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少年(?)山田の胃が痛い日々  作者: 夏澄
王宮生活~基礎生活編
4/95

1・わたしが少年(?)になった日 その1

やっとファンタジー出てきた。

わたしに向けられる彼らのまなざしに共通して浮かんでいるのは、

「何でこんなのが付いてきているんだ!?」

という不本意極まりないものだった。


胃が痛い予感しかしない。


床に倒れていたわたしが立ち上がって最初に目に入ってきたのは、金髪碧眼のイケメン。

たぶんこいつ王子。金髪がやたらキラキラしていて目に痛い。

あと周囲には、目付きが鋭い眼鏡のイケメン。いかにも文系タイプで頭が固そう。

騎士っぽいのが数人。一番強そうな焦げ茶の髪のイケメンは、常に周囲を警戒してピリピリしている。

白いローブ、黒いローブをまとった者たちが各3名ずつ。

中でも一際目立つ銀髪の髪に青い目をした白いローブのイケメンは、儚げな印象を受ける。言葉は交わしていないが、ナルシストっぽい気がする。

服装は中世ヨーロッパをイメージしてもらえたら良いだろう。


この場には男性がほとんどだが、女性もいる。総じて美形が多い。

(イケメン率高っ!)

でも、どんなに見目麗しい人たちがいらっしゃっても、目前に広がる

『ザ・異世界☆』な光景にはまったくウハウハな気分にはなれない。


こういう時、人はどうするのか?

1・わけが分からず泣き叫ぶ

2・ひたすらおろおろしてプルプル震える

3・走ってこの場から逃亡する

4・成り行きを見守る


桃姫は2番だった。わたしの後ろに立って、

「どうしよう、これ一体何なの?」とジャージの袖をつかんでプルプルと震えている。

わたしとしては、彼らの冷たい視線が痛いので3番を選びたかったが、

きっと桃姫が不安がるだろうし、焦げ茶の髪の騎士っぽいのにうしろからバッサリいかれても困るので、4番の「成り行きを見守る」にしておいた。


これでもわたしは不安がるクラスメートを見捨てられないほどにはお人好しだし、簡単に死亡フラグ立てないくらいには慎重なのだ。

少しでも状況整理のための情報が得られないか、と

彼らの会話に耳を傾けても、

「〇◎×△+?」

何を言っているのかさっぱりわからない。


そこへ白いローブのイケメンが近付いて、桃姫の腕を取り、シンプルだが細かく細工された腕輪を通した。

「△〇-×□◇?」

「はい、分かります」

(はい、わたしはサッパリ分かりません)

異世界召喚のテンプレ通りなら、この腕輪は翻訳機の役目をするのだろう。

桃姫は彼と2,3言葉を交わして、私を見た。


「あのね、山田さん。この腕輪をつければ会話が通じるんだって」

(それは見ていればわかります。)


「それでね・・・・・この腕輪、一つしかないんだって」


(はい来ました、胃が痛い予感その1!)


腕輪が1つしかない。この銀髪のイケメンは迷わず桃姫にそれを与えた。

「山田さんも付けてみる?」

と、桃姫が言ってくれたが、丁重にお断りした。

(空気読め!あなたが主役、異世界召喚キャラ。わたしおまけのモブキャラだから!)

仮にわたしがその腕輪を欲しいと願って桃姫から譲ってもらったところで、「お前、何してんだ」

とフルボッコになるのは確実。

(無駄にわたしの死亡フラグ立てないでください。)


つまり、私には言葉がいっさい通じないことになる。


ありがたいことに桃姫が

「じゃあ私、頑張って通訳するね」

と張り切ってくれている。


今はありがたく、通訳してもらうことにした。


 ※ ※ ※


桃姫の通訳によると、やはりメインの異世界召喚キャラは彼女で、わたしはおまけのモブキャラだった。


わたしたちが召喚されたこの国の名はシルバレン。

代々、次期国王となる者は異世界から「王を支え、王を守り、国を安寧へともたらす者」としてパートナーを呼び寄せる儀式を行うのだという。

そのパートナーを『王の盾』と呼ぶらしい。


なぜ『盾』なのか。

この国には魔法が存在し、古い時代には、国内で魔法による王位簒奪が頻繁にあったのだという。

異世界の者だけがその魔法の魔力を無効化でき、現に初代『王の盾』は、王位簒奪の窮地に立たされた王をその力で『盾』となり救ったのだそうだ。

以後、次期国王となる者は異世界から『王の盾』を呼び寄せる風習となったとのこと。


いらない風習を作ったものだ。

(国がピンチの時にだけ召喚すればいいのに。)


桃姫はその『王の盾』となるべく召喚されたのだという。


「説明するより実際に見た方が分かるでしょう」

と銀髪のイケメンが、何か呪文のようなものを呟くと、その指先に火が生まれる。

その火は直径30cmほどに膨らみ桃姫に向かって飛んだ。

「危ないっ」と叫ぶ間もなく、その火の玉は彼女の体に触れる前にシュンっと消滅した。


直後、彼女の周りに赤い花弁が舞った。

一瞬、わたしの脳内がお花畑になったのかと思って焦ったが、拾い上げて見ると、それは本物の花弁だった。


周囲に喜色の混ざったどよめきが起きた。

今起こったように、「魔力を吸収し花へ変換させる力を持つ者」が『王の盾』なのだそうだ。

これで桃姫が『王の盾』であることが証明されたことになる。

魔力を花に変換なんて、これまた愛らしい能力が桃姫に付随したものだ。


イケメン集団に乙女な能力開示となると・・・


(あぁあ、来た来た、胃が痛い予感その2!逆ハーレム化)

あちこちで桃姫へ向けるまなざしがピンク色に変わっていってる。

今の出来事に目を丸くしている桃姫は気付いていないようだが、

さっきまで周囲を警戒してピリピリしていた騎士まで微妙に頬が朱に染まっている。


するとここまで沈黙を守っていたキラキラ金髪王子が桃姫を指して何事かを言った。

桃姫が同時通訳してくれる。

「皆も見ただろう。この者が俺の『王の盾』だ。俺はラズーロ・ウル・シルバレン。次代の王となる者だ。『王の盾』よ。名を名乗れ」


(名を名乗れ、って随分エラそうな態度だな。何様ですか?あぁ王子様でしたね。

 このエラそうな態度、なんだかデジャヴを感じる。)


うちの高校の生徒会長もこんな感じだった。あの人はどっかの会社の御曹司だったっけか。

あんまりエラそうで腹がたったので、教育的指導と称してハリセンで叩いたのは記憶に新しい。

それ以来、口調は相変わらず俺様だが、わたしとハリセンのセットを見る度に怯えていたように見えたのは気のせいではないだろう。


「私は相原 桃子と言います。みんなには桃姫って呼ばれてます」

ここで普通の可愛い子が自分を「姫」とか言ったら、ププっと失笑ものなのだが、乙女ゲーの主人公を地で行く桃姫が言うと何の違和感も持たせないので不思議だ。

ましてやここは異世界。

「桃姫とは愛らしい名だ。俺もそう呼ぶことにしよう」

とか言われている。親切なことに、褒められた部分までちゃんと通訳してくる桃姫は律儀だ。


「ところで、桃姫の横にいる男はなんだ?」


(えっ、今なんて言いました?)


視線を向けた先の金髪王子の目には敵意が満ちていた。


(わたし、貴方に何かしましたか?)


なかなか話が進まないです。

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