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魔法学園  作者: 眼鏡 純
83/88

83話 命ずる(6)

ス「龍空deラジオー。」

シ「前話は早かったくせに、今回は1ヶ月経ってんぞ。」

ア「現実(リアル)が忙しかったみたいだよ。」

シ「……ま、何でもいいさ書き続けるなら。」

ヒ「では、本編をどうぞ。」



ス(前書きが短い……書くの面倒だったな…)

眼鏡(言わないで下さい…)

 千年桜の根っこは当然シャイン達にも襲いかかってきた。

「ちっ…面倒だ…」

シャインが風砕牙を構え、襲ってきた根っこを切り刻もうとした時、フロウがシャインと根っこの間に割って入り、腕を剣に変えて根っこを切り刻んだ。

「……今のは俺でいいだろ。」

シャインが走りながら隣を走るフロウに言う。

「シャインさんは少しでも体力を温存して下さい。あなたが戦うはあの人なんですから。」

フロウの視界をズームアップさせた目は桜の木の上にいる血走った真っ赤な瞳で戦闘を見下ろすレビィ、もとい妖刀千年桜を捉えている。すると、妖刀が何やら意味有りげな動きをし始めた。

「何か仕掛けてきそうです!気を付けて下さい!」

フロウが警戒をするよう全員に告げた。



 桜の上にいる妖刀が血走った瞳で見ているのは自分に向かってくる敵の数であった。そして数を把握すると、桜色に鈍く光る刀の刃先を自分が乗っている太い枝に刺すと、大量の花びらが散り始めた。そこに計算したかのように風が吹き、花びらがシャイン達の方に舞ってきた。だが桜斬雨のように斬撃を纏っているわけでなかった。

「……攻撃じゃない…視界を奪うつもりか?」

花びらの中、アレンが周囲を警戒する。

[桜幻影(オウゲンエイ)]。】

桜の上にいる妖刀が呟いたその時、舞い踊る花びら達が意思を持ったかのようにSMC兵含むシャイン達1人1人の目の前に集まり始め、あるシルエットを作ると花びら同士が合体し、一つの桜色のマネキンのようになった。

「……レビィ?」

シャインがシルエットの正体を呟いた。そう、全員の目の前に現れた花びらマネキンの姿はレビィであった。シルエットレビィは一斉に漆黒のオーラで刀を形成すると、襲いかかってきた。至る所からSMC兵の悲鳴が上がる。それもそのはず、このシルエットレビィ、かなりの手練れのため、並の兵では太刀打ちがほぼ不可能なのである。

「[クラッシュショット]!」

アレンが銃魔法(ガンマジック)で握る二丁のハンドガンの構造だけをショットガンに変え、二丁同時に散弾を放ち、シルエットレビィの顔面を吹き飛ばすと、血潮の代わりに桜の花びらが飛び散った。しかし、すぐに飛び散った花びらが戻ってきて元に戻ったのだ。

「再生持ちか…厄介ですね…」

アレンはすぐに対策を考える。だが、閃くまで待ってくれるほど敵は優しくなかった。シルエットレビィは漆黒のオーラで形成した刀を構えると、アレンに向かって突進してきた。その瞬間、アレンはある事に気が付いた。相手の動きが少し遅くなっているのだ。その時、近くで同じくシルエットレビィと戦闘していたクルデーレがアレンに近付いてきた。

「アレン、こいつ等は再生出来るがダメージは蓄積されているようだ。証拠にだんだん速度が低下している。……押し切れ。」

それだけ命令すると、クルデーレは自分の戦闘に戻った。

[乱突(らんとつ)]!」

クルデーレがレイピアでシルエットレビィを連続で突いた。それによりシルエットレビィに大量の穴が空くが、すぐに再生して反撃してきた。だが、その速度は明らかに遅い。クルデーレは容易に反撃を回避すると、グッ!と大きくレイピアを引いた。

[死突(しとつ)]!」

そして強力な一突きを放ち、シルエットレビィを貫いた。それによりシルエットレビィがまた1枚1枚バラバラに散らばって消滅した。

「どうやら『消滅』の概念はあるようだな。」

そう呟きながらクルデーレがアレンの方を向くと、ちょうどアレンもシルエットレビィを倒していた。

「アレン、お前は兵達の救済しに行け。私はこのまま妖刀の所に行く。」

「了解しました。」

クルデーレとアレンは別々の方向に走っていった。




 当然シャイン達の方にもシルエットレビィが襲ってきている。

「くそっ!無駄に強いなこいつ!しかも再生するし!」

スノウがシルエットレビィと対峙しながら文句を吐く。

「でもこの人達、ダメージを受けると行動が遅くなるようですよ。」

ヒューズが弓をシルエットレビィに矢を当てながら言う。

(俺、スノウ、ヒューズ、フロウは大丈夫そうか…ヤバいのはエアルか…)

シャインはシルエットレビィと鍔迫り合いをしながら周りの様子を伺う。そしてシャインの予想通り、エアルは苦戦しているようだ。

「[バブルライト]!」

エアルがシルエットレビィの周囲に光の泡を発生させ、弾ける時の衝撃で攻撃しようとしたが、シルエットレビイに全て回避された。シルエットレビィは回避した勢いでエアルとの距離を詰め、そのままエアルの両足の太ももを斬った。

「うっ…!」

エアルは咄嗟に治癒魔法をかけて傷は応急処置をしたが、痛みによってその場に女の子座りしてしまった。そんなエアルに向かってシルエットレビィがオーラの刀を振り上げた。

「ヤバい!誰かエアルを!」

スノウがエアルの非常事態に気が付いたが、誰一人助けに行ける状態ではなかった。殺される──エアルはグッと目を瞑った。

[掌波(しょうは)]!」

オーラの刀が振り下ろされ、エアルに触れる直前、座っているエアルの背後から衝撃波が飛んできて、シルエットレビィを吹き飛ばした。エアルは目を瞑っていたため、何が起こったのか分からずキョトンとしている。

「無事かの?」

エアルの後ろに現れたのはシャインの師匠である空手着を着たシュロムであった。

「あなたは神様です!」

神を崇めるような格好でシュロムに礼を言うエアルの背後から、衝撃波で飛ばされたシルエットレビィがオーラの刀を構えて突進してきた。しかし、かなりのダメージが蓄積しているのだろう、速度は並の人間でも見えるほどであった。

「しつこいのう…」

シュロムはため息をついてから逆にシルエットレビィに向けて走り出し、途中でグルッと横に一回転すると、そのままシルエットレビィに裏拳を喰らわした。それが止めとなり、シルエットレビィはバラバラに散り、1枚1枚の花びらに戻った。その時、シャイン達もほぼ同時にシルエットレビィを討伐した。

「はぁ…はぁ…この調子じゃあレビィの所に着いた頃にはスタミナ尽きてるぞ…」

スノウが息を切らしている。

「確かに、これが続くのならば流石に疲れますね。」

汗を服で拭うヒューズがスノウに賛成する。

「私、正直付いていける気いないんだけど…」

シュロムに立ち上がらせてくれたエアルが消極的な発言をする。

「……エアルはここで待機した方が良いかもな。」

シャインが提案する。

「俺も賛成だ。」

スノウが真っ先に提案に乗る。

「でも回復役がいなくなりますよ?」

ヒューズがシャインに訊く。

「俺達がダメージを受けなければいい。」

「それは流石に無茶が……」

真顔で答えるシャインの隣にいるフロウが苦笑いする。

「……妖刀の戦闘が始まれば回復する暇はおそらくないじゃろう。ならば一国の王女であるエアルの身の安全を優先しても儂は良いと思うぞ。」

シュロムがシャインの提案を後押しする。

「知っていたんですか?私が王女って。」

エアルは自分でヴァスタリガの王女とは名乗っていないのに、シュロムが知っているのを不思議に思った。

「わっはっはっは!無駄に長生きしておらぬわ!名前を初めて聞いた時から分かっておったわい!」

シュロムは豪快に笑いながら答える。

「……シュロム、エアルを頼めるか?」

シャインがシュロムに尋ねる。

「任せておけ。」

シュロムが頷いた。

「……ごめんね皆、力になれなくて…」

エアルが申し訳ないという顔でシャイン達に謝る。

「気にすんな。それより戦いが終わった後の回復、頼んだぞ。」

スノウがエアルの肩にポンと手を置くと、エアルはうん!と大きく頷いた。

「……フロウ、お前もアイドルなんだから何かあったらヤバいんじゃねぇか?」

シャインが隣にいるフロウに尋ねる。

「大丈夫です。それに私はアイドル活動の事より……シャインさんの力になりたいです。」

フロウが真っ直ぐにシャインを見詰める。その眼差しに決意と覚悟を見たシャインは、

「危険だと思ったらすぐに逃げろよ。」

と、フロウが同行することを許可した。

「話がまとまったのならそろそろ行きませんか?こうしている間に次の攻撃が来ますよ。」

ヒューズが千年桜の方を見る。

「そうだな…よし!行くぞ!」

エアルをシュロムに任せ、シャイン達は千年桜に急いだ。




 千年桜の根元。そこに一番最初に到着したのは第二戦闘部隊隊長のクルデーレであった。クルデーレは風に水色の髪を靡かせながら千年桜を見上げ、そして叫ぶ。

「妖刀千年桜!この私と戦え!」

すると、桜の頂上から人影が飛び降りるのが見えた。人影はどんどんと落下し、そして地面に着地した。

「お前が妖刀千年桜だな?」

クルデーレが確認するが、

【……………】

血走った瞳でクルデーレを見詰める妖刀は無言のままである。

「お前…自我を失っているな?」

クルデーレが尋ねるが、やはり妖刀は無言のままであった。

「まぁいいや、お前と馴れ合う気は最初からなかったし。逆に(これ)で語り合うだけでいいからシンプルで分かりやすくなった。」

クルデーレがレイピアを構えると、妖刀も自分の本体である桜色に鈍く光る刃を持つ刀を構えた。そして数秒間の沈黙の後、先に動いたのはクルデーレであった。

[死突(しとつ)]!」

クルデーレが強力な突き攻撃を放つと、

[桜突(オウトツ)]!】

妖刀も強力な突き攻撃を放った。そしてレイピアの刃先と刀の刃先が正面衝突した瞬間、周囲に強大な衝撃波が発生した。



 衝撃波は千年桜に向かうシャイン達まで届いた。爆風を浴びたくらいのとてつもない風速。シャイン達は飛ばされないようにするだけで精一杯であった。

「きゃっ!?」

その時、耐えきれなかったフロウの体がフワッと宙に浮き、今にも飛ばされそうだった。それをシャインがフロウの手を掴み、シャイン自身は地面に風砕牙を深く刺して耐え忍ぶ。そして衝撃波が止むと、シャイン達は一安心した。

「あ、ありがとうございます。」

シャインに手を握られたことに照れつつも、フロウが礼を言った。

「気にすんな。それより今の爆風は何だったんだ?」

シャインが風砕牙を地面から抜いて千年桜の方を向いた。

「2つの強力な魔力がぶつかり合っていますね。1つはレビィ…もう1つは…おそらくクルデーレでしょう。」

ヒューズが魔力察知で得た情報を伝える。

「おいおいおい…!それってかなりヤバくないか!」

スノウが叫ぶ。

「急ぐぞ!」

シャイン達が再度走り出そうとした時、

「おっと、これ以上は行かせないぜ。」

和服を身に纏い、下駄を履いた男、カギスタが近くの木の陰から現れた。予想外の人物の登場にシャイン達が動揺した。

「何でてめぇがここにいる?」

シャインがカギスタを睨みつける。

「あれ?聞こえてなかったか?お前等をここから行かせないためだって言っただろ。」

カギスタがニッと笑いながら答える。

「……もしかしてこの騒ぎの裏にはお前等がいたなんてオチじゃねぇだろうな…」

スノウが呟く。それを聞いたカギスタが笑った。

「それは半分正解で、半分不正解だ。」

「どういうことですか?」

片腕を剣にしているフロウが訊く。

「確かにこの騒ぎの後ろでは俺達革命軍が動いていた。」

「じゃあてめぇ等がレビィを…!」

シャインの髪の色が黄緑一色に変わる。

「まぁまぁ落ち着けよ閃風の坊ちゃん。言ったろ、半分正解で半分不正解だって。」

そう言われたシャインは構えた刃を一旦停止させた。

「俺達がいる理由は『コレ』の実験のためさ。」

カギスタが取り出したのは黒く光る石であった。

「それは…エルクワタストーンか。」

シャインが石の名前を呟く。

「あれ?もしかしてデビルエルクワタのこと知らないのか?」

カギスタが首を傾げる。

「デビルエルクワタ?」

シャインが名前をオウム返しする。

「簡単に言うとな、この石の中には邪悪な魔力が蓄えられていて、善人が体に埋め込むと力を得る代わりに心が悪に染まり、悪人が体に埋め込むと純粋に力を得るだけっつう悪人のための石だ。」

カギスタが簡単にデビルエルクワタについて説明する。。

「なんて石…まさかそれをレビィさんに埋め込んだんですか!」

フロウがカギスタに怒鳴るように訊く。

「違うな。俺達がこの石を埋め込んだ相手は2体だ。1体目はビュティフルの滝の主、ドラゴンフィッシュだ。」

「ドラゴンフィッシュにデビルエルクワタを…てことはあの時滝壺で見た人影はお前だったのか。」

シャインが滝壺で一瞬見た人影のことを思い出す。

「なんだ見られていたのか。ま、別に何かヤバい訳じゃないからいいけどさ。」

カギスタがその人影が自分だとあっさり認め、話を続ける。

「元々ドラゴンフィッシュは人々を襲うような獰猛な魔物じゃない。しかもあの図体なわりにはそれ程強い魔物でもない。おそらくデビルエルクワタを埋め込んでなかったらお前等の誰でも1人で倒せると思うぜ。でも!そんなドラゴンフィッシュがデビルエルクワタの力によって気合まで放てるほど強くなるなんてな!流石に実験した側も驚いたぜ!」

カギスタがケラケラと笑ってから再度話を続ける。

「んで、この結果をうちのボスに報告したら、ボスが試したい奴がいるって言い出してな…」

「だからそれがレビィってことだろ!」

シャインが怒鳴る。

「いいや、ボスが埋め込んだ相手は『妖刀千年桜』の方だ。」

「……どういうことだ?」

シャインが尋ねる。

「考えてみろ。もしも夜叉の嬢ちゃんにデビルエルクワタを埋め込んだのなら、暴走するの夜叉の嬢ちゃんだけだ。桜の木まで暴走する意味が分からない。」

確かに正論であった。

「じゃあ何で妖刀をレビィに憑かせたのはお前等じゃないのか?」

スノウが尋ねる。

「そう、それに至っては完全な偶然。だから半分正解で半分不正解ってわけだ。」

「……じゃあ妖刀は何でレビィに取り憑いた…」

シャインのこの呟きを聞いたカギスタがハッと短く笑った。

「もしかしてお前等、何で妖刀が夜叉の嬢ちゃんを選んだか分かっていないのか?」

「あなたは知っているのですか?」

ヒューズが尋ねると、カギスタが話し始めた。

「この近くには大昔、『夜叉の里』っつう里に住む者が全員夜叉魔法が使える里があったんだ。そんな里に1人の腕が立つ鍛冶屋がいてな、彼が作る刀の切れ味は世界一だと言われたくらいだった。その彼がある日、自分でも最高傑作だと言い張る3本の刀を作ったんだ。名前は『夜桜(よざくら)』『闇桜(やざくら)』…そして『千年桜(せんねんざくら)』だ。『夜桜』は『ルーティル』っていう一族の1人が受け取り、そして代々子孫に受け継がれた。闇桜は運悪く窃盗に遭ってしまって、裏の世界でずっと取引をされていたが、ある日闇桜を所有していた者がうっかりとある湖に落としてしまって、それ以来誰も闇桜を見なくなった。そして千年桜だが、この刀だけ他の夜桜と闇桜とは決定的に違う所があった。それは所持した者が何故か皆死んでしまうという所だ。不気味に思った里の者達は千年桜を今桜の木がそびえ立っている場所に封印した。千年桜を作った鍛冶屋は妖刀を作った罪として、首を自分が作った刀で落とされ、処刑された。その処刑した数日後、里はある魔物によって崩壊され、ほとんどの夜叉族は滅びた。運良く生き延びれた夜叉族は、この魔物の襲来は妖刀の最後の呪いだと語っている。………てまぁこれが夜叉族の歴史だ。」

「そんな歴史、学校で習ったことないですよ。」

フロウは天鼠(あまねずみ)高校の歴史の授業でこの話を聞いた覚えはなかった。

「当たり前だ。夜叉族は決して表には出ない影の一族、存在を知る者は限られていたからな。」

「ですが夜叉族は戦闘民族のはずです。たかが魔物1匹に滅ぼされるとは思えませんが。」

ヒューズの言う通り、夜叉族は戦闘民族、そう簡単には倒れないはずだ。

「夜叉魔法は自分が認めた者と契りを交わした時に初めて力が解放する。契りの相手は夜叉族同士では不可。つまり、里にいた者達は力を解放していなかったのさ。それに、襲撃した魔物もかなり強かったってのも滅んだ原因だな。」

「その魔物って一体どんな魔物だったんだ?」

スノウが尋ねる。

「えっと…あれ?龍の姿をしているしか覚えてねぇや…」

「何だよ役立たず!」

「ここまで教えてやったのに酷くねぇか!」

スノウの無慈悲な罵声にカギスタはツッコんでから話をまとめた。

「つまりだ。妖刀千年桜は夜叉族の鍛冶屋が作った刀だから、夜叉魔法を使える嬢ちゃんは妖刀にとって打って付けの身体(いれもの)ってわけだ。どうだ、分かったか?」

カギスタがシャイン達に尋ねると、

「ああ…分かったよ。結局のところ、てめぇ等は間接的にレビィを苦しめているってことをな!」

黄緑一色の髪のシャインがカギスタを殺意たっぷりの目付きで睨んだ。シャインの言葉を聴き、カギスタは大きなため息をついた。

「はぁ…ホント、夜叉の嬢ちゃんが絡むと激情化するねぇ閃風の坊ちゃんは…いいぜ、気に入らないならかかってきな。」

先程までヘラヘラしていたカギスタだったが、刀を構えた瞬間、目が鋭くなった。カギスタの纏う雰囲気が変わったことにより、シャイン達も各々戦闘体勢になる。その時、カギスタは自分の頭上から銃声が聞こえ、咄嗟にバックステップをすると、先程まで立っていた所に一発の銃弾が降ってきて、地面に穴を空けた。

「皆さん無事ですか!」

そして銃弾の次に降ってきたのは緋色髪を三つ編みにした少年、アレンであった。

「こいつは僕が相手をします!皆さんは急いでレビィさんの元へ!クルデーレ隊長と交戦を始めています!」

「やっぱさっきの衝撃波は2人のか……ここは任せたぞアレン!」

シャインがレビィに向けて再度走り出す。

「行かせねぇって言ってるだろ!」

カギスタがシャインの目の前に回り込み、刀を振り下ろした。だが、刀の刃はシャインを斬ることなく、横から割って入ってきた剣によって防がれた。

「早く行って下さいシャインさん!」

刀を防いだ当人、フロウがシャインに早く行くように促す。

「……悪い!」

シャインはフロウに謝ると、足に風を纏い、超スピードで走り去った。

「おいおい!速過ぎるだろ!」

スノウはどんどん小さくなっていくシャインを追いかける形でその場を去った。ヒューズはチラッとカギスタを見てからスノウの後ろを付いていった。

「あ〜あ、嬢ちゃんのせいで閃風の坊ちゃん達を行かせちゃったじゃないか。ボスに俺が怒られていいの?」

カギスタが鍔迫り合いのまま大きくため息をする。

「そうですね、罰として極刑されるのが一番いいですね。」

カギスタの鍔迫り合いの相手のフロウが毒つく。

「はははは!怖い嬢ちゃんだ!」

カギスタは笑いながらフロウの剣に変化している腕を弾いた。フロウは弾かれた瞬間にバックステップしてアレンのいる所まで後退した。

「ほう、なかなか良い身のこなしだ。」

フロウの身軽さを見てカギスタが呟く。

「フロウさん!何で残ったんですか!」

アレンがフロウを怒る。

「私がいたら迷惑ですか?」

「そうではありませんが……あいつの強さは並大抵ではありませんし、女性でも容赦なく殺しにかかってくるんですよ!」

「それがどうしたんですか。戦場において男も女も関係ありません。私があの人に殺されたのなら、私の力がそこまでだったということです。」

フロウの言葉を聞いたカギスタがアハハハ!と高笑いした。

「いいね嬢ちゃん!気に入ったぜ!おいアレン、お前の方が圧倒的に戦場に立っているくせに情けないぞ!」

カギスタの安い挑発を完全無視して、アレンがフロウに尋ねる。

「あいつを戦う前に1つ答えて下さい。何故この場に残ったのですか?」

「……あの人にシャインさんとレビィさんの間に茶々を入れさせないためです。」

「……そうですか。では、いきま……!」

アレンが拳銃を構えようとした時、フロウが話を続けた。

「と、言うのはただの綺麗事です。本音は……」

フロウが右腕を剣に、左腕をガトリングに変化させ、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。

「戦うならちょっとでも強い相手の方が面白いからです。」

(あれ?もしかしてフロウさんって…ヤバい性格?)

アレンは見てはならぬものを見てしまったような感覚になった。





 巨大な桜の木したで、水色の髪と漆黒の髪が舞い踊りながら刃と刃がぶつかり合う音を響かしている。

[影鳥(カゲドリ)]。】

少しクルデーレと間が空いた瞬間、鳥の形をした影を無数に放った。

[乱氷華(らんひょうか)]!」

冷気を纏うレイピアで連続突きを繰り出したクルデーレが飛んでくる影の鳥を全羽落とした。クルデーレの魔法は氷魔法、故にSMC兵に陰で『氷女帝(ひょうじょてい)』と呼ばれている。

【…………】

無言で妖刀がレビィの顔でフッと笑う。

「……馬鹿にされた気分ね。」

クルデーレが冷気で空気を凍らし、氷の棘を形成してレイピアに巻き付ける。

[氷棘(ひょういばら)]!」

そしてレイピアを突き出すと氷の棘が伸び、舞い踊るように妖刀を襲った。妖刀は鞭の隙間をすり抜けながらクルデーレに近付いていく。そして低い姿勢で一気に懐に跳び込んだ。

[昇夜月(ショウヤヅキ)]。】

刃を上にして、妖刀がクルデーレの顎に向けて斬りかかった。だがその時、妖刀の足首に氷の棘が巻き付いたのだ。そしてグイッと引っ張られ、空中に逆さ吊りにされた。クルデーレは空中に妖刀を放置投げ、体全体に氷の棘を巻き付かせた。

「泳がされた気分はどう?」

【……ユウドウカ。】

逆さ吊りの妖刀が理解した。

「そ。あなたは私の思う通りに動いてくれたの。」

クルデーレはそう言いながら氷の棘をレイピアから外し、先を地面に刺して固定した。

「これで終わりよ。」

次の瞬間、クルデーレのレイピアを持つ逆の腕から冷気が放たれ始めた。そして冷気漂う掌を逆さ吊りにされている妖刀に向けると、妖刀を360度囲むように氷のレイピアが出現した。

[命凍剣舞(めいとうけんぶ)]!」

掌を握ると、一斉に氷のレイピアが妖刀に向けて突進した。だが、氷のレイピアが妖刀を貫く寸前、何者が妖刀とレイピアの間に割って入った。そして、

[守護銀風(しゅごぎんふう)]!」

何者が銀色の風を放ち、妖刀を氷のレイピアから守ったのだ。そしてそのまま氷の棘も刀で切り裂き、妖刀を解放すると地面に着地した。

「あなたはどっちの味方なの?シャイン・エメラルド。」

クルデーレが妖刀を守った当人、シャインを睨み付けた。

「俺はお前の味方でも、妖刀の味方でもねぇ…レビィの味方だ。」

髪と瞳の色を白に変え、同じく白色のオーラを放つシャインが答えた。そんなシャインの背後から、氷の棘の拘束から解放された妖刀が斬りかかってきた。シャインはグルッと反転して防御し、鍔迫り合いとなった。

「なに妖刀如きに乗っ取られているんだ…!さっさと目を覚ませレビィ!」

シャインが必死に叫ぶが、妖刀に憑かれたレビィの表情は変わらず、血走った瞳でこちらを見てくるだけであった。

「何が原因かは知らないけど、そいつはもう自我を失っている。だから今、あなたの目の前にいるのはレビィ・サファイアでも、妖刀千年桜でもない…ただの化け物よ。」

2人の鍔迫り合いを見ているクルデーレが冷酷にシャインに告げる。

「てめぇがこいつをどう見ようとな、こいつがレビィってことには変わらない!だから俺は絶対に助ける!」

シャインはクルデーレの冷酷な言葉に一切耳を傾けなかった。クルデーレは大きくため息をする。

「あなたは混乱をもたらす人間だと判断した。よって、この場でその子と共に貫いてあげます。その子と死ねるなら、あなたも本望でしょ?」

クルデーレの冷酷な眼差しのままレイピアを構える。シャインは背後から感じる気配で分かった──


──本気だと。


 そしてシャインの直感の通り、クルデーレは何の躊躇もなく、背後からシャインの心臓に向けて突きを放った。

(これは流石にヤバいか…!)

シャインはレイピアが自分の心臓に届くまでの秒未満の世界で幾多の対策を考えた。だが、どれも間に合わない。


───キン!


 貫こうとしたクルデーレも、貫かれそうになったシャインも予想だにしなかった事が起きた。それは、シャインを横に押し飛ばし、妖刀がクルデーレのレイピアを防いだのだ。

(どういうこと…?)

クルデーレは困惑する中、妖刀に起きている小さな異変に気が付いた。血走った瞳が少しだけ元に戻っているのだ。

(まさかこの子…『潜在意識』だけでシャインを守りに?この子の中で、シャイン・エメラルドの存在はどこまで大きいの?)

このようなことを考えている間、クルデーレの動きが止まっていた。妖刀はそれを逃さず、レイピアを弾くと黒きオーラを拳に纏わせた。

[月砕拳(ゲッサイケン)]!】

そしてクルデーレの鳩尾(みぞおち)に一撃を入れた。まともに受けたクルデーレは吹き飛び、そして地面に仰向けに倒れた。

「くっそ………うっ…!がはっ…!」

すぐに体を起こそうとするが、ダメージが大きく血を吐く。

(なんて威力だ…)

シャインが妖刀の一撃に驚愕していると、クルッと妖刀がこちらを向き、かすかな声で告げた──


───マ・モ・ル


 (守る?妖刀が俺を?………いや、違う!今のは…!)

シャインが何かに気が付いた時、妖刀の目がまた血走り、そしてシャインに斬りかかってきた。シャインは風砕牙で防ぎ、そのまま攻防が始まった。




 妖刀から強力な一撃を喰らい、なかなか動くことが出来ないクルデーレ。そこに、ある人物が近付いてきた。

「随分と情けない状態だな。元お前の隊長として悲しいぞ。」

漆黒の服を纏い、左目を隠す白い髪を持つ男、フォーグであった。

「フォーグ隊長…!」

「ほう、まだ俺のことを『隊長』と呼んでくれるとはな。忠誠の厚い部下を持ったものだ。」

フォーグが鼻で笑うと、クルデーレはハッ!と我に返ったような反応を見せると、ヨロヨロと立ち上がるとレイピアの先をフォーグに向けた。

「止めておけ。今俺と戦ったところでお前が死ぬだけだぞ。」

返す言葉が見つからないクルデーレ。それもそうだ──自分でもそれを悟っているのだから。

「今は休戦としようクルデーレ。それの方がお前にとっては有り難いだろ?それとも…今ここで()り合うか?」

自分を見詰める紫の右目から殺気を感じたクルデーレは不本意ながとレイピアを鞘に納めた。

「……良い子だ。」

フォーグは軽く鼻で笑ってから視線をシャインと妖刀の方に向けた。

「相手はこの世で最も守りたい者…さぁ、この戦いの結末はどうなるか楽しみだ。」

フォーグが楽しそうに少しだけ片方の口角を上げた。クルデーレもシャインと妖刀の戦いを眺めることにした──いつでもフォーグの心臓を突き刺す準備を整えながら。



 

 認めたくないが、クルデーレの言う通り、今の『こいつ』はレビィでも妖刀でもない、ただの命を狩ることしか考えていない『化け物』だ。だが、そんな化け物が『守る』と言った。命を奪おうとしている者が守る?そんなこと言うなんて有り得ない。ではあの一瞬だけレビィに戻っていた?いや、レビィの心は完全に妖刀に憑かれているからそれも有り得ない。なら、あの時に守ると言った『あいつ』は誰なんだ?




 シャインは分かった──だから叫んだ──守るが潜在意識の頂点となっている『誰か』に。




 妖刀と鍔迫り合いになった瞬間、シャインはおそらく今までの人生で一番声を上げて叫んだ。




 「我が『夜叉』に命ずる!己の体を取り戻せ!」










……ン










……クン










……ドクン!










 「心得た、我が(あるじ)よ。」


 シャインの叫びは、憑かれたレビィの心の深い深い底で眠っていた『もう1人のレビィ』に届いた。

エ「龍空deラジオー!って言いたいところだけど、前書きで作者が面倒らしいから今回はここで終わっちゃうね〜!じゃあまた、次回をお楽しみに!」



眼鏡「あの、なんか……すいません。えっと…『修学旅行編』改め『妖刀編』はあともう少しで完結させる予定です。では、次回をお楽しみに。」

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