アニマ-次の一歩を-
「蹲ってどうしたノ?」
青年が現れた。
私は背筋を伸ばしているつもりだった。
「蹲ってなんかいないよ?」
青年は首を振った。はちみつ色の短い猫っ毛がふんわり揺れた。
「僕には、君の中で小さく丸くなった君の心が見えるんダヨ」
「嘘よ、嘘。私は心を縮めてなんかないわ」
「君の方が嘘つきダ」
青年は私の頭を、その大きな手で撫でた。
白く細く美しく、骨ばった青年の手。
それに私は少し安心した。
「お、中腰位になったネ!」
青年は、長い睫毛に縁取られた大きな目を片方閉じてウィンクをした。宝石のような碧の瞳が、私の前で一度隠れまた出現した。
「なんのこと?」
私は質問した。
「君の心の話サ」
青年は私を抱き締めた。
あちらこちらに跳ねた青年の細い髪の毛が、青年の肩に置かれた私の鼻腔をくすぐった。
「良い匂い…」
「お風呂上がりたて!」
「そう」
青年はひょろっとした見た目よりもがっしりしていて、多少凭れてもびくともしなかった。
私は、温度の全くない青年の体に腕を回した。
体中の強ばりがほぐれていき、私はめいっぱい背伸びをしたような爽快感を感じた。
「だいぶ綺麗に立てるようになったネ」
青年は私を離した。
そこでようやく、私は一番訊きたかった事を尋ねた。
「貴方は誰?」
青年は照れ臭そうに笑った。
薄ピンクの唇が弧を描く。
「僕は君である」
最初、私は青年の言葉がわからなかった。
そんな私に説明するかのように、青年は言葉を続けた。
「僕はアニマ。君の中の男性性。君の中の男。もう一人の君」
その美しい青年の穏やかさに、私は自然と笑みを浮かべた。
「ありがとう、助けにきてくれて。これで私は」
「良かった、君を助けることができて。これで君は」
─一人じゃない─
fin.