80話 千年咲く桜(3)
ス「龍空deラジオー。」
シ「この小説っていつの間にか80話も続いていたんだな。」
ヒ「4年で80話というのはどうなんでしょうね。」
ア「そこは素直に喜ぼうよ…。」
ス「てかさ、最初の頃は1週間に1話のペースだったのに、最近は1ヶ月で1話のペースになってるよな。」
シ「飽きたんじゃね?」
ア「そんなことはないよ!………多分……」
ヒ「アレン、そこは嘘でも否定しないと作者が可哀想ですよ。」
ス「いや、嘘でもって言ってる時点でアウトだから……」
シ「ま、続けるなら別にいいさ。てなわけで本編をどうぞ。」
ア「誤字、脱字などで読みにくいところがありましたらすいません。」
先に攻撃に入ったのはカギスタであった。拳に輝く風を纏わせ、シュロムに向かって地面を蹴る。
「[閃風拳]!」
そしてシュロムの顔に目掛けて拳を繰り出した。
「甘いわ!」
シュロムは拳を硬くし、カギスタの拳に対してただの拳を繰り出した。2人の拳は真っ正面からぶつかると、周囲に爆風のような衝撃波が起きた。
(マジかよこの爺…!ただのパンチで互角の力だと…!)
衝撃波に吹き飛ばされたカギスタは空中で一回転すると綺麗に着地した。しかし、着地した時には目の前にシュロムの姿があった。
「[掌波]!」
シュロムはカギスタの腹部に掌をあてると、衝撃波がカギスタの体を貫いた。
「ごふっ…!」
まともに喰らったカギスタは意識が遠くなり、その場に倒れそうになるが、何とか踏み止まって疾風の如く速さで、少し離れた場所の地面に刺さっている自分の刀を拾いに行った。それをシュロムは邪魔をせずただ見守るだけであった。カギスタは刀を地面から抜くと、キッ!とシュロムを睨み付けた。
「てめぇ…今ワザと攻撃してこなかっただろ?」
「ほう、刀を『拾った』のではなく、『拾わされた』と気が付くとは…お主なかなかの手練れのようじゃな。」
シュロムがカギスタの勘の良さに関心する。
「何でそんなことしやがった?」
「お主は刀を使わねば本来の力を発揮出来るのであろう?」
「……けっ!舐めたれたもんだな俺も。」
カギスタがスッと刀を構える。
「それに敗北した際、『あれはまだ全力じゃなかった』などとほざいてもう一度戦うのも面倒じゃからのう。」
シュロムが少し小馬鹿にする笑みを浮かべる。このシュロムの言葉が、カギスタの癇に障ったようだ。
「流石に調子に乗り過ぎだ爺!爺は爺らしく…墓の下に埋まれ![獅子閃風牙]!」
カギスタが刀を振るうと、輝く風の獅子が放たれた。
「うむ…やはりこの魔法…」
シュロムは何か考えながら輝く風の獅子をまるで虫を払うように片手でペシッと弾いて軌道を逸らした。そして一息でカギスタとの間合いを詰め、
「お主、何故シャインの閃風魔法を使えるのじゃ?」
顔を近付けて尋ねた。
「ちけぇんだよ!」
カギスタはシュロムの言葉を無視して刀を振るう。
「うむ、答えてくれそうにないのう。」
シュロムはカギスタの攻撃をバックステップで回避しながら小さくため息をついた。
「ふむ、ならばこの戦いを終わらせよう。」
そう言ってシュロムはグッ!と拳を固めた。
「[拳固突]!」
シュロムが固めた拳をカギスタに向けて繰り出すと、カギスタの体を拳の形をした衝撃が貫通した。
「ガハッ…!」
カギスタが口から大量の血を吐く。まとも喰らったことにより後ろに吹き飛んだカギスタだが、何とか体勢を立て直して地面に着地した。だがかなりのダメージのようで、ガクッと片膝をついた。
「この…野郎…!」
なかなか立ち上がることが出来ないカギスタにシュロムが下駄を鳴らしながら近付いた。
「さて、どうする若僧?このまま続けるか?それとも諦めて帰るか?」
余裕の顔で自分を見下ろすシュロムに対してカギスタはキッ!と睨んでから刀を鞘に納めた。そして何も言わずヨロヨロと立ち上がり、何処かに歩いていく。
「引き際が分かるお主は立派な強者じゃ。」
去ろうとするカギスタの背中にシュロムが言う。
「……けっ、俺は強者になりたいんじゃねぇ…最強になるんだよ。」
カギスタは背を向けたまま答えると、深夜の闇に紛れて姿を消した。
「ふふ…彼奴はまだまだ強くなりそうじゃ。」
シュロムがそう呟いて安全の場所にいたアレンがシュロムに近付いてきた。
「スゴいですねシュロムさん。あのカギスタをあそこまで圧倒するとは。一体何の魔法を使っているんですか?」
「ん?儂は魔法なんぞ使えんよ!」
シュロムが豪快に笑う。
「えっ?魔法が使えないって…非魔法使いなんですか?」
予想外の回答でアレンの目が点になる。
「うむ。」
シュロムが頷く。
「じゃああのような技をどうやって発動しているんですか?」
「どうやってって言われてものう…『純粋な力』を使っているだけじゃからのう…」
「純粋な…力?」
アレンが首を傾げた。
「お主、あそこに落ちている岩を持ち上げる際に魔力を使うか?」
シュロムが足元に転がっていた岩を指差して問う。
「いえ、使いません。」
「では、あの岩を持ち上げる時、何を使う?」
「それは腕力を使って……えっ?もしかして純粋な力って、腕力や脚力などの『筋肉の力』ってことですか!」
「ほう、察しが良いのう。そうじゃ。儂は魔法は使えんがずっと体を鍛えてきた。そうしたらいつの間にかあのようなことが出来るようになったのじゃ。」
シュロムが豪快に笑う。
「そんな人間がこの世に存在するなんて……」
アレンはただただ呆然とするしかなかった。
「さて、お主は早うホテルに戻るのじゃ。でなければ誰かが起きてきてしまうぞ。」
「そう…ですね。そうさせて頂きます。」
「うむ。修学旅行を楽しむのじゃ。」
「はい。今日は本当にありがとうございました。」
アレンはペコッと頭を下げて礼を言ってからホテルへと戻って行った。シュロムはアレンを見送ると、ゲホッ!ゲホッ!と咳をした。すると赤い血がジワ〜ッと地面を湿らした。
「ゲホッ…流石の儂も老いたかのう。」
シュロムは口に付いた血を拭うと、そのまま夜の闇の中に紛れた。
修学旅行2日目の太陽が昇った。龍空の生徒達は昨日夕食を食べた宴会場に集められていた。
「皆さんおはようございます!」
生徒達の前で挨拶するのはナナリーである。そしてナナリーの返事に寝起きで元気がない生徒達がバラバラに返事をする。
「え〜現在時刻は午前7時です。8時30分にはホテルを出発したいと思っていますので、それまでに朝食を済ませ、部屋に戻って出発の用意をして、ロビーの方に集合して下さい。分かりましたか?」
ナナリーが尋ねると、またバラバラに返事をした。
「それでは皆さん!頂きます!」
ナナリーの号令で、生徒達が朝食を食べ始めた。
午前8時20分。ロビーに生徒達がどんどん集まる。
「今日って何処行くんだ?」
自分の鞄の上に座っているシャインが、隣に立っているスノウに尋ねる。
「ん?えっと…『千年桜』って桜の木を見に行くんだと。」
スノウが旅のしおりを見ながら答える。
「千本桜?」
「千年な。誰も有名なボ○ロの曲の話はしていない。」
シャインの聞き間違いに電光石火でツッコむスノウであった。
「で、何で千年桜って名前なんだ?」
シャインがスノウに訊く。
「何か春夏秋冬関係なく千年間咲き続けている桜の木らしいぜ。」
「へぇ~…何て幻想的な桜の木なんでしょう。」
スゴい棒読みで感想を述べるシャインであった。
そんな話をしていると、出発時間になっため、龍空高校一同はバスに乗って目的地へと向かった。
約1時間が経過した。龍空高校一同を乗せたバスはシルフォーニの中央部に移動中である。
「『妖刀』?」
レビィが隣に座っているエアルに聞き返す。
「うん。千年桜には妖刀の伝説もずっと言われているんだって。」
エアルが携帯の都市伝説サイトを見ながら言う。
「どういう伝説なの?」
レビィが尋ねる。
「千年前、ある無名の鍛冶師が一本の刀を作り上げた。その刀の刃は美しく、とても良い切れ味であった。しかし、その刀を携えた者は刀に心を操られ、人間を無差別に斬り捨てるようになってしまう。そして最終的に、携えた者は刀に斬られ殺される。その刀は霊媒師によって祓われ、封印された。しかし、その封印した場所から桜の木が生え始め、摩訶不思議の枯れない桜が誕生した。───て、言うのが伝説なんだって。」
エアルがサイトに書いてある文字を読み上げる。
「ふ~ん…じゃあその妖刀は千年桜の中にあるのかな?」
レビィが顎に手を当ててう~んと考える。
「さぁ?そもそも伝説だからあるかどうかも確かじゃないからね。」
エアルが携帯をイジりながら言う。
「う〜ん…でも何か気になるな〜…」
レビィはもやもやした感じを心に抱きながら、ふと窓の外を見た。すると、薄い桃色で染められた花びらがチラチラと雪のように降っていた。そしてその花びらを降らしている物を見た瞬間、
「わぁ〜!綺麗〜!」
レビィが思わず感激する声を上げた。それにより他の生徒達も同じ方向を見て、同じように感激の声を口々に上げる。
樹齢は名前から推測して少なくとも千年以上。高さは約50メートル、太さは半径約20メートルだろうか。どっしりと大地に鎮座するその巨大な大木から伸びる太い枝には無数の桜の花が咲いており幻想的な世界を作り出している。生徒達はそんな姿にただただ魅了されたのであった。
バスは広い駐場に到着した。周りには千年桜を見に来た観光客の車などが停車している。龍空高校一同は千年桜を見るために木の根元へ行ける坂道を登り始めた。駐車場から木の根元までの坂道は桜の花びらでピンク色に染色されていた。そんな道を通り、一同は千年桜の根元に到着した。
「これが千年桜か〜…」
レビィが千年桜を見上げながら呟いた時だった。
【─────】
「えっ?」
誰かに呼ばれたような感じして辺りを見渡した。だが、誰も自分に話しかけてきていない。
(気のせいだったのかな?)
レビィが1人考えていると、
【─────】
また誰かに呼ばれた。
(やっぱり誰かに呼ばれている。)
レビィはとにかく辺りを見渡す。だが、やはり誰も話しかけてきていない。
「どうしたのレビィ?シャインなら向こうにいるけど。」
そこに団子を食べているエアルが合流した。
「別にシャインは探してないわよ。」
レビィがムッと怒る。
「じゃあ何を探していたの?端から見れば結構変態じみた動きをしていたけど。」
「そんな動きしていたんだ私……」
レビィは少し照れてからエアルに誰かに呼ばれた感じがしたと説明した。
「空耳じゃない?少なくとも 私がレビィを見付けた時、レビィの周りには誰もいなかったよ。」
「そう…じゃあやっぱり気のせいだったのかな〜…」
「そういうことにしとこ。ずっと気にしてたら楽しめるものも楽しめなくなっちゃうよ。」
エアルがはいとレビィに団子を渡した。レビィはもやもやしながらも団子を受け取り、パクッと一口食べて、美味しいと言った。
千年桜を後にした龍空高校一同はそのまま近くの『桃色湖』という湖に移動した。この湖には千年桜から飛んでくる桜の花びらが一面に浮いているため、桃色湖と呼ばれているのだ。そんな湖には広い湖岸があり、そこでは他の観光客などがキャンプをしている。ちなみに湖岸にも桜の花びらが綺麗に敷かれている。
「ここでお昼まで自由時間となりまーす!」
ナナリーの号令で、龍空高校一同の自由時間が始まった。桃色湖の一角は遊泳可能となっており、近くの土産屋で水着のレンタルをしている。
「よし!レビィ泳ぐよ!」
エアルはレビィの腕を掴むと、レビィに抵抗する暇を与えぬ速さで土産屋に向かった。
「お前はどうするんだシャイン?」
既にトランクス型の水着に着替えて準備体操をしているスノウがシャインに尋ねる。
「俺は別に……」
シャインは遊泳を拒否しようとしたが、
「断る!」
と、喰い美味に否定して、スノウはシャインを米俵を担ぐように担いだ。
「お、おい!何すんだ!」
ガラケーのように折り畳まれた状態のシャインがバタバタと暴れるが、スノウは楽しそうにズンズンと桃色湖に近付いていく。そして、
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!」
スノウはシャインをポーンと桃色湖の中に投げ捨てたのだ。それによりシャインは高く水柱を上げた。そしてびしょびしょになったシャインが体中に桜の花びらを付けて立ち上がった。
「あははははははははは!」
スノウと周りにいた友人達がシャインの今の姿を見て爆笑する。
「てめぇ等……!覚悟は……!」
シャインの魔力がぐんぐん上がっていく。それに比例して、スノウと友人達の血の気がぐんぐん下がっていく。
「出来てんだろうなぁぁぁぁ!」
シャインの髪、瞳、そして体から放たれるオーラが白くなった瞬間スノウ達を襲い始めた。スノウ達は悲鳴を上げながら白い悪魔と化したシャインから逃げ惑う。
「あ~、あれはスノウ達死にましたね。」
遠くから紅生姜多めの『桜焼きそば』という土産屋の隣にある食堂で売られている焼きそばを食べながら白い悪魔の逆襲を傍観しているのはヒューズである。
「ヒューズは泳がないの?」
そこにアレンが合流する。
「疲れるから嫌です。そういうアレンも泳がないのですね。」
「僕も今回は遠慮しておきます。」
アレンの服の下はカギスタから受けた傷を治すための包帯を巻いているため、脱ぐことは無理だ。
「そうですか。」
ヒューズを簡単に返事をすると、焼きそばがなくなったプラスチックの皿を捨てるべく食堂に向かった。
「……てか、昼食前に焼きそば食べていたんだね…」
ヒューズの意外な大食いを目の当たりにしたアレンは少し驚いたのであった。
スノウ達をスノウ達だった物体にした白い悪魔ことシャインは天空化から戻ると、上の服の水を絞り出している。
「あ~…これはもうダメだな。」
もう乾かないと悟ったシャインは就寝用のジャージを取りに行くべくバスの方に行こうとした時、
「シャーイーンー!」
遠くから名前を呼ばれた。シャインは声がした方を見ると、赤い派手なビキニを着たエアルがのボーダーラインのビキニを着たレビィを引っ張ってこちらに走ってきていた。
「何だよ?」
半裸のシャインがエアルに尋ねる。
「見て見て!レビィ可愛いでしょ!」
エアルが恥ずかしがっているレビィをシャインの前に立たせた。
「ど、どう…かな…?」
モジモジと顔を赤らめながらレビィがシャインに感想を訊く。
「………良いんじゃねぇか。レビィらしくて。」
特に表情も変えずにシャインが率直な感想を言った。
「ホント!?変じゃない?」
レビィがシャインに顔を近付ける。
「あ、ああ。似合っていると思うぞ。」
流石に少し照れたシャインは目を逸らしながらも褒めた。
「ふふっ!」
レビィはシャインに似合っていると言われたことが嬉しかったのであろう、満面な笑みをシャインに見せた後、エアルを置いて先に湖に走って行った。
「ええっ!?ちょっと待ってよレビィ!」
エアルが慌ててレビィを追いかけて行った。またも1人となったシャインは嵐のように過ぎ去ったレビィとエアルを呆然と見送ってから、本来の自分の目的であった服を取りに行くことを思い出しバスの方に向かった。
(あれが…主人公の特権…か…爆…発…しろ…)
スノウ達だった物体がシャインに対して呪いの視線を浴びせる。しかし、シャインがその視線に気が付くわけなかった。
お昼になり、龍空高校の生徒達は食堂に集められた。食堂の中には到底入りきらないため、外に簡易宴会場が作られた。そんな宴会場の机の上には色々な料理が並べられており、立食バイキング式となっていた。
「それでは皆さん!頂きます!」
ナナリーの号令で、立食バイキングが始まった。生徒達はルールを破らない範囲で騒いだりして楽しんでいる。
「あれ~?またお会いましたね~!」
そこに、スクール水着を着た黄緑色の髪と瞳を持つフロウがひょっこり現れた。それにより、主に男子生徒達のテンションが見て分かるくらい上がった。
「また映像か?」
シャインがフロウに尋ねる。
「はい!」
フロウが元気良く答える。
「何でスク水なの?確か今年の夏曲の時はビキニだったのに。」
赤いビキニの上からパーカーを羽織っただけのエアルが尋ねる。
「さぁ?監督の趣味じゃないですか。」
フロウが真顔で答えるので、エアルは苦笑いするしかなかった。
「それより私もお腹すきました~!ご一緒させて貰ってよろしいですか?」
フロウが教師達に頼むと、教師達は快く承諾した。それによりフロウが龍空高校の昼食に合流した。昼食のお礼として、フロウはまた簡単なライブを開き、大いに盛り上がったのであった。
修学旅行2日目もそろそろ日が落ち始めた。夕日の日差しが千年桜を照らして絶景を作り出している。そんな絶景をバスの窓から眺めながら、龍空高校一同は今夜泊まるホテルへと到着した。勿論、ダイヤモンド財閥のバックアップ付きのホテルである。
「はぁ~…疲れた~…」
桃色湖で泳ぎまくったエアルは部屋に入るなりベッドにうつ伏せに倒れ、そしてそのまま寝てしまった。
「の○太並の速さで寝たわね……」
レビィはエアルの寝る速さに呆れながら隣のベッドに腰掛け、天井を眺めた。
(……千年桜の時のあの呼ばれたような感覚…あれは何だったんだろう…)
ぼーっとそんなことを考えるレビィであった。
時は進み、深夜0時。2日目とあって疲労が溜まったのであろう、1日目に夜中でも騒いでいた部屋の奴等もぐっすりと寝ている。
「ムニャムニャ…もう死刑でいいんじゃないかな~…」
物騒な寝言を言うエアルの右隣のベッドでは、模範のような綺麗な寝姿でレビィが寝ている。そんなレビィに、
【来イ……】
誰かが直接脳内に話しかけてきたのだ。
【千年ノ桜ノ元二来イ…!】
次の瞬間、レビィの目がフッと開いたのだ。青色の瞳には光がなく、どこか虚空を見ているかのようだった。しかしレビィはそんなこと気にもしないかようにベッドから下りると、部屋のドアを開けて出て行ってしまったのだ。バタンというドアが閉まる音を聞いたエアルが寝ぼけながらも目を覚ました。そして右のベッドを見てレビィの姿がないことに気が付き、ムクッと体を起こした。
(トイレと風呂の電気が付いてない。てことはさっきのドアの閉まる音は部屋を出て行った音?)
まだ半分くらい寝ている脳を使って推測するエアルがベッドから下りた。
「ん~…どうしたのエアル?」
レビィとエアルと同じ部屋で寝るモブ女生徒2人がエアルが立てた物音に気が付いて目を覚ました。
「ねぇ、レビィ知らない?」
エアルが夜中だということで、声量を低くして2人に尋ねる。
「トイレじゃないの?」
茶髪モブ生徒が言う。
「調べたけどいなかったの。てか、今この部屋のどこにもいないの。」
「まさか夜中の0時に部屋を出たの?あの真面目なレビィに限ってそんなことある?」
金髪モブ生徒が言う。
「私も考えられないけど……でもそうしか考えられないじゃない。」
エアルはモブ生徒2人にそう言うと部屋のドアを開け、顔だけ廊下に出して左右を確認する。だが、時間も時間なので誰も歩いていない。
「男子の部屋にでも行ったんじゃない?」
金髪モブ生徒が予想する。少し説明をすると、男子と女子の部屋は階で離されている。修学旅行あるあるであろう。
「レビィが行く男子の部屋って言えば……」
エアルがう~んと考えてから、
「「「シャインの部屋。」」」
モブ2人と声を合わせて言った。
「ちょっと電話してみる。あいつ電源付けてるかな~?」
エアルがホテルのコンセントで充電している自分の携帯を取ってシャインに電話をかけた。
ブルルルル!ブルルルル!と同じくホテルのコンセントで充電されている携帯が震える。その振動音をシャインの耳がキャッチし、それが引き金となって目が開いた。百人アンケートで百人が不機嫌と答えるくらい不機嫌な顔をしているシャインはのそっとベッドから出ると、振動する携帯を手に取って耳にあてた。
「誰だ?」
シャインが不機嫌剥き出しで尋ねる。
「あっ、繋がった。もしも〜し、エアルだけど。」
「……夜中に何の用だ?」
「そっちにレビィ行ってない?」
「ああ?来てるわけないだろ。」
「そっか〜…」
「レビィがどうかしたのか?」
「あっ、えっとね、レビィが突然消えちゃったの。」
「……レビィが?」
シャインの顔が真剣になった。
「うん。」
「どういうことだ?」
「私にも分からないよ。起きたらもういなかったもん。」
「……そうか。じゃあ今からお前の部屋に行く。」
「行くって…どうやって?見張りの先生にバレるよ。」
「窓を開けておけ。」
そう言ってシャインが電話を切った。エアルは意味は分からなかったが、とりあえずシャインに従い、部屋の窓を開けた。そして窓を開けて約10秒後、ヒラリとシャインが窓から入ってきた。
「スゴ〜いシャイン!」
金髪モブ生徒が小さく拍手する。
「まぁ飛べるしな俺。」
サラッと返事をしてからエアルと合流する。
「廊下にはいなかったのか?」
シャインがドアを開けて、先程エアルがしたように顔だけを出して左右を見る。
「うん。さっき見たけどいなかったよ。」
シャインの下側から同じように顔だけを出すエアル。
「そうか…」
その時、シャインがあることに気が付いた。
「この廊下、微かに風が吹いている。」
「風?」
「ああ。廊下のどこかの窓が開いているんだ。」
「まさかレビィ!ホテルの外に行ったの!」
エアルの驚く声が大きかったので。シャインが唇に人差し指をあててシーッと注意した。
「それってヤバくない?先生呼んだ方がいいんじゃない?」
茶髪モブ生徒が言う。
「いや、お前達は何もせずに部屋にいといてくれ。俺とエアルで少し調べてくるから。」
シャインがモブ2人に指示する。
「大丈夫なの?」
金髪モブ生徒が心配する。
「心配すんな。行くぞエアル。」
「えっ…あっ、うん。」
シャインとエアルは部屋を出て、風が吹いてくる方向に歩いて行った。その途中、
「何で先生に言っちゃダメなの?」
エアルが小声で尋ねる。
「革命軍が関わっていた場合、龍空高校を巻き込むわけにはいかないからな。」
シャインが前を向いたまま答える。
「そっか、そうだよね。」
エアルが納得する。そんな話をしていると、開いた窓の所に到着した。
「ここか。」
シャインは窓から顔を出して辺りを見る。だが、時間が時間のため人影は全くなった。勿論、レビィの姿もない。
「やっぱ外には出ていないんじゃない?この窓はたまたま開いていただけで。」
エアルが言う。
「その可能性もあるか…じゃあとりあえずホテル内を探すか。」
そう言ってシャインが移動を始める。エアルも後を追うとした時、窓から千年桜が見えた。そして、ある2つの事を思い出した。
「はっ!」
「ん?どうしたエアル?」
シャインがエアルの方を振り返る。
「レビィがさ、千年桜を見に行った時、誰かに呼ばれた感じがしたって言っていたの思い出したの。」
「何だそりゃ?」
「私にも良く分からないんだけど…あとね、千年桜にまつわる伝説があるの。」
「伝説?」
エアルがシャインに千年桜の妖刀の話をすると、シャインは苦笑いをした。
「おい…何か俺今すっげぇ嫌な感じがしたんだが…」
「シャイン…多分私同じこと考えていると思う…」
2人は窓から見える千年桜を眺める。そしてシャインが告げる。
「……行くぞエアル。」
「えっ、どこに?」
「千年桜の所にだよ。」
シャインはひょいとエアルをお姫様抱っこすると、窓からひらりと飛び降りた。
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
心の準備をしていなかったエアルは思わず叫んでしまった。そんなエアルを無視して、シャインは慣れたように地面に着地した。
「よし、着いたぞ。」
シャインはエアルを地面に立たす。その瞬間、エアルがシャインの頭をスパーン!と叩いた。
「いきなり何すんのよ!死んだらどうすんの!」
「いって~な…死ななかったからいいだろ。」
「5階よ5階!普通だったら死んでる高さなの!あとやるんだったら心の準備くらいはさせなさいよ!」
「あ〜悪かった悪かった。だから静かにしてくれ。」
シャインが適当に謝る。
「……で、どうやって行くの?このホテルから千年桜まで歩いたら結構あるよ。」
エアルが声量を下げて尋ねると、
「飛ぶ。」
即答でシャインが答える。
「へっ?」
エアルの顔がポカンとなる。そんなエアルの手首を掴んだシャインは、
「[隼”空”]!」
足に風を纏うと、夜空に向かって跳躍した。そしてそのまま空中をかなりの速さで走るように飛んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
エアルの絶叫が夜空に響いた。
シャインの高速空中歩行によってあっという間にバスを停車させた千年桜付近の駐車場に到着した。
「よし、着いたぞ。」
シャインがエアルの腕を離した瞬間、エアルがまたスパーン!とシャインの頭を叩いた。
「だから心の準備をさせてよ!何をするにも唐突なのよあなたは!」
「へいへい分かりましたよ。」
シャインは適当に返事をしてから千年桜に通じる坂道の方を向いた。
「……いるかなレビィ?」
エアルも坂道の方向を向いた。
「レビィかどうか分からないが…誰かはいるようだぞ。」
「どうして分かるの?」
「見ろ。」
シャインが地面を指差した。エアルは差された場所をジーッと睨み付けるように見つめる。そして気が付いた。
「あっ、足跡がある。」
この周辺は散った花びらが地面に絨毯を敷いたように落ちている。そんな花びらに足の形が付いており、それが千年桜の方に続いている。
「レビィの足跡かな?」
「さぁな。行ってみれば分かるさ。」
そう言ってシャインは足跡を辿って千年桜の方に向かった。エアルはシャインの後ろを付いて行った。
千年桜の根元付近まで着たシャインとエアル。すると、千年桜の真ん前に人影を発見した。暗くてよく見えないが、シルエット的に女子のようだ。2人は少し警戒しながら近寄っていき、それが誰か認識出来る距離まで近付くと、
「あっ!レビィ!」
エアルが安堵の顔を浮かべながら叫んだ。そう、その人影とは探していたレビィであった。しかしレビィは千年桜の方を向いたまま無反応であった。
「こんな夜中に何やってるのよ。ほら、先生にバレる前に帰るよ。」
そう言いながらエアルがレビィに近付いてく。が、それをシャインが腕を掴んで止めさせた。
「ちょっ!?何なのシャイン!?」
いきなり掴まれたエアルはシャインの方を向いて怒った。
「レビィの様子が変だ。」
そう言いながらエアルの腕を離すシャイン。
「えっ…?」
エアルがレビィの方を向き直した。2人が視線を向けていると、ようやくレビィがシャイン達の方を向いた。そしてゆっくりと両目を開いた瞬間、魔力察知が使えないシャインとレビィでも分かるくらい不気味な魔力がレビィから放たれた。
「な、何だこの感じは…!?」
シャインは風砕牙に手をかけ、抜刀の構えをする。
「レ…レビィ…だよね?」
シャインの隣にいるエアルが恐る恐る尋ねる。その足は無意識に震えている。
今のレビィは髪が漆黒に染まり、瞳からは光が消え、どこか虚空を見つめるかのような赤い瞳となっており、ナイトの姿となっている。だが、シャインもエアルもレビィから放たれる魔力を感じ、直感で理解した。今自分達の目の前にいるのはレビィであってレビィでない『何か』だと。
2人が目の前にいる『何か』と警戒していると、『何か』がスッと右腕を横に出した。その動きに反応したシャインが少しだけ刃を見せる。そして次の瞬間、『何か』の右手に桜色に不気味に光る刃を持つ刀が出現し、それをガシッと握り締めた『何か』が2人に向かって地面を蹴り、高速で間合いを詰めた。どうやら狙いはエアルのようだ。しかし、当のエアルはこの刹那の速さに全く反応が出来ておらず棒立ちである。
「あぶねぇ!」
刀の刃がエアルを切り裂く寸前、シャインの風砕牙がそれを阻止した。シャインと『何か』はそのまま鍔迫り合いとなった。
「てめぇ何者だ…!レビィの体を返しやがれ…!」
シャインが『何か』を押し始める。すると『何か』は風砕牙を綺麗に払うと、シャインと間合いとった。そして桜色に光る刀を地面に刺した。その瞬間、周囲の地面から突如突風が発生し、辺り一面に落ちていた大量の花びらが舞ったのだ。それにより視界を奪われ、シャインはエアルと『何か』の位置が分からなくなってしまった。
「ちっ…!」
シャインが辺りを警戒していると、高速で動く足音が聞こえた。
──が、聞こえた頃にはもう遅かった。
──桜舞う中から現れた桜色に光る刃。
──刃の先は寸分狂うことなくシャインの心臓を向いていた。
────ドシュッ!
──刃が人体を貫く音が、桜吹雪の中に鈍く響いた。
眼鏡「どうも、作者です。本編の内容がああいう感じなので、ここにエアル達を登場させるのは流石に違うと思い、自ら現れました。最近投稿ペースが遅いのに中身が短くてすいません……。言い訳をさせて頂くと、リアルの方が忙しくて小説を書く時間がなかなかないのです……。本当に申し訳ありません……。ですが!途中で止めるということはしないので安心して下さい!というわけで次回をお楽しみに!」