82話 君の笑顔(5)
ス「龍空deラジオ〜。」
シ「おっ、何か投稿が早いな。」
ア「最近は1万字前後を目処に書いているらしいから早いんじゃない?」
ヒ「ただの偶然のような気がしますけどね。」
ア「素直に褒めてあげようよ…」
シ「続けるなら何でもいいさ。というわけで本編をどうぞ。」
───────11年前。
───────現在国、エクノイア。
───────現在地、ある貴族の豪邸。
───パシッ!
平手打ちが黄緑と黒の髪が7対3の割合で生えている6歳の少年の頬を叩く音が正門から入ってすぐの庭に響いた。
「全然なってないざます!この程度で掃除し終えたなんて言わないでほしいざます!」
少年を叩いたのは、赤い豪華な服を纏い、指や首に高級な指輪やネックレスをしている女性であった。長身でスタイルは良いが、顔はお世辞にも美人とは言えなかった。
「ほんと、全然成長しないざますな。」
女性がゴミを見るような目で少年を見下ろす。女性の名前は『クブイサ・イザウ』。この豪邸の主の妻である。
「……すいませんでした…クブイサ様…」
全くというほど反省の色がない謝罪をする少年の名前は『シャイン・イザウ』。1年前に母親を病で亡くし、父親は少年を置いて何処かに消えてしまったため、たった1人で当てもなくフラフラとさ迷うのを1年続けた後、この豪邸の主に養子として拾われた。
「どうしたのだね愛しき我が妻よ。」
2人の元に現れたのはこの豪邸の主、『ブデ・イザウ』。真ん丸肉団子のような体をしており、顔はこちらもお世辞にもイケメンとは言えなかった。
「あなた、またシャインが掃除をサボったのざます。」
クブイサがブデに説明すると、ブデはシャインの方に近付くと無言でシャインの顔を蹴ったのだ。蹴られたシャインはドサッと尻餅をつき、蹴られた部分を摩る。
「使えないゴミめ。」
ブデは冷酷な眼差しをシャインに浴びせる。その隣でクブイサも同じ眼差しをシャインに向けていた。その時、
「おやブデさん、朝から家族一緒に庭で散歩ですか。」
近所に住んでいる60代くらいの貴族の男が正門の外から話しかけてきた。顔からしてあまり良い性格はしていなさそうだ。
「これはこれは、おはようございます。」
ブデはさっきまでの表情とは打って変わり、気持ち悪いくらいニッコリと笑顔を作った。
「おはようございます。奥様もおはようございます。」
貴族の男がクブイサにも挨拶をする。
「おはようございます。」
クブイサも突然笑顔を作って返事をした。
「ん?シャイン君波どうしたのかね?」
貴族の男が地面に座っているシャインを見つけた。
「あっ、これはですね…さっきまではしゃいでおりましてそのまま転んでしまったのですよ。」
ブデはハハハハと笑いながらシャインを優しく立たせて貴族の男の方を向かした。
「おはようシャイン君、新しいお義父さんとお義母さんに良くしてもらっておるか?」
貴族の男が孫を見る目でシャインを見つめながら尋ねてきた。シャインが返事に困っていると、ブデが笑顔のままシャインの足を蹴った。この行為は角度的に貴族の男には見えていないようだった。
「はい!お義父さんもお義母さんもとっても優しいです!」
シャインは満面の笑顔を作って答えた。勿論、心のからの回答ではない。
「そうかそうか。では私はこれから用があるのでこれにて。」
貴族の男は楽しそうに何処かへ行ってしまった。貴族の男が見えなくなった瞬間、ブデはまたシャインを蹴り飛ばした。
「すぐに答えぬかこのポンコツ!我々をただ褒めるだけで良いと言うておるだろ!」
倒れるシャインにブデが怒鳴りつける。
「…………すみませんでした…」
シャインは地面を見たままブデに謝った。
「旦那様、奥様、シャインお坊ちゃま、朝食の用意が出来ました。」
その時、燕尾服を着た執事がブデ達を呼びに来た。
「シャインの分は捨てろ。すぐに答えなかった罰だ。」
ブデは執事にそう言いながら家に戻っていく。
「いいざますか。私達が朝食を終えるまでに庭の掃除を完璧にしておきなさい。」
クブイサはシャインにそう命令すると、ブデの後ろを付いて行った。庭に1人となったシャインは痛みを堪えながら、無言で子供用の箒を持って庭の掃除を始めた。
本当のところ、シャインは戸籍上でブデとクブイサの養子にはなっていない。衣食住を与える代わり、人前では養子のフリをしろと命令されているだけなのだ。でも何でそんな命令をされたのか。それはブデとクブイサを『良い人』に見せるためである。1人寂しくさ迷っている子供を保護した上、自分達の養子にした。それだけを聞いた他人はきっとこう思うだろう──『何て心優しい人達なんだ』と。ブデとクブイサは周囲からそう思ってもらうために、ただシャインを利用しているだけに過ぎない。だが、シャインは別にそれでも良かった。生きれれば…それで良かった。
無事に掃除を終えたシャインは与えられた部屋にいた。とても狭いことだけ目を瞑れば至って普通の部屋である。
「おいシャイン。」
そこにブデがシャインを呼びに部屋に入ってきた。
「…何でしょうか?」
シャインが尋ねる。
「今から『トテウキ』さんの家へ行くから来い。」
トテウキ家。イザウ家と昔からビジネスでもプライベートでも良い関係を築いている一家。今からはそんなトテウキ家の所にビジネスの話をしに行くらしい。
「……僕も行くのですか?」
シャインは自分を『僕』と呼べと言われている。
「当然だ。お前は我々を『良い人』に見せるための大事な『引き立て役』なのだからな。」
ブデは最後に鼻で笑うと、部屋を出て行った。
「……分かりました。」
シャインは閉まった扉に向けて返事をした──表情に一切の感情を入れずに。
外出用のお坊ちゃま服を身に纏ったシャインが庭に出ると、ブデとクブイサがいつものゴミを見る目でこちらを見てきた。シャインは日常のことのため、その目に対する何か感情が湧くなんてなかった。
「やっと来たか。ほら、さっさと乗れ。」
ブデはシャインに庭に用意させたリムジンに乗るように命令した。シャインは何も抗うことなく、はいとだけ返事してリムジンに乗った。そしてブデとクブイサもリムジンに乗り、執事運転の元、トテウキ家とリムジン を走らせた。
約20分後、豪華な館に到着した。ただ財力に身を任せて建てた趣味の悪い館だ。
「これはこれはブデさん。ようこそトテウキ家へ。」
正門で待っていたのはこの館の主、『マジャ・トテウキ』であった。ブデ同様肥えた体に胡散臭い顔の男だ。
「おはようございますマジャさん。」
リムジンから下りたブデが微笑みながら返事をした。
「奥様もおはようございます。残念ながら今回はウチの家内は用事でいないのだ。」
「あらそうなのですか。それは残念です。」
ブデの後にリムジンから下りてきたクブイサが残念そうな顔をする。
「シャイン君も、おはよう。」
最後にリムジンから下りてきたシャインにマジャが優しく微笑みながら挨拶をした。
「…おはようございます!」
シャインは満面の笑顔で挨拶をした。そこに心なんぞ存在していない。
「ではでは、立ち話のなんなので家の中へ入りましょう。」
マジャが3人を自分の館に案内した。
館の中に入ると、ブデとクブイサとマジャは客室に入ると早速ビジネスの話を始めた。シャインは『引き立て役』という仕事をほぼほぼ完了したし、客室にいてもすることはないので部屋の外に出された。やることもないシャインはとりあえず館内を散歩することにした。
特に暇潰しができる物が見つからないまま数分が経過。すれ違うメイドや使用人に心のない笑顔で挨拶しながら歩いていると、館の裏庭を発見した。シャインは暇潰しする物はないかと裏庭に出て見た。しかし、マジャの銅像とかが立っているだけで、暇潰しになる物は皆無であった。また館内を散歩するかと戻ろうとした時、ふと庭の隅の壁に穴が空いているのを見付けた。どうやらその穴は館の外に続いているようだ。その時、シャインの心の中に冒険心が芽生えてしまった。行きたい。でもバレたら叱られる。でも行きたい。シャインはチラッと廊下にあった時計を見た──時間はありそうだ。シャインは芽生えた冒険心に従い、穴を潜って館の外に出たのであった。
1人で貴族街を歩くシャイン。すれ違う人は皆、豪華な服に身を包んでいる。周りの家々も流石は貴族街と言ったところか、皆財力に任せた豪華で派手な物が多い。
「ん?」
そんな貴族街の道の隅につば付き帽子が落ちていた。どうやら何処からか風に飛ばされ、ここに転がったようだ。シャインは一応脱走した身、変装としてその帽子を被り、自分の一番の特徴である黄緑色の髪を隠した。そしてこの貴族街には居たくないと思ったシャインは一般の人々が住んでいる方に歩を進めた。
シャインは貴族街を抜け、一般人向けの家やマンションが建ち並ぶ住宅街に来た。まだ貴族街にいるよりはマシだと思うシャインだったが、やはり何処か居心地は悪い。そんなシャインが通り過ぎた工事現場の前に立てられている看板、そこには『龍空マンション建築中』と書かれていた。
住宅街を抜けて少し行くと土手に到着した。近くには綺麗な川が流れている。そんな土手を下りた平地で、紺の髪に青い瞳を持った少女が、黒髪に黒の瞳を持った長身の男性と楽しそうにキャッチボールをしていた。その2人の近くに少女と同じ髪と瞳の色を持った女性が見守っていた。どうやら3人は家族のようだ。シャインは自分と同じ少女の笑顔を見た瞬間、衝撃を受けた。
──汚れも、偽りもない笑顔だった。ただ純粋な…ただ純粋な笑顔だ。
──決して、相手の機嫌を取るための作り笑顔や、心配させないための偽りの笑顔ではなかった。
──あんな輝いた笑顔をする人間がこの世にいるなんて。
──この世は…あんなにも笑えるほど希望があったのか?
ハッ!と我に返ったシャイン。いつの間にか少女の笑顔をずっと見てしまっていた。そしてその時、父親が暴投してしまい、土手にいるシャインの方にボールが飛んできた。シャインはそのボールを拾い上げた。
「ごめんなさい。」
ボールを取りに来た紺色髪の少女はペコッと頭を下げて謝った。シャインは無言でボールを渡すと、少女はニコッと笑って、
「ありがとう!」
と、礼を言った。そして笑顔のまま戻ろうとした時、
「……なぁ…」
シャインが少女を呼び止めた。少女はクルッとシャインの方を振り向いて首を傾げた。
「おま…君は…今、楽しい?」
少女は何故そんな質問をされたのかは分からなかった。だが、質問内容はシンプルだったため、何の汚れもない満面の笑顔で答えた。
「うん!たのしいよ!」
「おーい!『レビィ』!どうしたんだー!」
紺色髪の少女の名前を呼ぶ長身の父親。
「いまからいくー!」
レビィと呼ばれた少女が体を父親の方を向いて返事をする。そしてまた体をシャインの方に向けると、
「わらうとたのしくなるから、きみもわらったらいいとおもうよ!じゃあ、ばいばい!」
レビィは手を振ると、家族の元へ帰っていった。
──何故かは分からない
──でもどうしてだろう
──ずっと虚空を見ていた黄緑の瞳から
──自然と涙が零れた
───────10年後
龍空高校の制服に身を纏ったシャインが高校に登校してきた。周りには他の生徒はいない。それもそうだ。時刻は既に登校時間を過ぎているからだ。ブレザーを着ておらず、カッターシャツをズボンがから出し、ネクタイをユルユルに結んでいるシャインは校内に入り、1年1組の教室に向かう。そして何も変わらない生活を送るのだろうと思いながらシャインは教室の前に到着した。
──その時、教室の前の廊下で、中庭を見ているある人物の姿を見た瞬間、衝撃が走った。
背は高くなっているが、紺色の髪に青色の瞳のあの少女──レビィだ。直感で分かる。あの少女は紛れもなくレビィだ。どうする?おそらく向こうは自分のことなんて覚えていない。なら事情を話すか?いや、変人だと思われて終いだ──
──なら──
「誰だお前?」
シャインがレビィの背後から声をかける。
「わ、私!?」
突然話しかけたせいで、レビィがあたふたする。
「お前以外誰がいるんだよ。」
眠たそうな顔をするシャイン。しかし、これは内心の動揺を隠すためのただのカモフラージュだ。
「私レビィ・サファイア。今日からこの高校に転校してきたの。」
レビィが自己紹介する。
「ふ〜ん…」
興味がないのかあるのか分からない返事をする。しかし、心臓は生まれて初めてなくらい激しく脈を打っている。
「もしかして転校生か?」
シャインが尋ねる。
「うん。」
レビィが頷く。
「ふ〜ん…俺はシャイン・エメラルド。この1―1の生徒だ。」
シャインは『初めて』会ったレビィに対して自己紹介した。
──『初対面』にした方が自分にも都合が良い。
「……あの時流れた涙の意味は今でも分からない。でもあの時のレビィの笑顔は…俺の心の中を全て変えてくれた…それだけは分かった。」
時は戻りホテルの屋上。星空の下でシャインがフロウに話している。
「でも、脱走したことがブデ達にバレて、俺は簡単に外出することが出来なくなった。だからそれ以来、俺はレビィに龍空高校で再会するまでレビィと一度も会わなかった。」
シャインは千年桜の方を向く。
「そして高校でレビィと再会した時、俺は勝手に決意した。例えレビィが知らなくても、俺の中の何かを変えてくれたあいつの笑顔を守り続けるってな。だから俺は、妖刀にレビィを渡さないし、クルデーレにもレビィを殺させない。」
シャインの握る拳の力が強くなった。フロウは何も言わず、ただシャインの背中を見守った。そしてシャインはふぅー!と大きく深呼吸して、変に力が入っている体をリラックスさせると、クルッとフロウの方を向いた。
「さて、そろそろスノウ達の所に戻るか。」
「はい。」
2人はスノウ達がいるホテルのロビーに戻ることにした。
ロビーにある緊急会議室になっている待合室に戻ると、そこにはスノウとエアルの姿しかなかった。
「おっ、シャイン戻ってきたか。頭は冷えたか?」
ソファーに座っているスノウがシャインに気が付いた。
「ああ。──アレンとヒューズはどうした?」
「アレンはクルデーレに呼ばれて外に行ったよ。ヒューズはいつの間にかいなくなってた。」
エアルが説明する。
「……そうか。ま、いつか戻ってくるだろう。──で、2人は何をやっていたんだ?」
足の短い机の上には何枚も紙が散乱していた。
「いやさ、最初は作戦を考えようとしていたんだけど、どうも俺達は作戦を立てるのが下手で良いのが思い付かなかったんだ。だから方向性を変えて、『何で妖刀はレビィの体を選んだのか』を考えいたのさ。で、思い付いた予想を紙に書いてあるんだ。」
スノウが説明する。フロウはそんな説明を聞きながら数枚の紙を手に取り、そして書かれているものを見てげんなりした。
「いや、これ途中から絵しりとりが始まっているじゃないですか。しかも5枚に渡っているって結構前から飽きていますね?」
「いや〜、やっぱ予想ばっかり立て続けると限界はくるよね〜。」
スノウとエアルがアハハハと笑う。シャインはハァとため息をついて、散乱している予想が書かれた紙に目をやる。そして色々な予想の中で一つ気になる言葉があった。
「『夜叉族』?」
「あっ、それはね。レビィの事を考えていたら思い出した言葉なんだけど、確か8話くらいで出て来たはず。」
エアルがサラッとメタ発言をする。
「8話…確か遠足編の最後の話だな。」
自然に会話を進めるシャイン。
「その頃はまだ登場していないから何の話か私はさっぱりです。」
フロウも自然に会話する。
「いや!誰かメタいことにツッコめよ!何で普通に会話が成立してんだ!」
ようやくスノウがツッコミをいれた。
「いや、読者も分かるかな~って。」
シャインがポリポリと頭を掻く。
「最近の所しか読んでいない読者がいたら置いてけぼりだぞ!」
「そんな人は8話にジャンプだ。」
「露骨な誘導をするな!」
シャインとスノウの漫才に対して、
「その会話もメタいから止めなよ。」
ちゃんとした注意をしたのはアレンであった。
「あれ?アレン戻ってきて良かったの?」
エアルが尋ねる。
「被害状況調査及び住人避難誘導が一通り終わったので。」
アレンはエアルに対して答えた後、全員に向けて話した。
「作戦開始は今から10分後のようです。作戦内容は分かっていると思いますが、レビィさんの討伐です。僕はその作戦に参加せざるおえないため、妖刀やクルデーレ隊長からレビィさんを守れるのは皆さんだけです。よろしく頼みます。」
「ああ、任せろ。」
シャインが代表で返事をした時だった。
「おやおや、皆さんお揃いで。」
いつの間にかいなくなっていたヒューズがひょっこり戻ってきた。
「ヒューズ!お前今まで何処行っていたんだ?」
スノウが尋ねる。
「ちょっと色々と。でも大丈夫です、用は済みましたので。それより、10分後にはレビィの命運を決めんですから、私達も急いで何かしら計画を立てないといけませんよ。」
自分の事については曖昧な感じでヒューズは答えると、話をレビィの事に戻した。
「……そうだな。」
シャインが頷いた。
「でもどうするの?あのレビィすっごい強いから多分私じゃ太刀打ち出来ないよ。」
エアルが言う。
「おそらくエアルだけじゃなく、スノウでもフロウでも、そして私でも太刀打ち出来ないでしょう。」
ヒューズが言い切る。
「じゃあ今のレビィと対等に戦えるのは……」
エアルの視線がシャインの方に向く。そしてエアルがシャインの方に視線を向けると同時に、同じようにスノウ達もシャインに視線を向けていた。
「頼むぜシャイン。」
スノウはソファーから立ち上がると、シャインの肩にポンと手を置いて託した。
「任せろ。」
シャインの目つきが鋭くなる。
「あっ、でもクルデーレさんはどうしよう?あの人も一部隊の隊長になれるほど強いんでしょ?」
エアルがアレンに尋ねると、アレンはコクッと頷いた。
「流石にシャインでもレビィとクルデーレを相手にするのはキツいでしょうね。」
ヒューズが言う。
「なら、クルデーレの相手は俺達がすりゃあ良い。」
スノウがバチン!と拳を掌を合わせて気合いを入れる。
「そうなってしまいますね。」
ヒューズがスノウの意見に賛同する。
「わ、私も頑張る!」
エアルも覚悟を決めたようだ。
「私も微力ながら協力します。」
フロウも覚悟を決めた。
「よし!てことでシャイン!お前は全力でレビィを救え!周りは俺達に任せておけ!」
スノウがニッとシャインに向けて笑った。
「ああ、そうさせてもらう。」
「おう!」
シャインとスノウがゴツンと拳を合わせた。
「では、残り約5分はゆっくりしておきましょう。戦闘が始まったらもう休む暇なんてないですからね。」
アレンの言葉に全員乗り、各々好きなように最後の休息をとった。アレンはまたクルデーレに呼ばれ、ホテルの外に向かった。
──時は少し戻る。
ホテルのロビーから音もなく消えたヒューズは自分が泊まっていたホテルの部屋に来ていた。ここにも千年桜の根っこが襲撃したらしく、部屋の中は色々なものが散乱しており、もう部屋として使い物にはならないだろう。そんな部屋のベッドに、和服を着た男が座っており、壊れて大きな穴となっている窓の外を見ていた。男はヒューズの気配を感じとると、
「よう、ヒューズ。」
と、名前を呼びながらヒューズの方を振り向いた。
「カギスタ…やはりあなた達革命軍が関わっていましたか。」
ヒューズがクイッと眼鏡を上げながら和服を着た男の名前を呼んだ。
「残念ながら妖刀が夜叉の嬢ちゃんを乗っ取ったのは無関係だぜ。」
和服を着た男が手をヒラヒラする。
「ですがドラゴンフィッシュの件は関わっていますよね?さしずめデビルエルクワタの力の調査と言ったところですか?」
「……ご名答。流石はヒューズだね~、何でもお見通しかよ。」
カギスタがヒューズを褒める。
「イルファ達はどうしたのですか?」
「イルファは他のことで忙しいらしく、根暗のガキは最初っからやる気なし。つーわけで、ボスは俺を指名したってわけだ。」
カギスタは大きくため息をついた。
「実験をするならば何かしら言ってほしかったですね。こちらは死にかけたのですよ。」
ヒューズが静かに怒ると、
「ぷっ!あははははは!何が死にかけただ!」
カギスタが大笑いする。
「ドラゴンフィッシュの気合を受けた『ふり』をしていたくせによ。」
「……………」
否定も肯定もせずに無言のままのヒューズ。カギスタはその反応を肯定と受け取ると、話題を変えた。
「そう言えば昨日の夜、人がデビルエルクワタを回収している際にアレンが邪魔しに来たから一戦交えたぜ。」
「アレンと?ということは警察官を殺したのはあなたですね?」
ヒューズが尋ねると、カギスタはあっさりと認めから話を続けた。
「でも途中でシュロムっつう爺が割って入ってきやがったんだが、あいつは何者なんだ?」
「ほう、シュロムと戦ったのですか。あの人には少し興味があったのです。」
「お前…!ホモだっ…!」
「殺しますよ。」
カギスタの茶化しにヒューズがにこやかに脅した。
「………冗談だったのに…」
カギスタは少し落ち込んだ。
「で、シュロムはどうでしたか?」
ヒューズが話を戻すと、カギスタは次は茶化さずに答えた。
「正直ちょっとビビったね。魔法を使わずにあれほど戦えるとは。」
「魔法を使わずに?随分と舐められていますね。」
「違う。あいつは元々から魔法が使えない。つまり『非魔法使い』だ。」
「……そう言える根拠は?」
「あいつの『履物』を覚えているか?」
「履物?確か……下駄という物ですね。」
「そう。その下駄っていう履物は、科学国グライトルの最東端にある『センゴク』っつう村でしか履かれていない物なんだ。そしてその村の特徴は、『誰も魔法は使えない』んだ。だからシュロムは、魔法を使えない。」
「……では、シュロムは魔法が使えないのにあなたと渡り合ったということですね。それは正しく…」
「ああ、かなりの『超人』だと思うぜ。だが……」
「だが?」
「どんな『超人』であろうと所詮は人間。人間はいずれ必ず訪れる『絶命』からは逃れられない。」
カギスタがフッと笑う。
「…成る程。では、放っておいても大丈夫そうですね。」
ヒューズが意味を理解すると眼鏡を上げた。そして尋ねる。
「それで、次はレビィを使って何をする気なのですか?」
「さぁな。ここからはボス直々に実験するらしいぜ。ま、内容は単純明快だろうけど。」
カギスタがフッと笑う。
「ボスが?ということは今……」
「ああいるぜ。千年桜の天辺にボスが。」
「…そうですか。」
ヒューズが部屋を出ようとする。
「もう行くのか?」
「ええ。私は加害者ではなく、被害者を演じなければいませんから。」
そう言い残して、ヒューズは部屋を後にした。一人となったカギスタは自分が履いている下駄を見て、
「あの村で生まれたのに魔法に憧れないとは、俺には考えられないぜ。」
そう呟くのであった。
千年桜の頂上。そこにいるのは黒の服を身に纏い、長い白い髪により左目が隠れている男。
「おい、妖刀。」
男が桜の木に話しかけると、
【何者だ?】
脳内に直接尋ねられた。
「俺の名はフォーグ・サイバスター。妖刀千年桜よ、魔力が欲しくないか?」
フォーグは直球に訊く。
【魔力をだと?】
「ああ。お前千年間も桜の木に魔力を吸われ続けていたから魔力が枯渇寸前だろう?そんなお前に良いものをプレゼントしてやるよ。」
フォーグが懐から取り出したのは鈍く光る黒い石であった。その石の名は勿論、デビルエルクワタだ。
「こいつをお前に埋め込むだけであっという間に魔力が回復する上、更なる力を得れるぞ。」
フォーグが不気味に笑うと、ゆっくりとデビルエルクワタを持つ腕を挙げる。
【貴様…!何をする気だ!】
「言っただろ、プレゼントしてやるってよ!」
瞬間、フォーグが桜の太い枝に向けて腕を振り下ろし、デビルエルクワタを押し付ける形となった。すると、ズブズブと黒い石は太い枝の中に飲まれていった。
【ぐっ…!?】
桜の木の中で傷を癒やしていた妖刀はすぐに今は自分となっているレビィの体に異変が起きた事に気付いた。
「さぁ…とくと見せてもらおう。闇に染まった刃の切れ味を。」
不気味に笑うフォーグがその場から姿を消した。
【グ、グオォォォォォォ!!!!】
妖刀は自分の内側から溢れてくる強大な力を抑えることが出来なかった。その瞬間、千年桜から不気味な魔力が放たれた。
放たれた不気味な魔力はホテルで待機しているシャイン達全員が感知出来るくらい強力であった。
「この魔力は…!」
シャインが反応する。
「妖刀を目の前にした時と同じ魔力…!」
エアルが千年桜の下で妖刀と出会した時の事を思い出す。
「遂に動き出しましたか。」
ヒューズが眼鏡をクイッと上げてから異空間から弓を取り出し、いつでも戦闘可能の状態となる。
「よし!行くぞ皆!」
「「「「おー!」」」」
シャインの号令にスノウ達が叫ぶと、全員でホテルの外に出た。
「流石にこちらの準備が整うまで待ってくれるほど優しくはないか……」
ホテルの外で何やらずっと準備をしていたクルデーレが不気味な魔力を放つ千年桜を見つめながら呟く。そして第三戦闘部隊と、増援として呼んだ自分の部隊である第二戦闘部隊の兵達に大声で命令した。
「いいか!根っこが現れたら全員に支給した炎属性の弾を放つ『フレイムガン』を使って焼き尽くせ!その銃には特殊な魔法をかけており!地面に埋まっている部分までも燃えるようになっている!」
「はっ!」
兵士全員が一斉に返事をする。
「存分に己の力を振るうがよい!全員!戦闘開始だ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
クルデーレの号令で一斉に兵士達が千年桜に向けて進軍する。そして、それを迎え撃つかのように、アスファルトの地面を突き破り、また巨大な根っこが出現し、兵士達と千年桜の根っこの大乱闘が始まった。
「根っこは兵達に任せ、私達は全ての原因である妖刀千年桜を討つ。………躊躇うなよ。」
クルデーレは腰に下げていたレイピアを抜きながら隣にいるアレンに忠告した。
「分かっています。覚悟は…出来ていますから。」
アレンは二丁の拳銃を構えながら答えた。
「……口先だけならどうとでも言えるな。」
クルデーレはまるでアレンの心を覗いたかのように呟いた。
「………」
何も答えないアレン。
「……行くぞ。」
「はい。」
クルデーレとアレンが千年桜に向けて走り出した。
ズブズブとゆっくりと太い枝から現れたのは一人の少女。漆黒の長い髪を風に靡かせながら少女が目蓋を開くと、赤く血走った瞳が露になった。
エ「龍空deラジオー。」
サ「ホント、修学旅行とはどこに行ったのやら状態になっているわね。」
サテ「あははははは……」
レ「ま、まぁ何とかなるでしょう…多分…」
エ「では、『修学旅行編』改め『妖刀編』の次回をお楽しみに!」