72話 ホラーレック兄妹(2)
ス「龍空deラジオ~…。」
シ「ダレ過ぎだろスノウ…。」
ス「そう言ってるてめぇもダレてんじゃねぇか…。」
シ「しゃーねーだろ…。この小説も作者の世界も夏到来してんだ…。暑くて死にそうなんだよ…。」
ア「2人とも大丈夫?」
ス「大丈夫だったらこんなにダレてねぇよ…。」
シ「アレン…扇風機…付けろ…。」
ア「何故に命令形?」
ヒ「てかシャイン、自分で風を起こせば良いじゃないですか?」
シ「ああ…そっか…[そよ風]。」 (指パッチン)
ス「………もうちょい強くなんねぇのか?」
シ「斬撃の風でも…良いなら…。」
ス「…………よし、やれ。」
ア「ダメだよ!」
ヒ「では、本編をどうぞ。誤字等があり読みにくい場合はすいません。」
「さー!Cブロック第2回戦!兄妹で参戦!虎神高校vsここで一勝掴めるか!鳥崎高校の対決です!」
虎神と鳥崎の応援席が盛り上がる。その盛り上がりの声を聞きながらフィールドに4人が集結した。フィールドの属性は氷である。
「にぃに、あの代表者の人筋肉スゴい。」
ジャックの実の妹『アシュリー・ホラーレック』が相手の代表者の鍛え上げた筋肉を指差す。
「ああいう脳筋系の人苦手なんだよな~。」
ジャックが頭をポリポリかきながらため息をついた。鳥崎高校の代表者の名は『フランク』と言い、身体は長身で筋肉がかなり鍛え上げられており、スキンヘッドが奇麗である。パートナーの名は『アンディ』と言い、こちらは少し小柄で筋肉も並くらいだが、スキンヘッドは奇麗である。そして両チームがフィルムバリアを装着すると、
「ではCブロック第3回戦!レディ〜〜…ファイト!」
実況者が戦闘を開始させた。
「先手必勝じゃ!」
フランクが太い腕を振り下ろして氷の地面を殴ると、地魔法が発動され、ジャックとアシュリーを分けるように巨大は壁を作った。
「これで1対1の勝負じゃ!」
フランクはジャックがいる側に、アンディはアシュリーがいる側に移動した。
「アシュリー!どうやら互いにヘルプは出来ないようだ!何とか1人で倒してくれ!」
壁の向こうからジャックが叫んできた。
「分かった。」
アシュリーは細い声で応えてからアンディの方を睨み付けた。
「子供をいたぶる趣味はないが、こういう状況なんで悪く思わないでくれよ!」
アンディはグッと拳を握ると、ボッ!と拳を包むように炎が付いた。そして地面を蹴り、アシュリーに突進する。アシュリーはその場で立ったまま、突進してくるアンディに手のひらを向けるように両手を出した。アンディはアシュリーの行動を無視して炎の拳を後ろに引き、アシュリーに放った。
「『操作人形』。」
その瞬間、アシュリーが囁いた。するとアンディの拳がアシュリーの顔の目の前でピタッと止まったのだ。いや、止まったのは拳だけではなく、アンディ自体が完全に停止していた。
「な…何だ…!?か…体が動かない…!?」
「女の子を殴るなんて男として失格。」
アシュリーがプクッと頬を膨らまして小さな声が怒る。そして両手の指をピクピクと動かすと、突然アンディが自分自身の顔を殴ったのだ。アンディはよろよろと後退りする。その時、体に自由が戻っていることに気が付いた。
「おーっと!アンディ君!突然自分自身の顔を殴ったー!急にマゾに目覚めたのか!」
「そんなわけないでしょ…。」
実況者の実況にジャックが苦笑いしながらツッコんだ。
「アシュリー・ホラーレック…俺に何をした?」
アンディが自分で殴った自分の頬をさすりながら尋ねる。
「何を?あなたを少し操っただけ。そう…子供が人形を自由に動かすように。」
「操る…?」
「私の魔法は『人形魔法』。如何なるものも人形のように操る魔法。それと…」
アシュリーは落ちていた氷の塊を拾い上げて自分の手のひらに乗せた。すると、氷の塊が独りでに動き、徐々に鷲の形に変化した。
「物体を人形に変化することも可能。」
アシュリーは作った氷の鷲をアンディに向けて放った。アンディはそれを紙一重に回避した。
「くそっ…!」
アンディがアシュリーを睨むと、アシュリーは土の壁に触れていた。
「だから私にとってこんな土の壁は子供に玩具を与えたようなもの。」
アシュリーが魔法を発動した瞬間、ジャックとアシュリーを分けていた土の壁が、先程の氷のように独りでに動き、人型の巨大な土偶となった。
「[土人形]!」
アシュリーが指をくいくいと動かすと、巨大土偶がアンディをガシッ!と掴んだ。
「ぐっ…!なんて力だ…!」
アンディが必死に振り解こうとするが、巨大土偶はビクともしない。
「アンディ!今助けるぞ!」
フランクがアンディを助けようと走り出した瞬間、
「僕も忘れないでほしいな。」
ジャックがフランクを背後から飛び越え、目の前に立ちふさがった。
(こいつ…何て身のこなしだ。)
フランクは先に目の前に現れたジャックに攻撃をしかけた。
「[影法師]。」
ジャックが何か魔法を発動した。すると、フランクの拳がジャックをすり抜けたのだ。
「なに!?」
フランクはまさかの展開に困惑する。
「あははは。残念でした。」
ニッコリと微笑むジャックの体がみるみる黒くなっていく。
「ぼくは偽物です。本物は………」
ジャックの全身が真っ黒になって消え、
「こっちです。」
声がフランクの背後から聞こえた。
(こいつどこから…!?)
フランクが反転した時には、ジャックが手のひらに青く燃える火の玉を構えて攻撃体勢に入っていた。
「[鬼火]!!!」
ジャックがフランクにゼロ距離でフランクに火の玉を喰らわした。フランクは熱い!と連呼しながらのたうち回るが、青い火は全く消えない気配がない。
「鬼火は地獄の業火。そう簡単には消えませんよ。でもこのままじゃあなたの体が焼け焦げる前に、魂が焼き朽ちてしまいますので助けますね。」
ジャックがパチンと指を鳴らすと、フランクを襲っていた青い炎が鎮火した。
「にぃに、この人倒していい?」
巨大土偶を操るアシュリーが兄に勝負を決めていいか聞く。
「いいけど、殺しちゃダメだよ。」
ジャックが許可をする。
「フィルムバリアが付いてるから、大丈夫の…はず…。」
アシュリーが指を動かし巨大土偶に命令する。巨大土偶はその命令に従い、アンディを真上に放り投げた。
「死なないでね、アンディさん。」
アシュリーが巨大土偶に指を動かし、最後の命令を出した。命令を受けた巨大土偶は、その巨体からは想像出来ない身のこなしで飛び上がった。そして、先程放り投げたアンディの隣に並んだ瞬間、腕を振り上げ、バレーのスパイクするかのようにアンディを地面に叩き付けた。死んではいない。だがHPが0を表示されているため、大会ルールとしては戦闘不能である。
「ちょっとやり過ぎじゃないかアシュリー?」
ジャックが実の妹の無慈悲な一撃を見て苦笑いする。
「死んでいないから、セーフ。」
アシュリーが巨大土偶をただの土に戻す。
「そうだけど…。」
ジャックがハァとため息をつく。
「にぃにも、早く終わらして。」
「…はぁ…分かりましたよマイシスター。」
兄妹の会話が終わり、完全に放っていたフランクの方を向いた。
「すいません先輩。ちょっとうちの妹が早く終わらせろってうるさいんで、止めを刺しますね。」
ニコニコと爽やかに微笑むジャックが宣告した。それが気に入らなかったフランクが、
「ふざけるな!お前等兄妹!俺1人で倒してやる!」
激怒しながら拳を構えてジャックに向かって地面を蹴った。ジャックはフランクの気迫に一切動じず、冷静に手のひらをフランクに向けて魔法を放った。ジャックの手のひらから放たれたのは一本の赤い光線。その光線は一直線にフランクの心臓を貫いた。しかし、外も心臓自体も、何も起きなかった。フランクも何も起きないため、無視してジャックに向かって拳を振り下ろした。その瞬間、ジャックが先程までの爽やかな笑みから、悪魔のような形相に変わり、鋭い睨みをフランクに向けた。フランクは背筋が凍り、咄嗟に振り下ろしてした拳を止めた。
「どうしたんですか?」
口だけで笑みをするジャック。フランクは何も言い返せない。それどころかピクリとも体が動かない。まるで目の前に恐怖のものが立っているかのように。
「今の先輩の心を当てましょうか?僕が怖いんですよね。そりゃそうです。あなたの精神を操作して、あらゆる感情の中から『恐怖』の感情を一番大きくし、そしてその恐怖の対象を僕にしたのですから。」
ジャックが魔力を上げる。それに比例するようにフランクのジャックに対する恐怖が一層増した。
「どうしますか?このまま闘いを続けても良いですが、万の一つも勝機はありませんよ?」
まるで誘導尋問のようにジャックが問いかける。フランクはようやく体が動いたが、肥大した恐怖のせいで完全に戦意を失ってしまっていた。
「き…棄権…します…。」
口から出たのはこの言葉であった。
「正直で何よりです。」
ジャックの顔が爽やかスマイルに戻った。
「ここでフランク君が火兎高校の人達同様に棄権を宣言したー!Cブロック1位トーナメント出場校は…虎神高校代表のジャック・ホラーレックと!パートナーであり実の妹であるアシュリー・ホラーレックのホラーレック兄妹でありまーす!」
Cブロック会場が今日一番の盛り上がりを見せた。
Bブロックは、龍空高校が羊雲高校を瞬殺し、圧倒的勝利で龍空高校の1位トーナメント出場が決まった。Aブロックは、危なげなく蛇帝高校が1位トーナメント出場を決めた。残るDブロックは、アイドルが代表者という少し変な感じではあるが、それでも天鼠高校が1位トーナメント出場を手に入れた。これにより、1位トーナメント出場校は…『蛇帝高校』『龍空高校』『虎神高校』『天鼠高校』の4校となった。………何とも読者の皆様でも予想出来た結果である。
ここで昼食タイムに入った。全校の生徒達は各々用意した昼食を仲良しグループで食べ始める。シャインとレビィは控え室で各々の昼食をとっていた。
「………ねぇシャイン、何か喋ってよ。」
沈黙に耐えられなかったのか、ソファーに座り、前の机に弁当を広げて食べているレビィが、仮眠用のベッドに仰向けに寝ながら器用に焼きそばパンを頬張るシャインに要求する。
「別に今は自由に動けるんだ。この空気が嫌ならエアル達の所にでも行けばいいだろ。」
視線を天井に合わせたままシャインが応える。
「そうだけど…」
確かに話しながら食事をしたいのであれば、エアル達の所に行けば解決する。しかし、このシャインとの『2人っきり空間』をみすみす捨てるのも勿体無いと思う心がレビィを控え室に縛り付ける。
(う〜…どうしよう〜…。この状況ってれ、恋愛で言うとチャンスなんだ…よね…。でもどうすれば良いんだろ?相手は恋愛に超鈍感という主人公あるあるに該当するシャインよ。普通のアタックが通じるとは思わない。かと言って変にねじ曲がったアタックをすれば引かれる可能性が大…もう、面倒な人を好きになっちゃったな~…。)
モグモグと弁当を食べながら心の中でため息をつくレビィ。その時、ふと疑問が芽生えた。
(あれ?そもそも私って、何でシャインを好きになったのかしら?……一目…惚れ?それならいつ?初めて会った時?それても契りを交わした時?………分からない。自分の気持ちなのに……)
「………ビィ!………レビィ!」
いきなり怒鳴られたレビィが全身をビクッ!とさせて我に返った。そして怒鳴った人間、シャインに顔を向ける。
「な…何よシャイン!驚かせないでよ!」
レビィが怒ると、シャインがムッとした顔になる。
「お前がどんだけ呼んでも反応しねぇからだろうが。」
「あ……ご、ごめん。」
悪い方が自分だと気が付いたレビィが謝る。
「まぁ別にいいけど。さっさとその弁当食べろよ。そろそろトーナメント始まるぞ。」
シャインが控え室のドアに手をかける。
「どこ行くの?」
レビィが尋ねる。
「売店で何か買ってくる。」
そう言い残してシャインは控え室を出て行った。レビィはぼ~っとドアを少し眺めてから、自分が昼食中だということを思い出し、食事を再開した。
会場内にある売店の前。
「おや?シャイン先輩ではないですか。」
シャインが売店で商品を選んでいると、後ろから声をかけられたため振り返ると、そこには虎神高校の代表者であるジャックがこちらに微笑んでいた。
「先輩も何か買いに来たんですか?」
「それ以外に売店に来る目的はないだろ。」
「あはは、それもそうですね。」
「そんなことより俺はお前の隣にいる人物が気になるんだが。」
ジャックの隣には、ゴスロリを着て、漆黒のロングヘアーに赤い瞳というジャックと同じ色をした女の子がいた。
「え?ああ、今回僕のパートナーとして呼んだ妹のアシュリーです。」
「妹?」
シャインがアシュリーを目だけで観察する。その目が少し怖かったのか、アシュリーはキュッとシャインの死角でジャックの制服を掴む。
「なるほど。ただ者ではなさそうだな雰囲気だ。」
「流石シャイン先輩。アシュリーの容姿だけで判断しないとは。」
「実際、1位トーナメントに出場という結果も出ているんだ。警戒しない方がおかしい。」
「あはは、そりゃそうですね。…アシュリーは日常生活では少し引っ込み思案なので、弱いと勘違いする人が多いのです。でも、勝負となれば、それが現実あろうと、仮想であろうと、アシュリーの本気度は並ではないですよ。」
「…にぃに、止めて。何か…恥ずかしい。」
アシュリーが頬を赤く染めてジャックの制服をキュッと引っ張る。
「成る程、内に秘められた闘志ってわけか。」
シャインが面白いと言わんばかりにフッと微笑する。
「お手柔らかに頼みます。」
ジャックがニッコリと笑う。
「ああ、当たればな。」
「当たりますよ。『決勝』で。」
「……そうか。」
シャインが再度微笑を浮かべる。
「何でも良いけど、早く買うもん買ってどけておくれ。」
その時、売店の中からクルクルの髪のおばちゃんが3人に怒る。シャインとホラーレック兄妹はおばちゃんの言葉の意図が分からなかったが、自分達の背後が少々騒がしいことに気が付き、振り向いた。そこには長蛇の列が完成されていた。
「「「あっ…。」」」
3人は同時に察した。自分達が邪魔になっていたことに。
時間が流れ、遂にトーナメントが始まろうとしていた。シャイン達代表者とそのパートナーは対戦相手を決めるくじを引くべく、会場内にある関係者以外立ち入り禁止の少し広めの部屋に集められた。
「では今からくじ引きをしてもらいます。最初は…蛇帝高校、お願いします。」
大会委員の女性がミリアに言う。
「はーい!」
大きく手を挙げてから、ミリアはくじが入った箱に近付き、その中に手を突っ込み、1枚の紙を取り出した。その紙には『1』という数字が書かれてあった。
「蛇帝高校は1回戦となります。では次…龍空高校、お願いします。」
淡々と進行する女性大会委員の言葉に従い、シャインが箱から紙を引く。そこには『3』という数字が書かれてあった。
「龍空高校は2回戦となります。では次…虎神高校、お願いします。」
「それですが、引くのは僕じゃなくて妹でもいいですか?妹がどうしても引きたいと言っているので。」
そう要求するジャックの隣で、アシュリーが引きたそうな眼差しで大会委員を見る。
「……良いでしょう。許可します。」
許可が下りたため、ジャックに代わり、妹のアシュリーが箱の中に手を入れた。その瞬間、箱内で魔法を使ったことに、誰も気が付かなかった。魔法を使ったそぶりを見せないアシュリーが取り出した紙には『2』という数字が書かれていた。
「虎神高校は1回戦となりますので、1回戦は『蛇帝高校』対『虎神高校』に決定しました。残った天鼠高校は必然的に『4』となり、2回戦は『龍空高校』対『天鼠高校』に決まりました。1回戦はこの後20分後に開始しますので、蛇帝高校と虎神高校の代表者およびパートナーの人は準備をお願いします。」
最後まで淡々と話した女性大会委員は、全員に対して一礼をしてから先に部屋から退場した。シャイン達も各々の控え室へと戻った。
20分後、遂にBOM後半のトーナメントが開始された。3つの会場が出現し、中央の会場では今大会の頂点を決める1位トーナメントが開催される。応援席には、天鼠、虎神、蛇帝、そして龍空の4校の生徒がひしめき合って会場を盛り上げている。
「大変お待たせしました!では今から1位トーナメントを始めさせてもらいます!1位トーナメント第1試合は…『蛇帝高校』対『虎神高校』だー!」
応援席の蛇帝高校、虎神高校の生徒が盛り上がる。
「シャイン達は2回戦か。」
龍空高校の応援席で呟くスノウに応えたのは、龍空高校代表者であるシャインであった。
「そうだ。」
「ぬわっ!?な、何でシャインがいるんだよ!」
意外な人物の登場にピュアに驚くスノウ。
「自分で言っただろ。龍空高校は2回戦だって。」
揚げ足をとるシャイン。
「そうだけどよ、俺はてっきり控え室にいるのかと。」
「控え室より応援席の方が高いところから見物出来るから。と、うちのパートナーが申しておりましてね。」
シャインが既にエアルと話しているレビィに視線を向ける。
「つーわけで、ここにいるわけ。分かったか?」
「……理解したよ。」
スノウとシャインは話し終えると、フィールドにいる4人の戦士に視線を向けた。
トーナメントになると属性変化はなく、純粋な土のフィールドで闘いは行われる。そのフィールドに今、蛇帝高校と虎神高校の代表者とパートナーが立っていた。
「相手の魔法は、妹さんはさっき話した魔法だけど、まだ兄の方は不明のようだよミリア。」
白の髪に水色の瞳を持ったルークが告げる。
「そうなんですか。では、要注意しましょう。」
青色ポニーテールに銀の瞳のミリアがストレッチをしながら応える。
「アシュリー、調子はどう?」
漆黒の髪に赤い瞳のジャックが、隣にいる実の妹に尋ねる。
「問題なし。にぃには?」
同じく漆黒のロングヘアーに赤い瞳のアシュリーが実の兄を見上げながら尋ね返す。
「問題なしだよ。」
ジャックが妹の方を見て微笑んで答えると、アシュリーもニッコリと兄の方を見て微笑んだ。
「ではここで『新たなルール』を説明したいと思います。」
実況者の言葉にフィールドおよび応援席がざわつく。
「去年までのトーナメントは予選リーグ同様、HP制でゼロになったら試合終了でしたが、今年から『無制限』!己の力が尽きるまで闘ってもらいます!でも死ぬまではいってはなりませんよ。」
「つまり、ボロボロになっても、選手が大丈夫だと言えば試合は続行ってわけか。なかなかハードな大会にしたもんだ。」
シャインが龍空高校応援席に座って小さくため息をついた。
「これで説明を終わります。ではお待たせしました!互いにフィルムバリアを展開した瞬間から試合が開始します!」
実況者が会場を盛り上げる。
「アシュリー、氷の狼と水の神、どっちがいい?」
兄ジャックが妹アシュリーに二択を出す。
「……神様。」
アシュリーは表情は変わっていないが、目の奥で闘志を燃やして答える。
「オーケー、ならにぃには狼さんと戯れるとしよう。」
兄妹にしか聞こえない声量で会話をしてから、同時にフィルムバリアを展開させた。それを確認したミリアとルークもフィルムバリアを展開させた。
「それでは1トーナメント第1回戦…レディ~…ファイト!」
実況者が開始のゴングを鳴らした。そんな設定があったようだ。
「じゃあこっちから攻めようかアシュリー。」
ジャックがポンと優しくを撫でる。
「…分かった。」
アシュリーは了解すると、屈んで片方の手のひらを地面に触れた。その行動に対してミリアとルークが警戒する。
「[地面人形]。」
アシュリーが手を挙げると、それに釣られるように地面が盛り始めた。
「これが人形魔法…如何なるものも操れる魔法…ある意味チートだね。」
ルークが自分の目の前で生き物のように動く地面を見て苦笑いする。蛇帝高校の2人の前で盛り上がる地面は形を変え、人型をしたモンスターとなった。俗に言う巨人だ。しかし下半身はなく、上半身だけが形成されている。
「…ゴー、巨人。」
アシュリーが指を動かし巨人に命令を出すと、巨人は大きく右腕を振り上げた。そして、ミリアとルークに目掛けて振り下ろしてきた。しかし動きはそんなに速くないため、ミリアは右に、ルークは左にステップして回避した。
「[水神輪状撃]!!!」
ミリアが水の輪を連続でアシュリーに放つ。アシュリーは指を動かし、巨人の腕を壁代わりにして自分を守った。そして巨人に腕を挙げさせた時、自分の視線の先にミリアの姿がなかった。
「あれ…どこ?」
周りを見渡してもいないため、咄嗟に上を見上げると、水の剣を構えたミリアが空中を舞っていた。
「[水流斬]!!!」
水の剣がアシュリー目掛けて振り下げられた。しかしアシュリーは瞬時に、
「[操作人形]!」
両手の手のひらをミリアに向けて唱えた。すると、ミリアの体は時間が止まったかのように空中でピタリと停止したのだ。
「くっ…!」
ミリアは動こうとするが、指の一本すら動く気配がしない。
「とりあえず…寝て。」
アシュリーが指を動かすと、ミリアは自分の意志なく地面にうつ伏せに落ちたのだった。体は未だに動かすことが出来ない。
「そのまま寝ててね。」
アシュリーは手のひらを現在動いていない上半身のみ巨人に向ける。そして命令を出すと、巨人は拳を振り上げ、ミリアに向かって振り下ろした。
「!!」
拳が間近まで迫ってきているその時、ミリアは自分の体に自由が戻っていることに気が付いた。その刹那、ミリアは両腕に力を入れ、逆立ちをすると器用にグルッと回転して遠心力を付けた。
「[水神華麗脚]!!!!」
神の水を纏った美しい左足の回し蹴りは巨人の拳と衝突すると、衝撃波を生じて拳を止めた。しかし、
「つっ…!」
やはり無理があったのか、脚の筋を少し痛めたらしい。だがミリアが根性で巨人の腕を蹴り返すと、巨人の腕に亀裂が入り、砕け落ちたのであった。
「はぁ…はぁ…。」
ミリアは息を整いながら筋を痛めた左足の状態を確認する。
(よし…まだ闘える…。)
ミリアは戦闘続行可能だと確信する。
「流石…神様。」
片方の腕がもげた巨人を見ながら、アシュリーがミリアの力に感心する。
「私自身が神ではないけど、神の力をあまり舐めないでね。」
ミリアがアシュリーの呟きに少し挑発気味に答える。
「……面白い。」
アシュリーの表情は変わっていないが、赤き瞳の奥に闘志の炎が燃えたのであった。
女の闘いから離れた場所では、氷の人狼と爽やか少年が闘いを繰り広げていた。
「たく…何て身のこなしだ…。」
氷の人狼の姿になっているルークが己の鋭い爪で攻撃を続けているが、爽やか少年であるジャックはその攻撃を余裕の笑みを浮かべながら回避している。
「僕は非力でしてね、攻撃を防御すると押し負けることが目に見えているため、回避を重点的に鍛えたのですよ。」
説明する余裕を見せるジャックに、ルークは少々苛立ちを覚えた。
「さて、そろそろ僕から攻撃をしたいと思います。覚悟はいいですね?」
ジャックがそう言った瞬間、先程までの回避速度が手を抜いていたのだと思わせるほどの速度でルークの攻撃を躱したと同時に懐に入り、サラッとした狼の毛が生えているルークの体に手のひらで触れた。
「[自爆霊]!」
魔法を発動した瞬間、性別は分からないが、人のシルエットをした半透明の幽霊がルークに抱き付いた。その力は幽霊とは思えない力で、振り解ける気配がしない。
「ゼロ距離爆発は、かなりの威力ものですから気を付けて下さい。」
ジャックが口だけで笑うと、軽やかなバックステップで間合いを空け、パチンと指を鳴らした。その瞬間、ルークにしがみついている幽霊の内部に赤く燃える核のようなものが出現し、それは徐々に大きくなり…そして爆発した。爆炎と衝撃波をまともに喰らったルークは吹き飛び、フィールドの壁に激突した後、ドサッとうつ伏せに倒れた。
「おや?死んでしまいました?」
ジャックが動かないルークに歩み寄っていく。しかしその瞬間、ルークの獣の眼光が開き、少し体を起こしたと思うと、地面を蹴ってジャックに急接近し、氷の爪を振るった。この騙し討ちはジャックの反応を上回り、ジャックの横腹に氷の爪を浴びせた。
「くっ…!」
まともに喰らったジャックは横腹を押さえながらバックステップで間合いを空けた。
「流石は狼…騙し討ちが上手ですね…。」
フィルムバリアのお陰で外傷はないが痛みは感じるため、ジャックの顔は少し痛みで歪んでいる。
「フィルムバリアがなかったらかなり深い傷口が開いていましたよ…。」
褒めているのか嫌みなのか分からない言い方をするジャック。
「こっちだってかなりダメージは受けているんだから…お互い様だ…。」
よろめきながら立つルークが、獣の眼光でジャックを睨む。
「ジャック・ホラーレック…君の魔法は一体何なんだ?」
「……別に隠すつもりはないのでお教えしまょう。僕の魔法は『亡霊魔法』。亡霊を自在に操れる魔法です。」
ジャックが両腕を広げて、自分の背後に数体の亡霊を飛ばす。
「亡霊魔法…それは随分と厄介な魔法だ。」
ルークはあからさまに舌打ちをした後、尋ねる。
「だが、俺が調べたところ、君は予選リーグでは謎の技で勝ったと噂されているが。それは亡霊魔法によるものなのか?」
「はい。亡霊を相手の精神に憑依させ、全ての感情の中で『恐怖』という感情を肥大させる。そこに僕の存在を刻むんです。すると相手は僕に対して異常なほどの恐怖を覚える…そう、『試合続行不可』になるまでの恐怖をね。」
ジャックが口だけを微笑ます。
「その魔法、直接感情に憑依は不可能なのか?」
「感情は『存在しないもの』です。存在しないものには憑依しようがない。しかし精神は『存在するもの』です。だから精神を経由して感情を操るのです。」
「……精神も存在しないものだと思うが?」
「両方とも『不可視のもの』というのは確かです。『感情』は脳が感じ取ったものを体と通して伝える信号。しかし、『精神』は魂と肉体を繋ぐ大事な接続部分です。精神がなければ魂と肉体は引き離され人間は死にます。つまり、『人間が生きている』…それが精神が『存在するもの』と証明しているってことです。なので実際、僕の魔法が相手の精神に憑依出来る……という理屈ですが、納得されましたか?」
「………ああ、納得したよ。故にその技が危険だということもね。」
「あはは、そんな警戒しなくても大丈夫ですよ。この技を使うと早く勝ってしまい、僕の自慢の妹に早く終わらせ過ぎと怒られてしまいますから。」
ジャックの言葉が少し癇に障る。その技を使うと、いとも簡単にあなたに勝利すると断言していると等しいから。
「何だろうね。俺は君と仲良くは出来ないような気がするよ。」
ルークがクスッと笑いながら戦闘態勢に入る。
「それは残念です。[死神鎌]。」
ジャックもクスッと笑うと、魔法陣を展開し、血に染まったように紅い刃物を持った大鎌を取り出して構えた。そして、数秒の睨み合い後、消えたと錯覚するばりの速さで両者地面を蹴り、ルークの氷の爪とジャックの大鎌が打つかり合い、鋭い金属音を響かせた。そこから2人は高速の闘いを繰り広げた。
「こ…これが…ヤ○チャ視点…!」
「おい。」
応援席で戦慄するスノウに、シャインが無表情でツッコんだ。
ミリアvsアシュリー。アシュリーが人形魔法で操る、右腕が修復された土の巨人の猛撃を華麗に回避するミリアであるが、なかなか攻撃に転じれずにいた。攻撃を続けているアシュリー
「むう…やっぱり量より質は無理があった…。なら質より量作戦に変更…[雑兵人形]。」
アシュリーが指を動かし命令を出すと、巨人の体に亀裂が入り、バラバラに砕け散ったのである。ミリアは何を仕掛けてくると警戒したままで身構える。すると、巨人の破片が1つ1つ独りでに動き出し、鎧を装着し槍を持った兵、日本の歴史に出て来る『足軽』ような兵が大量に出現した。少なくとも目視で50以上はいるだろう。
「ゴー。」
アシュリーの指が動かした瞬間、雑兵が一斉に槍を構えて突進してきた。
「これはヤバい…![水神城壁]!!!」
ミリアは自分の目の前に巨大な水の城壁を地面から出現して防御をした。雑兵は猪突猛進で水の城壁に突っ込んでガシャンガシャンと次々に城壁前で倒れていく。
「あれは…『設置型防御魔法』…ぽい。」
アシュリーは雑兵に紛れて水の城壁に近寄る。その動きミリアは魔力察知で感知した。
(何する気?)
ミリアはアシュリーの行動が気になるが、解除すると雑兵が押し寄せてくるため解除が出来ない。アシュリーは水の城壁の真ん前に立つと、片手の手のひらで城壁に触れた。
「[水人形:神]。」
次の瞬間、水の城壁がまた独りでに動き始めた。
「うそっ!?」
流石に動揺するミリア。まさか自分の魔法が操られるとは思いもしなかった。
「少し私も驚いている…。」
操っているアシュリーもまさか自分が神の力を操れるとは思わなかったようだ。そして巨大な水の城壁はグチョグチョとこねられる粘土のように動き、『巨大なタコ』に変形した。
「クラー…ケン…!」
その姿はまさに、空想上の海の怪物、『クラーケン』であった。普通のタコの何百、何千倍とあるタコを見上げるミリアの足は少し震えていた。クラーケンはアシュリーに命令され、1本の足を素早く横振りした。
(ヤバい…!避けなきゃ!)
ミリアは瞬時にジャンプして回避すべく両足に力を入れた。その瞬間、筋を痛めていた左足に激痛が走った。それにより力が入らずジャンプが出来なかった。ミリアはタコ足をまともに喰らってしまい、吹き飛ばされ壁に激突した。そしてドサッと横向けに倒れた。
「これで終わらせる。」
倒れているミリアに止めを刺すべく、アシュリーがクラーケンに命令を出すと、クラーケンは従い、8本の足で文字通りタコ殴りにした。その地獄絵図に見てられないと視線を逸らす生徒もいた。10秒くらいの猛烈なラッシュが終え、砂煙の中からミリアの姿が確認できた。フィルムバリアに守られているため外傷がないから血は流れていない。しかし、ダメージは蓄積するため、ミリアはぐったりとしたまま動かない。
「おーっと!ミリア選手がダウーーーン!しかしフィルムバリアが心臓の音を感知しているため死んではいませんのでご安心下さい!」
命に別状はないと告げる実況者。確かにミリアは死んではいない。だが周りの音は遠くなり、体も動かない。そして重くなる目蓋に逆らえず……視界が真っ暗になった。
ミリア・ガーネット──戦闘不能。
「ミリア!」
高速バトル中に横目で確認したルークがミリアの元に走り寄ろうとしたが、ジャックが立ちふさがる。
「どうやら向こうは決着がついたようですね。ではこちらもそろそろ試合を終わらせましょう。」
ニッコリと爽やかな笑みを見せるジャック。その瞬間、
「[影法師]。」
ジャックの全身と大鎌がまるで影のように黒くなり消えたのだ。
「なっ!?」
目の前から標的が消えたため、ルークに一瞬の混乱が生じた。
「僕はこっちですよ。」
背後から聞こえた標的の声にルークが瞬時に振り向く。そこには大鎌を構え、悪魔のような笑みを浮かべるジャックがいた。
「[デビルダンス]!!!」
舞うように大鎌を振るいながらルークを切り刻んだ。ルークはまともに喰らい、全身に斬られた痛みが生じる。
「くっ…![氷狼双]!!!」
ルークが双方の氷の爪で反撃する。ジャックは一方の爪は弾いたが、一方の爪が左肩を切り裂いた。
「っ…![地縛霊]!」
ジャックが少し体勢を崩しながら唱えた。すると、ルークの両足がまるで地面に縫われたかのように地面から離れなくなり移動を封じられた。
「[ゴーストボックス]!」
ジャックが唱えると、ルークを漆黒の箱で閉じ込めた。
「これで終わりです…[内部爆破]。」
ジャックがグッ!と拳を握ると、漆黒の箱がルークの体に吸収された。そしてジャックが拳を広げたのを合図に、ルークの内部に吸収された黒い箱が黒い衝撃波を放って爆発した。まともに喰らったルークは天を仰いだままその場で動かず、そして両膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。
ルーク・バリュウ──戦闘不能。
「ここで試合しゅーりょーーー!!!勝者!虎神高校ーーー!!」
実況者が試合終了を告げる。それを聞いた虎神高校の応援席から喜びの歓声が上がった。
「まさかミリア達が負けるなんて……。」
龍空高校応援席で、完全に予想外だったレビィが驚きを隠せないでいた。
「かなりのダークホースですね。」
水筒からコップにお茶を注ぎながらヒューズ。
「ルーク対ジャックは互いに攻撃を喰らわした。問題はミリア対アシュリーだ。アシュリーが『ノータメージ』っつうのがヤバいな。ミリアの魔法は正真正銘、神魔法…神の力を前にして一撃も喰らわず勝つとは…あの人形女、ジャック以上に危険な存在だ。」
シャインが冷静に分析する。
「ミリア達大丈夫かな…。」
レビィが心配する。
「所詮は大会なので死に至らないので大丈夫でしょう。」
優雅にコップのお茶を飲むヒューズが応える。
「ま、とにかく試合は終わったんだ。今度は俺達の番だぞレビィ。」
「…うん。」
シャインとレビィは目を合わせて頷き合う。
「頑張ってねレビィ。」
エアルがレビィの手を取り応援するが、赤い瞳の奥には不安があった。それを察したレビィが笑顔で、
「大丈夫だよエアル。勝ってくるから。」
と、応えた。
「…行くぞ。」
「うん!」
シャインとレビィは応援席を後にして、闘いの舞台に向かった。
天鼠高校控え室。そこには長身で体格が良く、少し長めの黒髪に黒の瞳を持ち、頭には『I♡フウたん』と書かれた鉢巻きを巻いた男と、少し小柄で、黄緑の髪をツインテールにし、宝石のようにキラキラと輝く黄緑の瞳を持った女の子がいた。
「あ~緊張してきたな~。」
ベッドに座り、天井を仰ぎながら女子が呟く。
「ライブと思えば大丈夫じゃない?」
女の子に提案する男の名前は『ツイア』。年は18である称号を持っている。それは『フロウ親衛隊隊長』である。
「ありがとう、気遣ってくれて。」
笑顔で答える女の子の名前は『フロウ・アドページ』。現在人気急上昇中のアイドルである。
「お、俺はし、親衛隊の隊長としてと、当然の配慮を…!」
ツイアにとって今の状況は心臓が飛び出しそうな状況である。それもそうだ。己の人生を捧げて応援しているアイドルと2人っきりで個室にいるのだから。
「フフ、なんか私より緊張してますね。」
クスクスと笑う天使にツイアはただ照れるしかなかった。
「しかし、まさかフウたんが『あんな魔法』を使うなんて。」
「…嫌いになった?」
天使が少し顔を曇らせるので、
「いやいやいや!そんな訳ないじゃん!むしろフウたんの新しいことを知れて嬉しいというか…!」
ツイアは慌てて褒める。
「…フフ、ありがとうございます。」
天使に笑顔が戻り、ツイアはホッと安心した。
「さて、そろそろ始まりますね。頑張りましょうツイアさん。」
フロウが握手を求めたので、ツイアは急いでズボンで手を拭いてから握手した。
エ「龍空deラジオ~…て、あっつぅぅぅぅい!」
レ「ホント…暑いはね…。」
サテ「私…もう…ダメです…。」
レ「サテラちゃん…気を確かに…。」
サ「あんた達だらしないわね~。」
エ「サナは…何で平気…なの…?」
サ「平気の奴だっているわよ。」
サテ「サナ姉…嘘は…ダメ…氷の防御魔法…かけてるでしょ…。」
サ「うっ…。」
エ「それセコくない!」
サ「う、うるさいわね!知能の勝利よ知能の!」
レ「な…何でも良いからは…早く終わらせようよ…。サナ…よろしく…。」
サ「はぁ~、じゃ、次回をお楽しみ。」