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私と母と人生と。  作者: おまめ
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 ちょうど25年前、私は産まれた。

暑いような、冷たいような、紫陽花の咲き誇る6月。


 私は小さかった。

2か月も早く産まれたのだから。

母は毎日毎日、まだ1歳だった姉を母の実家に託し、病院まで私に母乳を与えに来てくれた。

私が退院した時には、母より祖母になついた姉と、まだ小さすぎる私の面倒で、母は少し育児ノイロウゼのようになっていた。


でも、私はそんな事、少しも覚えていない。

 私は小さかったから。



 私が幼稚園に入るころ、母の存在は私にとって既に「鬼」だった。

小さく産まれた私を母は厳しく育てた。

何かあれば怒鳴られ、酷い事も言われたし、一日中、外に出された。

真っ暗な扉ダンスに閉じ込められた事もあったせいで、今でも暗くて狭い場所はトラウマになっている。


 そんな「鬼」だった母に、声を掛けることすら怖かった。

でも・・・・

愛されたかった。

私も、姉のように接して欲しい、愛して欲しい、と。

きっと、私は産まれてくるべきではなかったのだと思った。


けれど、私にも光はあった。

幸い、直ぐそばに祖母一家が住んでいた。

何かあれば祖母の家に逃げ込んで、泣いていた。

祖母は大好きだった。



 中学に入って、父と母は離婚した。

毎日毎日怒鳴りあって時には殴られ、喧嘩していたのを覚えている。

二人が離婚してから、だんだん母は柔らかくなったように思えた。

(あぁ、父といた生活がこんなにもストレスたっだんだ・・)


私も少しずつ、母と会話する時間も増え、高校生になった頃には、二人でご飯を食べにも行ける、そんな普通な親子関係を築けていた。

喧嘩する事も、怒られる事も勿論あるが、私の大学受験に期待し、応援してくれた。

母に近づいている毎日が嬉しかった。

楽しくなっていた、はずだった。



高校生後半になり、母は体調を崩した。

「腰が痛い」

毎日のようにそう言っていた。

念のため病院で診てもらう事になった。


結果は子宮筋腫だった。

日にちを決め、筋腫を取り除く手術をしましょうとの話になった。


しかし、母の妹の勧めで大きな病院の名医に診てもらう事になった。

母は乗り気ではなかったが、

何日か、「検査」という名目で、入院する事になった。


 私も姉も、呑気なものだった。

前回の病院で筋腫と聞かされていたのだから。


しかし、呑気でいられるのも、その時までだった。



TRRRRRR・・・


学校の帰り道、携帯が鳴った。

相手は、叔母からだった。


「もしもし」

電話に出ると、叔母は少し取り乱したような声だった。



 「あゆ美のお母さん・・・・癌だって・・・」



今日は、天気が良かった。

真っ青な青空に澄み渡るような空気。

行きかう車や電車が走る音。

心地よいと感じていた。

一秒前までは。


「え・・・」


叔母の言ってる言葉の意味が、理解出来なかった。


癌なんて言葉、家族の誰かから聞くなんて思ってもいなかったから。


祖母の声は震えていた。


「とりあえず、今から○○駅まで来て。

 これから先生から話があるから、駅まで迎えに行くね。」


そう言って、電話は切れた。


理解できなかった。

私の周りだけ、時間が止まったんじゃないかと思う程、

周りの音など耳に入って来なかった。

自分はロボットにでもなってしまった用に、その場に立ち尽くしていた。



・・・・嘘だ。

嘘だよ。

何かの間違いだよ。

夢だよ。

きっと冗談なんだよね。

そうだよ、嘘だよ・・・



頭の中はまだ納得してはいなかった。

真実だと、信じたくなかった。


涙が溢れていた。



私は駅まで走った。

電車の中では、何も考えられなかった。

本当に、空っぽだった。

病院の最寄り駅までは少し遠かったが、

ホンの一瞬に感じた。



駅を降りると、祖叔母さんの車が待っていた。


無言で車に乗り込む。

叔母さん「学校お疲れ様。お腹、空いてない?」

あゆ美「ううん、大丈夫」


発車した車内は少し重い空気が流れていた。


「お母さんね、子宮癌なんだって。」

叔母さんの声が震えているのがわかった。

「子宮癌ってどんなのかわかる?」


私は視線を真っ直ぐに向けていた。

きっと、叔母さんの方を向いたら、泣いてしまうから。


あゆ美「うん、、なんとなくだけど」


そこから叔母さんは、癌について、まだ母には知らせて居ない事や今後について、私に話始めた。

しかし、私にはその声は届いてはいなかった。

窓の外を眺めるフリをしながら、涙を堪えるのに必死だったという事と、

私の母が、癌になったという事実を否定したかったからだった。


私はまだ信じられなかった。


本当は嘘だと思いたかった。




病院のロビーには既に皆が集まっていた。

元気そうな母の姿までもが、そこにあった。

その姿を見て、少しホットしている自分がいた。


(こんな元気そうなのに、癌なんて、ある訳ないよ。)

そう自分に言い聞かせた。




そこへ少し年齢の行った、婦長さんであろう看護師が現れた。

「早川さんのご親族の方々ですか?」

とても優しそうな物腰柔らかな風格だった。


皆でその看護師に会釈した。

「私は婦長の山中です。もう少しで先生が来られると思いますので、お待ちくださいね。」

そう笑顔で話すと、母に目を向けた。


「早川さんにはこれから看護師から検査の内容等のお話があるので病室に戻ってて下さいね」

そう言うと、私たちににこやかに会釈をし、その場を後にした。


母は皆に笑顔を向け病室に戻っていった。

きっと母は、もうこの時には、気が付いて居たんだと思う。



自分がどんな病気であるかを・・・




続く。

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