表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園  作者: 眼鏡 純
79/88

79話 修学旅行の夜(2)

シ「さて、早くも修学旅行から離れて行きそうな感じだが、大丈夫なのか?」

ヒ「大丈夫ではないでしょうね。この小説、別に日常系ではないですから。」

ア「まぁ何かは起こるんだろうね…」

ス「とにかく見て行くしかねぇってことだな。じゃ、本編をどうぞ。」

 「師匠って…シャイン、お前我流じゃなかったのか!」

スノウが尋ねると、シャインはシュロムの手を払ってから答えた。

「我流だよ。ただ基礎はシュロムから教わったってだけ。」

「こやつは元から能力が高かったからのう。」

シュロムがまたシャインの頭を掴んで髪をわしゃわしゃする。それによりまたシャインの顔が嫌気に染まる。

「シャインの師匠ということは、あなたを味方と判断してもいいんですね?」

アレンがシュロムに尋ねる。

「ん?まぁそうじゃな。──何じゃ、疑い深い小童じゃのう。」

シュロムが少し呆れる。

「すいません。肩書きが肩書きなんで。」

アレンの回答に対してシュロムが少し首を傾げた時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。そして数人の警察官と龍空高校の教師達がこちらに走ってきた。

「警察です!魔物が暴れていると連絡があったのですが。」

「あっ、それなら解決しましたよ。」

レビィが説明する。

「そうなんですか。怪我の方は?」

「それも大丈夫だよ。」

エアルが少し動いて異常がないことをアピールする。

「そうですか。では、我々は現場検証をして来ますので何かありましたら連絡をお願いします。」

そう言い残し、警察官達は滝の方に行ってしまった。

「さてと…君達にも色々と聞かせてもらおうか。」

体育教師がシャイン達を睨んだ。


──シャイン達はホテルに戻ると、こっぴどく怒られた。


 説教後、シャイン達はホテルのロビーの休めるスペースにいた。

「あ〜あ!何か納得いかない説教だったな〜!」

置いてあるソファーに飛び込んだスノウは不機嫌であった。

「確かに。あそこで私達が戦っていなければ確実に死人が出ていたはずですからね。」

ヒューズがスノウに同意する。

「お礼くらいあれば良かったのに。」

エアルもプンプンと怒っている。それを聞いていたシャインの師匠らしい老人、シュロムがわっはっは!と笑った。

「まぁ勘弁してやれ。大人が逃げて子供が戦ったなんて大人という立場のプライドが許せんのだろう。じゃが心の中では感謝しているはずじゃから許してやれ。」

「はぁ…大人って面倒。」

エアルがため息をつく。その反応を見てシュロムがまた笑った。

「それより、本当にありがとうございますシュロムさん。」

アレンが改めて礼を言う。

「気にするな。」

「しかしあの時ドラゴンフィッシュが使った力、あれは一体何だったのですか?シャインが『気合(きあい)』と言っていましたが。」

アレンがシュロムに尋ねると、シュロムが柱にもたれ掛かっているシャインに視線を向けた。

「何じゃシャイン、気合を知っておるのか?」

「……まぁな。」

「誰が使ったのだ?」

「アイドルのマネージャー。」

「マネー……ジャー…?」

シュロムが首を傾げる。

「嘘は言ってねぇぞ。」

「そ、そうか。」

シャインの目が一切揺らいでないのでシュロムは納得するしかなかった。

「あの、『気合』って何なのですか?」

レビィがシュロムに尋ねる。

「気合と言うのは魔力ではなく、『力そのもの』を周囲に衝撃波として放つ技…と言えば分かり易いかのう。」

「衝撃波って、そんな感じじゃなかったぞ。」

スノウが言う。

「衝撃波と言っても相手を吹き飛ばすとかそう言うものではない。『気合』は所謂相手を『威圧』する力じゃ。お主等はドラゴンフィッシュに威圧されたのじゃ。それにより筋肉が緊張してしまって麻痺を起こし、体の自由が失われるのじゃ。」

「へぇ~、そんな力もあるんだ。」

エアルが関心する。

「じゃあさ、あのドラゴン魚も使えたんだから俺にも使えるのかな?」

スノウがシュロムに尋ねる。

「お主に才能があればの。魔法とは違い、気合を操れる者はかなり少ないからの。」

「そっか~…使えたらいいんだけどな~…」

スノウが拳に力を込めてみるが、勿論何も起こらない。

「そう言えば。」

シュロムが何か思い出したようだ。

「…?どうしたんだよ?」

シャインが尋ねる。

「儂、まだお主等が誰か全く分からんままじゃったわい!」

シュロムが豪快に笑う。

「そう言えば自己紹介していませんでしたね──僕はアレン・ルビーと言います。」

緋色髪の少年が自己紹介した。

「私はレビィ・サファイアです。」

紺色髪の少女が自己紹介する。

「俺がスノウ・シルバーだ。」

銀髪の少年が自己紹介する。

「ヒューズ・クオーツです。以後お見知り置きを。」

茶髪の少年が自己紹介します。

「私はエアル・ダイヤモンドです。」

オレンジ髪の少女が自己紹介する。

「アレンにレビィにスノウにヒューズにエアルじゃな!よろしくのう!」

「はい、よろしくお願いします。」

レビィが代表で返事をした。

「そう言えばシャイン。」

シュロムがシャインに視線を向ける。

「何だよ?」

何故か不機嫌そうな顔をしているシャインが返事をする。

「ミリアとバージェスは元気か?」

瞬間、周りの空気が固まった。

「……?何じゃこの空気は?」

シュロムが空気は悪くなったことを察する。

「……2人共元気さ。」

少し間を作ってからシャインが答えた。

「そ、そうか。」

シュロムが返事をした後にまた変な空気が流れた。その空気を消したのはナナリーであった。

「君達ここで何しているの。早く部屋に戻りなさい。」

「……はーい。」

エアルが返事をして部屋へと戻って行く。それに続くようにヒューズとアレン、スノウも戻って行く。そしてシャインも無言で部屋へと戻って行った。そして最後にレビィが戻ろうとした時、

「すまぬレビィ殿、少し尋ねたい。」

シュロムがレビィを呼び止めた。

「何でしょうか?」

レビィが振り返る。

「シャインとミリアとバージェスについて何か知っておるか?」

「……こういうのは私の口から言うものではないと思います。でも大丈夫です。ちゃんと3人なりの答えは出していますので。」

レビィは一礼してから部屋へと戻って行った。1人残されたシュロムは無言でソファーに座り、そして心配した顔で天井を仰いだ。



 夕方になり、生徒達は夕食を食べるべく宴会場に集められた。かなりの人数だが余裕で入ってしまうこの宴会場はどれだけ広いのであろうか。中華屋などにある回転テーブルに5人ずつで座っていく生徒達。そしてテーブルに置かれている豪勢な料理に興奮する。

「この料理もダイヤモンド財閥のバックアップにより豪華にしましたー!皆〜!私に感謝してよね〜!」

生徒達の前でマイクを使って話すエアルに生徒達が各々感謝の言葉をかける。

「それでは皆さん!頂きまーす!」

エアルの号令を後に生徒達も頂きますと言い、楽しい夕食が始まった。

「うんめぇ〜!」

肉を食いながら叫ぶスノウ。

「旨いのは分かるけどもうちょっと綺麗に食えよ…」

隣のシャインが苦笑いした。


 数十分後。突然宴会場が暗転した。ザワザワとなる生徒達。そして宴会場に何かの曲のイントロが流れた。それにより生徒達のザワザワが更に大きくなる。そして宴会場の扉にスポットライトがあたり、現れたのは、

「龍空高校の皆さーん!こんばんはー!」

長い黄緑色の髪をツインテールにして、黄緑の瞳を持った今人気急上昇のアイドル、フロウ・アドページであった。人気アイドルの登場に生徒達のテンションが一気に上がった。

「今日は皆さんの修学旅行がより楽しくなってもらうために歌うよー!」

フロウが生徒達を盛り上げる。そしてそのまま自分の曲を歌い始めた。

「これも用意したの?」

レビィがエアルに尋ねる。

「えっ!何か言った!」

ライブ同然のテンションで楽しんでいるエアル。その姿を見て、これは用意したものではないなと悟ったレビィであった。


 フロウのサプライズライブが終わり、食べ終えた生徒から部屋へと戻って行く。

「さて、俺達もそろそろ部屋に戻ろうぜ。」

そう言ってシャインが席を立つ。

「そうだな。風呂にも入らなきゃいけないし。」

モブ男子生徒の言葉にピクッと反応したのはスノウであった。

「そうか…風呂か…」

不気味な笑みを浮かべるスノウを見て、シャインは嫌な予感しかしなかった。



 「今ここに集いし同士達よ!我々は今から男の桃源郷(ユートピア)へ向かう!全てを捨てる覚悟で行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」

下半身に白いタオル1枚巻いたスノウが高く拳を突き上げると、

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

同じく下半身に白いタオル1枚巻いた男達が雄叫びを上げて拳を突き上げた。

「その団結力を他のことに使えないのかこいつ等は…」

スノウと他の男達の燃える眼光とは真逆の冷たい視線を向けるシャインは湯気が立つ湯船の中にいる。

「何かザファールスのお風呂でも見た光景だね……勢力が違うけど……」

シャインの右隣にいるのはアレンである。中性的な顔で三つ編みを解いているため、ぱっと見女性に見えてしまう。

「おや?今回お前は参加しないのか?」

シャインは左隣に入ってきたヒューズに訊く。

「私は失敗から『学び』ますから。」

ヒューズが曇った眼鏡をクイッと上げる。

「学ばない馬鹿はあそこで先陣きってるけどな。」

ぞろぞろと露天風呂に向かう男達の先頭を歩くスノウを見ながらシャインが呆れる。

「それに、シャインに少し聞きたいことがあります。」

「聞きたいことだと?」

「……シュロムさんとはどういう人なのですか?」

「それ、僕も聞きたいな。」

アレンとヒューズがシャインに注目する。

「……素性は一切分からない。」

「分からないんですか?」

「教えてくれなかったんだよ。ま、分かるとしたら…超人並に強いくらいかな。」

「そんなに強いの?」

アレンが尋ねる。

「そうだな〜…う〜ん…とにかく強い。」

シャインがキッパリ言い切った。

「そんな言い切られたら何も言えないじゃないか…」

アレンが苦笑いする。

「とにかくあいつは剣術であろうと体術であろうと弓術であろうと最強の男だ。」

「へぇ~…そうですか。一度手合わせお願いしたいですね。」

ヒューズが少しシュロムに興味を持った口振りをして、眼鏡を少し上げた。


 一方その頃スノウ率いる『NOZOKI隊』は露天風呂に到着していた。露天風呂はよくある竹の柵で区切られている。

(ここからは声を殺し、物音を立てず、自分は自然の一部だと思え。)

と、ジェスチャーで伝えるスノウ。

(ラジャー!)

こちらもジェスチャーで応答するNOZOKI隊の男達。端から見れば何故そんなジェスチャーで伝わるのか分からないが、志が同じ者達には伝わるようだ。まずスノウ達は音を立てずに覗けるベストポジションを探し始める。すると1人の男が雰囲気作りのために置いてあった大岩の上から見えると報告する。その瞬間、我が先だと男達がベストポジションの取り合いを始めた。その争いをスノウが一瞬で鎮めた。

(落ち着けお前達。ここで争って桃源郷(ユートピア)を逃してしまっては意味がないぞ。)

スノウのジェスチャーでNOZOKI隊の男達は落ち着きを取り戻した。

(じゃあどうしたらいいんですか隊長?)

男の1人がジェスチャーで尋ねる。

(この世には簡単に出来る便利なフェアゲームがある。それは……ジャンケンだ。)

スノウがジャンケンを提案する。異論も反対も出ず、男達はジャンケンで順番を決めることにした。

(最初がグー!ジャン…ケン…!)

全員が手を振り上げ、そして己の全てを賭けて振り下ろそうとした瞬間だった。スノウは一目散にベストポジションの大岩に向かって走り出した。

「スノウてめぇぇぇぇぇ!」

完全に出し抜かれた男達が思わず叫んでしまった。

「ふははははは!馬鹿め!こんなもの見た者勝ちだー!」

そう叫びながらスノウは大岩を登り、遂に男の桃源郷(ユートピア)を覗ける。そう思った。


──しかし、世の中『お約束の展開』というものがある。


スノウが竹の柵から顔を出した瞬間、ギリギリ擦らない程度に銃弾が無数に飛んで来たのだ。スノウは驚きのあまり固まってしまい、大岩から落ちた。その瞬間、竹の柵の向こうからまた無数の銃弾が飛んで来たのだ。銃弾は男達の周りに穴を空けた。男達が半泣きで両手を上げたまま固まっていると、

「楽しそうで何よりですが、次こんなことすると威嚇射撃ではすみませんから。」

竹の柵向こうで片腕を武器化魔法(トランスマジック)によってガトリングに変えたフロウがニッコリと笑った。男達は瞬時に正座になると、

「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

とても美しく見事な土下座をした。そしてこの後、NOZOKI隊が女子の通報によって教師達に怒られたのは言うまでもない。




 ガトリング制裁少し前の女湯。

「お〜!色んなお風呂がある〜!」

風呂場に入ると同時にペタペタと走るエアルはタオルを巻いておらず全裸である。

「ちょっとエアル!走ると危ないわよ!」

エアルを注意しながらレビィが後から入ってくる。レビィはちゃんとタオルを体に巻いています。

「見て見てレビィ!露天風呂があるよ!」

エアルが露天風呂に行こうとするのを、

「ダメよエアル。先に体を洗ってからじゃなきゃ。」

まるで母親が子供を叱るようにレビィが優しく注意する。

「はーい。」

エアルは素直に従い、2人は洗い場に行って体などを洗い始めた。すると、

「お隣失礼しま~す。」

と、明るい声が聞こえてきた。レビィは髪の毛を洗いながら声がした方を向くと、そこには先程までサプライズライブをしてくれたフロウが立っていた。

「フロウ!」

予想外の人間の登場に驚くレビィ。

「そんなに驚くことないじゃないですか〜。」

少しムスッとなりながらフロウも体を洗い始める。

「フウたんさっきはありがとう!すっっごく楽しかったよ!」

レビィを挟んで体を洗うエアルが礼を言う。

「そんなに楽しんで頂いたらこちらも嬉しいです。」

フロウが微笑んで返事をする。

「ねーエアル!早く露天風呂行こー!」

その時、エアルは女友達に呼ばれた。

「あっ!待ってー!じゃあレビィ!私先に行くね!」

「えっ!?ちょっとエアル!?」

エアルはレビィとフロウを置いて先に露天風呂に向かった。2人だけになったレビィとフロウ。少し沈黙となってから、レビィがある事を尋ねた。

「ねぇフロウ、BOMに言ったあの言葉の意味…教えてくれない?」

「……私に聞くということはシャインさんは話していないんですね。」

フロウが泡をシャワーで流す。

「お願い教えて。本当にあなたはシャインの妹なの?」

レビィが真剣な顔でフロウを見つめる。フロウはチラッとレビィを横目で見てから、

「……仮に私がそうだとして、何かレビィさんに関係ありますか?」

と、少し冷たい問いかけをした。

「関係はないけど…でも!あんなこと聞いて気にならない方が変よ!」

「……それもそうですね。──ですが、今はお話することは出来ません。」

「どうして!」

「必ずお話はします。その日が来るまで待っていてくれませんか?」

「…あなたもシャインと同じことを言うのね。」

「そうなんですか?」

「ええ。──分かったわ。待つから必ず話してね。」

「はい、お約束します。」

フロウが笑って約束を交わす。

「さて!私達も早く露天風呂に行きましょう!」

洗い終わったフロウは同じく洗い終わったレビィの手を掴んで露天風呂に向かった。


 「あっ!レビィ!フウたん!こっちこっち〜!」

先に露天風呂を堪能しているエアルがレビィとフロウを手招きする。

「えっ!?やばっ!嘘!?フウたんじゃん!」

女友達がフロウに気が付きテンションが上がる。周りにいる他の女生徒も気が付き、同じくテンションが上がっている。そんな周りの女生徒達に笑顔で手を振って対応するあたりはやはりテレビなどに出ているため手慣れている感じであった。

「あ〜!気持ちいい〜!」

露天風呂に浸かり、う〜んと背伸びをするレビィ。

「レビィさん、今度は私から質問していいですか?」

レビィの隣で浸かるフロウが訊く。

「なに?」

レビィが首を傾げる。

「シャインさんのこと好きですか?」

直球の質問にレビィは固まってしまった。そしてレビィの顔はどんどん赤くなっていく。

「なっ!なななななななななに言ってるのこの子は!」

レビィの中では平常心で言っていると思っているが、もう動揺が隠しきれていない。この反応を見たフロウは、『あっ、好きだなこれは』と察した。

「じゃあどういう関係なんです?」

察した上で質問するフロウ。

「えっ!?えっと〜…」

レビィが必死に考えていると、

「2人はキスして従える者と仕える者の関係になったんだよ。」

エアルが代わりに答える。

「間違ってないけどその言い方止めて!」

レビィが電光石火にツッコんだ。そして顔を赤くしながらもフロウに正しい情報を伝えた。

「へぇ〜、(あるじ)と夜叉の関係ですか〜。何か面倒な関係ですね。」

「そ、そうよ!面倒な関係なの!とにかくそれ以外の関係はないの!」

「はいはい、分かりましたよ。」

必死に言うレビィをにやにやしながら納得してあげるフロウであった。その時、フロウがある気配を感じ、ジッと竹の柵の方を見た。

「どうしたの?」

エアルがフロウに尋ねる。

「いえ、何か気配が…少し失礼。」

フロウはそう言うと武器化魔法(トランスマジック)で目をモーションセンサーに変えた。

「こ…これは…」

気配の正体が分かると、フロウはげんなりと呆れ顔となった。

「どうしたの?何か見えたの?」

エアルがまた尋ねると、

「皆さん大きな音が鳴りますので耳を塞いでいて下さい。」

そうレビィ達含め周りにいた生徒に忠告すると、フロウは湯船から出て体にタオルを巻いた。そしてペタペタと竹の柵付近まで歩いていくと、無言で腕をガトリングに変えた。そしてその数十秒後、竹の柵から銀髪の男が顔を出した。その瞬間、フロウのガトリングが発射された。


──そして結末はNOZOKI隊の土下座へと続くであった。





 ガトリングの音を脱衣所で聞いたのはヒューズ、アレン、そしてシャインであった。

「ん?何だ戦争か?」

就寝用ジャージに着替えるシャインが少しだけ身構える。

「どうやら哀れな男達に制裁が下ったようですね。」

茶色の髪をドライヤーで乾かすヒューズが言う。

「まぁ当然の結果だね…」

苦笑いするアレンが長い緋色の髪を三つ編みにしていると、ピロピロピロとアレンの携帯が鳴った。

「おいおいアレン!先生に見つかるぞ〜!」

モブ生徒からの茶々を笑って済ましてからアレンはロッカーの中から電話を取った。そして相手を見た瞬間、真剣な顔となり、電話に出た。

「もしもしアレンです。……はい……はい……分かりました。行けるタイミングあれば向かいます。」

簡単な会話が終わると電話を切った。

「どうした?」

シャインがアレンに尋ねる。髪を乾かし終えたヒューズも合流する。

「SMCから。ビュティフルの滝を調査していた警察官達が行方不明になったらしい。」

「あ〜…あの時の警察官か。」

シャインが記憶を遡って思い出した。

「あの滝にドラゴンフィッシュのような凶暴な魔物がまだいたのですか?」

ヒューズが尋ねる。

「いや、あの滝にはドラゴンフィッシュ以外に何も生息していない。」

「では警察官は何処に……」

3人が考えていると、

「ほらお前達、用が済んでいるなら早く部屋に戻りなさい。」

教師に戻るように言われ、会話はそこで終わってしまった。しかし





 時は流れ深夜。ほとんど人間は眠りに落ち、静かな世界が訪れた。ビュティフルの滝は当たり前だが深夜でも勢い良く水が流れている。そんなビュティフルの滝の滝壺の底には、昼間とは違い、ドラゴンフィッシュの死骸と数人の警察官の死体が沈んである。そして、今は木片の山となっている土産屋の中にある少し空いたスペースに、警察官達を死体と変えた人物が寝ている。

「……ん?ふあぁ〜…寝過ぎたな〜…夜になってら…」

動きやすい和服を着た黒髪の男が、寝ぼけて霞んでいる黒の瞳で周りを見渡しながら立ち上がった。そして近くに置いてあった自分の業物を腰に下げた。足には下駄を履いている。

「ボス怒ってんだろうな〜。ま、こいつを持って帰ったら許してくれるだろう。」

和服の男が持っていたのは黒い石。しかも鈍く光っている。

「さてと、帰りますか。」

和服の男は黒い石を懐に戻した瞬間だった。

「犯人はあなたでしか……カギスタ。」

誰かが和服の男の名を呼んだ。

「おやぁ〜?何でこんな所にお前がいるんだ?」

カギスタが睨むその先には、緋色の髪を風に靡かせながらこちらに銃口を向けている少年、アレンが立っていた。

「ちょっと校則違反をしたからここにいるんだ。」

睨み返すアレン。

「あらら〜、悪い生徒さんだ。」

カギスタは茶化しながらも自然に手を柄に伸ばす。

「お前が警察官を殺したな?」

アレンが問う。

「おいおい、決めつけはいけないね。」

カギスタがニタニタと笑う。

「お前の体から新しい血の匂いがする。」

それを聞き、カギスタはピクッと反応すると、

「…お前、獣かよ。」

と言って笑いを消した。

「ちょっと…嗅ぎ過ぎたかもしれないな。」

アレンの目がどんどん鋭くなっていく。

「…ま、何かバレているっぽいし隠す必要もないか。──そうさ。俺が警察官達を殺した。」

カギスタが容疑を認めた。だが反省の色はない。

「何故殺した?」

アレンが問う。

「別に殺す気はなかったんだ。ただ…人の作業を邪魔するからいけないんだ。」

カギスタが軽く答える。

「……それだけの理由で殺したのか?」

アレンのハンドガンの握る手が強くなる。

「……だったら?」

カギスタが煽るようにニヤッと笑った瞬間、アレンの引き金が引かれ、魔力の銃弾が発射された。しかし、銃弾はカギスタに命中することなく、虚しく木片に穴を空けただけであった。

「ひゅう〜♪危ない危ない♪」

カギスタがアレンの背後に着地する。アレンは振り返ると同時にハンドガンを連射するが、カギスタが高速で走って回避する。アレンは懐からもう一丁ハンドガンを取り出し、高速移動するカギスタを二丁のハンドガンを連射しながら追いかける。しかしなかなか命中せず、地面や木などに風穴を空けるだけであった。それでもアレンは撃ち続け隙を与えないようにしていた。カギスタはこの状況に苛立ちを覚え、遂に反撃に転じた。

「流石に撃ち過ぎだ![閃風波]!」

刀を抜くと、エルクワタストーンよって使用出来る偽りの閃風魔法の斬撃を放った。

[属性変換(アトリビュートチェンジ)(ウィンド)]!」

アレンは片方のハンドガンの銃弾の属性を風に変えると、自分の足下に銃口を向けて引き金を引いた。放たれた銃弾は爆風を発生させ、アレンの体を空に飛ばしたのである。この大ジャンプによりアレンは光る風の斬撃を回避した。そしてカギスタからの追撃がくる前にアレンは自分の背後に向けて風属性の銃弾を撃ち、そして瞬時に属性を変えていない ハンドガンの銃弾を撃って、風属性の銃弾に命中させた。それにより爆風が発生し、その爆風を利用してアレンはカギスタに向けて高速で突進した。

「くっ…!」

カギスタが反撃しようとしたが、アレンがカギスタの目の前に来る方が速かった。アレンはカギスタの顔面に強烈な蹴りを喰らわして吹き飛ばした。飛んだカギスタは土産屋跡の木片の山に突っ込み、砂煙を上げた。地面に着地したアレンは油断なく砂煙に向けて銃口を向ける。

「ゲホッ…!ゲホッ…!やってくれたなこのガキ…!」

少し頭にきたカギスタが砂煙の中から現れた。

「流石にちょっと痛い目にあってもらうぞ…!」

次の瞬間、カギスタの髪が黄緑一色と化した。

「能力解放か…!」

アレンが引き金を引こうとした。だが、カギスタがアレンの目の前まで移動する方が速かった。カギスタは掌底でアレンの顎を殴って吹き飛ばした。

「ぐっ…!」

アレンは体勢が立て直せず地面に転がる。そして数回横回転してからなんとか体勢を立て直して止まり、カギスタの方を睨んだ。しかし、見えたのは風の斬撃であった。

「くっ…!」

アレンは斬撃を消すべく銃口を向けた。だが、その斬撃は風となって勝手に消滅し、後ろからカギスタが高速で現れた。

(しまった!目くらましか!)

カギスタの刀の刃がアレンの左肩に突き刺さった。

「ぐっ…!」

アレンは痛みによって左手に持っていたハンドガンを落とす。だが、右手に握ったハンドガンは落とさず、カギスタの横腹に銃口を向け、引き金を引いた。それによりカギスタの横腹に風穴が空いた。カギスタはバックステップでアレンとの距離をとった。

「いって~な…クソガキが。」

カギスタが横腹に空いた穴からダラダラと血を流しながらアレンを睨む。

「痛がるのならもっとリアクションとってくれよ…。」

左肩の傷から血を流すアレンは少し息を切らしている。

「なぁ…そろそろ帰らしてくんね?今ここでお前と戦う意味はねぇんだよ。」

カギスタが能力解放から戻る。

「…目の前の『悪』を逃がす『正義』があるかよ。」

アレンが口角を少し上げながら銃口を向ける。

「そっか…ならその『正義』…破壊させてもらう!」

カギスタは地面を蹴ると同時に能力解放になった。そしてアレンの目の前まで来ると、強烈な拳を腹にあびせた。

「ゴハッ…!」

アレンが口から血を吐き、大きく吹き飛ぶと、カギスタは高速で吹き飛ぶアレンの下に潜り込み、そして天高く蹴り上げた。

「ガフッ…!」

空を舞うアレンはダメージが大きく体が動かない。カギスタはそんなアレンに掌を向けた。すると、アレンを360度取り囲むように無数の風の鳥が出現した。

[鳥籠(とりかご)]。」

カギスタがアレンに向ける掌を拳に変えると、アレンを取り囲んでいた風の鳥が一斉に突撃した。アレンは逃げられず全て喰らってしまった。加えて、風の鳥は互いに衝突すると荒れ狂う爆風を発生させ、アレンに更にダメージを与えた。攻撃を全て喰らったアレンは力なく落下していき、地面に叩き付けられる。

「はははははは!何が正義だ!壊れてしまってはただの戯れ言だ。」

カギスタが地面に仰向けに倒れているアレンを見下ろす。

「さてと、別に殺す予定はなかったが…今後邪魔になるからここで死んでくれ。」

カギスタは刀を振り上げる。

「くっ…そ…!」

アレンはダメージが大きく動けない。

「じゃあな…アレン・ルビー。」

アレンに向かって刀が振り下ろされた。


──その時であった。


「いかんのう。若人が若人の命を取っては。」

突如声が聞こえたと思うと、ある人物がカギスタの刀を弾き飛ばしたのだ。

「誰だ!」

カギスタがある人物の方を見た瞬間、目の前に下駄の裏があり、そのまま下駄に顔面を蹴り飛ばされて吹き飛んでいった。

「あなたは…シュロムさん…。」

アレンは自分を救った老人の名を呼んだ。

「何やら深き夜に似つかわしい騒音を聞いたから来てみれば…小童同士が血を流し合っていて驚いたわい。」

そう言いながらシュロムが根性治癒でアレンを回復した。

「ありがとう…ございます。」

アレンが礼を言いながら立ち上がる。

「儂の根性治癒は個々の自然治癒力を急激に高めて回復させる技じゃからそんなに回復せんぞ。」

「いえ、それでも大分楽になりました。」

「そうか。」

アレンとシュロムが話していると、吹き飛んでいっていたカギスタが戻ってきた。

「てめぇ…!俺の実験を邪魔した爺じゃねぇか!」

カギスタはかなりご立腹のようだ。

「彼奴は何者じゃ?」

シュロムが仁王立ちでアレンに尋ねる。

「あいつは革命軍のカギスタです。」

アレンが説明する。

「革命軍?」

「お話は後でします。今はあいつをどうにかしないと…!うっ…!」

アレンがハンドガンを構えるが腕に痛みが走り落としてしまう。

「小童、休んでおれ。彼奴は儂が引き受ける。」

「でも…」

「行け。これ以上傷付けば修学旅行を楽しめんぞ。」

シュロムが笑顔でアレンに告げる。アレンは一度考えるが、シュロムの言葉に甘え、ハンドガンを異空間に戻した。そしてキッとカギスタを睨んでからシュロムより後ろに下がった。

「おい爺、てめぇ一体何者だよ?」

カギスタが睨みながら尋ねる。

「儂の名はシュロム。お主がシャインの友であるアレンと交戦しているところを見るに…敵で良いな?」

「…あんたが俺を敵と認識するんだったら、俺もあんたを敵と認識する。てか…実験邪魔されたのに無視なんて出来ないけどな。」

カギスタが刀を構える。

「実験?儂はお前の実験なんぞ邪魔した覚えはないぞ。」

「そりゃ覚えはないだろうよ。お前にとってはただデカい魚を殺しただけだからな。」

「デカい魚…まさか!お前がドラゴンフィッシュを暴走させたのか!」

後ろに待機しているアレンが叫ぶ。

「そうだよ。俺があいつを暴走させたんだ。ボスに頼まれた実験のためにな。」

カギスタが簡単に白状する。

「何の実験だ?」

アレンが尋ねる。

「それで答えてしまうほど俺は馬鹿じゃねぇよ。」

カギスタが鼻で笑う。

「ふむ…会話を聞くに、彼奴は敵と確信して良いようじゃな。」

2人の会話を聞いていたシュロムが仁王立ちを止め、スッと拳を構えた。

「爺だからって容赦はしねぇぞ。」

シュロムとカギスタが睨み合った。



──そして数秒後、2人の戦いの幕が切って落とされた。

エ「修学旅行はどうしたのよ!」

レ「お、落ち着いてエアル…まだ一日目だから。二日目からはきっと楽しい修学旅行の描写があるから。」

サ「それは叶わない願いよ。」

レ「えっ?どういうこと?」

サ「それは次回のお楽しみよ。」

サテ「では、次回をお楽しみです!」

レ「すごく気になる…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ