お題「旅行」「コンクリート」「正露丸」
一日遅れの投稿になってしまいました。
注釈:讃岐山脈は香川県にある飯野山のことです
清治は彼女である智子と共に香川に来ていた。
都会にすむ彼らにとっては見るものすべてが違う国のように思えた。
「おい、 田んぼ多すぎるだろ。見渡す限り田んぼだらけじゃんか」
「清治、こんなところに本当に美味しいうどんやさんなんてあるの? 雨降りそうだし早く帰りたいんだけど」
二人は汗をかきながらも密着して、坂を登っていた。
「ねえ、本当にこんなところいくの?」
坂を登り終えて、現れたのは崖のように急な斜面と、それを下るために用意された一本のロープだった。
「有名な讃岐富士の山中にあるうどんやさんのんだ。絶対美味しいさ」
清治は意気揚々とそのロープを迷うことなく掴むと、慎重にかつ焦りながら降りていった。
そして、智子が上から見守るなか急斜面の中腹まで降りたとき、清治は少しぬかるんでいた地面で滑り、崖したまで滑り落ちてしまった。
「ちょっと大丈夫!?」
「……大丈夫大丈夫! それより早く降りてこいよ!」
智子の問いかけから数秒後、興奮気味のトーンで清治が返事をした。
「えー……この服買ったばかりなのに……」
智子は不満そうにロープに手をかけ、ゆっくりと下っていった。
清治はとろとろと降りている智子を待ちきれなかったのか一人で先に細い登り坂をかけ上がっていった。
「ちょっと待ってよ!」
智子は少しスピードをあげ降りた。
すると、先程清治が滑って転がり落ちた少し先で智子も足を滑らしてしまった。
「きゃ!」
智子は泥をかぶりながら崖のしたにたどり着いた。
「……もう、最悪!!」
智子は一瞬ロープを睨むと、ずいぶん小さくなってしまった清治を早歩きで追いかけた。
坂を登り終えた智子を清治は汚れていることも構わず抱きしめた。
「ちょ!? 何するの? 私今汚いの! それに前が見えない!」
「やっとついたよ!!」
清治は感極まった声で智子の耳元でそういうと、智子から離れた。
「ここがうどんやさん?」
坂を登りおえ、二人の目の前にあったのは高級料理店並みの店構えをしたうどん屋だった。
智子は驚いたままの表情で清治を見た。
そんな智子の表情をみた清治はなぜかにやにやしていた。
どうやら、さっきのは驚かすための清治の演出だったらしい。
それに気づき、なんだか悔しくなった智子はまだまだにやにやしている清治を置いてさきに店のなかに入った。
「あ、待てよ!」
清治もおいていかれないようにと智子のあとを追いかけるように店のなかに入った。
「「まじか」」
店内は外見からは想像できないほどボロボロだった。
枯れ葉は店のなかで散乱し、机と椅子は手作り感満載の木製であった。
「なんか用か?」
スキンヘッドで眉の濃い店主らしきおじさんは二人をにらみながら大股で近づいてきた。
「あの、おうどんが食べたいんですけど」
清治が恐る恐る訪ねると店主はしかめっ面のまま立ち止まり、何かを考えるような素振りを見せた。
「……ああ、客か。適当なところに座んな」
店主はそのばで反対方向に振り向くと、そのまま店の奥に引っ込んでいった。
そんな店内と店主をみた二人は向かい合い不安な気持ちを抑えながら店の扉から一番近い席に座った。
そして、二十分後出てきた料理は二人が想像していたよりも普通のうどんだった。
店主が乱暴に置いたせいで机にうどんだしがこぼれてしまっていたが……。
「ねえ、食べるの?」
「せっかくここまで来たんだ、食べるしかないだろう。それにこの状況で食べないわけにも行かないだろう」
そういいながら清治がちらっとみた方向には、席をひとつ挟んで仁王立ちで腕を組んで、二人をじっと見つめている店主がたっていた。
「食べるぞ」
清治は恐る恐る箸を手に取り、麺を豪快に掴むと、一気に麺をすすった。
「!!」
清治は一瞬動きを止めると、そのまま麺をゆっくりとすすりきり、箸を置いた。
「想像以上だ?」
「どっちの意味で?」
「……食べてみればわかる」
智子は清治の反応を見ながらいやいや、麺を一本掴むと、一口口にいれた。
しかし、智子はその麺を吐き出してしまった。
「なにこれ!? コンクリートみたいな味じゃない!!」
「バカそんなこと言ったら!」
清治と智子は仁王立ちで憤怒の形相で立っているであろう店主がいる方をみた。
しかし、店主はその場に苦しげな声でうめきながらうずくまっていた。
二人は思わずほっとしてしまい、迷いながらも店主に近づいた。
「どうしたんですか?」
「大丈夫ですか?」
「……腹が……腹が……死ぬ」
店主は呻き声混じりに二人にそういってきた。
「ちょっとなにか持ってないの!?」
「そんなこと言われてもな……あ!そういえば!」
清治はなにかを思い出したようにポケットに手を突っ込むと正露丸を取り出した。
清治は出てくる料理で万が一腹を壊してしまった場合にすぐ取り出せるように、ポケットに入れていたのだ。
店主は清治の手からそれを奪い取ると、口のなかに全ての錠剤を流し込んだ。
「んっ!!」
すると、今度は正露丸を喉につまらせたのか顔を真っ赤にしながら喉元を叩いていた。
「水!?」
智子は机にあるうどんが入ったどんぶりを手に持つと、それを店主に渡した。
店主はそれを受け取り浴びるようにうどんだしを飲むと、落ち着いたのかその場で荒い息を繰り返しながら落ち着いた。
「なんとか……なったみたいだね」
「お前ら……」
ほっとしていた表情で見つめあっていた二人は、店主の方を同時に向くと、店主は恐ろしい勢いで二人をにらんでいた。
「さっき、俺のうどんが不味いとか言ってたな」
「不味いとはいってません!! コンクリートみたいな味だと」
「どっちでも一緒だろうが!! 二人とも瀬戸内海に沈めてやるからなぁ!!」
店主はそのまま勢いよく立ち上がろうとしたが、腹の痛みがまだ治まっていないのか弱々しくその場に座り込んだ。
「……」
智子はあまりの恐怖にその場から動けなくなってしまったが、清治が智子の手をつかみ店主から離れた。
「逃げよう」
清治は一言そういうと、智子の手を引いたまま店の扉に向かって走り出した。
「待てお前らぁ!! あぁ腹が……」
そんな店主の声を背中に聞きながら二人は店を飛び出すと、店に来るときの倍以上のスピードで讃岐山脈を一目散にかけ降りた。
「もう……全然美味しくないし! めちゃくちゃ怖かった!!」
「ごめん、さすがに俺もあそこまでとは想像してなかった」
二人は恐怖から解放された衝動と疲れからその場に座り込んだ。
「はぁ……次いくうどん屋と今日の旅館代、清治のおごりね」
「まじかよ」
「そのくらいは当然でしょ!」
「……分かったよ」
その後二人は山の近くにあるうどん屋で美味しいうどんを食べることができた。
本日の舞台である香川県のうどん屋さんは本当はどこの店も大抵美味しいです
コンクリートの味はしないので安心して観光にいらしてください
ちなみに讃岐山脈の急下降した斜面に一本のロープ……実は本当にあるんです!
恐らく、登山客でもそこにたどり着けて、実際に降りた人は数えるほどではないでしょうか
みなさん、讃岐山脈を登ったときには一度探してみてはいかがでしょう?




