16.襲撃
「ミ……!」
僕の叫びは途中で遮られてしまった。ミミが伸び上がり、僕の口を右手で塞いだのだ。
その瞬間、僕は浮遊感に襲われ、周囲の景色が一変する。
僕は慌ててミミを振り払った。
僕達は屋外に移動していた。ミミは、僕と一緒に瞬間移動したのだ。
そして、移動先は墓地だった。僕が、レムやミミと一緒に何度も修業した場所である。
夜にここへ来るのは初めてだ。とても不気味な雰囲気である。
そして、墓地ではレムが待ち構えていて、僕に飛びついてきた。
一瞬、刺されるのではないかと本気で思った。しかし、レムは僕に抱き付いただけだった。
「……レム?」
「良かった……ヒカリ様がまだ生きていて……」
殺そうとしているのはレムじゃないのか、と危うく尋ねそうになったが自重した。
レムは、自分が思っていることと反対の言葉を言えるような人間ではない。短い付き合いではあるものの、それは断言できることだった。
「レム様、ここではすぐに追いつかれてしまいます。すぐにもう一度転移しましょう」
「ちょっと待った! 君達は一体どこに行こうとしてるのさ!?」
「とにかくヒカリ様が安全な所までですわ! 今すぐパヒーネスから離れましょう!」
「安全な所って……じゃあ、誰かが僕を殺そうとしてるの!?」
そんなことをしようとする人間は、ここにいる二人を除けば一人しか思い浮かばなかった。
しかし、レムが告げてきたのは別の名前だった。
「ランゼローナ様ですわ!」
「そんな馬鹿な!」
挙げられた名前がファラだったら、僕はすぐに信じただろう。
でも、求婚までしてきたランゼローナが僕を殺すはずがない。
「ヒカリ、ランゼローナ様は、貴方を危険視している」
「だったら、どうして僕に結婚してくれなんて言うの!?」
「!」
レムが、ショックを受けたような表情をした。
「それは、ランゼローナ様が本当に貴方のことを好きだから」
「なら殺すはずがないでしょ!」
「それは貴方の常識。相手が好きな人でも、平然と殺せる人間だっている」
「……」
ミミの冷静な指摘で、僕は何も言えなくなった。
確かに、そういう人間は存在するのだろう。そもそも、僕とランゼローナは親密な関係があったわけでもないのだ。
「でも、殺そうとしてる相手に求婚する理由なんてないよ!」
「本人の精神状態が乱れている時、他人の感情を察知する能力は極端に落ちる。貴方が異世界人でも、それは変わらないはず。例えば、必死に逃げたいと考えている時に、他の魔力を生み出す余裕なんて無い。だから、他人の感情を受け入れる必要が無くなる」
……そうだったのか。
初めて聞いた話だが、言われてみれば、それはその通りだろう。
まだ不完全とはいえ、僕にも他人の感情を察知できる時がある。ランゼローナは、それを警戒した、ということか?
「でも、僕の能力のどこが危険なの?」
「私達は、物を一瞬で動かすことはできません。ヒカリ様の魔法は、魔力量による上下関係を覆しかねないものなのですわ!」
「たったそれだけの理由で!?」
「それだけが理由じゃないんだけど?」
「!」
レムの体から力が抜けて、僕は慌てて彼女の体を支えた。魔法で眠らされたのだ。
声がした方を見ると、そこにはランゼローナが立っていた。
「ランゼローナ!」
「残念だわ。もっと恋人ごっこがしたかったのに。邪魔するなんて酷いじゃない」
からかうように言われて、ミミが悔しそうに呻く。自分たちの動きが、これほど早く察知されるとは思わなかったのだろう。
「……本当に、僕を殺すつもりなの?」
「だって仕方がないでしょ? 貴方の危険性に気付いても、誰も貴方を殺そうとしないんだもの。ファラなんて、貴方の能力を見て、いつかローファが殺されるんじゃないかって怯えていたのよ? それでも、自分には人殺しなんてできない、とか言って泣いていたわ。大切な妹を助けるための決断すら出来ないなんて、これだから城生まれの軟弱者は、って呆れちゃったわよ。あのしょうもない連中の代わりに、積極的に自分の手を汚そうとするなんて、私の自己犠牲の精神って崇高よね」
信じられなかった。これがランゼローナの正体だというのか?
「僕だって、人を殺したりしないよ!」
「人間って変わるものよ? 私だって、パヒーネスに来るまでは、駆け引きなんて考えたことも無い、純真無垢な女の子だったんだから。クズみたいな人間を毎日見てると、自分も人間性が腐っていくって、城の中で初めて知ったわ」
「もういい加減にしてよ! 勝手にこの世界に連れてこられて、勝手に危険視されて、いきなり求婚されて、しまいには殺されるなんて! あんまりじゃないか!」
「人生なんてそんなものよ。私だって、たまたま魔力量が多かったというだけで、勝手に地元で期待されて、無理矢理城に送り込まれたんだから。貴方は、この世界に残ることを自分の意志で決められたんだから充分でしょ?」
「そんなの……!」
僕がさらに言葉を発そうとした時、ランゼローナが両手を突き出した。対象はミミだ!
しかし、それと同時に、ミミがカードを撒き散らした。
あれは、僕らがゲームで使っていたカードだ。
今度はランゼローナが呻く番だった。彼女達の魔法は、対象に集中しなければ使えない。少し視界を遮られるだけで、効果が及ばなくなってしまうのだろう。
ミミが僕に飛びついてくる。その瞬間、先程と同じ浮遊感に襲われた。




