災害救助で疲れ切り、帰って来た途端ベッドに倒れ込んで眠ってしまったらしい。レムも帰ってきており、ミミは今そちらを介抱しているらしい。

 彼女達には、とても迷惑をかけてしまった。非常に申し訳ない気分だった。


 僕が退屈だろうと思ったのか、ローファは色々なことを話してくれた。

 この世界に伝わるおとぎ話や歴史上の出来事などについての話。

 そして、この城の住人についての話である。

 話を聞くだけで、ローファが城の住人を家族のように思い、愛していることが分かった。そして、ローファ自身も皆から愛されていることが伝わってきた。

 しかし、僕には気になることがあった。

 ランゼローナの方が正しいとは思わない。それにしても、この子はあまりにも無垢すぎるのではないか?

「君は、偉い人っていう雰囲気じゃないね」

 僕は、ローファに疑問を投げかけた。

「……私、自分では何も決めてないの」

 ローファが悲しそうに言ったので、僕は言葉を失った。それは、つまり……。

「困ったことがあったら、お姉ちゃんに相談してたの。そうしたら、お姉ちゃんが『こうすればいい』って言ってくれるから……。おにいちゃんを呼ぶ時も、ランゼローナに勧められて『いいよ』って言っちゃったの。後でお姉ちゃんに『絶対駄目』って言われて悲しかったけど、『この世界にが衰退しているのは多様性が足りないからだ』って言われたから……」

 何てことだ……ローファは、ただの傀儡だったのか!

 でも、考えてみれば当然である。病弱で部屋から殆ど出ないような少女が、全てを自分で考えて、政治的に重大な決断などできるはずがない。

 やはり、魔力量や家柄でトップを決めるのは無理があったのだ。

「でもね、この世界に異世界から人を招きたいと思ったことは本当なの。私は小さい頃から病気になってばっかりだったし、パヒーネスにはそういう人が多いの。魔法だと病気は治せないし……。だから、異世界から健康な人が来てくれれば、病気で苦しむ人がいなくなるかもしれないと思って……」

「この世界の人は、食事さえ変えれば健康になるかもしれないって話は聞いた?」

「……聞いたけど、動物を殺して食べるなんて可哀相だし、ガッシュをたくさん育てることが皆の楽しみだから……」

「体調が悪い時に、あんなに甘い物を食べて気持ち悪くならないの?」

 ローファは、キョトンとした表情で首を振った。この世界の住人は、甘い物を食べ続けているために耐性が高いようだ。

「でも、ガッシュ漬けの日常ももうすぐ終わるわ」

 突然ランゼローナの声がして、扉の方を見る。

 ランゼローナは、扉に寄りかかるようにしていた。遠目にも、疲れ切っている様子が伺える。

 ローファが困った表情をした。僕を守るために傍にいるのだが、いざ僕を殺そうとした張本人が現れたら、何をすればいいのか分からなくなってしまったのだろう。

 そんなローファを見て、ランゼローナは溜め息を吐いた。

「今更殺すなら、城に連れ帰ったりしないわよ。あのまま放置すれば、ヒカリは確実に死んだんだから」

 そう言いながら、ランゼローナはこちらに近付いてきた。

 ローファは、慌てた様子でランゼローナの前に立ちはだかる。

 そんなローファを見て、ランゼローナは生気が戻ったらしく、目を輝かせた。

 そして、ローファにいきなり抱き付き、頭や背中を撫で回し、挙げ句の果てには頬ずりまでする。

「貴方はやっぱり天使だわ! ああ、何て可愛いのかしら!」

 ……唖然とするとはこのことだろう。当初抱いたランゼローナの知的なイメージが、僕の中で完全に崩壊した。

 好き放題にされているローファは、嫌がる素振りも見せずに、なされるままにしている。

「人の妹を乱暴に扱わないで」

 ファラが不機嫌そうな声を発した。

「あら、起きてたの?」

「貴方の声のせいで起きたのよ! ちょっと目を離すと、すぐにローファをペット扱いするんだから!」

「ペット扱いなんてしてないわ。自分の娘のように可愛がってるだけよ」

「二人とも、喧嘩しないで……」

 ローファが困った様子で言った。

「……君達は、いつもこうなの?」

「貴方のせいで疲れ切ってなければ、妹のことを好き放題にさせたりしないわよ」

「ご、ごめん……」

「こんなに可愛い子を独り占めなんてずるいわ」

 ローファの頭を撫でながらランゼローナが言う。

「独り占めって……ローファは物じゃないのよ?」

「貴方が過保護だから、今こんな状況になってるんじゃない。少しは反省してほしいわ」

「私のせいだって言うの!? 元はといえば、貴方がローファに変なことを吹き込んだせいでしょ!」

「ヒカリを招いた後になっても貴方がこの子を自由にしなかったから、全てをレムに任せる以外になくなったんじゃない。この子を信用して、本人の自由にさせれば良かったのよ」

「ローファに異世界人を近付けるなんて、できるはずないでしょ! 体調を崩した隙に何かされたらどうするのよ!」

「その調子で皆を遠ざけるから、ローファはいつも寂しい思いをしてるんでしょ? だから勝手に出歩くしかなくなるんじゃない」

「……あのさ、喧嘩は後でしてもらってもいいかな?」

 このままだといつまでも口論が終わらなそうだったので口を挟んだ。

「そうそう、この世界の食糧危機の話だったわね」

 ローファに抱き付いたままランゼローナが言った。

「安心してもらうために先に教えてあげるけど、今回の災害で死人は出なかったわ。奇跡的にね」

「……本当に!?」

「何が奇跡よ。魔法を使った場所が、人口密集地帯から遠かったからでしょ」

「そうね。なんたって、あそこはこの世界が誇る広大なガッシュ畑だから」

 ……そうだ。僕は、ガッシュ畑で大災害を引き起こしたのだ!

「畑は地震でズタズタ、加えて暴風雨で水没……。さらに、火山灰が降ってきて、土地に積もり始めているわ。ひょっとしたら、数年は作付けできないかもしれない」

「……この世界の食糧は大丈夫なの?」

「生き延びることは可能なはずよ。ガッシュが無いことを我慢して、食べられる物は何でも食べるなら、ね」

 ランゼローナの言葉は重大な意味を含んでいる。

 この世界の人間は、一日4食ガッシュ料理を食べる生活を送っている。ガッシュ無しで暮らすことは、カロリー不足のみならず、甘み不足という苦痛をもたらすだろう。

 そして、ガッシュのおかげで食べずに済んでいた物を食べねばならないことは、相当なストレスであるはずだ

「これは一つの転機かもしれないわ。ガッシュが無くなって、必要に迫られて色々な物を食べたら、この世界の人間の虚弱体質は改善されるかもしれないもの。ひょっとしたら、将来的には感謝されるかもしれないわね」

「感謝なんてされるわけがないでしょ。公開処刑にでもしないと、民衆の怒りは収まらないに決まってるじゃない。その男も、貴方もね」

 ……公開処刑!

 薄々感じてはいたけど、事態はそこまで深刻なのか!

「お姉ちゃん……」

「ローファ、そうしないと、貴方まで殺されかねないのよ。レムだってそう。場合によっては私もね。こうなった責任は、誰かに取ってもらわないと」

「まあ、そうでしょうね。でも、私達は逃亡するわ」

「……何ですって?」

 ファラは眉をひそめた。この期に及んで、ランゼローナが悪あがきをするとは思っていなかった様子である。

「私がこの世界にヒカリを招いて、ヒカリがこの世界を破壊して、二人で逃亡した。そういう筋書きなら、嘘にはならないし、民衆の怒りを私達だけに集中させることができるでしょ?」

「この世界で、二人で逃げ回るっていうの? そんなの、逃げ切れるわけがないわ」

「方法は考えてあるの。でも、具体的なことは貴方達には話さない。追及されても『二人はどこかに潜んでいる』とだけ言ってくれればいいわ」

「ちょっと待って……勝手に決められても困るよ! ランゼローナと一緒に逃げるなんて……」

 ランゼローナには、僕を殺そうとしたという自覚が乏しい気がする。

 こちらとしては、彼女と一緒に逃亡なんてしたら、裏切られて殺される心配をしなくてはならなくなるのだが……。

「疑われるのは仕方がないけど、私は平然と人を殺せるような人間じゃないわ。もしそうなら、あの時貴方をナイフで刺し殺してるわよ。貴方が凄い悲鳴を上げたせいで、足が震えて止まらなかったんだから」

 ……確かに、あの時そのまま僕を刺し殺していれば、僕の魔法が暴発することもなかったのだ。

 だが、彼女は魔法を使うことを選んだ。自分の手で、直接僕を刺すのには抵抗があったのだろう。

「……でも、魔法でなら人を殺せるんだよね?」

「いくら私でも、自分のためだけに人を殺したりしないわ。大体、今貴方を殺したって、私に何の得もないじゃない。貴方一人を生け贄にしても、私が助かる可能性は低いんだから」

 ランゼローナの言葉は、おそらく事実だろう。

 この城の人間は、ランゼローナのことを良く思っていない。

 彼女の秘密を知った今となっては、その理由がよく分かる。

 彼女がパヒーネスの外から来たことや、身体的特徴が彼らの好みと異なることが直接の原因ではない。

 そんな彼女の魔力量が、ローファを上回っていることが一番の問題なのだ。

 そのことをはっきりと認識している者は、今となってはわずかだ。

 しかし、以前はもっと多くの者が知っていたのだろうし、何となく察している者もいるだろう。

 この城の住人は、部外者を拒絶する。この機会に、不穏分子であるランゼローナを始末してしまおうと考えても不思議ではない。

「……僕とランゼローナの二人だけで、逃げ切る方法なんてあるの?」

「それを話すなら、他の人には出て行ってもらわないと」

 それは、僕とランゼローナが二人きりになる、ということだ。

 僕は、まだ疑いを捨てていない。ランゼローナが、いきなり僕を殺す可能性だって捨てきれない。

 ……しかし、民衆が暴徒と化せば、確実に僕は助からないのだ。

 事実上、選択肢は無いに等しい。

「……分かった。悪いけど、しばらく二人だけにしてくれないかな?」

「おにいちゃん……」

 ローファは渋ったが、ファラが促して二人で退室する。ローファだって、僕を助ける方法が思いついたわけではないのである。


 二人が外に出たことを確認して、僕はランゼローナに尋ねる。

「……それで、どうするつもりなの?」

「あら、分からないの? 貴方が一番最初に思い付いてもおかしくないアイディアなのに」

 ランゼローナは悪戯っぽく笑った。

 僕が最初に……? どういう意味だ……?

「……それって、まさか!」

 しばらく考えてから気付いた。

 確かに、僕が真っ先に思い付いてもよさそうな方法が、一つある。

 ランゼローナは、頷いてから僕に告げた。

「逃げるのよ。異世界に、ね」

 異世界への逃亡。それならば追っ手に捕まることはない。世界間転移は高度な魔法であり、使える者はごく僅かしかいないからだ。

 でも、果たしてそんなことが可能なのか……?

「レムの魔力でも、この世界から僕の世界に転移することは不可能なんでしょ? ランゼローナ一人なら可能かもしれないけど、僕と二人で異世界に行くことなんてできるの?」

「できるわ。この世界よりも魔力濃度が薄い世界になら、ね」

 この世界よりも、魔力濃度が……薄い世界?

 それは、僕の世界ではない。つまり……。

「僕にとっては……三つ目の世界!」

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