放射線防御服を着て
4日目、私たち3人は南先生の指示に従って、宇宙放射線を防ぐ服を着た。
「次第に地球からの重力が弱くなったわ。身体が軽くなって」
テーブルにある食器を落とすと、ゆっくり落ちていく。
「おもしろい!火星の重力と同じくらいになったのね」
私たちの身体は軽くなる。でも、徐々にそれに慣れてしまう。
そして宇宙放射線防御服を着ると、ずっしりした重さを感じる。
「なんだか歯医者さんで使うレントゲン撮影に使う服みたい。それを大きくしたものだわ」
「南先生、この服は何キロあるのですか?」
テレビモニターを通して南先生と会話した。
「約25キログラムはあります。あなたたち未婚の女の子が、将来、結婚して子どもを産む時、奇形児が産まれないためと、それから放射線の影響されてガンにならないためです」
私たちは、タンクトップとホットパンツの軽装の上に、長袖の放射線防御服をきた。
外を見ると、地球がかなり小さく見えるようになった。
「それでは、明日からは列車内を自由に移動できます。あなたたちとモニター越しで話さなくてもすみます。それでは、明日、お会いすることを楽しみにしています」
明日から、この列車内を自由にいろんな客室に訪問できる。なんだか開放感を感じた。
放射線防御服を着ると、よろいを着ているように重い。でも、列車はどんどん上昇する。そうすると地球の重力も次第に弱くなる。放射線防御服も意識しないで過ごせるようになり、そして、私たちは客室の外に出られるようになった。
「ねえ、まだ重力があるわ。でも、徐々にものが落ちる速度が遅くなる」
「そうね・・・、通路を見てみない」
私たちは通路を見た。最初に見た時と同じ印象で、とても高いところに私たちの客室があるのを実感した。
「じゃあ、外に出るわ」
「重力が弱すぎて動きにくい」
「ちょっとでも足に力を入れると天上にぶつかる」
「静止衛星都市に到着すると、丁度、地球の重力と遠心力が中和する地点になるから、無重力になるわ」
「静止衛星都市では無重力を利用した新素材製造工場があるわ」
「そちらへ見学するわ。でも、担任の南先生と相談しないと」
「そうだね」
透明な放射線防御服は、有機ELディスプレイで囲まれているので、服の色も自由に変えられるし、モニターにもなる。放射線防御服から南先生の声が聞こえた。
「みなさん、左腕を見てください。私の顔が見えますね。通路は自由に通って良いです。それでは、直に会ってお互いに話し合ってください」
私たちは、通路にでて開放感を感じた。ゆっくり落ちるが、着地するときは、慣性があるので自分の足の骨を痛めないように十分注意する必要がある。
「おもしろい。ゆっくり落ちる」
「あぶない!私の体重と放射線防御服の慣性でハシゴがつかめないわ」
「南先生!どうしますか?」
「その時を考えて、この列車を運用しているのです。落下直前に、自動的にジェット噴射で落ちる速度を落とします。着地する時に、エアバックで衝撃を和らげますので、落下している時、ハシゴを掴まないでください」
「ねえ、慣性があるからハシゴをさわらないで!指の骨を折るから」
下から物凄い勢いの風が吹き出した。私たちの身体も上昇しそうだった。
「きゃっ」
下に落下直前にエアバックが膨らんだ。
「低重力状態もおもしろいわ。でも、徐々に重力がなくなる」
「そうね。放射線防御服のモニターで外の景色見ない」
「うん」
「地球がこんなに小さく見える」
「でも、はるか上に静止軌道衛星都市があるのね。まだ全然見えない」
「そうよね」
高度3万5千メートルの静止軌道都市に到着する。
所要時間は7日と8時間。
時速200キロでは遅すぎる。せめて時速1000キロになれば、早く宇宙にいけるはず。
「ねえ、宇宙開発の歴史の授業が始まるわよ」
私たちは、宇宙列車の車両の後ろ、別の言い方すれば、真下で南先生からの授業を受ける。
私たちは放射線防御服を着ている。肌を露出する部分はない。宇宙放射線から私たちを守ってくれる。
「ねえ、いっそのこと宇宙服でもいいじゃない」
「そうね。でも大量生産しても宇宙服は高価だし。数百万円もするのよ」
「いや、20世紀の米ソ冷戦時代では、宇宙服は数億円もしたのよ」
私たちは驚いた。
「じゃ、数億円もするなら、かなり高級なドレスが買えるじゃない。それも、どこかの国の女王様みたいに」
「そんなの税金の無駄使い。福祉を必要としている人、教育の充実させないと」
私たちは夢から現実へと目を向ける。
「宇宙エレベーターは、21世紀の技術でも作れると楽観しましたが、建設開始が2100年代になってからです。世界人口が急激に減少してい時代。果たして宇宙開発は必要かと議論されました」
「現在の世界人口は35億人ですよね」
「そうです」
「でも、アフリカや中東では、数世紀もわたって飢餓やテロ、内戦で苦しんでいます。どうしてなんですか?」
「それは、政治の腐敗は宗教がからんでいます。本来、宗教は人間の心を正しい方向へ導くためなんです。でも、宗教がらみの戦争、また圧政は、紀元後、キリスト教が世界に広まってから起きました」
「だから、私、宗教が嫌いなの」
「そうです。誰でも宗教は嫌いです。今の時代、無神論は当たり前です」
「でも宇宙エレベーターは何のために作ったのですか」
担任の南先生は、通路にある壁をモニターで説明した。
静止軌道まで、あと1日。地球が小さく見える。でも、静止軌道都市は見えない。延々と続く、宇宙エレベーターの建造物だけが上下から見える。
私たちは、ほぼ無重力状態なので、空中に浮いている。
「未来のための投資です。数百万年後、急激な寒冷化。すなわち地球が数年もしないうちに、氷の世界になり、ほとんどの生命体が絶滅します。そのためには、火星への移住。最終的には太陽系を出て、第二の地球へと移住します」
「なんだかSF小説みたい」
「でも、こんなに科学が進化した時代、SFなんて時代遅れ」
「SFという古典を傲ってはいけません。古典文学から学ぶものはたくさんあります。現代人に必要なのは創造力です。いまは生活が便利になりすぎて、いや、便利ということさえも実感できないのです」
「そうですか」
「まあ、本音を言えば、巨大事業による経済の発展。それに世界政府樹立を目指すためという意見もありますが、中東や北アフリカ地域では、厳格な宗教戒律による宗教法による全体主義国家なので、世界統一は永久に無理だと悟りました」
「そうだね。いくら日本の力が強くっても」
「かつて、TPPという『環太平洋帝国』という構想がありました。首都はワシントン・DC、すなわちアメリカ合衆国です。日本は古典的支配体制、官僚という貴族による絶対君主制で政治を行っていました。でも、ビックブラザーが日本経済を支配し、TPPを断固阻止した結果、日本はアメリカ合衆国の支配から独立しました。そして世界一の経済大国になり、アメリカが逆に日本に支配されました」
「もし歴史の歯車が異なれば、第二のローマ帝国ができたわけですね」
「そうです」
南先生の話が長く続いた。宇宙エレベーターは日本やアメリカだけでは作れない。文明国が一致しないと作れない。お互いの考え方や習慣の違いを乗り越えて作れるものである。




