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魔法学園  作者: 眼鏡 純
85/88

85話 紫の瞳(8)

眼鏡「皆さんこんにちは。作者の眼鏡純です。今回は重要な話があるので現れました。もしも前から読んで頂いてくれております人は読んで頂きたいです。では本題に入ります。『83話:命ずる(6)』の本編で、カギスタがシャイン達にデビルエルクワタを見せる場面があるのですが、あの時シャイン達側ではフロウしかデビルエルクワタについて知らないように描写していました。ですが、久々に自分の小説を読み返したところ、シャイン達がデビルエルクワタについて話している描写がなかったのです。つまり、シャイン達もデビルエルクワタについて知らなかったのです。『48話:犯人の正体(2)』でデビルエルクワタの名前は出て来るのですが、あの時はサナしか知らないため、シャイン達は『黒いエルクワタ』という認識しかしていないことになっています。しかも48話から83話までシャイン達は一度もデビルエルクワタに接触はおろか、話題にもしていませんでした。ですので、誠に勝手ながらこちらで83話を編集させてもらい、シャイン達も初めてデビルエルクワタを見たように話を変えておきました。それを踏まえた上で、本編をお楽しみ下さい、そしてよければ、その変更点の部分だけで良いので、お手数ですが皆さんでご確認をお願いします。」


眼鏡「では、本編をどうぞ。」

 シルフォーニの中央部に咲く巨大な桜の木、名は『千年桜』。そんな桜の下で激しく、だがどこか美しい死闘が行われていた。





 漆黒の刀と桜色のオーラを纏う刀がぶつかり合い、高音の金属音が響く。そして生じた衝撃波によって共に後方へ吹き飛ぶレビィと妖刀は空中で一回転して地面に着地する。

【やるではないか小娘。】

髪と瞳が桜色の偽物レビィの妖刀がニヤッと笑う。

「自分に小娘って言われるのって何か変な感じね。」

レビィは頬についた傷から流れる血を手で拭き取りながらある違和感を抱いた。

(何だろう…時間が経つにつれ、妖刀の力が増しているような気がする…)

そしてもう1つ、ある事にも気が付き、口を開いた。

「あなた、いつの間に自我を取り戻しているのよ。」

【ん…そう言えばそうだな。ま、だが今はどうでもいいことだ…!】

レビィの顔で不気味な笑みを浮かべる妖刀。

「……あなた、ちょっと性格変わってない?」

妖刀の口調が荒々しくなっていることに少し苦笑いした時、戦闘によって気が付いていなかったが。ナイトとの融合によって得た魔力察知の能力である魔力を察知した。その方向を見ると、革命軍のボスであるフォーグの存在を発見した。近くにはシャイン、ヒューズ、スノウ、そして見知らぬ水色髪の女性が膝をついている。いや、スノウだけは地面にうつ伏せであった。

「あいつは…!」

レビィがフォーグの方に気を取られていると、おぞましい殺気を感じ、見ると桜色のオーラを纏った刀がこちらに迫ってきていた。レビィはそれをギリギリで回避する。

【戦闘中に余所見とは…随分と余裕だな。】

刀で攻撃してきた妖刀が自分と同じ顔でクスッと笑う。レビィは急いで間合いを空け、漆黒の刀を構える。

(何か向こうは向こうでヤバそうだけど…どうやら助けに行くのは無理そうね…。…頑張ってねシャイン!)

レビィは心の中でシャインを応援してから、自分は目の前の妖刀に集中することにした。




 「フォーグてめぇ…!邪魔すんなよ…!」

無理矢理膝をつかされているシャインがフォーグの方を睨む。

「人の実験を邪魔をしようとしているのはお前達ではないか。」

シャインの睨みを軽く流すフォーグ。

「何が実験ですか…!」

同じく膝をつくヒューズが苦しみながらも叫ぶ。

「それにお前達が救おうとしていたレビィ・サファイアは既に妖刀から解放されているのだから良いではないか。」

「こんな状態を放っておけるかよ…!」

シャインが苦しそうな顔で叫ぶ。

「フッ…すっかり正義のヒーロー気取りか…ではその正義感をたたえ、チャンスをやろう。」

フォーグはそう言うとシャイン達の重力拘束を解除した。

「……どういうことだ?」

立ち上がりながらシャインが尋ねる。

「俺に傷を1つでも付けることが出来たら、俺は一切手を出さないでやろう。」

「その言葉…嘘じゃねぇだろうな?」

シャインが確認すると、

「ああ。まぁ…出来たらの話だがな。」

フォーグが嘲笑う笑みを浮かべる。

「……上等じゃねぇか!」

シャインが髪と瞳を黄緑一色に変え、能力解放状態となる。だが、この変身は本人にとっては予想外であった。

(ちっ…!妖刀との戦いで力を消耗し過ぎて天空化(スカイモード)になれないか…!……だが、やるしかない…!)

シャインが風砕牙を構えると同時に、スノウは拳、ヒューズは弓を構えた。

「クルデーレ!お前もやってくれるよな!」

シャインがフォーグの右側にいるクルデーレに尋ねると、

「……そうだな、今は標的を1つに絞るとするか。」

そう言って冷気を漂わすレイピアを構えた。シャイン達

「本気で来いよ…でなければ傷を付けるなんぞ皆無に等しいからな。」

フォーグが不気味に、だが何処か楽しそうな笑みを浮かべると、少しだけ戦闘体勢になる。

「行くぞ!」

最初にフォーグに攻撃を仕掛けたのはシャインであった。

[閃風波(せんふうは)]!」

三日月型の輝く風の斬撃を放った。

「俺に飛び道具とは…愚策だな。」

フォーグは自分の絶滅魔法、重力魔法(グラビティマジック)を使って斬撃の軌道を変えた。

「だったら物理ならどうだ!」

次はスノウが攻撃をしかけた。

「[ファイアナックル]!」

スノウがフォーグに向けて炎を纏った拳を放った。だが、その拳を片手で簡単に受け止められてしまった。

(炎のパンチを止められた!?)

スノウが目の前で起きた出来事に驚いていると、そのまま他の方向に投げ飛ばされた。勢い良く飛ばされたスノウは地面に転がる。

「クソが…!どうやって受け止めたんだ…!」

スノウは痛めた肘を押さえて立ち上がる。

「手に大気を纏えば良い。」

フォーグが手を見せると、周囲の空間が歪んでいるように思えた。正式には空間ではなく、空気が変になっているようだ。

「……大気の手袋をしたみたいなものね…」

クルデーレが1人呟いて解釈した。

「次はこちらから仕掛けてやろう。」

クルデーレが右腕をスッと天に向けて伸ばした。

「[グラウンドエンド]!」

次の瞬間、シャイン達の足元の地面に亀裂が入り、そして亀裂から先端が尖った岩が大量に突き出てきた。

「…!全員散れ!」

危険をいち早く察知したクルデーレが叫ぶと、シャイン達は皆全力で回避行動に移った。クルデーレの冷静な判断により、誰一人巻き込まれることなく回避することが出来た。だが、突き出された岩によりフォーグの姿が見えなくなってしまった。

「あっぶね~!」

スノウが冷や汗を手で拭う。

「……どうやって重力の力で地面に亀裂なんて入れたんだ?」

シャインが呟く。

「おそらく地面を紙を裂くように両端から引っ張る形で重力を発生させたのでしょう。そして中の岩を無重力で勢いよく浮かせた。ついでに先端を重力で潰し、尖るようにして。」

ヒューズが先程の技のタネを解説する。

「ちっ…何でもありの魔法だな。」

改めて重力魔法(グラビティマジック)の力を見せつけられたシャインは舌打ちをするしかなかった。

「では、第二波といこうじゃないか。」

飛び出た岩々の内側にいるフォーグが片方の掌を上に向けると、周囲の大気が重力によって集められ、外からかなりの圧をかけた。

「[アトモスフィア]!」

そして圧をかけられた大気を解放した瞬間、爆発的な衝撃波が発生し、周囲の岩を粉砕した。

「[ゼログラビティ]!」

そして飛び散りかけた岩の破片を、フォーグは両手を広げて無重力を発生させ、宙に浮かせた。

「[ロックダンス]!」

そして意のままに操り、まるで舞うようにシャイン達を襲いかかった。

[守護風陣(じゅごふうじん)]!」

シャインは地面に刀を刺し、魔法陣を展開させると、風の防御壁を発動させて岩を防ぐ。アスカとヒューズもシャインが作った防御壁に逃げ込み、難を逃れた。そんな中、クルデーレは踊る岩の中を水色の髪を靡かせながらフォーグに向かって走り出した。

[氷一蘭(ひょういちらん)]!」

そして冷気を纏ったレイピアで強力な突きの一撃を放った。しかし、フォーグの眉間に刺さる寸前、フォーグが白髪で隠れていない紫の右眼を見開くと、ピタッとレイピアの先端が停止した。どうやらレイピアも含め、クルデーレが無重力状態になり失速したようだ。

「惜しかったなクルデーレ、速度が俺がSMCにいていた頃より衰えているぞ。」

フォーグは少し幻滅した顔をすると、両手の指をクイッと動かすと、舞い踊る岩が巨大な手を作り上げた。

「さらばだクルデーレ…[タイタンハンド]。」

そしてフォーグがパン!と掌を合わせると、巨大な岩の手も手を合わせる為にクルデーレの左右から迫ってきた。このままではクルデーレに起こる結末は1つ───圧死だ。

「させねぇよ!」

巨大な手がクルデーレを圧し潰す寸前、右手がシャインによって切り刻んだ。それにより圧死は免れたが、左手によってクルデーレとシャインは突き飛ばされて地面を転がった。

「いってぇ…!」

シャインがヨロヨロと立ち上がると右腕に激痛が走り、風砕牙を落としてしまった。

(右腕の骨、逝ったか…)

右腕を動かそうとしても激痛が走るだけで、思うように動いてくれないと分かると、自分の右腕の骨が折れていると確信した。とりあえず左手で刀を拾った。

「……うっ…!」

頭を強く打って気を失っていたクルデーレが目を覚ました。

「……無事だったか。」

隣に立っているシャインに話しかけられ、慌てて近くに落ちていたレイピアを拾って立ち上がった。そしてすぐシャインの異変に気が付く。

「あなた、腕が…」

「ん?ああ、別に気にするな。」

シャインは特に表情を変えずに適当に答えるが、痛みを堪えている為の嫌な汗を流している。

「……すまない。でも、助かった。」

クルデーレはシャインの気遣いを察し、礼と謝罪を短くした。

「……ふっ、タフな奴等だ。だがどうする?シャインの腕が折れた以上、貴様等に勝機はあるのか?」

フォーグがシャイン達を煽る。

「くそっ…強ち間違いじゃねぇのが腹が立つ…!」

スノウがギリッと奥歯を鳴らした時、

「おやおや、そんなに自分を過小評価するものではないですよ。もっと自分に自信を持ちましょう。」

スノウの隣にいたヒューズがそんな事を言いながらテクテクと1人でフォーグに近付いていく。

「お、おい!ヒューズ何やっているんだよ!」

「何って、戦うのですよ?私1人で。」

ニコニコと微笑みながら弓を構えると、魔法で作り出された青白い矢が自動的に備えられ、矢先がフォーグに向けられた。

「ほう、貴様が1人で相手になると?」

フォーグがヒューズの方に紫の瞳を向ける。

「片腕が折れた人間に頭を強打した人間に自分を過小評価する人間よりは楽しめるかと思いますよ。」

笑顔で答えるヒューズ。

「………良いだろ。そこまで言うのであれば幻滅させないでくれよ。」

フォーグがスッと戦闘体勢になる。

「1つだけ確認させてもらいますが、傷を1つでも付けると手を出さないというルール、あれはまだ適応されていますよね?」

「無論だ。」

「それを聞いて安心しました。では、いきますよ!」

ヒューズが1本の矢を放った。

「飛び道具は愚策だと言っただろ。」

フォーグが飛んで来る矢に右の掌を向け、無重力で空中に停止させた。

[隠矢(かくれや)]!」

ヒューズがパチンと指を鳴らすと矢の先端が開き、中から小さめの矢がフォーグの顔に向けて飛び出した。しかし、フォーグは顔を傾けて容易に回避する。

[群蜂(むればち)]!」

またもヒューズが指を鳴らすと、フォーグに避けられた小さめの矢が大量に分裂した。大量の矢はグルリと反転し、フォーグを背後から襲いかかる。

「………」

フォーグは全く焦ることなく、右手で停止させている矢を捨て、両手を広げて自分の周囲を無重力にして群がる蜂のような矢を全て空中に停止させた。

[土竜(どりゅう)]!」

ヒューズは一瞬の隙を与えることなく、次は地面に向けて矢を放った。地面の中を進み、そしてフォーグの真下にくると、フォーグの顎に向かって勢いよく飛び出した。

「ちっ…」

度重なる連続攻撃に少し苛ついたフォーグは舌打ちをしてから、紫色の右眼を見開き、地面から飛び出してきた矢を停止させた。そして指を動かし、全ての矢を一点に集めると、重力で握り潰した。

「流石は革命軍のボスですね、傷1つ付けるのも骨がいりますよ。」

ヒューズがニコニコと微笑みながらフォーグを太鼓持ちする。いや、これはただ煽っているだけだ。

「すげぇ…ヒューズってあんなに強かったのか。」

ヒューズの武器は弓。故に戦闘になると基本的には後方支援が多かった。だからこうして本気の一対一の戦いを見るのは初めてであった。

「確かに自分の力を活かした連携攻撃だっだ。だが、楽しめるまでは値しなかったな。」

フォーグが感想を述べる。

「そうですか。少しはあなたに追い付いたと思ったのですか、残念です。」

ヒューズはため息をつくが、またすぐに煽る笑みを浮かべる。

「……何がおかしい?」

流石に不振に思ったフォーグが尋ねる。

「いえ、この勝負は私の勝ちだと思いましてね。」

「……どういう…」

ヒューズの言葉の意味を問おうとした瞬間、地面から1本の矢が飛び出てきて、フォーグの頬をかすめ、赤い血をツーッと垂らした。

「ね?私の勝ちでしょう?」

ヒューズが勝ち誇った顔でフォーグを見る。

「……確か地面からの矢は潰したはずだが?」

流れる血を手で拭き取るフォーグ。

「おや、いつから1本だと錯覚していたのですか?」

ヒューズがまた煽るような言い方をする。

「まさか地面の下で…」

「はい、矢は2本に増えていたのです。ですがあなたは1本目を潰した時点で私が一度攻撃を止めたことにより、連続攻撃は止まったと勘違いしたことにより隙が生まれた。それが私の仕掛けた罠…見事に引っ掛かってくれて嬉しいですよ。」

ヒューズがニコッと笑う。

「……卑怯な戦闘方法だ。」

「今の『傷を1つでも付けれたらこちらの勝ち』、というルールならではの戦略ですよ。──それで、ルール上では私達の勝ちですが、よく小説などにある展開で、自分の決めたルールを無視して私達を殺しますか?」

ヒューズが煽りに煽る尋ね方をする。

「……いや、ルールはルールだ。俺はこの場から去るとしよう。」

「おや、案外真面目なのですね。」

ヒューズの煽りを無視してフォーグが話を続ける。

「………だが、俺が去ったところで千年桜の暴走は止まらない。しかも時間が経つにつれ暴走の範囲は拡大し、最悪の場合はシルフォーニを破滅させる可能性もある。せいぜい頑張って暴走を止めることだな。」

フォーグはそう言い残すと、無重力で自分を浮かし、そのまま何処かに飛び去ってしまった。

「おいヒューズ!スゴいなお前!あのフォーグに勝つなんて!」

戦いを終えて一息するヒューズの元にスノウが駆け寄り大はしゃぎする。

「あれは勝ったとは言えませんよ。向こうがルールを設定してくれて本当に助かりました。」

「それでも、そのルールに勝ってくれた。感謝する。」

クルデーレもヒューズに歩み寄ると、短く礼を言った。

「だが…問題はこれからだ。」

右腕骨折のシャインが辛さからの汗を流しながら千年桜を見上げる。

「これ、どうやって止めるんだ?」

スノウも美しく、そして恐ろしい巨大な桜を見上げて苦笑いする。

「やはり何処かに埋め込まれているデビルエルクワタとやらを破壊するしかないのでしょうね。」

ヒューズも見上げながら思い付いた作戦を呟く。

「だったらさっさと取りかか……!つっ…!」

シャインが動こうした時、また右腕に激痛が走った。

「おい、大丈夫かよ?」

スノウがシャインを心配する。

「一度エアルに見てもらいますか?」

ヒューズが提案するが、

「いや、大丈夫だ…とにかく今はあれを…」

シャインは拒否し、千年桜の方に歩いていく。その時だった。

「はぁ…あんたはホント馬鹿ね。怪我人は怪我人らしくいてくれなきゃ周りに迷惑かけるだけなのよ。」

空から誰かがシャインを呆れた声で叱ったのだ。その声はシャイン、スノウ、ヒューズにとってらとても聞き慣れた声だった。1年間共にいた仲間の声だった。この声の主はあいつしかいない──そう確信しながらシャイン達は声がした方を見上げると、そこには金のショートヘアーに赤のヘアピンをとめ、金の瞳を持った小柄の女が、背中から純白の羽を動かして浮遊していた。

「何でお前がそこにいるんだ…『サナ』!」

シャインが女の名を叫んだ。そう、シャインを叱った者の正体は、元魔戦天使団副隊長、現在は『導きの神』となった『サナ・クリスタル』であった。

「たく…あれをどうにかする前にあんたのその腕をどうにかしなさいよ。」

サナはフワッと地面に着地するとシャインに近付き、何の躊躇もなく折れた右腕を掴んだ。

「いっ…!」

シャインが激痛からの叫びを上げる瞬間、

「[タイムバック]。」

サナが聞いたことのない魔法を唱えると、激痛が走らなかったのだ。

「なっ…!?痛く…なくなった…?」

シャインは目を丸くしながら痛くなくなった自分の右腕を動かす。

「骨の状態を折れる前に戻したのよ。」

「時間を戻したのか?」

「あっ、先に言っとくけど私が操れる時間は現在から過去にせいぜい数十分戻せる程度。しかも範囲はかなり狭い。故に万能なわけじゃないからそこんとこよろしく。」

サナは今の時間魔法を簡単に説明してから、

「で、これはどういう状態なの?」

現在起きていることを説明してくれとヒューズに尋ねた。

「えっとですね…」

ヒューズはこのような状態になるまでの過程を簡単に説明した。

「ふ~ん…妖刀千年桜ね~…はぁ…ホント、あんた達はすぐに変なことに巻き込まれるのね…」

状況を理解したサナが大きくため息をついた。

「俺達だって好きに巻き込まれているわけじゃねぇぞ!」

スノウがビシッとサナを指差して反論する。

「どっちでもいいわよ。巻き込まれていることには変わりないんだから。」

サナがスノウの反論を流れるように論破する。

「とにかく、一刻も早く桜の木からデビルエルクワタを破壊するわよ。じゃなきゃこの国が破滅する。」

サナが桜の木を見上げる。

「どの辺に埋められているのでしょうか?」

ヒューズが呟く。

「しらみ潰しに探せば何処かにあるだろ。」

スノウが準備運動をしながら提案する。

「そんなのレビィが先に殺されるわ。あの桜の木は話を聞く感じ、妖刀の一部みたいなものだと思う。つまり、桜の木にデビルエルクワタが埋め込まれている限り、妖刀自体もデビルエルクワタの影響を受けてどんどん強くなっていくわ。」

「それじゃあレビィがヤバいじゃないか!」

スノウが叫ぶ。

「だからそう言っているじゃない…」

サナが苦笑いする。

「じゃあどうすんだよ?」

シャインが尋ねると、サナがある作戦を告げた。

「この桜の木ごとデビルエルクワタを消滅させる。」

「桜の木を消滅!?そんなこと出来るのかよ!」

スノウが驚きながら尋ねる。

「私は神よ?出来ないわけないじゃない。」

サナが言い切る。何だろう、この圧倒的説得力は。

「シャイン以外は私の詠唱中の護衛。シャインはレビィの援護に行きなさい。」

サナがシャイン達に指示をする。

「待てよ、俺はレビィに手出しするなって言われているんだ。」

「それを忠実に守って、レビィが死んでしまってもあんたはいいのね?」

「……いいわけないだろ。」

「なら素直に従いなさい。魔力の感じだとレビィがやっと自分の力を受け入れて夜叉の力を発揮しているっぽいけど、あれでも夜叉としてまだ『完全』じゃない筈よ。恐らく本人は気が付いていないと思う。」

「そうなのか?」

「加えて、レビィは時間が経つにつれ体力も力も減るけど、妖刀はデビルエルクワタによって体力も力も増加し続ける。そんなアンフェアの状態で一対一(サシ)を続ける意味はないんじゃない?」

「………」

真剣な眼差しでサナに言われたシャインは、無言でレビィの元へ走り出した。

「さて、そろそろ私も始めますか。」

シャインの説得を終えたサナがスッと構えると、足下に魔法陣が展開された。

「おいサナ、俺達はお前を何から守るんだ?」

スノウが尋ねると、

「ん?そんなのすぐに分かるわよ。」

サナが少し笑って答えた。スノウは意味が分からず首を傾げていると、いきなりゴゴゴゴゴゴ!と地面が揺れ始め、大量の千年桜の根っこが出現したのだ。

「な、何だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

スノウが顎が外れそうなくらい口を開けて驚く。

「どうやら周囲で暴れていた根っこ達が集まってきたようですね。」

ヒューズが冷静に分析する。

「何で集まってきてんだよ!」

スノウが激怒する。

「デビルエルクワタによって、今この桜の木は魔物のようなものになっているわ。だから自分の周辺で一番危険だと認識したモノを排除しようとする魔物の本能が働き、私を排除しようと思っているのよ。」

サナは説明する。

「では、私達はこの根っこからサナを護衛すればよいのですね。」

ヒューズが矢の先を根っこに向ける。

「そういうこと。あんた達の力は認めてんだから頼んだわよ。──で、あんたは誰なの?」

サナがクルデーレに尋ねる。

「……あなたこそ誰?」

クルデーレが尋ね返す。

「……そうね、先に私のことを教えてあげるわ。私はエデンから来た導きの神、サナ・クリスタルよ。あんたは?」

「待って!エデン?神?ちゃんとした情報を教えろ!」

クルデーレが正しき情報を求める。それも同然だ。エデンの事について何も知らない人間が突然神だと何だの中二臭いこと言われても信じられるわけがない。

「残念ですがクルデーレさん、サナが言っていることは全て事実なのです。」

ヒューズが言うと、隣のスノウも頷いた。3人が真顔で言ってくるので、クルデーレは信じたくない、信じたくないが、

「……SMC第二戦闘部隊隊長のクルデーレよ。」

言わなければならない空気に負け、自分の素性を話した。

「SMCってことは味方ね。じゃああんたも私の護衛を頼んだわよ。」

「………本当にあなたは神なのね?」

まだ疑うクルデーレに対して、

「もう…だったらここで私と戦う?時間がないから消し炭にする勢いでやるけど。」

サナが決闘を提案した。クルデーレはサナの眼差しから本気だと感じ取った。だったらこの決闘を受けるのか?答えは否。理由は1つ、魔力察知でサナの魔力を感じ、勝てる気がしないからだ。

「……止めておくわ。」

「良い判断ね。勝敗が決まっている決闘したところで時間を無駄にするだけだから。」

サナがさらっと上から目線の返しをするが、それに対してクルデーレは言い返す言葉が見つからなかった。何故か。実際そうだろうだからだ。

「さて、時間もないことだし…始めるわよ!」

サナが詠唱を始めると、サナの足下に展開されている魔法陣を巨大化させた魔法陣が千年桜の上空に展開された。




 レビィと妖刀の戦いは見ただけでは互角のように見える。だが体力に注目すると、2人の差は雲泥の差であった。理由はサナの推測通り、妖刀の体力がデビルエルクワタによって増加し続けているからである。


 「がはっ…!」

腹部に妖刀の蹴りを受けたレビィがゆっくりその場に(うずくま)る。

【はははははは!最初の威勢はどこにいったのだ小娘よ!】

髪と瞳が桜色になっただけのレビィの姿をした妖刀がレビィの声で嘲笑いながら、踞る本物のレビィを蹴り飛ばす。レビィはゴロゴロと転がり、仰向けに倒れる。

(おかしい…いくら偽りの体でもずっと元気なのは絶対おかしい…)

レビィも妖刀の異変には気が付いている。だが原因が分からない。それもそうだ。レビィはデビルエルクワタの存在を知らないのだから。

【はぁ…!力が溢れてくる!もう我を止められる者はおらぬ!】

妖刀が自分の中で増加し続ける力に酔い、両手を広げて高笑いする。

「このっ…」

鉛のように重い体を無理矢理起こすレビィ。だが、漆黒のオーラので形成した刀を杖代わりにしない立てないレベルだ。

【小娘よ。もう一度我の体になるというならば命は取らないが、どうだ?】

「あなたに体を奪われている時点で…死んだと変わらないじゃない…。『拒む』も『受け入れる』も結果が『死』なら…私は皆に迷惑をかけない『拒む』を選ぶわ。」

【……そうか、ならば死ぬがよい。】

次の瞬間、妖刀の周囲に桜色のオーラで形成された刀が何本も舞い始めた。

[桜剣舞(さくらけんぶ)]!】

そして妖刀が自分の本体である刀の先をレビィに向けたのを合図に、舞い踊る剣がレビィに向かって一斉に突進してきた。


──その時だった。


レビィの目の前の地面に1本の刀が刺さり、魔法陣が展開されると、レビィを囲むように風の防壁が張られ、剣の突進を全て防いだ。そして続くように飛んできた刀の所持者がレビィの隣に現れた。

「……シャイン…」

レビィが自分の隣に現れた人物の名前を呟いた。

「……悪い、色々あって手出しするはめになった。」

シャインはレビィに謝ってから投げた自分の刀、風砕牙を地面から抜く。

「……ううん、正直危なかったから助かった…」

レビィが素直に礼を言った。

「あいつは今、デビルエルクワタっつう物が桜の木に埋まっているせいで無限増に力も体力も増え続けている状態なんだ。」

シャインが妖刀の現状を簡単に説明する。

「そっか…だからずっとあいつ元気なのか…」

レビィは原因が判明したことにより、心の中の悩みは晴れた。だが、顔はとても浮かない表情になっていく。

「ダメだな〜私…。勝てるとか言っておいて…結局シャインに助けられちゃってる…」

(ヤバいな…戦闘に対しての心が折れかけている。仮にこのまま俺が妖刀を倒しても、自信がなくなっちまったら今後の戦闘に確実に響く。くそっ!レビィの力は絶対に必要なのに…!)

その時、シャインはサナの言葉を思い出した。

(『夜叉としてまだ完全じゃない』…サナはそう言っていた。てことはレビィはまだ強くなるってことだよな?でもどうやって『完全』になるんだ?レビィの修行不足なら今ここで完全になるのは無理だ…でも何か引金(トリガー)があるとするならば、今ここで完全になれる可能性がある…。じゃあその引金(トリガー)って何だ……考えろ……考えろ……)

シャインが頭の中で高速に引金(トリガー)となりえる事は何か考える。そして記憶がある時期まで遡った時、ふと確信が生まれた。確証はない。でもこれだ、と直感で分かった。

(違っていたら怒られそうだな。)

シャインがクスッと笑うと、その声にレビィが気が付いた。

「どうしたのシャイン?」

レビィがシャインの方を向くと、同時にシャインもレビィの方を向いた。レビィは危険な状況だと分かっているが、真っ直ぐシャインに見詰められたことにより、少しドキッとしてしまった。

「レビィ、やっぱりあいつはお前が倒せ。」

「えっ?無理だよそんなの…私じゃ勝てっこないもん…」

「大丈夫、勝てるさ。」

「……何でそんなこと言い切れるの?」

「お前を夜叉として『完全』にするからだ。」

「へっ…?」

次の瞬間、レビィは自分の身に起きた事が一瞬分からなかった。だが理解した時、顔が真っ赤になった。それもその筈だ、だってシャインの唇が自分の唇と触れ合っているのだから。これは所謂──キスだ。


 シャインの唇がレビィの唇が離れた時、

【ははははは!この場で接吻をするとは!何を血迷った少年よ!】

妖刀が高笑いしながらシャインに問う。するとシャインがニヤッと笑って妖刀の方を見た。

「そうやって笑っていられぬのも今のうちだぜ。」

【何を根拠に言っておる?】

「根拠?それならお前にも見えているじゃねぇか。」

【……見えている?】

シャインの言っていることが理解出来ない妖刀。だが違和感は抱いた。自分がさっきまで見ていた光景と何か違う───いない。シャインと接吻をしていたレビィがいないのだ。

(小娘はどこに行った!?)

妖刀が気が付いたその時、殺気を真横から感じた。そして妖刀が横を見るよりも速く、強烈な蹴りが妖刀の横腹に入り、大きく吹き飛んだ。妖刀は地面を転がる途中に体勢を立て直し、少し滑りながも停止すると、蹴られた方向を見た。そしてレビィの姿を見た瞬間、硬直した。

【な…何だあれは…?】

妖刀が見たレビィの姿、それは真っ赤に燃える炎のような髪を持ち、体から漆黒のオーラを放つ姿であった。そして瞳の色は、赤と青が混じり合い、『紫』色に変化していた。

眼鏡「本編を先に読んでしまった方は前書きを読むことを推奨します。」


眼鏡「いや〜…どこにも書き留めもせずに頭の中だけで管理している上、その場で思い付いた事などを話に入れてしまうから今回のような問題が起きるですよね…。本当に申し訳ございません。今後はこのようなことがないようにしていきますので、今後とも『〜魔法学園〜』の応援、よろしくお願います。」


眼鏡「では、次回で『妖刀編』は完結しますのでお楽しみに!」


眼鏡「ちなみに、妖刀の視界からレビィがどのように消えたかを補足しますと、レビィは真横に高速で移動したのです。そして妖刀がレビィの姿を探す動作をした瞬間、妖刀の横に向かってまた高速で移動したのです。」

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