88話 戦い後の休息は続く(11)
眼鏡「こんにちは!作者の眼鏡です!今回は修正のお知らせのために出てきました。前話で『四国会議』という言葉がありましたが、『VEGS会議』という言葉に変更しました。理由としては、ちょっと中ニっぽくしたかっただけです。ちなみに意味はありません。4国の頭文字をとっているだけなので。」
眼鏡「そして重要なお知らせがあるのですが、それは後書きの方でお話ししますので、その前に本編をどうぞ!」
眼鏡「あっ、ちなみに今回で『修学旅行編→妖刀編』は完結です。」
「ぷっ…!はははは!何を言い出すかと思えば……俺はあいつの父親なんかじゃねぇよ。」
バルスが大笑いした後、笑って否定した。
「何を言っている。お前は正真正銘、シャインの父親ではないか。」
シュロムがバルスの否定を否定した
。
「おいおい、会っていない間にボケが始まったのか?頼むぜシュロムさんよ〜」
バルスがシュロムを小馬鹿にするが、
「子供のような嘘を言いよって…そこまで自分の心を欺けたいか?」
シュロムは一切気にもしない顔で問いた。
「……俺はいつでも自分に正直だ。じゃなきゃ『たった1人の女』のために『あんな事』はしねぇよ。」
バルスの顔から笑顔が消える。
「親子の縁を切ったということか?」
シュロムが問う。
「何べんも言わせるな。俺はあいつの父親じゃねぇ。」
バルスが真顔で答える。
「何故そのような嘘を儂に言う必要がある?儂は全て知っておるのだぞ。今更そのようなことをほざいたところでお前に何の利益が……」
シュロムが問いただそうとしたとき、バルスが一瞬でシュロムの目の前まで移動し、シュロムの胸ぐらを掴むと、
「おい…あんましつけぇとその残り少ない命をここで終わらすぞ?」
殺意を含んだ眼光と共にシュロムを脅した。しかしシュロムは全く怯むことなく、冷静にバルスの手を払った。
「お主とシャインの間に何があった?」
明らかにバルスの様子がおかしいとシュロムは思い理由を尋ねたが、バルスはシュロムを睨むだけで答える気はないようだ。そんなバルスの態度に、シュロムは小さく溜め息をつくと、
「……儂はお主からシャインを鍛えてくれとしか頼まれておらぬ。お主等の家族問題まで干渉する義理はない。だが、親子の縁というものは、そうそう切れるものではないぞ。」
バルスに忠告して閃風草原から姿を消した。草原に1人となったバルスは、青空を優雅に舞う輝く風を眺め、
「そうそう切れない…ね……俺もそう思っていたさ。でもよ…あんな目で見られたら…そう思えなくなっちまうよ…」
シャインと何年ぶりに出会ったあの日の光景を思い出し、少し切なさが籠る声で呟いた。
場所は変わり、奈良の東大寺に似た形をした大きな館の会議室。大きめの円卓を挟んで座るのは、すっかりドレス姿が板に付き、大陸の南東を統治する『ヴァスタリガ国』の現最高権力者である『エアル・ダイヤモンド』と、美しい黒のロングヘアーに茶色の瞳を持ち、十二単のような豪華な衣装に身を包み、大陸の北西を統治する『シルフォーニ国』の女王である『ミコヒ』であった。そしてその場に案内されたのは、『導きの神』である『サナ・クリスタル』であった。
「あんたさんがサナ・クリスタルか。エアルと同い年に見えんほどの幼い身長やね。」
ミコヒがサナの身長を見てクスリと笑った。
「あんたこそ40代前半とは思えない顔ね。一体何時間かけて醜い素顔を化粧で隠しているのか知りたいわ。」
ミコヒの皮肉に対して皮肉で返すサナ。そのサナの態度に、ミコヒは心の中で少し苛立った。
「で、私をあんたの根城に呼びつけて何が訊きたいわけ?」
サナは用意された椅子に深く座って腕を組んだ。ミコヒはスッと前屈みになり、組んだ手の上に顎を乗せると、
「ウチが留守中に、よくもウチの国の象徴を消してくれたな。」
殺意が籠った笑みを浮かべながらサナを睨んだ。
「あら、良いじゃない別に。妖刀の魔力を吸い続けていた気色悪い物を国の象徴とし続けるより。」
サナは全く怯むことなく、むしろ挑発するような返答をする。
「いくら気色が悪いもんでも、千年桜はシルフォーニにとって欠かせない存在やったんや。千年桜暴走及び消滅によって色々なところに経済的損害が発生しとるんやで。」
ミコヒの顔から笑みは消え、冷たく鋭い眼光をサナに向ける。
「じゃああのまま千年桜を放っておいて良かったの?そうしたら今よりも確実に損害は増えるわよ。むしろまだ『国』として機能出来る程度の損害で抑えたことを感謝してほしいわね。」
サナも鋭い眼光を向ける。火花が散りそうな2人の睨み合いに耐えられなくなったエアルが、
「サナもミコヒさんもちょっと落ち着きましょう!このままじゃ戦闘に発展してしまいますよ!」
と、仲裁に入った。それにより2人は椅子に深く座り直した。どうやら戦闘勃発という最悪なシナリオは免れたようだ。エアルは何かスゴい修羅場を乗り越えたような感じがし、ホッと一安心の顔をした。そして少し沈黙を挟んだ後、サナが口を開く。
「話の内容からして、経済的損害が大きいから責任をもって私にお金を出せってことでいいのかしら?」
「いんや、さっきの話はちょっとからかっただけや。女子高生から金を取らなあかんほど、シルフォーニの経済は堕ちてないわ。」
ミコヒがケラケラと笑う。
「………じゃあ本題は何なの?」
サナが少しからかわれたことにムスッとしつつ尋ねると、ミコヒは細く美しい人指しでサナを指差し、
「あんたさんについてや。」
興味津々の眼差しを向けた。
「……私?」
サナが確認するように言うと、ミコヒがコクッと頷いた。
「そ。あんたさんが千年桜を消した際の魔法、ウチの部下がたまたま撮影してたから見せてもらったけど、あんな魔法…ホンマにこの世にある魔法かなと気になったんや。せやけどエアルに聞いても私からは何も話せないの一点張りやから余計に気になってん。だからあんたさんに直々に来てもらったっちゅうことや。」
ミコヒがサナをこの場に呼んだ本当の理由を話した。
「別に話しても良かったのに。」
サナがエアルに言う。
「でも内容が内容だし…下手に話したらサナに迷惑がかかるじゃない。」
エアルが返答する。
「……それもそっか。じゃ、私が直々に話すわ。」
サナは納得してするとミコヒに視線を向けた。
「さて…今から私について話すけど、多分全く信じられない話ばっかよ。それでも聞く?」
サナが確認すると、
「無論や。そのためにあんたさんを呼んでんから。」
ミコヒがニッと笑った。
「……そ。じゃ、話してあげる。」
サナはミコヒに、エデンの事について話し始めた。
「………てなわけ。どう?信じてくれた?」
「無理や。ファンタジー過ぎる。」
サナの質問に対して即答するミコヒ。それもそうだ。エデンに行ったことがない人物からすると、絵本に描かれそうなお伽話にしか聞こえないのだから。
「安易に予想出来た返答ね。ま、こんな話をすぐに鵜呑みにして信じれたら、そいつの人生がよっぽど波乱万丈なファンタジーか、単なる阿呆かね。」
サナがくるくると自分の金髪を指で回す。
「思っていた以上に壮大な話で、ウチの頭が理解するのを拒んどるわ。」
ミコヒは円卓に肘をついて溜め息をつく。
「サナ、今更だけど話してエデンのこと良かったの?」
エアルが本当に今更のことを尋ねる。
「当たり前でしょ。じゃなきゃ話さないわよ。」
サナが当然の返答をしたとき、
「……あんたさんが神様やったら、あの魔法の威力は納得出来てまうねんな〜…」
ミコヒが自分に言い聞かせるように呟いてから、
「ホンマは全部嘘とかいうオチちゃうやろな?」
と、サナに確認するように尋ねる。
「こんな壮大な嘘を捏造して話す時間があるなら、真実を話した方が手っ取り早いと私は思うわよ。」
サナが答える。
「サナが話していたことは全て真実です。私が証人になります。」
エアルがサナに賛同する。2人の意見を聞いたミコヒは椅子に深く座り直し、う〜ん…と腕を組んで長く悩んだ後、
「……しゃーない。あんたさんの話、信じたるわ。」
エデンの話を一応信じてみた。
「いいね♪そうこなくっちゃ♪」
サナが楽しそうに笑みを浮かべる。
「で、あんたさんの目的はなんや?こんな話を平気でするっちゅうことは、何か裏があるんやろ?」
ミコヒが尋ねると、
「流石は20年以上女王をやっているだけあるわね。相手の言動を裏を見抜くなんて。」
サナはクスッと笑い、そして椅子から立ち上がると同時に、バン!と円卓を片手で叩いた。
「私がアースに来た目的はアースから『魔力を貰う』ためよ。」
「「魔力を!?」」
エアルとミコヒが同時に驚く。
「なんや?あんたさんはウチらに同意の上で死ねっちゅうんか?」
ミコヒがサナを睨みつける。
「サナ、そんなことしたらゼウスとやっていることが全く同じになっちゃうよ。それでもいいの?」
エアルが心配の眼差しを送る。
「あんた達ね、まだ内容も聞いていないのに反対しないでくれる。」
サナがムッとした顔で睨む。
「じゃあその内容とやらを聞かせてもらおか。内容が内容やったら…その時は覚悟してもらうで。」
ミコヒは前屈みになり、組んだ手の上に顎を乗せた。サナは特に緊張などをするわけでもなく、内容を話し始めた。
「現在私は死亡したキトリス、ヴィーナス、ゼウスの信者達を請け合っているんだけど、最近信者の一部が、『やはりお前は我々の道しるべではない』とほざいて大規模な暴動を起こし始めたの。進行形でトレイタのメンバーや魔戦天使団が鎮圧してくれているんだけど、1つ問題が生じたの。それは『急激な魔力枯渇』。エデンの人間はアースの人間と違って体の中で魔力が生成されず、魔法を発動する際は空間に漂う魔力を使って発動するんだけど、暴動と鎮圧、互いに魔法をかなり発動しているせいで、空間を漂う魔力が急激に減少しているの。魔法は生活の中にかなり浸透しているものだから一日でも早く鎮圧したいんだけど、望みとは裏腹に暴動は日々拡大するため、こちら側の鎮圧力も上げざるおえないという悪循環に陥っているの。だから枯渇し切る前にアースから魔力を貰おうってわけ。」
「でもそれって結局暴動側にも魔力をあげることになるから、何も変わらないんじゃないの?」
エアルが尋ねる。
「最初からエデン中に散蒔く気はないわ。魔力を回復するのは私達の鎮圧側だけ。そうすれば自然と暴動は鎮圧出来るでしょ。」
「あくまで最優先は暴動の鎮圧っちゅうわけやな?」
ミコヒが尋ねる。
「ええ。じゃなきゃ無駄な死が増えるだけだからね。既に少数だけど巻き込まれて死者も出ている。これ以上死者を増やさないためにも、鎮圧側の魔力回復が一刻も早く必要なの。」
「……魔力は具体的にどうやって貰うんや?知っていると思うけど、アースの人間は魔力が空っぽになると死ぬんやで。」
ミコヒが魔力の貰い方を訊く。
「吸収魔法っていう魔法を使って大陸中にいる人間から1人5パーセントずつ貰う。5パーセントなら魔力減少に敏感な人間以外なら取られたことも分からないくらいの量よ。致死量には一切届かないから安心して。それに永続して貰うわけではないわ。」
「5パーセントって、それだけで大丈夫なの?」
エアルが尋ねる。
「例え5パーセントでもこの大陸中から貰うのよ?合わせるとかなりの量になるわ。」
「標的はシルフォーニ、グライトル、ヴァスタリガ、エクノイアの4国でええんやな?」
ミコヒが尋ねる。
「ええ。現状は大陸規模でなんとかなるわ。」
サナの返答を聞いた後、ミコヒは少しばかり1人で考え込んだ。そして数分後、
「よっしゃ、ならこの話の続きは次のVEGS会議でしよか。今ここでウチとエアルだけで決めたらあかん内容っぽいしな。」
と、提案した。
「別に私は構わないわ。当初の予定はヴェグス会議に乗り込むつもりだったし。」
サナがミコヒの提案に賛成する。
「あははは!えらい暴れん坊な思考を持った神様やね。」
ミコヒがサナの作戦を聞いてケラケラと笑う。
「それで、次のヴェグス会議はいつなの?ぶっちゃけあまり遅いのはこっちとしては嬉しくないんだけど。」
サナがエアルに尋ねる。
「不定期だからいつとは断言出来ないけど、近いうちに開かれるのは間違いないよ。遠くても2週間後くらいかな。」
「グライトルとエクノイアの爺どもがいつも返事が遅いんよ。ウチとエアルはちゃーんと指定された日時までに返事しとるのにな〜」
ミコヒがエアルに同意を求めるが、まだまだ王の座に座った者としては新参者のエアルは、あはは…と苦笑いするしかなかった。
「早ければ何でも良いわ。じゃ、今回はもう解散ってことで良いかしら?」
サナが尋ねる。
「せやね。続きは会議でするから、あんたさんは帰ってええよ。あっ、エアルはまだ居といてな。話すことがもう少しあるさかい。簡単な政治の話やから身構える必要はないから。」
ミコヒが話し合い終了を宣言する。
「じゃ、次のヴェグス会議で。出来るだけ早く開いてよ。」
サナはそう言い残し、会議室を出ていった。
「まさか神様と話せる日が来るとはな。人生何が起こるか分からんな。」
ミコヒがサナが出ていった扉を見ながらケラケラと笑った。
「私もまさか友達が神様になるなんて思ってもいませんでした。」
エアルも同じ方向を向いてクスクスと笑う。そして一頻り笑い終えた2人は、軽めの政治的な話を始めた。
───1週間後
龍空高校2年2組の教室。クラスの女子達が1人の紺色の髪に青色の瞳を持ったレビィを取り囲んでいた。全員の会話と表情からするにいじめではないようだ。
「もう動いて大丈夫なの?」
1人のモブ女子が尋ねる。
「うん。皆ゴメンね。修学旅行台無しにしちゃって。」
レビィが申し訳ないという顔で自分を取り囲む女子達に謝る。
「気にしない気にしない!龍空高校からは死んだ人は出てないらしいし、むしろアクション映画のワンシーンみたいでちょっと楽しかったし!」
モブ女子達が楽しそうに笑い合う。
(あんなのに巻き込まれて笑えるなんて…なんて図太い精神をしているのかしら…)
下手すれば死んでいたかもしれないというのに、肝が据わっていたのか、はたまた能天気だったのか、どちらにせよレビィは苦笑いするしかなかった。その時、
「あー!レビィー!」
登校してきたオレンジ髪のエアルがレビィを発見すると同時に駆け出し、そしてレビィに抱き付いた。
「良かった〜!良かったよ〜!」
抱き付いたまま泣き始めるエアル。
「もう〜泣くほどじゃないでしょ〜」
レビィは泣くエアルの頭を撫でる。端から見たら泣く子供をあやす母親のようだ。その時、
「あっ!シャイ〜ン!おっは〜!」
レビィとエアルを見ていたモブ女子達の1人が、廊下を歩くシャインを見付けて声をかけた。それによりシャインは廊下で立ち止まって視線を教室内に向けた。そしてレビィの姿を見付けると、おもむろに教室に入り、真っ直ぐレビィに近寄った。エアルは泣き止むと、空気を読んでレビィとシャインから少し距離をとった。他のモブ女子達も同じく距離をとっている。
「……もう大丈夫なのか?」
シャインが短く尋ねる。
「うん。心配させてゴメンね。」
レビィが小さく笑いながら謝る。
「……お前が無事ならそれでいい。」
シャインはレビィの頭を優しくポンと叩くと、教室を出ていった。レビィは去っていくシャインの背中を無言で見送ると、妙に視線を感じた。視線を感じる方に向くと、そこにはニヤニヤしながらこちらを見ているエアル達の姿があった。
「ひゅーひゅー♪見せつけれくれるじゃん♪」
エアルが口笛を鳴らす。レビィは何の事やらと首を傾げるが、理解した瞬間ボッと顔を赤くして、
「べ、別に今のは!その…!そういう関係じゃなくて…!」
と、しどろもどろに言い訳を言う。だが、エアル達のニヤニヤは止まらない。
「いいの♪いいの♪私達は応援するわよ♪」
エアルは周りの女子達と、ねー♪と声を揃える。
「もう!そんなんじゃないって!」
レビィが頬を赤らめて必死に否定するが、エアル達は照れ隠しにしか見えず、何だかほんわかした。そんな和むことしていると、チャイムが鳴り、生徒達は自分の席に着席した。すると2組の担任である数学の男教師が入ってきた。モブなため、外見はぽっちゃりおっさんとだけ言っておこう。
「えーあの修学旅行から1週間とちょっと経ちました。無事にサファイアも退院でき、誰も欠けなくて本当に良かったです。──で、話は変わりますが、『龍空祭』が近付いています。クラスでどのようなことをするか今日の午後のロングホームルームで決めたいので、各自したいことを考えておいて下さい。では、朝のホームルームを終わります。」
そう言って担任は教室を出ていった。担任がいなくなった瞬間、生徒達は各々のグループで集まって雑談を始めた。ほとんどのグループの話題は先程言っていた龍空祭のことである。
「ねぇねぇレビィ、レビィは龍空祭で何したい?」
エアルとレビィも、周りと同じ話題で話している。
「う〜ん…去年は喫茶店したしな〜…出来れば喫茶店以外がしたいかな。」
「だよね〜何がいいかな〜?」
笑いながら話すエアルとレビィ。2人のことを全く知らない者から見れば、一国の女王と妖刀を手懐けた猛者とは到底思わないだろう。
生徒達が龍空祭のことで盛り上がっている時、職員室ではちょっと問題が起きていた。
「なぁ、誰か『マジク先生』を見なかったか?」
白衣を着た科学担当の男教師が他の教師達に尋ねる。マジク先生とは、龍空高校で魔法学を教えている女性教師である。だが、そのマジクが職員室のどこにもいない。
「お手洗いではないでしょうか?」
国語の女性教師が答えたとき、ちょうどトイレから去年シャイン達の担任、現在は2年3組、つまりシャインとスノウの担任であるナナリーが戻ってきた。
「あっ、ナナリー先生。マジク先生をお手洗いで見ませんでした?」
国語教師が訊く。
「えっ?いいえ、見ていませんが。いないんですか?」
「そうなんです。」
「遅刻でしょうか?ちょっと携帯にかけてみます。」
プライベートでマジクと仲の良いナナリーは自分の携帯を持って職員室から退出し、廊下の隅でマジクの携帯にかけてみた。長めの呼び出し音が流れた後、ようやく繋がった。
「もしもしマジク?どうしたの?………えっ!?インフルエンザ!?何ですぐに連絡しなかったの!……うん、うん……分かった。じゃあ私から話しておくから……うん…うん…ちゃんと寝ているのよ。はい、はい…じゃあお大事に。」
ナナリーは通話を切ると、小さく溜め息をついてから職員室へと戻った。
「どうでしたマジク先生は?」
国語教師が尋ねる。
「どうやらインフルエンザにかかってしまったようです。今は自宅で寝ています。連絡はバタバタしていたせいで忘れてしまっていたようです。」
「でしたら誰か代理で教える先生が必要ですが、一体誰がしますか?」
「う~ん…他の魔法学の先生は自分の担当のクラスで手一杯だし、かといって学校行事は多いこの時期に自習をしたら、教えなければならないところまで辿り着きませんからね。」
国語教師とナナリーだけでなく、職員室全体で悩んでいる声を上げている時だった。
「なら、私が教えましょうか。」
職員室のドアが開き、1人の女が入ってきた。
「何でここにあなたが…!」
ナナリーが思いもしなかった人物の登場に驚く。
「ま、それは今はどうでもいいじゃないですか。それよりどうしますか?私なら少なくとも今ここにいる皆様より教えられると思いますよ?」
女は楽しそうにニッと笑った。
1限目開始のチャイムが鳴った。2年3組の授業は魔法学である。生徒達は当然来る先生はマジクだと思っていた。しかし入ってきたのは、金色のショートヘアーに金色の瞳を持った小柄の女子─『サナ・クリスタル』であった。今から教室に入ってくる人が誰か予想しようぜということを仮にしていたとしても、絶対に候補にすら出てこないであろう人物の登場に、2年3組の生徒全員唖然とした顔で完全に固まってしまった。しかしサナは特に何か言うわけでもなく、ナナリーから借りた教師道具達を教卓の上に置くと、
「え~じゃあ教科書の50ページを開いて。」
普通に授業を開始した。サナは白のチョークで黒板に文字を書いていく。しかしここで生徒達が全員固まっていることに気が付くと、生徒達の方に振り向くと、
「どうしたの皆?」
首を傾げて尋ねた。
「「いやどうしたのはこっちの台詞だーー!!!!」」
シャインとスノウが立ち上がって電光石火の速さでツッコミを入れた。
「そこ!静かにしなさい!」
サナがシャインとスノウに白のチョークを投げつける。白のチョークは見事にシャインとスノウの額に直撃し、2人を後ろに転倒させた。
「授業中に大きな声を出さない。常識でしょ。」
サナが教師に成り切って2人を注意する。
「この状況に非常識を生み出している奴に言われたくねぇよ!」
白のチョークが当たった場所を擦りながら立ち上がるスノウがツッコミを入れる。
「これはどういうことか説明してもらうか。じゃなきゃ誰もこの状況を理解が出来ねぇよ。」
シャインも額を擦りながら立ち上がる。
「……やっぱ説明は必要?」
サナが真顔で尋ねてきたので、
「「「「「「当たり前だ!」」」」」」
と、生徒全員で正論のツッコミをした。
「はぁ…面倒ね…──簡単に説明すると、魔法学担当のマジク先生がインフルエンザにかかったらしく当分休むらしいの。代わりの魔法学の先生も自分の担当クラスで手一杯らしいから、じゃあ私がやりましょうか?って提案したら採用されたの。だからここに今立っている、OK?」
サナが説明を終えるが、やはり生徒達は固まった
「何でお前先生なんてやろうと思ったんだよ?」
シャインが尋ねると、
「暇潰し。」
と、即答するサナ。シャインは、そうですかい…と苦笑いした。
「てなわけで、マジク先生が戻ってくるまでよろしくね。」
サナはニッと笑った。
龍空高校の1つのクラスに衝撃が走っている頃。テレビ局の楽屋では黄緑色のツインテールと瞳が特徴の少女、『フロウ・アドページ』がマネージャーと話していた。
「フロウちゃん、また仕事入ったよ。」
眼鏡にスーツという如何にも普通な姿をしたマネージャーがメモ帳を開く。
「最近お仕事増えましたね。」
フロウは千年桜の事件以来、『救世主アイドル』という肩書きが付き、それにより仕事の数が倍増している。
「うん。あの千年桜の一件から一気にね。──それはそうと、この時期は色んな学校で文化祭があるだろ?だから今回のお仕事はその文化祭をリポートするお仕事だ。」
「それは楽しそうですね♪で、どこの学校の文化祭をリポートするんですか?」
「えっとね…龍空高校って高校の文化さ…」
「龍空高校ですか!」
フロウが目を輝かせてマネージャーに顔を近付ける。
「う、うん…そうだけど…」
マネージャーがたじろぎながら頷く。
「やったー!お兄さ…じゃなかった、シャインさん達に会える!さぁ行きましょう!今すぐ行きましょう!」
フロウは自分の荷物を片付け、楽屋を出ようとする。
「いやいや!今行ってもこの仕事はもっと先だから意味ないよ!というか今から仕事なんだから行っちゃダメ。」
マネージャーに叱られ、フロウはブーと口を尖らした。
「あと、この仕事は君だけじゃなくて2人でリポートしてもらうから。」
「誰とですか?」
「ルコード・グレイシャーさんだよ。」
「あらルコルコさんとですか。なんだか久し振りですね。」
そんな会話をしていると、
「フロウさん!そろそろ準備をお願いします!」
楽屋のドアの外からテレビ局のスタッフが呼びかけた。
「分かりました!──さ、行くよ。仕事を楽しみにしてくれるのはマネージャーとして嬉しいけど、まずはこの仕事を終わらせなきゃね。」
そう言ってマネージャーが先に楽屋を退出した。
「お兄様♪お会いできることを楽しみにしていますね♪」
フロウはシャインの顔を思い浮かべ、上機嫌に呟くと、楽屋を後にした。
フロウと同じテレビ局だが、階が違う楽屋にいるのは、澄んだ水色の瞳と青色の髪を持った人気アイドルの『ルコード・グレイシャー』と、水色の髪と水色のフレームの眼鏡が特徴のマネージャー『イアス』であった。
「はぁ~…今から収録する番組全然面白くないのよね~…さっさと打ち切りにならないかしら。」
ルコードが化粧をしながら愚痴をこぼす。
「その愚痴はプロデューサーの前では決して言わぬことだな。」
壁に凭れながらパッドを操作するイアスが忠告する。
「そんな馬鹿なミスするわけないでしょ。──で、さっきからパッドで何をしてるの?」
ルコードが鏡越しにイアスを見ながら尋ねる。
「新たな仕事に対する返事をしているだけだ。」
「また新しい仕事ぉ~…はぁ…どういう仕事なの?」
ルコードが露骨に嫌な表情をしつつ内容を訊く。
「どうやら学校の文化祭をリポートするという仕事らしい。」
「うえぇ~…素人と絡むの~…一番面倒な仕事じゃん。断ってよ。」
「残念ながらそうはいかない。この仕事は2人でリポートするようだ。」
「2人で?一体誰とするの?」
化粧が終了したルコードがイアスの方に振り向く。
「フロウ・アドページのようだ。リポートする学校の文化祭は……のシャイン・エメラルドがいる龍空高校のようだ。」
イアスが持っているパッドの画面を見せる。そこには龍空高校とフロウの写真が映っていた。
「嫌なことが重なり過ぎて拒絶反応が……」
「もう承諾をしているから今更断ることは出来ない。大丈夫、お前ならやれるさ。」
イアスがほんの少し笑みを浮かべてルコードを鼓舞する。
「そ、そんなの分かっているわよ。この私にかかったらどんな仕事も余裕よ!」
ルコードが照れ隠しのために胸を張る。その時、
「ルコードさん。お時間ですので準備をお願いします。」
女性スタッフがルコードを呼びに来た。
「はーい!お願いしまーす!」
アイドルスイッチをコンマの速さでONにして、ルコードが返事をする。
「さ、嫌だろうがなんだろうが、仕事はキッチリしてもらうぞ。」
イアスがパッドをしまう。
「分かっているわよ。」
ルコードは短く答えると、楽屋を退出する。イアスもルコードの後を付いていく形で楽屋を退出した。
眼鏡「さて、本編の方は楽しんでもらえたでしょうか?皆様の暇潰しになっただけでも、こちらとしてはとても嬉しいことです!」
眼鏡「では、ここからは重要なお知らせです。暫くの間、誠に勝手ながらこの『〜魔法学園〜』を『休載』させてもらいます。理由は、裏で執筆している小説を完結させたいからです。現在は裏で執筆している小説とこの小説を交互に書いているのですが、これを続けていると投稿も遅れる上、内容が適当になってしまうと感じたため、裏で執筆している小説を最優先に書いた方が良いと判断し、休載という形を取らせてもらいます。」
眼鏡「もしもこの小説を楽しみにしてもらっている方がいるのであれば、本当に申し訳ありません!なるべく早く書き終えてきますので!気長に待ってくれれば幸いです!」
眼鏡「では!いつになるか分かりませんが、次回を楽しみにしていて下さい!」