2・わたしが少年(?)になった日 その2
「どうしよう、山田さん。この人達、山田さんのこと男だと思ってるみたい」
困ったように小首を傾げて桃姫が教えてくれる。
金髪王子曰く、
「異世界から呼ばれる『王の盾』はただ1人。しかも必ず女性と決まっている。これまで男が呼ばれたことはただの1度もないのに、何故男が紛れている!?」
とのこと。
わたしのジャージ姿がいけなかったのか、彼らにはわたしが男に見えたようだ。
中世ヨーロッパ調の雰囲気だから、女性がズボンを履く習慣なんてないだろうし、ここにいる女性達を見たところ、髪だってわたしのように短い人は一人もいない。
みんな王子の意見に賛同してか、うんうんとうなずいている。
(どうせ桃姫と比べて女らしくないし、胸もささやかだから、ジャージを着てるとパッと見寸胴ですよ。)
先ほど感じた、金髪王子の敵意がこもった視線の意味が分かった。
桃姫のそばにいて、寄り添われている男=わたしの存在が気に食わないのだ。
「あの、ラズーロ様。この人は男ではなく」
「ちょっと待って、桃姫」
言いかけた桃姫の腕を掴んで止めた。
「訂正はしなくていいから」
「でも・・・」
彼らがわたしを男だと勘違いしているなら、そのままにしておいた方が良いと思った。
仮にわたしに『王の盾』の力があったとして、それが政治の世界に利用されないとも限らないからだ。
(余計な火種は産まない方が良い。)
そう0.1秒の間で計算した上で彼女を止めた。
わたしは、桃姫のようにお姫様扱いはまっぴらごめんだし、桃姫の当て馬になって面倒ごとに巻き込まれるなんて勘弁して欲しいのだ。
ただでさえ巻き込まれて、こんな世界に来てしまっているのだ。出来れば厄介ごととはおさらばして家に帰りたい。
「わたしが男だろうが女だろうがどっちでも良いの。それより、元の世界に戻れないのか聞いてくれないかな?」
(多分、帰れはしないだろうけど。)
彼らは『王のパートナー』として召喚を行う集団だ。帰ることを前提になどしていないだろう。
それでも一縷の望みをかけたかった。
「それは無理です」
銀髪のイケメンが言った。
「そちらの方には申し訳ありませんが、召喚の陣はあっても、帰還の陣はないのです」
(全然申し訳ないって態度には見えませんが?)
淡々と言い放つ男にムカついたが、返ってサッパリ振り切れた。
(やっぱりな。胃が痛い予感その3、帰還不能!)
「帰れないって、そんな」
桃姫の方は展開についていけず、ショックを受けている。
「大丈夫だよ」
震える彼女の手をそっと握った。
「貴女はね」その言葉は胸にしまって。
わたしはそっと息を吐いて、うつむきそうになる頭を持ち上げた。
すると・・・・・
(もしもーし、こいつムカつく、って顔に書いてありますよ。)
誰が、とは特定しないが、しいて言うならこの場にいるイケメン全員が。
励ますためとはいえ、桃姫の手を握ったのはまずかった。
視線には敵意と若干の殺意が垣間見えている。
わたしの処遇について話し合いを始めた彼らの会話を桃姫が青い顔をして通訳してくれた。
「この者の処遇はどうする?面倒だからいっそ切り捨てるか?」
とは、金髪王子のセリフ。
(こら、バカ王子!桃姫の手を握ったからって、切り捨てるのはやめて下さい。
こら、そこのイケメン脳筋騎士。さりげなく剣の柄に手をかけるな!主人の命令に反射で動こうとしないでください。ちょっと自重しようよ。)
「桃姫の知り合いらしいですし、そこまでするのは物騒かと。桃姫がショックを受けてはいけません。
このまま王都に捨て置けば良いのでは?」
これは銀髪のイケメン。
(いやいや、貴方の発言も十分物騒だから。わたし言葉が分かんないんですよ?このまま王都に捨て置かれたら、普通に生きていけないから。ナルシスト神官め。サラサラと流れるその髪が鬱陶しく見えるわ。)
「それでは桃姫が不安に思うでしょう。彼には王城で下男として働いてもらってはいかがです?」
とは眼鏡のイケメン。
(おいウザ眼鏡。親切ぶってるけど、それはそれでひどいからね。何故みんな、客人としてもてなすとかの発想が出てこないの!?
そうだね、桃姫の手を握ったわたしがいけないんだよね。あっ、なんだか冷たい汗が流れてくるよ。)
「あのっ、私の友達にひどいことしないでください!」
(よく言った桃姫!「一度お話したらお友達」思考を心の中でバカにしたことが2度や3度はあってごめんね。
その調子でわたしの死亡フラグをたたき追ってくれ!)
と願った矢先にそれは来た。
突然の閃光がわたしを襲った。
主人公の中で、一瞬にしてイケメン達のあだ名決定。
そして主人公は桃姫に対して何かと失礼。