86話 殺す刃と守る刃(9)
眼鏡「はい、皆さんこんにちは!作者の眼鏡純です!今回で『妖刀編』は完結!………と、したかったのですか、このままでは一応目安にしている1ヶ月投稿に間に合わないと判断し、区切りが良いところで区切られせていただきました。本当の完結は次話とさせてもらいます。では、本編をどうぞ。」
「どうして私にこんな力が…」
自分の内より湧き出てくる力にレビィ自身も驚いている。
【そうだ…その小娘は動くのもやっとだったはずだ。】
流石の妖刀もレビィの変貌具合に動揺している。
「ちょっとした賭けだったんだが、上手くいったようだな。」
シャインが安堵からの微笑を浮かべる。
【小僧…小娘に何をした!】
妖刀がシャインに向かって叫ぶ。
「そうよ!私に何をしたの!」
レビィもシャインに叫ぶ。
「いや、何でお前が怒っているんだよ…」
シャインは苦笑いしながらツッコんだ後、種明かしを話し始めた。
「あそこにいる神様によると、どうやらレビィの力はまだ『完全』じゃなかったらしいんだ。だから俺は何故レビィの力が完全ではないのかを考えた。考えた結果、ある事を思い出した。それはレビィと初めて契りを交わしたあの日の事だ。あの時、俺が契りをした相手が『レビィ・サファイア』ではなかったのではないかと思ったんだ。この説が事実だとすると、俺が契りを交わした相手は誰なのかになる。でもそんなのもう答えは出ている。俺と契りを交わした相手は…レビィの中に生まれたもう1人のレビィ…『レビィ・ナイト』だ。俺はあの日、『サファイア』ではなく『ナイト』と契りを交わしたんだ。故に夜叉の力が解放したのはナイトのみで、サファイアの方はこれまでずっと解放されていなかった。だからレビィの力は『完全』ではなかったってことだ。まぁ要するにだ、レビィの完全な力を『100』とすると、『ナイト』と『サファイア』に分かれたことによって夜叉魔法の力が『50』と『50』になった。そして俺と契りを交わしたことにとより、『ナイト側の50の力』は解放されたけど、『サファイア側の50の力』はずっと解放されていなかった。だけど、さっき俺と『サファイア』が契りを交わしたことにより、『サファイア側の50の力』も解放された。それにより2人の力が足され、合計100、つまり完全になった、てことだ。」
「……ホント、シャインはこういうことには頭が回るのね。」
レビィが呆れつつもクスッと笑う。
「何だよ、せっかく完全にしてやったのに。」
シャインが少しムスッとする。
「えへへ、冗談だよ。ありがとう。」
レビィがニコッと微笑むと、シャインは少し照れ臭そうに目をそらしつつ、おう、とだけ返事をした。
【……フッ、たとえ完全な夜叉の力を手に入れようと、今の我を止めることは不可能だ。】
動揺から落ち着きを取り戻した妖刀は、現在の自分の力とレビィの力を照らし合わせ、まだ勝利は自分の方にあると予想する。だが、シャインが馬鹿にするように笑う。
「残念だが今のお前の体力と力が増加し続けるチート状態、もうすぐ終わるぜ。」
【……何を根拠に?】
「神様は何でも出来るんだとよ。」
シャインが指差す方向には詠唱しているサナの姿と、そのサナを守るスノウ達がいる。サナ達を見た妖刀は本能的にあいつ等が行おうとしている行為が自分にとって不都合な事だと分かり、自分を構えてサナ達の方に走り出した。だが、
「どこに行くの?」
赤い髪を靡かせるレビィに回り込まれた。そして漆黒の刀の攻撃がきたので、妖刀は防御せざるおえなかった。
【邪魔をするな小娘!】
「何をしようとしているか分からないけど、私の仲間の邪魔はさせない!」
レビィは鍔迫り合いから妖刀の刀を払うと、小ジャンプからの回転蹴りで吹き飛ばした。
「おお、良い蹴りだな。」
シャインがレビィの隣に移動して褒める。
「ねぇ、あれってサナだよね?何でアースにいるの?」
レビィが尋ねる。
「俺が聞きたいよ。」
「……そう…。で、サナは何をしようとしているの?」
「桜の木に埋め込まれているデビルエルクワタっつうエルクワタを桜の木ごと消滅させるんだとよ。」
「桜の木ごと!?そんなこと出来るの!?」
「まぁ…あいつ神だからな。」
「……そうね…神様だもんね…」
『神だから』──こんなに説得力のある言葉が他にあるだろうか。
そんな話をしていると、倒れていた妖刀が立ち上がった。
「とにかく、サナが桜の木を消滅させるとあいつのチート状態は終わるはずだ。そこまでは俺もこの戦いに加勢するぞ。」
シャインは能力解放になると風砕牙を構えた。
「うん。」
レビィも漆黒のオーラの刀を構える。
【小僧と小娘が…!調子に乗るなぁぁぁぁぁ!】
遂にブチ切れた妖刀が2人に向かって突進してきた。同時に、シャインとレビィも地面を蹴り、妖刀を迎え撃った。
「サナまだか!流石にキツくなってきたぞ!」
詠唱中のサナを根っこから護衛するスノウが叫ぶ。
「うるさいわね!集中してんだから話しかけないで!」
スノウの苦情を、サナは容赦なく一蹴する。
「ねぇ…まだ続くの?」
「流石にしんどいですね…」
クルデーレとヒューズも流石に息を切らしている。
「……あんた達が言うからにはヤバそうね。」
サナは素直にクルデーレとヒューズの言葉を信じる。
「何で俺だけじゃ一蹴するのにその2人だと素直に聞くんだよ!」
スノウが不満を叫ぶ。
「………。もう少し持ち堪えて、もうすぐ終わるから。」
「無視したな!完全に無視したな!」
スノウがサナにギャーギャー!と言っていると、スノウの足下から新しい根っこが出現した。根っこはスノウの両足首を掴むと逆さ吊りにした。そしてもう1本根っこが出現すると、鋭くした先端をスノウに向けられた。
「あれ…ヤバくない?」
スノウは自分が置かれている状況を冷静に見た結果、危険という結論がでた。だが、結論がでたところで、この状況を打破できるとは言っていない。スノウが急いで打破方法を考えるが、根っこが親切に待ってくれるわけでもなく、槍の如く鋭くなった根っこがスノウの心臓に向かって突進してきた。しかし、根っこがスノウの心臓を貫くことはなかった。何故なら、スノウが自慢の筋肉を活かし、体を90度に曲げることで回避したからだ。だが、安堵も束の間、また新たな根っこが出現すると、90度状態のスノウの額にキッチリと狙いを定めた。
(あ…死んだかな…俺…)
スノウの頭の中で明確に自分が死ぬストーリーが描かれた。そのストーリーをノンフィクションにするべく、根っこがスノウの額に目掛けて突進した。
「[ブルーフレイム]!」
次の瞬間、何処からともなく青い炎が飛んでくると、根っこ全体を包み込んだ。すると根っこは消し炭になるのではなく、カピカピに枯れたのだ。青い炎は周りの根っこにも燃え移り、全て枯らした。
「ぶへっ!」
スノウは自分を逆さ吊りにしていた根っこも枯れたことにより地面に落とされ、アホみたいな声を出す。
「いってぇ…」
スノウが落ちた拍子に打った背中をさすっていると、
「大丈夫ですかスノウさん!」
とても聞き覚えがある声で名前を呼ばれたので顔を上げると、そこには黒を基調としたゴスロリを着た少女、『サテラ・オパール』であった。
「サテラ!お前も来ていたのか!」
スノウは驚きながら『紫:黒=8:2』の割合の髪に、紫の瞳を持った少女に話しかける。
「はい!皆さんに会いたかったから!」
ニコッと微笑むサテラはまるで天使のようだった。背中から青い炎で形成された悪魔の羽を生やしているが。
「大丈夫ですかクルデーレ隊長!」
また新たな人間の登場に付いていけていないクルデーレの元に、緋色髪のアレンが近寄ってきた。
「アレン、カギスタは?」
「あそこの少女が『青幽鬼魔法』で追い払ってくれました。」
アレンがサテラを見ながら答える。
「青幽鬼…『魂を喰らう炎』と言われているあの青幽鬼?」
「あの青幽鬼です。」
「……私は夢でも見ているの?いきなり目の前に神と名乗る者が現れたかと思うと、次は絶滅魔法の中でも稀少の青幽鬼って…」
「残念ですが隊長が見ているのは現実です。そして更に混乱させる情報を言うならば、あの神様と青幽鬼の少女は血の繋がった姉妹です。」
「……ホント、ただ混乱させる情報ね。」
クルデーレが片手で頭を押さえる。
「ですが、これだけは信じて下さい。2人とも頼もしい仲間です。」
アレンはニコッと微笑んでから、サテラ達の方に歩いていった。クルデーレは危険な状況にも関わらず、和気藹々(わきあいあい)と話すアレン達を見て、呆れつつも何故か思った──負ける気がしないと。
クルデーレがそんなことを思っていた時、
「あんた達よく頑張ってくれたわ!詠唱完了よ!」
サナが詠唱が終わったことを告げた。
「よっしゃあ!どんな魔法か知らねぇが、ドーン!とかましてやれ!」
スノウが無制限防衛から解放されたことによる喜びに任せて叫ぶ。
「言われなくても分かっているわよ!」
サナが一気に魔力を高めると、桜の木の真上に浮かぶ巨大な魔法陣の真上に、少し小さくなった同じ魔法陣が展開される。その魔法陣の上にまた同じ魔法陣が小さくなって展開される。魔法陣は十層に重なると、十層目の魔法陣が強烈に発光する。
「[ワールドカタストロフィ]!」
そしてサナが魔法の名を唱えた瞬間、発光する魔法陣から輝く光線が放たれた。光線は層になっている魔法陣を貫通するごとに強さを増し、千年桜のど真ん中を貫いた。光線は数秒放たれ続けると、最後に周囲を覆うほどの閃光を発生させた。スノウ達は反射的に目を瞑る。そして閃光が消えたと同時に目蓋を開けると、奇想天外な光景が目に飛び込んできた。
「千年桜が…消えた…!?」
スノウの言う通り、先程まで目の前にそびえ立っていた巨大な桜、千年桜のみが綺麗さっぱり消えてなくなっているのだ。ついでに千年桜本体が消えたことにより、ウザい以外何ものでもなかった根っこ達も消滅していた。
「これは驚きましたね…」
いつも冷静のヒューズさえ、流石に唖然の色を隠せない。
「これが神の力…というものなのでしょうか…」
アレンも唖然したまま桜の木が立っていた場所を眺める。
「[ワールドカタストロフィ] は…かなりの魔力消費と…長時間詠唱を代償に…特定したモノを…強制的に消滅させる…神にしか使えない魔法よ…」
魔法の説明をするサナは激しく息を切らしている。
「…正に『世界を変動しかねない』魔法ですね。」
アレンがそう呟いた時だ。サナが操り人形の糸が突然切れたかのように力なく崩れ、地面に横倒れになった。
「サナ姉!」
妹であるサテラがサナに真っ先に駆け寄り、サナを抱きかかえる。
「あ〜…やっぱ不慣れな魔法は使うもんじゃないわね〜…」
サテラの細い腕の中でぼやくサナ。
「…!サナから魔力を感じませんが、どういうことですか?」
ヒューズが魔力察知でサナから魔力を感じないことに気が付く。
「どうもこうも…今の私の魔力は空っぽなんだから感じれるわけないじゃない。」
サテラに膝枕させてもらっているサナが答える。なんとも緊張感がない光景だ。
「魔力が空っぽって…!それ死ぬじゃねぇか!」
スノウが言う通り、アースの人間は命と魔力は連結している。故に魔力が尽きるということは死を表すのだ。
「私はエデン人よ?元より体の中に魔力なんかないわよ。さっきの魔法は事前にエデンの方で体の中に溜め込んできた魔力を使ったの。まぁ要するに、事前に用意していた魔力を使い切って、今は非魔法者よりポンコツ状態ってわけ。」
サナがアハハと楽しそうに自嘲する。
「笑い事かよ…」
スノウが苦笑いする。
「いいのよ、もう私達の仕事は終わったから。」
そう言いながらサナがある方向を向いた。スノウ達も同じ方向を向くと、サナの言葉の意味を理解した。サナ達の見る先、そこに立っているのはシャインとレビィの姿であった。
「…そうだな、後は見守るか。」
スノウがそう呟いた時、シャインがスノウ達の元まで戻ってきた。
「……レビィを1人にして大丈夫なのですか?」
ヒューズがシャインに尋ねる。
「ああ、お前達のおかげでな。」
シャインがフッと軽く笑った時、東から太陽が昇り、暖かな日差しがシャイン達を照らす。
「うわぁ…俺達夜通し戦っていたのか…なんか一気に疲れが…」
スノウが戦闘に集中していたせいで気にもしていなかった『時間経過』というものを、眩しい朝日と共に実感させられ、ドッと疲れが溢れてきた。
「ではその辺で寝たらどうです?その間私のベンチとなりますが。」
「この状況でなんてサディスティックな案を投げつけるんだお前は。」
ヒューズの突然のドS提案に冷静なツッコミをいれるスノウ。
「ちゃんと自分の言葉を真実にしてこい、レビィ。」
シャインはそう呟きながら能力解放から戻った。
シャイン達と同じように太陽の日差しを浴びるレビィは、額と頬の刀傷から血を流しながら、ほのかに吹く風に赤い髪を靡かせる。そんなレビィの前に、瞳と髪の色を桜色にしただけのレビィの体を持った妖刀が激しく息を切らしており、本体である刀を杖のようにして体を支えている。
「どんな力にもデメリットはあるようね。今のあなたはデビルエルクワタの力の反動によって、極端に魔力が低下しているわ。」
レビィが妖刀に告げる。
【………何が言いたい?】
妖刀が尋ねる。
「…この戦いの勝敗がもう決まったと言いたいの。」
頬から流れる血を拭くレビィ。
【……確かに我は限界に近い。だが、それはお主にも言えることではないか小娘よ?完全な夜叉の力に体が悲鳴を上げているぞ。】
妖刀が視線を向けたレビィの両足は勝手にガクガクと震えている。これは恐怖などの心情系からではなく、純粋に立っていられないほど肉体が限界なのだ。
「…そうね、私も満身創痍だわ。だったら……」
レビィは妖刀の言い分を素直に肯定すると、スッと抜刀の構えになる。
「互いにこの一撃で最後にしよ?」
【ほう…抜刀勝負か…面白い。その案、乗らせてもらおう。】
妖刀は呼吸を整えると、刀を鞘の中に納刀して抜刀の構えになる。互いに抜刀の構えになったことにより、戦場に沈黙と緊張が生まれた。風の音が2人の間を抜ける。レビィは妖刀の動きを注意しながらある事を思い返していた。
──桜の木、消滅時
「すげぇ…本気で桜の木を消しやがった…」
シャインがサナの神としての力を目の当たりにして、桜の木が立っていた場所を眺めながら呆然としている。
「今、心からサナが敵じゃなくて良かったと思った…」
レビィもシャインと同じ方向を見て苦笑いしていると、
【ぐっ…!があぁぁぁあぁぁぁぁぁ!】
突如妖刀が苦しみの声を上げながら暴れ始めた。
「突然どうしたの!?」
尋常じゃない苦しみの叫びにビックリするレビィの前に、シャインはスッとさり気なく前に出て庇うように立つ。2人が警戒の視線をあびながら、妖刀は数分間苦しみ続けた。そして苦痛の叫び声が途絶え、バタッと地面に倒れた時、レビィが妖刀に起こったある異変に気が付いた。
「あっ、妖刀の魔力が減ってる。」
レビィが魔力察知で感じ取った妖刀の魔力は、苦痛の叫びを上げる前と比べて極端に減っていた。
「魔力が?てことは あいつの中からデビルエルクワタの恩恵がなくなったのか。」
「間違いないと思う。」
「なら、俺はこの戦いから引くか。」
シャインが風砕牙を納刀する。
「えっ!?」
レビィが驚きの顔を作る。
「何を驚いてんだよ。最初からその予定だったろ。あいつのチート状態までは加勢するって。」
「そ、そうだけど…でも今の私、満身創痍だよ?このままシャインが倒した方が…」
「それじゃあ俺に言った『勝てるから』って言葉、あれは嘘だったのかよ?」
シャインが黄緑の瞳でレビィの紫の瞳を見詰める。
「あの時はその…自分の力に酔ってたっていうか…ちょっと調子乗ってたっていうか…」
レビィが顔を下に向け、ブツブツと呟く。そんなレビィに対し、シャインが尋ねる。
「レビィ、お前は俺が誰かと戦う時、負けると思っているか?」
「えっ?……う、ううん、きっと勝ってくれるって信じているよ。」
意図がよく分からないが、レビィは顔を上げてシャインの問いかけに答えた。すると、シャインがレビィの頭に優しくポンと手を置き、
「なら、今回は俺がお前を信じさせてくれよ。」
と、優しく微笑みながら告げた。
「えっ…」
レビィはキョトンとした顔でシャインを見つめる。
「お前ならあいつを絶対倒せるさ。」
シャインが優しくレビィの頭を撫でる。レビィは今の状況に赤面しつつも、
「……本当?」
と、上目遣いでシャインを見ながら尋ねる。
「ああ。」
シャインは手をレビィの頭から離してから、自信に満ちた返事をする。レビィはシャインの返事を聞いて、満身創痍の体だけど、シャインの言葉を信じてみようと決めた。
「…うん、頑張ってみるよ。」
レビィが力強く頷いた。
「じゃあ最後に1つだけ言っておく。あくまで妖刀の本体は刀だ。倒すには刃を折るしかねぇ。だから強烈な一撃を刃にきめろ。」
「分かった。」
シャインの助言に対して素直にレビィは頷いた。
「じゃあ俺は行く。……本気で危険だと思った時はまた助けに来るから。」
シャインはそう言い残し、スノウ達の元に帰っていった。シャインが去ったと同時に、ようやく目を覚ました妖刀がフラフラと立ち上がり、刀で体を支える。
(せっかくシャインが『守る』じゃなくて『信じる』と言ってくれた…つまり『この場を任せて』くれたんだ!絶対に無駄にしないようにしなくちゃ!)
レビィが大きく深呼吸し、そして覚悟を決めた眼光を妖刀に向けた。その時、東から暖かな太陽の日差しがレビィを照らし始めた。
──時は戻り、現在
(あくまで妖刀の本体は刀…この抜刀は刃に当てる…)
レビィは頭の中で繰り返し呟きながら、攻撃の標的である妖刀の刃に狙いを定める。そして、1つ気になる事を妖刀に投げかけた。
「ねぇ…最後に1つ聞いていい?」
【…この状況で話しかけるとは、どういう神経をしている?】
と、言いながらも話には乗ってくれる妖刀。
「あなたは取り憑いた相手に無差別で人間を斬らせるって伝説では語られていたけど、何で無差別で人を斬らせるの?」
【……存在意義を保つためだ。】
「存在意義?」
【刀は相手を斬り、命を奪うことで、初めてこの世に作られた意味を得る。命を斬ることが出来ぬようになった刀は、たとえ全盛期に名刀など妖刀など言われようとも、鉄屑となんら変わらぬ。】
「……本当に刀って、相手を斬る以外に存在意義が持てないのかな?」
【……ならば問おう!我々刀は!相手の命を斬る以外!一体どうすれば存在意義を得れるのだ!】
妖刀が声を荒らげてレビィに訊く。
「『相手の命を奪うため』じゃくて、『誰かを守るため』に、刃を振るっちゃいけないのかな?」
【誰かを守るためだと…はっ!綺麗事をほざきよって!】
「あなたがどう思おうと、私はそう思っているよ。」
【……ならば今構えているこの抜刀で決めようではないか!我の『殺す刃』か!お主の『守る刃』か!強き力はどちらなのかを!】
「……いいよ、あなたに教えてあげる。誰かを守るための刃がどのようなものかを。」
そして一瞬の沈黙を挟んだ後、両者譲らない速度で抜刀攻撃に移った。
「[死闇]!」
【[桜断]!】
互いの全身全霊の抜刀攻撃が放たれた。
───結末は
レビィは、左肩に深い傷を負い、血が噴き出す。そして出血と痛みによる意識低下で、地面にうつ伏せに倒れた。
妖刀は、刀は無傷だが、レビィの幻が消滅したことにより操る者がいなくなり、ザクッと地面に突き刺さった。
「レビィ!」
2人の戦いを見届けたシャインは、すぐに倒れているレビィの元に駆け寄り、抱き抱えると左肩の傷に[治癒風]をかけた。
「勝った…レビィが勝ったぞぉぉぉぉぉ!!!!!」
スノウが歓喜の叫びを上げると、それを聞いたSMCの兵士達も歓喜の叫びを上げ、自分達の勝利を祝った。
「なんとか事件解決のようですね、クルデーレ隊長。」
アレンが喜び合うスノウ達や兵士達を見ながらクルデーレに話しかける。
「……今回の事件に関しては、私はただ足を引っ張っただけね。」
「僕もカギスタの足止めしか出来ませんでしたし、サテラさんが来なければ追い払うのも困難でした。」
「……お互い、まだまだ未熟ね。」
「そうですね。」
アレンとクルデーレ、共に一部隊の隊長としてまだまだと反省しつつ、今は勝利の美酒に酔うことにした。
【………先程の抜刀、我の刃に当てていれば、お主は我を殺し、且つ無傷で勝利していたはず………わざと外したな?】
シャインに抱き抱えるレビィに対し、妖刀が尋ねた。すると、レビィが少し苦しそうな顔で妖刀を見詰めながら答えた。
「言ったでしょ?あなたに守る刃がどのようなものかを教えるって。あそこであなたを折ったら、私はあなたを殺すことになっちゃう。それじゃああなたの殺す刃と一緒になって、何の意味もないじゃない。」
【……我すらも…お主は守ったというのか?】
「あなただって死にたくないでしょ?」
【……戦闘した相手の命を気遣うとは…呆れた小娘だ。】
「ふふ、褒め言葉として受け取るわ。」
レビィがニコッと微笑む。
【だが小娘、お主の優しさも無意味だ。魔力が尽きた我は誰かを操り、無理矢理所持させることは出来なくなった。かと言って妖刀と呼ばれている我を、誰も普通の刀として所持しようとはしない。つまり、金輪際我を使う者は現れぬ。誰にも使われぬ刀なんぞ、存在意義を失った刀よりいらぬ刀だ。】
そう告げる妖刀の声には、少し悲しみが混じっていた。
「なら、私があなたを使ってあげるよ。」
レビィがさらりと言った。
「おい…それは流石にヤバくないか?また憑依されたらどうするんだ。」
[治癒風]をかけながらシャインが所持することを反対する。
「大丈夫、もうそんなこと出来ないって言ってたじゃん。」
「あいつの言葉、素直に聞く気かよ。」
「大丈夫だって。ね、千年桜?」
レビィが優しい声で妖刀に訊く。
【お主…底なしに優しいのか?それとも阿呆なのか?】
「さぁ…どっちでしょ?」
レビィが楽しそうに笑う。先程まで自分と死闘を繰り広げていた相手にここまで笑われると、妖刀は何だか馬鹿馬鹿しくなってきて、
【ふははははは!本当に面白い小娘だ!】
と、心の底から笑いが込み上げてきた。
【ならば教えてもらおうか、お主が言う『守る刃』というのを。】
妖刀は地面から独りでに抜けると、フワフワと飛んできて、レビィとシャインの前で静止した。そして刃から桜色のオーラを放って鞘を作り出し、自分自身を納刀した。
【さぁ、受け取るが良い…夜叉族の末裔、レビィ・サファイアよ。】
妖刀に言われ、レビィはゆっくりと立ち上がると、空中に浮かぶ刀を掴んだ。すると、体の中に初めて感じる力が流れ込んできた。
「すごい…これが千年桜の力…!」
レビィは自分の中を駆け巡る力に少し戸惑う。
【では…我は去るとしよう。】
「えっ!消えちゃうの!?」
【眠るだけだ。次に我が目覚めたとき、我を立派な守る刃にしていることだな。】
「任せてよ。」
【ふっ…期待しているぞ。では…さらばだ。】
そう言って、妖刀は眠りについた。もう話さなくなった千年桜をレビィは眺めていると、
「レビィ。」
後ろからシャインに声をかけられ、クルリと振り返った。
「やったな。」
そう言ってシャインが拳をレビィに差し出した。
「うん!」
レビィは満面の笑みと共に、差し出された拳に自分の拳を合わせた。だが次の瞬間、フッと意識が遠退き、シャインに抱き付く形で倒れた。
「レビィ!おいレビィ!しっかりしろ!」
レビィを受け止めたシャインがレビィの耳元で叫ぶが、レビィにこれといった反応はない。その時、
「大丈夫よ。ただ気を失っているだけ。」
疲労から復活したサナが、シャインに近付きながらレビィの現状を説明した。サナの後ろにはスノウ達もいる。
「今のレビィは魔力を尽きるギリギリまで一気に消費したから、体と精神に大きな疲労が蓄積されている。そうなると絶滅魔法に憑依されやすくなり、『闇落ち』する可能性がある。それを阻止するべく、レビィの体が本能的に意識を失わせたのよ。」
「そう言えば夜叉魔法も絶滅魔法だったな。」
スノウが思い出す。
「そういうこと。───で、遠くから見ていたけど、レビィはこの妖刀千年桜の所有者になったの?」
サナが気を失ってもレビィが離さない千年桜を見ながらシャインに尋ねる。
「どうやらそのようだ。」
シャインが答える。
「いやはや、妖刀を手懐けるとは…なかなか大胆なことをしますね。」
ヒューズがレビィの大胆行動に少し驚いている。
「ああ、全くだよ。だが、レビィはそれをやり遂げた。」
シャインが視線をレビィに向けると、他のメンバーも同じくレビィに視線を向けた。
「……よくやった、レビィ。」
シャインは優しくレビィを抱き締め、眠るレビィの耳元で囁いた。
眼鏡「さて、前書きで言いましたが、妖刀編はあともう1話使って完結となります。このまま終わったら色々とほったらかしですからね。フォーグとカギスタはどこに行ったのか?サテラとアレンがクルデーレ達に合流した際、フロウはどこに行ったのか?そもそもこの事件の後処理はどうするのか?……とまぁ色々とありますので、次でご説明します。いや~正直なところ、今回の妖刀編はかなり走り書きになってしまったので、自分自身でも内容がよく分かってないんですよね~…ま、無理矢理でも何とかしてみます!では!次回をお楽しみに!」
眼鏡「もしかしたら次の投稿は遅くなるかもしれませんので、気長に待ってくれると嬉しいです。最悪の場合、来年の可能性もありますが…」