87話 戦い後の休息(10)
シ・レ・ス・エ・ヒ・サ・サテ・ア「新年!明けまして!おめでと…!」
ス「じぇねーよ!流石にもう正月の雰囲気はゼロだよ!」
エ「明けてから19日も経ってるからね〜」
サ「加えて前の投稿から2ヶ月以上経っているわね。」
ヒ「サボっていた結果がこれですよ。」
シ「救いようがないな。」
サテ「あはは…言いたい放題ですね…」
レ「遅れたのには事情があると思うんだけど…」
ア「どうやら後書きで詳細を話すようですよ。」
シ「ま、何でもいいよ。完結させてくれば。」
レ「では、2016年も『〜魔法学園〜』をよろしくお願いします!本編をどうぞ。」
「ん…」
レビィが目蓋を開き、青い瞳が見たのは──見知らぬ天井であった。
清潔感の象徴である白色の天井をボ〜ッと数秒間眺めていると、ガラッとドアが開く音が聞こえ、次に足音が聞こえた。どうやら誰かが自分がいる部屋の中に入ってきたようだ。そんなことを思っていると、入ってきた誰かが自分が寝ている近くまで歩いてきた。その時、
「あっ!レビィさん!目を覚ましたんですね!」
レビィの目が開いていることに気が付き、ニコッと微笑んできた。
「……サテラちゃん?」
レビィが自分に微笑む少女の名前を呼んだ。
「はい、サナ姉の妹のサテラです。」
サテラがニコニコと答える。
「ここは……どこ?」
レビィが自分が寝ている場所を訊く。
「シルフォー二の病院の個室型病室です。レビィさん、妖刀との戦闘の後すぐ倒れちゃったんですよ。」
「そう…なんだ…何だか迷惑かけちゃったね。」
レビィが顔を曇らせて謝る。
「そんなの気にしないで、今はうんと休んで元気になることだけ考えていて下さい。」
笑顔で答えたサテラはドアの方へ歩いていく。
「皆さんを呼んできますので少し待ってて下さい。」
そう言ってサテラは病室を退出した。
数分後、サテラが呼んできたのは、シャイン、スノウ、そして姉であるサナであった。
「うん、魔力の回復は順調ね。明日になれば魔力は完全に回復すると思うわ。でも体はボロボロだから退院は出来ないけどね。」
上半身を起こしているレビィの手を握って魔力の現状を調べたサナが、手を離してから告げる。
「ま、とにかく無事で良かった。」
壁にもたれるシャインの顔が一安心した顔になる。
「皆ゴメンね。いっぱい迷惑かけたみたいで。」
レビィがシャイン達に謝る。
「もう、気にしないで下さいって言ったじゃないですか。」
サテラが優しい口調で怒る。
「そうだったね、ゴメン。」
レビィが少し笑って謝ると、サテラが分かればいいんですと笑顔で頷いた。
「あっ、そうそうあんたが手懐けたこの刀、勝手に調べさせてもらったわよ。」
サテラが異空間から妖刀千年桜を取り出し、レビィに渡した。
「もうそいつは妖刀ではなくなっているわ。故にかなり攻撃力が落ちている。でも『三大桜刀』の1本だから夜叉の力を引き出してくれるはずよ。」
「三大桜刀?」
レビィ首を傾げる。
「その昔、夜叉の里の鍛冶屋が作った夜叉の力を引き出す3本の刀、『夜桜』『闇桜』『千年桜』を総称『三大桜刀』と呼ばれているの。」
「へぇ〜この刀ってそんなスゴい刀だったんだ。」
レビィが握る千年桜に目を落とす。
「あんたね〜…自分が使っている刀のことくらい知っておきなさいよ。」
サナが呆れ顔になる。
「てか、逆に何でお前が知っているんだよ?カギスタが刀の話しているときお前いなかっただろ。」
シャインが尋ねる。
「私は以前から知っていたわよ。」
サナが答える。
「以前っていつからだよ?」
スノウが尋ねる。
「レビィが転校してきた頃から。」
「第1話からじゃねーか!」
圧倒的メタツッコミをするスノウであった。
「いや、この程度の知識は誰もが知っているとずっと思っていたから。」
サナはナチュラルに小馬鹿にしてから、レビィに尋ねる。
「そうそう、刀の事で1つ聞きたいことがあるんだけど、あんたの母親か父親、どっちかの旧姓が『ルーティル』ってことはない?」
「えっと…確かお父さんの旧姓がルーティルだったはずだよ。」
「てことは、あんたの父親の一族が代々夜桜を受け継いでいたのね。」
納得した顔するサナに対して、状況が理解出来ていない顔をするレビィ。レビィが理解していないことに気が付いたサナは、
「あ、ちゃんと説明した方が良いわね。」
と、カギスタがシャイン達に説明した内容と同じ内容をレビィに説明した。
「私って本当に大切な刀を折っちゃったのね…」
レビィが自分がしてしまった事の重大さを知ってズーンと落ち込む。
「三大桜刀の3本の内2本が残っているんだから大丈夫だろ。」
今のはシャインとってのフォローなのだろう。
「その2本の内の1本は異世界にあるけどな。」
余計な言葉を付け加えるスノウ。
「あの、レビィさんのお父さんって一体何をしているんですか?」
サテラが自分の中で生まれた疑問をレビィに投げかける。
「それが私にもよく分からないの。小さい頃から家にいない方が多かったし、久々に帰ってきても仕事の話なんてしたことないから。」
「おいおい、なんか怪しくないかそれ。やべぇ商売とかしているんじゃないだろうな。」
スノウが疑いの顔をする。
「そんなことは絶対にない。」
レビィが全否定した時、ドアが開き、緋色の髪を持った少年アレンであった。
「あっ、レビィさん目が覚めたのですね。 良かったです。」
アレンがレビィに微笑みかける。
「アレン、状況はどうなった?」
シャインがアレンに尋ねると、アレンの顔が笑顔から真剣な顔に変わって答えた。
「流石にヴァスタリガの時のようにはいかないね。エアルさんもかなり苦戦しているみたいだよ。」
「SMCはどうなの?一応あんた達秘密組織でしょ?表沙汰にしていいの?」
サナが尋ねる。
「SMCは何とかなりそうです。皆さんが心配する必要はありません。」
「……あっそ。」
サナが軽く返事をする。
「あの…悪いんだけど、状況がよく分かっていないんだけど…」
ずっと寝ていたレビィは、現状に付いていけていないようだ。それを聞いたサナが、
「まぁずっと寝てたんだし分からないのも仕方ないか。じゃあ、今私達がどういう状況に置かれているか教えてあげる。現状整理も兼ねてね。」
と、今起きている事を整理すると言った。
「じゃあ最初はエアルについて話しますか。」
サナはドサッと近くにあったパイプ椅子に座ると、話を続けた。
「あんたがぶっ倒れてから少し経った後、私達の前にある人物が現れたの。それがシルフォーニの女王…『ミコヒ』。ミコヒは戦いが起きていた時は偶然エクノイアの国王のとこに居てたらしく、巻き込まれることはなかったみたいだけど、当然自国が大変になっていることは知らされていて、戦いが終わったと同時にSMCのワープシステムを使ってすぐに戻ってきたようよ。で、私達に事情を聞こうとした時に現れたのがエアル。エアルは知っていると思うけど、ヴァスタリガの現最高権力者、つまり女王よ。てなわけで、現在エアルは、ミコヒと今回起きた事を話し合っている途中ってわけ。」
「ねぇ…それって国際問題とかにならない?」
レビィが心配すると、アレンが答える。
「それは大丈夫だと思います。今回の騒動は我々もどちらかと言うと被害者ですから。」
「でも暴れたのは事実だからな~…」
スノウが苦い顔をする。
「私達に何かしらの償いがくるか否かは、エアルがミコヒを納得させるしかない。だからこの件の結論は、エアルに頼る、これしかないわ。」
サナが早々と結論を出すと、本題を変えた。
「次は革命軍の2人についてね。」
ここでアレンに話し手が代わる。
「それについては僕からご報告します。フォーグとカギスタは、サナさんとサテラさんの参戦した際、戦いに紛れて姿を消したようです。ですが避難民の方から目撃情報があり、どうやら2人はここから南西の方角に逃げたようです。」
「シルフォーニの中央部から南西に逃げたってことは、革命軍の本拠地はシルフォーニの南西部にあるってことか?」
壁に凭れるシャインが尋ねる。
「我々SMCもそう思い現在捜索をしていますが、根本的に考えてこの可能性は極めて低いんです。」
「どうしてなの?」
今度はレビィが尋ねると、パイプ椅子に座るサナが答えた。
「『大きさ』よ。あいつ等が造ろうとしているのは絶滅魔法の一つ、審判魔法が放てる兵器─ビッグバン。ビッグバンの大きさは都市1つ分の大きさがあると言われているわ。」
「都市1つ分!?そんな兵器があったら誰でも分かるだろ!」
スノウが叫ぶと、アレンが頷いた。
「スノウの言う通り、それほど巨大な兵器があるのなら、見付からないわけがないんです。」
「でしたら、もーっと南西を捜索したらどうですか?」
レビィが寝るベッドの隅に座るサテラが提案する。
「それはもう海の上ですね。」
アレンが優しく違うと否定した。だが、サテラの提案を聞いたレビィが、ある事を思い出して口を開いた。
「いや、その可能性…あるかもしれない。」
「海の上が?その根拠は何処からくるのよ?」
サナが訊くと、レビィが理由を話した。
「ヴァスタリガでフォーグ達と戦って、皆がやられちゃった後、フォーグとカギスタが話していたの。『気を失っているイルファを先に船に送った』って。」
「『船』、ですか?」
アレンが船という言葉を復唱すると、レビィが頷いた。
「そう…あいつ等は『船』って言ったの。てことは、海にあいつ等の本拠地がある───なんて思ったんだけど…どうかな?」
レビィがこの部屋にいる全員に訊く。
「でもよ、例え海の上だとしてもさ、都市1つ分の大きさの物が浮かんでいたら結局誰もが分かるんじゃねぇか?」
スノウが始めに意見を述べた。
「だよね~…」
レビィはため息と共に肩を落とす。しかしその時、シャインが口を開いた。
「『海の下』……という可能性はないか?」
全員の視線がシャインに集まる。
「つまり『海底』ってこと?」
アレンが確認をとるように訊くと、シャインが壁に凭れたまま頷いた。
「確かに海底なら見付からないかもしれないけど、先に造ってから沈めるならともかく、どうやって海底でビッグバンを造るの?」
レビィがシャインに尋ねると、
「それは~…こう~…良い感じにだ。」
一切知性を感じない答えが返ってきた。シャイン以外、はぁと呆れたため息を吐いた。
「まぁ貴重な意見なので、一応頭の中に止めておきます。」
アレンがフォローの言葉をかける。
「ま、この件に関してはSMCに任せるのが一番ね。」
サナは結論を述べると、また本題を変えた。
「じゃあ次は…フロウ・アドページの事かしら。」
「そう言えばサテラとアレンが合流した時、フロウの姿がなかったな。」
スノウがその時の事を思い出す。
「それについても僕から報告します。フロウさんは僕達の中で一番一般に近い人です。加えて人気アイドルなので世に名前も顔を知られています。そんな人が世界を変えんとする軍団の幹部と戦っていたなんて知られたら、恐らくメディアが詳細を調べ始めるでしょう。そうなると、遅かれ早かれ世間に革命軍の名前が広まってしまいます。それはSMCとしては避けたい未来です。なので、フロウさんは幹部と戦ってたのではなく、人々を守った『ヒーロー』ということにしました。」
「ヒーロー?」
レビィが首を傾げる。
「はい。カギスタが撤退し、皆さんに合流する時、フロウさんにはホテルの方に退避してもらい、取材していたメディアの前で戦ってもらったんです。すると世間にはどう映るか?答えは単純、『人気アイドルが身を挺して皆を守っている』と映ります。そうしたらメディアは戦いが終わると、真っ先に誰をインタビューしたいのか?それは僕達のような何処の馬の骨かも分からない奴等より、人気アイドルのフロウさんをインタビューをしたくなるはずです。それの方が視聴率が上がりますからね。そして、結果がこれです。」
アレンが徐に、ベッドの対になる壁に掛けられている大型液晶テレビの電源をオンにした。映ったのは、沢山の記者に囲まれ、大量のカメラのフラッシュを浴びるフロウが、質問されたことを淡々と答えている映像だった。暫く映像を流すと、アレンはプチンと電源をオフにした。
「と、こちらの予定通りの展開になってくれました。ついでにフロウさんの注目度も上がりましたね。」
アレンが報告を終了する。
「さて、これがあんたが寝ている間に起きた大まかな出来事は説明したかしら。」
サナが報告する事がないことを告げたその時、病室のドアがコンコンとノックされた。
「はーい、どうぞ。」
レビィが返事をすると、ドアが横に開く。入って来たのは黒のスーツを身に纏い、同じく黒のサングラスを掛けた屈強な男であった。見知らぬ者の登場に、全員が警戒体勢なる。
「サナ・クリスタルという女はいるか?」
男が短く尋ねると、素直にサナがパイプ椅子から立った。
「私がサナだけど?あんたは?」
「私はエアル様の使いの者だ。千年桜消滅の件についてエアル様とミコヒ様があなたを呼んでいる。ご同行を願いたい。」
『エアル』という名前を聞き、ようやく警戒体勢を解く一同。
「はぁ…やっぱこうなったか……オーケー、さっさと行きましょう。」
サナは素直に承諾し、黒スーツの男と共に病室を出ていく。
「サナ姉!」
唐突な実の姉の退場に、妹のサテラが慌てて病室を飛び出す。サナは歩みを止め、クルリと振り返ると、微笑を浮かべた。
「何であんたがいの一番に驚いているのよ。あんたは事情を知っている側でしょ?」
「でも……」
そう、サテラは知っている──現在の状況はサナの『予定通り』だと。だがはやり、目の前で肉親が連れて行かれる光景を見ると、頭を働かす前に、脊髄反射で体が反応してしまうものだ。
「もう…」
サナは優しい顔でサテラの元に近寄ると、キュッと抱き締めた。
「大丈夫だから。レビィ達と帰ってくるのを待ってて。ね?」
そして耳元で囁くと、サテラは安心した顔になり、うん!と明るい声で返事をした。サナは返事を聞くとサテラを話し、
「じゃ、ちょっと『プレゼン』してくるわね。」
と言って、サテラに背を向け、ご丁寧に待っていてくれた黒スーツの男の元に戻り、そのまま歩き去っていった。サテラは姉の背中を見送ると、病室へと戻ると、病室にいるメンバーの視線を一斉に浴び、宥められていた場面を見られていたことに気が付き、顔を赤めると、レビィ達の笑い声が病室を包んだ。そして笑いが一段落した後、シャインが尋ねた。
「そう言えば、サナとお前がアースに来た理由をまだ聞いていなかったな。何でこっちに来たんだ?」
「えっと…アースにエデンの存在を『教える』ためです。」
「教える?」
レビィが復唱しながら首を傾げる。
「はい。詳細は聞いていませんが。」
「じゃあお前がこっちに来た理由は?」
スノウがサテラに訊く。
「私は皆さんにお会いしたかったんです!」
サテラが無邪気な笑顔を浮かべる。ロリコンであれば卒倒する笑顔であろう。
「フフ、私達も会いたかったわ。」
代表でレビィが笑顔で答えると、サテラが嬉しそうに再度笑顔を浮かべた。
「でもどうやってサナさんはアースにエデンの事を教えるつもりなのでしょうか?」
アレンが疑問を抱く。
「確か『VEGS会議』に殴り込むとか言っていたような気がします。」
サテラが答えると、アレンがえっ!?と思わず声を上げ、顔を歪ました。
「……ヴェグス会議って何だ?」
アレンの心情に共感出来ないシャインがレビィに尋ねると、レビィが呆れた視線を半眼で送る。
「社会の授業で習ったと思うんだけど…」
「……それは今置いておこう。」
「はぁ…ヴェグス会議というのは、エクノイア、ヴァスタリガ、グライトル、シルフォーニの4国のトップが集まって、この大陸の今後を話し合う会議のことよ。」
ここで話し手がアレンに変更された。
「そこに殴り込みをするということは、4国に喧嘩を売るに値する大罪です。恐らく捕まれば裁判抜きの極刑は免れないでしょうね。」
「えっ!?じゃあサナ姉殺されちゃうんですか…!」
サテラの瞳に涙が溜まる。
「い、いえ!無断ではないので大丈夫だと思いますよ!加えてあなたのお姉さんは神様です!誰も殺すことなんて出来ませんよ!」
アレンが慌てて慰めるが、サテラの涙は頬を伝うことないが、現状維持のままである。
「サテラちゃん、さっきお姉ちゃんから何て言われたの?」
レビィがサテラに尋ねる。
「……大丈夫だからレビィさん達と待っててって…」
サテラが少し泣き声で答える。
「じゃあ次の質問。サテラちゃんはお姉ちゃんのこと好き?」
レビィの問いかけに対し、サテラが勢いよく首を縦に振って肯定する。
「だったら、大好きなお姉ちゃんの為にも、お姉ちゃんの言葉を信じて私達と待ちましょう。ね?」
レビィが微笑みかけると、サテラは涙を瞳の奥に引っ込め、うん!と元気よく返事をし、
「レビィさん大好きです!」
叫びながらレビィに飛び付いた。レビィは自分に抱き付くサテラを、まるで自分の妹のように優しく頭を撫でた。そして撫でながら視線をアレンに向けると、アレンが両手を合わせ、ジェスチャーで、ありがとうございますと伝えていた。
(こいつ等が姉妹みたいだな…)
甘えるサテラを撫でるレビィ、そんな2人を眺めているシャインの脳裏に、自分の妹だと言い張るフロウ・アドページの顔が浮かび上がる。
(兄妹……か………)
シャインが思い更けいると、スノウが何かに気が付いたように辺りを見渡し、そしてシャイン達に尋ねた。
「なぁ…ヒューズの奴は何処に行ったんだ?」
スノウからの問いかけに、シャイン達も病室内を見渡すが、何処にもヒューズの姿はなく、誰も回答出来ず、ただただ首を横に傾げるだけであった。
レビィが入院中の病院の屋上から、千年桜の根っ子によって至る所に穴が空いている町を、少し肌寒い風に茶髪を靡かせながら見下ろすのは、シャイン達が病室で探した男、ヒューズであった。ヒューズが歌う鼻歌は、そよ風のように優しく、全てを包み込むように暖かい、夢の世界に誘われそうな音色であった。
「いや〜ルール上ってだけですが、それでもあの人に勝てたのは非常に嬉しいものですね〜♪」
上機嫌なヒューズの鼻歌はもう少し続くのであった。
場所は戻って病室。グ〜ッと可愛らしい音が響いた。
「お腹減りました…」
心に安心が出来たサテラが、腹を鳴らして訴えた。
「おっ、もう昼か。」
スノウが病室の時計を見る。時計の針は丁度正午を指していた。
「では昼食に行きますか?」
アレンが提案すると、
「さんせー。そんでアレンの奢りなー。」
スノウが提案に賛成しながら病室を退室する。
「ちょっと!自分の分は自分で出して…!って!聞いてるの!」
アレンもスノウに怒りながら病室を退室した。
「シャインは行かないんですか?」
2人を見送った後、サテラがシャインに尋ねる。
「俺はいいよ。そんなに腹減ってないから。」
「そうですか。では私はお昼ご飯食べてきます!」
サテラはシャインとレビィに一礼してから、緋色髪と銀髪の男達を追いかけていった。スノウ、アレン、そしてサテラの退場により、病室に残ったのはレビィとシャインだけ。つまり二人っきりだ。そんな状況に気が付いたレビィは突然緊張が走り、顔を赤くした。
「なぁレビィ…」
ふいにシャインに話しかけられ、レビィがふぁい!と変な返事をした。レビィの変な返事を聞いたシャインはビクッと驚いた。
「な、何?」
慌てて平常を装った返事をしたが、時既に遅し。病室内に妙な空気が漂った。
「いや…お前は飯いいのか……て、聞こうと思ったんだけど…」
「えっ、あっ、えっと…私は患者だから、病院食が来ると思うよ。」
何とかこの妙な空気を戻そうと明るく答えてみたが、妙な空気が更に充満しただけであった。遂に耐えきれなくなったレビィは、モゾモゾと掛け布団の中に潜っていった。シャインはベッドの中でモジモジしているレビィに対し、何をしているんだこいつは、と吹き出しを付けたくなる顔で少し首を傾げた。そして場の空気が少し戻った時、
「その…悪かった。」
と、シャインが突如謝った。それを聞いたレビィが、モゾッと掛け布団から顔だけ出し、
「……何が?」
と、尋ねた。
「いや…その…いきなりキスしちまって…」
照れくさそうに言うシャイン。レビィは千年桜の戦いの最中、シャインとキスをした時のことを思い出し、ボッ!と顔を真っ赤にした。
「べ!べべべべべ別に気にしていないから!それに〜…!その〜…!あれは私の力を完全にするために仕方がなかったって言うか〜…!それに…」
必死に言葉を並べて気にしないアピールをするレビィであるが、自分でも予想外のテンパり具合にワタワタしている。このままでは埒が明かないと、一旦落ち着かせるべく、顔まで掛け布団に入り、中で大きく深呼吸をした。そして落ち着いたことを確認すると、顔の半分だけ掛け布団から出すと、
「それに……嬉しかった………から。」
と、ボソボソ声で言った後、恥ずかしさのあまり、掛け布団に潜って、キャー!と心の中で発狂した。しかし、シャインからの反応が全くなかった。現在のシチュエーションの中、次に主人公が発する言葉で高確率なのは、『ん?なんか言った?』などの『もう一度言ってくれ系』の言葉だろう。レビィもそう思って身構えていたが、シャインが『もう一度言ってくれ系』の言葉を言ってくれない。恐る恐る顔を掛け布団から出し、シャインの方を見ると、シャインが頬を人差し指で掻きながら一言。
「そう言われると…反応に困る。」
『そう言われると』?つまりあの呟きを『聞かれていた』?まさか、そんなはずはない。かなり小さい声量で呟いたと自負しているレベルだ。聞き間違えと信じて、確認する。
「もしかしてシャイン……聞こえてた?」
「……自分で言うのもなんだが…俺、耳良いから。」
シャインが自分の耳を指差しながら答える。
──(死にたい!)
レビィが自分の中に瞬間的に生まれた感想を心の中で叫び、うつ伏せになって顔を枕にうずめた。嗚呼…まさかシャインの耳が恋愛関係限定難聴系の耳ではなかったとは…。
「まぁなんだ。お前が悪い気になっていないなら、俺はそれで良かった。」
キスに対する恥じらいを感じられない言葉。やはりシャインの恋愛に対する姿勢はよくいる主人公並みのようだ。
(うう~!どうしてシャインなんて好きになっちゃんたんだろ~!)
恋する相手を間違えたと少し後悔するレビィであったが、ふと、頭の隅の方にあったと思われるある記憶が蘇った。それは、誰かが自分を見下ろし、手を差し伸べている記憶だった。顔はボヤけていてハッキリとは分からない。だが、自分の鼓動は高鳴っている。これはもしかして──『初恋の記憶』?仮にそうだとしよう。ならば次の疑問は、何故、今このタイミングで思い出したのか。まさか、記憶に出てきた人物の正体が───
(まさか……ね。)
レビィは想像した人物は流石に有り得ないと、クスリと笑いながら否定した。
「ん?どうかしたか?」
レビィのクスリ笑いを聞いたシャインが訊くと、レビィは仰向けに戻り、そして上半身を起こすと、
「何でもない。」
と、笑顔で誤魔化した。
「……そうか。」
シャインは少し変だと思いながらも、レビィの返事を受け入れた。
「ねぇ、そう言えばシュロムさんは何処に行ったの?」
レビィが話題を変更した。シュロムとはシャインに戦闘のいろはを教えた、所謂師匠にあたる人だ。
「お前を病院に送った後、何か『会う相手が出来た』とか言って、何処かに行っちまったよ。」
「会う相手?誰だろう?」
「そこまでは知らねぇよ。」
「ふ〜ん…最後にお礼とかしたかったな〜」
レビィが少し残念がって、この話は終了した。
シルフォーニ北部に、地図に記されていない秘密の草原があるようだ。その草原は不思議なことに、天候などに左右されることなく、年中無休でそよ風が吹いている。しかも風には光属性が混じっており、キラキラと輝いているとか。しかし、地図に記されていないため、この草原を肉眼で見た者は限りなく少なく、殆ど伝説のような場所になっている。そんな草原の名を、肉眼で見た者達はこう言っている──『閃風草原』と。
「やはりここにいたか、バルス。」
閃風草原の中央に立つ、黄緑一色の髪、左が紫、右が白の瞳を持った男『バルス』に、下駄を履き、ムキムキの体に空手着を着た老人、『シュロム』が背後から話しかけた。
「これはこれは、懐かしい客人だ。よく俺がここにいるって分かったな。」
バルスがシュロムの方に振り向く。
「お主が昔、自分で言っておったではないか。『この草原は俺の最高の思い出の場だ。』とな。」
「あっはっは!それだけの言葉でここにピンポイントで来るのは!流石はおっさん!───で、俺に何か用か?」
バルスが用件を問う。
「お主じゃろ?シャインに天空化を教えたのは。何故あのような『危険な技』を教えた?まさかあの力が、何のデメリットもなしに使えるとでも思っておったのか?」
シュロムの問いかけに、バルスは少し間を置いてから答えた。
「………『天空化を使い続けると、魔力の最大値が減少する。』だろ?」
バルスがデメリットを答える。
「それを知っていて尚、お前はシャインに教えたのだな?自分がそれでどうなったか忘れたのか?」
父親が子を叱るような口調でシュロムが言う。
「どうやって忘れるんだよ。湖とかに映る自分を見たら、嫌でも思い出す。」
「ならば何故、シャインに教えた?」
「……あいつに必要だと判断したからだ。お前はシャインに俺のようになってほしくないってことは分かった。だがな、今のあいつを取り巻く環境は、強大な力がなくては命を落とす環境だ。俺はあいつに死んでほしくねぇか、天空化を教えたんだ。
「死んでほしくないのなら、何故シャインを今の環境から助けぬ?お前であればあの革命軍と名乗る者達を蹂躙出来るじゃろ。」
シュロムの問いに、バルスはポリポリと頭を掻き、少し面倒臭そうに答えた。
「実際戦ったことも、まして見たこともないから、裏の世界の情報を聞いての推測の話だが、恐らく俺の完封だろうな。だがな、シャインが革命軍から狙われるようになったのは、シャインに狙われるような理由からだろ?つまりだ。あいつが今の環境に巻き込まれたのは、はシャイン自身の責任だ。俺があいつを助ける義理はねぇ。──だが、さっき言ったが、俺としてもあいつには死んでほしくねぇ。だから今の環境を生き延びれるように、天空化っつうプレゼントをやったまでだ。」
「……死んでほしくはないと言いながら、自分自身は助けには行かない……よう分からぬ男じゃ。」
バルスの矛盾している考えに、シュロムが少しため息をつくと、バルスがアハハハ!と高笑いをする。
「そりゃ分からねぇだろうよ。だって俺自身も分かってねぇんだから。言ってる人間です分かってねぇのに、他の人間に分かるかよ。」
ゲラゲラと笑うバルスに、シュロムが告げる。
「いや…お主、本当は分かっておるのではないか?自分が矛盾した行動をした理由を。」
「聞こえてなかったのかおっさん?ならもう一度言ってやるよ。行動を起こした俺自身も分かっていないんだよ。」
「ならばそのような行動を起こさせたのは、お主がお主自身で無意識に抑えつけている『ある心』がさせたのじゃろ。」
「……ある心?」
バルスから冷めるように笑顔が消えた。
「あいつの──シャイン・エメラルドの『父親としての心』じゃ。」
光り輝くそよ風に吹かれる草の、サァァァァァ…という音がハッキリと聞こえるほどの静寂が、睨み合う2人を包み込んだ。
眼鏡「明けましておめでとうございます!そして2ヶ月も遅れてすいませんでした!」
眼鏡「簡単に説明しますと、『大学の課題に追われながら、裏で別の小説を執筆しつつ、二つ名装備を集めていた。』です。いや〜…2つも平行に執筆していたら全然進まないんですよね〜…ちなみに裏で書いている小説をこのサイトに投稿するかは未定です。え?二つ名のはなんぞやと?えっとですね…11月の末にですね、カプコンさんから『モンスターハンタークロス』というものが発売されましたね、そこに『二つ名モンスター』と呼ばれるモンスターがいるんですよ。それをですね、年末年始狩っていたんですよ………すいませんでしたー!投稿遅れた理由がほとんどそれですいませんでしたー!でも俺だって!俺だってカッコいい装備作りたかったんですー!」
眼鏡「本当に遅れて申し訳ありませんでした。現在は大学の課題に追われていますので、また次の投稿が遅くなると思います。いや、遅くなります。ですが、完結はさせますので、2016年も『〜魔法学園〜』をよろしくお願いします!では次回をお楽しみ!」
眼鏡「え?前話で妖刀編は今回で完結すると言っていた?あれは嘘だ。──えっ、あっ…なんかすいません…。もう少し続きます。すいません…」