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魔法学園  作者: 眼鏡 純
70/88

70話 越えられない壁

眼鏡「最近知ったんですが『オパール』って白色だったんですね…。私ずっと紫色だと思っていたのでサテラのイメージカラーを紫にしたんですけどね~…。紫の宝石は『アメジスト』のようです。う~ん…『サテラ・アメジスト』…何か語呂が悪いのでオパールで良かったかもしれませんね。」


眼鏡「では本編をどうぞ。誤字、脱字などで読みづらい場合は申し訳ありません。」

 2ヶ月の時が過ぎ、ジトジトした梅雨の時期になった。今日もまた雨である。そんな日の昼休み。

「あ~ここ最近雨ばっか~。ジトジトするしやんなっちゃう。」

グデ~っと机にのびているのはエアルである。

「ホントよね~。」

エアルに賛成したのはエアルの机の隣で立っているレビィであった。

「特に何か面白いイベントもないしさ~。」

エアルのぼやきを聞いたレビィはあることを思い出した。

「イベントと言えば、そろそろ魔法学校ならではの一大イベントがあるわね。」

「一大イベント?」

エアルが体を起こす。

「『Battle Of Magic』、通称『BOM』よ。」

「あ~あれね。でも確かあれって8月の始めじゃなかった?」

「でも次話でもう開催されるわ。」

「さらっとネタバレしない。」

エアルがレビィにツッコむ。

「しかも今年のBOMは何周年記念か忘れちゃったけど、今年からルールや会場を一新するらしいから全く別物の大会になるらしいよ。」

「へぇ~。詳しいねレビィ。」

「全部掲示板に書いてあっただけ。」

「あっそ。」

その時、エアルはふと疑問が浮かんだ。

「ねぇレビィ。」

「なに?」

「シャインの前の代表者って誰だろ?」

「あっ、そう言えば知らないわね。」

「去年の大会はバーシェスが暴れたからちゃんとした順位が出なかったけど、一昨年は虎神高校と同率一位になれるほどのかなりの実力者だよね。」

「でも一昨年の人が2年や3年だったらもう卒業しちゃっているわ。」

「そっか~。ちょっと気になるな~。まぁ分かったとこで何かあるわけでもないけどさ~。」

エアルが背伸びをする。。

「先生に聞いたら分かるんじゃない?」

レビィが提案する。

「そうだね。昼休みはもう時間ないから、放課後にでも聞きに行こっか。」

2人が予定を立てたところでチャイムが鳴った。



 放課後。職員室の前に到着すると、エアルはコンコンとノックしてから、

「失礼しまーす!」

と言って中に入っていった。後を追ってレビィも入っていく。

「ん?どうしたダイヤモンド?」

エアル達に気が付いたのは今のエアルとレビィの担任であり、数学担当の男の先生であった。

「先生には用はないです。ナナリー先生いますか?」

「ナナリー先生?ああ、あそこにいるぞ。」

数学の先生がコピー機の方を指差すと、そこではナナリーがプリントのコピーをしていた。

「ナナリー先生~!」

エアルがナナリーを呼んだ。その声に気が付いたナナリーはこちらを向いた。

「どうしたの2人とも?」

ナナリーはコピーしたプリントを持って2人に近付いてきた。

「ちょっと聞きたいことがあるんです。」

レビィが聞きたい内容を話した。

「う~ん…シャイン君の前の代表者ね~…確か今の3年生にいるわよ。」

「えっ?てことはその人も1年でBOMに出場したんですか?」

レビィが驚きながら尋ねる。

「そうよ。確か名前は……」

「ナナリー先生、そろそろ職員会議が始まりますよ。」

他の女性教師がナナリーを呼んだ。ナナリーは分かりましたと答えてから、

「ゴメンね。今から会議だから。」

と、2人に謝ってから会議に向かった。

「あっ、ちょっと先生~!もう…名前くらい教えてくれれば良かったのに~。」

エアルがぷーっと頬を膨らませる。

「コラコラそこの2人。会議が始まるから出て行ってくれ。」

2人の担任の先生が退室するよう促す。2人は素直に職員室を後にした。



 次の日、また雨が降っている。その中をレビィが登校してきた。

「おっはよ~レビィ!」

レビィが上靴に履き替えていると、エアルが後ろから抱き付いてきた。

「おはよーエアル。」

やんわりとエアルを離してレビィが挨拶する。

「ねぇレビィ、あれ何の集まりかな?」

エアルが向いている方向をレビィも見た。どうやら掲示板に貼っているある紙を見ようと人が集まっているようだ。

「何だろう?」

レビィが首を傾げる。気になった2人はその人混みの後ろから背伸びをして紙に書いてある内容を見た。その紙には達筆な字で、

『シャイン•エメラルド。今日の放課後、グラウンドで待つ。刀を忘れるな。』

と、書いてあった。

「これって……」

エアルがゴクッと唾を飲んだ。

「うん……」

レビィも唾を飲む。

「……ラブレター!」

「違う!」

エアルにレビィが電光石火の早さでツッコミを入れた。

「え~違うの?」

エアルがスゴい残念そうな顔をした。

「違うに決まってるでしょ!これは果たし状だよ!」

「………分かってるよ…。で、何でこんな所にシャイン宛てに果たし状があるのさ?まず相手は誰なの?」

「色々と疑問が残るわね。」

2人がう~ん…と悩んでいると、

「どうしたんだお前等?」

と、背後から果たし状を出された当の本人、シャインが現れた。

「あっ!シャイン!これ見てこれ!」

エアルが果たし状を指差す。

「………果たし状ってやつか。」

シャインが状況を理解する。

「ねぇシャイン、果たし状出されるほど憎まれている相手とか思い当たらないの?」

レビィが尋ねると、

「思い当たり過ぎて分からねぇ。」

と、シャインが真顔で答えた。レビィとエアル、そして周辺にいた生徒全員、

(ですよね〜…。)

と、心の中の呟きがシンクロした。

「ま、とにかく放課後にグラウンド行けば相手が分かるんだ。それまで待とうぜ。」

シャインはそう言って教室へと歩いて行く。

「ちょっとシャイン!この果たし状に乗る気なの!」

レビィが叫ぶと、シャインはクルッと振り向いた。

「乗るも何も、こんな堂々とケンカ売ってきたんだ。買ってやらなきゃ相手に悪いだろ。それにこれで行かなかったら、俺は臆病者の称号を貼られる。それはゴメンだ。」

そう答えて、シャインは教室に向かった。その背中を少し心配そうな眼差しを送るレビィに、

「大丈夫だよ。」

と、エアルは笑顔で言った。レビィは釣られるように、うんと笑顔で頷いた。



 そして放課後。雨は一層激しく降る。

「それで、今からその果たし状の相手に会いに行くと。」

廊下を歩きながら状況を確かめているのはヒューズである。

「ああ。」

シャインが短く答える。

「この雨の中グラウンドで待ってるのかな?」

窓の外を見ながら言うのはアレンである。

「雨如きで止める人間なら、果たし状なんて出す覚悟なんてねぇよ。」

スノウが意外にも正論を言った。

「いいか?俺に対する果たし状だ。お前等は手出し無用で頼むぞ。」

シャインがレビィ達に忠告すると、コクッと全員頷いた。そうこうしているうちに、一行はグラウンドに下りる階段の上に到着した。

「……あいつか。」

シャインは土砂降りのグラウンドの中央に誰かが立っているのを確認した。

「レビィ…俺の傘持ってろ。」

「えっ…?」

「同等の環境じゃなきゃ意味がねぇ。」

シャインは傘をレビィに渡し、雨に打たれながら階段を下りて行く。そしてゆっくりと果たし状の相手に歩み寄った。

「あんたが送り主だな?」

シャインは数メートル先にいるシャインより少し背の高い男に尋ねる。

「……そうだ。」

男はかけている黒縁の眼鏡をクイッと上げる。眼鏡の後ろの青い瞳はシャインを睨み付けている。

「まず、お前が誰なのか教えてもらおうか。」

「…俺は3年2組『ロデ・ルーニア』。元BOMの代表者だ。」

黒の髪は雨でペッタリしており、腰には一本の小太刀を下げている男がロデと名乗った。

「…成る程、BOMの先輩か……その先輩が後輩の俺に何の用っすか?」

「単刀直入に言う。次のBOM代表はおそらくまたお前が選ばれるだろう。それを断ってくれればいい。」

「は…?」


 「なかなか始まらねぇな。」

グラウンドが見える一階の廊下の窓から様子を見ているスノウは少し退屈そうだ。

「あら、あなた達何やってるの?」

と、ナナリーが通りかかった。

「シャインが誰かに果たし状出されたからグラウンドで決闘するはずなんだけど、なかなか始まらないんです。」

エアルが説明する。

「決闘!?も~!あなた達は何やってんの!だから皆グラウンドの方を見ていたのね!」

どうやら違う場所からもシャインと誰かの決闘を見ようとしている野次馬がいるようだ。

「相手は誰なの?」

ナナリーが尋ねる。

「それが分からないんです。」

エアルが首を横に振る。ナナリーは目を凝らしてシャインの相手の顔を見た。

「あの子は『ロデ・ルーニア』君。」

「先生知っているんですか?」

レビィが尋ねる。

「あの子はBOMの元代表者よ。」

「え~!?」

レビィ達が驚く。

「元代表者と現代表者…これは面白い戦闘が見れそうだ。」

スノウがウキウキ気分でグラウンドを見る。

「面白いじゃないです。今から止めさせなきゃ。」

「ええ~!止めんのかよ~!」

スノウが不満顔になる。

「教師がこんな危険なことを見て見ぬ振りなんて出来るわけありません。」

ナナリーがスノウに言い聞かせる。スノウはチッと舌打ちをした。

「手出し無用と言われていましたが先生から中止の命令が入ってしまった以上、仕方がないですね。」

そう言うとヒューズが徐に弓を構えた。

「おいおい何する気だよヒューズ?」

スノウが尋ねる。

「大丈夫です。ただこちらに意識を向かせるだけです。」

ヒューズはニッコリと口だけ笑ってから矢を放った。



 時は少し遡り、グラウンドの2人。

「BOMの代表者を断れ?何で先輩に指図されなければならないんっすか?」

シャインが少し不機嫌な顔で訊く。

「何でもだ。とにかく代表者を放棄しろ。」

「……俺が仮に放棄したとしても、絶対先輩になるとは限らないっすよ。」

「なる。だからこうして言っているんだ。」

ロデが言い切る。

「……何故そこまでBOMの代表者に拘る?」

「拘る理由があるからだ。」

またロデが言い切った。2人を沈黙が包む。それを破ったのはシャインであった。

「……別に俺は先輩みたいにBOMにこだわってはいねぇが、頭ごなしに言われ、しかも理由も教えてくれないのは(しゃく)に障る。だから却下だ。」

「…ならばここでお前を倒し、俺がお前より強いということを示すしかないな。」

ロデがスッと小太刀の鞘を掴む。

「成る程…。多くの人間に俺より自分の方が強いということを見せつけるために、あえて目立つ所に果たし状を出し、どこからでも見れるグラウンドに呼んだのか。」

シャインが風砕牙の鞘を掴む。2人が動かないため雨の音だけが聞こえる。そして、ロデが先に小太刀を抜いた。気が付いたシャインも風砕牙を抜いた。2人の刃が交じるかと思った時だった。2人の間に一本の矢が通り、それにより動きがピタッと止まった。

「矢?」

シャインは風砕牙を鞘に納め、矢が飛んできた校舎の方を向いた。ロデも同じ方向を向いている。

「何のつもりだヒューズ?手出し無用って言ったはずだぞ。」

シャインはこちらを窓から見ているヒューズを睨み付ける。


 「どうやらこちらに気が付いたようですね。ではレビィ、決闘は中止だとシャインに叫んで下さい。」

「えっ!何で私?てかこんな大雨じゃ声なんて届かないよ。」

レビィが突然の指名に驚く。

「レビィの言葉ならシャインは私達の言葉より従ってくれるはずだからです。声は大丈夫です。シャインは耳いいですから。」

ヒューズに言われ、レビィは仕方がなく従い、大雨の外に向かって、

「シャイーーーーン!決闘は中止ーーーー!ナナリー先生が怒ってるよーーーーー!」

と、力一杯叫んだ。


 「ん?」

シャインはレビィが何か叫んでいることに気が付いた。ロデも気が付いた。

「何も聞こえないな。」

ロデが耳を澄ますが当然聞こえない。

[風聴(かぜきき)]。」

シャインは耳を澄ます範囲を広げ、レビィの声だけを聞いた。

「決闘…中止…先生…」

シャインは単語単語で拾い、向こうの伝えたいことを理解した。

「どうやら先生達がこの決闘に気が付いてご立腹のようだ。」

「それがどうした。さっさと刀を抜け。」

「そうはいかねぇ。レビィが言ってるから本当だと思うし、雨も強くなってきた。決闘はまたにしようぜ。」

シャインがロデに背を向けて校舎に歩いて行く。

「なに勝手に…!決めている!」

ロデがシャインの背に向けて刃を振りかざした。シャインはクルッと反転し、風砕牙を抜いて防御した。

「一週間後だ。それが無理ならこの決闘は受けない。」

(つば)迫り合いのままシャインが条件を要求する。

「……良いだろう。その要求を飲んでやる。」

ロデは鍔迫り合いを止め、小太刀を鞘に戻した。

「聞き分けが良い先輩で良かったよ。」

シャインも風砕牙を鞘に戻す。

「一週間後、またここに来い。」

ロデはそう言い残して雨の中どこかに行ってしまった。シャインはロデを見送ると校舎に戻った。

「シャイン!」

昇降口にいるびしょ濡れのシャインにレビィ達が合流した。

「シャイン君!」

ナナリーが怒りながらシャインに近付こうとした時、

「あ~待って先生。」

と、シャインがその場に止まるよう言った。

「何で?」

ナナリーが尋ねる。

「濡れるから。」

そう言ってシャインはパチンと指を鳴らし、自分の周りに風を発生させると、勢いよく水が飛び散り綺麗に乾いた。

「便利だね風属性の魔法って。」

アレンが関心する。

「シャイン君!何をやってるの!」

ナナリーがシャインに対して説教を始めた。しかし20分説教されてもシャインに反省の色はなかった。

「……だから分かった?」

「へーへー分かりました。」

シャインは簡単に返事をしてから、ナナリーに質問した。

「なぁ先生、ロデ・ルーニアって誰なんだ?」

「ロデ君は元BOMの代表者よ。」

「それは聞いた。それ以外の情報だよ。」

「う〜ん…担当じゃないからちゃんと知らないけど、確かルーニア家はかなりの大富豪だったはずよ。」

「金持ちの坊々か…。」

シャインが呟く。

「やっぱりBOMの代表取られたのが嫌だったのから、自分の方が強いぞってアピールしたかったのかな?」

エアルが全員に聞く。

「それ以外果たし状を出す理由がないでしょう。」

ヒューズが答える。

「よほどのプライドがあるのか、BOMに対する思いが強いのか…。」

アレンが推測する。

「先生、他に何か知らないんですか?」

レビィが尋ねる。

「そう言われても担任じゃないからそこまで詳しくは……担任の先生に聞いた方が早いんじゃない?」

ナナリーが提案する。

「そっか、そうですよね。」

「とにかく、早く皆帰りなさい。さっき大雨警報が出てたから気を付けるのよ。」

ナナリーはそう言って職員室へ戻った。シャイン達もその場で流れ解散となり、各々の帰る場所に帰って行った。

(金持ちか……)

シャインは雨の中傘を差し、何か考えながら帰って行った。



 

 住宅街の中に建っている豪邸。その豪邸に帰宅したのはロデであった。

「今帰った。」

大きな扉を開けて家の中に入ると、数人のメイドが出迎えてきた。

「ロデ様!?どうなさったのですかそのお姿!?」

びしょ濡れのロデを見てメイド達が慌てる。

「途中で傘が壊れたんだ。」

「連絡をしてもらいましたらすぐにお迎えに上がりましたのに。すぐにお風呂のご用意をしますので。」

メイド達は玄関から一階にある風呂までバスタオルを敷き、廊下を濡れないようにした。ロデはその上を歩いて風呂へと向かった。その途中、

「何かメイド達が騒がしいと思ったら、帰っていましたか。」

黒のロングヘアーに金の瞳、高級な服を着ている40代後半の女性が声をかけてきた。

「ただいま帰りました、お母様。」

今にも「ザマス」と言いそうな女性はロデの母親であった。

「……スゴい格好ね。」

びしょ濡れのロデを汚い物を見るような目で見る。

「途中で傘が壊れたので。」

「……廊下は汚さないでね。」

ロデの母親はロデの隣を通り過ぎた。

「分かりました。」

ロデは母親の背中に深々と頭を下げた。しかし、行動は敬意を示しても、表情からは敬意を伺えなかった。


 風呂でシャワーを浴び、私服に着替えたロデは自分の部屋へと戻ろうとした時、リビングから母親と父親の会話が聞こえてきた。

「さっきメイド達が騒がしかったが何かあったのかね?」

ソファーに座っている父親が向かいに座っている母親に尋ねる。

「ロデが大変雨に濡れて帰ってきたのでメイド達が慌てていただけです。」

「そうか。あんな『できそこない』がどうなろうと私には関係ないがな。」

父親がフゥ~っと葉巻の煙をはく。

「……何故ロデではなく『ロド』だったのでしょう…。」

母親が悲しい顔する。

「……全くだ。」

父親がまた煙をはく。この会話を廊下で盗み聞きしていたロデは、音を立てずに自分の部屋に戻った。部屋に戻ると、ロデはベッドの上にうつ伏せで倒れた。

(……分かっているさ…俺だって…。)

ロデの握り拳に少しだけ力が入った。



次の日の放課後もまた雨。シャインは1人ある所に向かっていた。そしてシャインが歩みを止めた場所はキレイな屋敷の前であった。シャインは屋敷のインターホンを押すと、扉が開き、中から執事のご老人が出て来た。

「これはこれはシャイン様。お久しぶりでございます。」

ご老人の執事が深々と頭を下げた。

「久し振りだな『フレデ』。ちょっとあんたに聞きたいことがあんだけど時間あるか?」

「私にですか?ええ構いませんよ。」

「良かった。ならちょっと邪魔するぞ。」

「ようこそ『メイビス』家へ。」

シャインとフレデが屋敷へと入った。


 「フレデ、お客様?」

出迎えてくれたのはこの屋敷の令嬢『ティア・メイビス』であった。クリーム色の髪から清潔感が漂う。

「ティアお嬢様、危ないですから部屋でお待ち下さい。」

「玄関に出るくらい大丈夫です。」

ティアはシャインの方を向いた。しかしティアは病気のせいで目が見えていない。その代わりある能力を持っている。

「この魂は…シャインさん!」

「やっぱすげぇなお前の『魂察知』。魂見ただけで特定もできるのか。」

ティアが持っている能力、『魂察知』。魔力察知の魂を見るバージョンだと言うのが一番説明が早い。詳しい説明は面倒だが『49話』を見直してほしい。

「今日はどうしたのですか?」

「ちょっとフレデに用があるんだ。」

「そうでしたか。なら私は部屋へ戻っていますね。」

「いや、別にいてくれて構わねぇよ。」

「本当ですか?ではお言葉に甘えさせてもらいます。」

3人は玄関から客間へ移動した。


 ソファーに座るシャインの前の机に温かい紅茶が置かれる。向かうソファーにはフレデとティアが座っており、同じく紅茶が置いてある。

「それで、私にお話とは?」

フレデが本題を持ちかける。

「『ルーニア』っていう一族を知らないか?」

シャインが尋ねる。

「ルーニアですか?確かにメイビス家はルーニア家とビジネスパートナーとして契約は交わしております。そのルーニア家がどうなさったのですか?」

「そのルーニア家の息子に果たし状を出された。内容はBOMの代表を破棄しろってもんだ。だが、何故そこまでBOMに拘るか理由を教えてくれなかったんだ。だったら勝手に理由を探してやると思ってな。そのためにあいつの家庭事情を知る必要があると思ったから、同じ大富豪のお前等なら何か知ってないかなと訪ねたんだ。」

シャインが詳細を話す。

「そうだったのですか。いやはや、お力になりたいのは山々なのですが、ルーニア家とはビジネスの話が多く、プライベートのことはそれほど話したことはないのです。」

フレデが言う。

「それほどってことはちょっとは話したことあるんだな?そんだけでいいから教えてくれ。」

「う~む…それでしたらご主人様に聞いた方が良いかと思います。」

「ご主人様?てことはティアの父親ってことか?」

「そうでございます。ご主人様の方がプライベートの話をしていると思いますよ。」

そう言うとフレデは電話を取りに席を立った。そしてすぐに受話器を持って戻ってきた。どうやらもう向こうと繋がっているようだ。フレデはどうぞと口パクで言ってシャインに受話器を渡した。

「初めまして。私はティアの父親の『カッシュ』だ。君はシャイン君でいいかな?」

「はい。今回は俺の勝手に答えていただきありがとうございます。」

シャインがまさかの敬語で応えた。

「それで、俺に何か用なのだろ?」

「そうです。実はですね……」

シャインは事情を説明した。

「……ということなんです。些細なことでもいいんで教えてくれませんか?」

「ふ~む…ルーニア家の家庭事情か。正直ビジネス以外あまり関わりたくないんだよな~。嫌いだから。」

電話越しにワッハッハッ!と豪快に笑う声が聞こえる。シャインは苦笑いするしかなかった。

「……とにかく、ルーニア家について何かないんですか?」

シャインが仕切り直す。

「ふ~む…悲しいことなら1つ知っているぞ。」

「悲しいこと?」

「君に果たし状を出したロデ君には『ロド』という双子の弟がいたんだ。ロド君は大変優秀でね、頭は良いし運動神経も良い。非の打ち所がない子だった。しかし数年前に交通事故に遭って、そのまま亡くなったのだ。」

「なるほど……」

「すまない。湿っぽくなってしまったな。違うことを思い出そう。」

「いや、その話だ。」

シャインが確信を持ったみたいに言う。

「弟さんの話か?」

「そうです。そのロドって人、周りからこう言われてたんじゃないですか?──と。」

シャインがある言葉を言った。

「うむ。確かにそう言われていたが、その言葉がどうかしたのか?」

「この言葉が全ての原因だったんですよ。」

「どういうことだ?」

シャインは自分がたどり着いた答えをカッシュに話す。

「成る程。その考えなら君に対する果たし状も、BOMに拘るのも納得がいくな。」

「おそらくこの理由で当たっているはずです。」

「そうだろうな。それで、君はそれにどう応えるつもりなんだ?」

「どうもこうも、全力で応えるだけです。」

「そうか。結果の報告はしてくれよ。」

「分かっています。今回はご協力ありがとうございました。」

「ああ。私も君と話せて良かったよ。」

向こうが切ったのを確認したシャインはこちらも電話を切り、受話器をフレデに返した。

「先程の話、本当にあっているんでしょうか?」

フレデがシャインに尋ねる。

「ほぼ間違いない。『越えられない壁』にぶち当たった人間はそういう感情が生まれるものさ。」

シャインが冷めた紅茶を飲み干した。



 1週間の時が過ぎた。シャインとロデの再戦の日が訪れた。天気は小雨。場所はグラウンド。

朝、ロデはまた掲示板に同じ果たし状を貼り出した。何とも丁寧な性格だ。シャインはその果たし状をジッと見つめた。


 そして放課後。シャインは1人でグラウンドにいるロデの所に行った。レビィ達および野次馬は校舎のグラウンドが見える窓から観戦している。

「来たか。」

グラウンドの中央、1週間前と同じ状況でシャインとロデが向かい合った。

「さぁ…始めよう。」

ロデが小太刀を鞘から抜いた。

「その前に、答え合わせしてもいいっすか?」

「答え合わせ?」

「先輩がBOMに拘る理由っすよ。」

ロデはピクッと反応した。

「先輩には亡くなった双子の弟さんがいますよね?確か名前はロド・ルーニア。」

ロデがまたピクッと反応する。

「話を聞くところに、かなり優秀だったそうじゃないですか。頭も良くて運動神経を良い。さぞかし兄として自慢な弟だったんじゃないんですか?」

シャインの口調が少し煽り気味になる。

「……何が言いたい?」

ロデの小太刀がカタカタとなる。

「弟さんは周りからこう言われてたでしょ?天……」

シャインが言い切る前に、ロデが血相を変えて小太刀を振りかざしてきた。それをシャインは一瞬の反応で風砕牙を抜いて防御した。

「っぶねぇな…。もし防いでなかったら首が飛んでたっすよ…。」

鍔迫り合いのままシャインがニヤリと笑う。

「首を飛ばしたいほど…今の言葉が嫌いっすか?」

「…………」

「そりゃ嫌うっすよね…!なんせ…あんたを苦しめてきた言葉だからな!」

シャインの言葉を聞いたロデは間合いを空け、魔法陣を展開させた。

(そうか…BOMに出れるってことは魔法が使えるのか!)

ロデは小太刀を横に振り、風の斬撃を放った。

「風魔法か!」

シャインは風に光が混ざった閃風の斬撃で相殺した。ロデは連続で風の斬撃を放つ。シャインはそれを回避しながら話を続ける。

「弟は周りの人間からあんたが嫌う言葉を常に言われ続けてきた!でも弟はその言葉に応えられる能力があった!当然兄であるあんたにも同じレベルを求められる!でもあんたは周りの人間が望むレベルに応えられない!何故か!」

シャインは斬撃をかいくぐり、ロデの懐に一瞬で入った。

「あんたが『天才』じゃないからだ。」

そう告げたと同時に、シャインは峰打ちでロデの腹に一撃を入れてそのまま吹き飛ばした。ロデは空中で体勢を立て直して地面に着地する。

「あんたは『天才』という言葉が嫌いなんだろ?」

シャインが核心を突いたらしく、ロデは言い返せずギリッと歯軋りをした。

「あんたは天才の弟と常に比べられてきたんじゃないですか?」

シャインが尋ねると、ロデは重たい口を開いた。

「……ああそうさ…お前の言う通りだ!勉強にしろ戦闘にしろ魔法にしろ!俺が血が滲むような努力をしても!あいつは…!ロドは容易く越えやがる!周りの人間もロド!ロド!ロド!誰も俺を見ちゃくれない!だがそんな環境でも俺は粘ったさ!そして掴み取ったのが『BOMの代表者』だ!これで頂点に立てば俺を見てくれる!だが結果は1位タイ。周りの人間は『ロドであれば完全な1位だった』と俺を罵った。だから俺は1年間、BOMで完全優勝すべく死に物狂いに努力した!だが1年経った時、俺がやっと手に入れた周りの人間を見返すチャンスであったBOMをお前が奪った!何故お前達天才は俺の邪魔ばかりするんだ!」

ロデがシャインに向かって斬り掛かる。シャインはそれを回避と防御をし続けた。



 ロデの心からの叫びは校舎にいるレビィ達にも聞こえていた。

「何か…可哀想だね。」

エアルが戦闘を眺めながらポツリと呟いた。

「ロデさんは本当に努力をしてきたのでしょう。しかしどれほど頑張ろうと所詮は『秀才』レベル。『天才』であるロドには遠く及ばない。」

ヒューズが言う。

「秀才の人間がいずれは当たる『越えられない壁』。その壁の前でロデさんはずっと苦しんでいたんだね。」

アレンが続く。

「それで、戦闘に関してだけは天才のシャインに敵対心を燃やしているのか。」

スノウが両手を首の後ろに回す。

「いや、そんなシンプルな感情じゃないと思う。何で自分ではなく弟なんだという『嫉妬』や自分の努力を簡単に越えられてしまう『憎悪』、でもその壁の向こうに行きたいという『願望』、多分色んな感情が絡み合って、ロデ先輩を苦しめているんだと思う。」

レビィが同情の眼差しをロデに送る。

「さて、シャインは天才を嫌う相手にどう応えんのかね。」

スノウがニヤリと笑う。



 雨が強くなった。決闘はシャインの防戦一方の状態が続いていた。

「どうした!天才の分際で防御しか出来ないか!」

ロデがシャインを挑発すると、シャインは冷静な顔で言った。

「……俺が戦う前に答え合わせをした理由はあんたを怒らし、攻撃を単調にさせるのと思考を鈍らせるためだ。」

それを聞いた瞬間、今までシャインを斬るとしか考えていなかったロデの頭に冷静な思考が巡った。

「気が付いたか?だがもう手遅れだ!」

シャインがロデの小太刀を弾くと、ロデの体勢がグラッと崩れた。

「[閃風拳]!!!」

風を纏った拳がロデの頬を捉えて吹き飛ばした。ロデはダメージが大きかったため体勢が立て直せず仰向けに倒れた。

「怒りで単調になった太刀筋は当然読まれやすいから、防御する側からしたら楽に等しい。そして俺は最小限の力と動作でしか防御していないからずっと攻撃をし続けているあんたより現在体力が残っている。つまり、今から俺が攻撃に転じたら、あんたに勝ち目はないんだ!」

シャインが連撃でロデに攻撃を始めた。ロデはそれを防御する。先程の光景が完全に逆となった。

「少し考えれば分かることなのにあんたは俺を斬ろうとしか頭になかった。それが敗因だ。」

「……まだ、負けるとは決まっていない!」

ロデはシャインが下から上に振り上げた瞬間を狙い、風砕牙を小太刀でかち上げるように空中に弾き飛ばした。

(もらった!)

ロデは小太刀で丸腰のシャインに斬りかかった。しかし、目の前からシャインが突如消えたのだ。

「なっ…!」

次の瞬間、自分の背後から凄まじい魔力を感じた。咄嗟に振り返ると、そこには黄緑一色の髪になったシャインがいた。

「な…何だその力は…!」

ロデが間合いを空けて雰囲気が変わったシャインを見て目を丸くする。

「能力解放って言われている力だ。別に頑張ればあんたでもなれるぞ。」

宙を舞っていた風砕牙がシャインの近くに刺さる。

「どうする?このままで戦うか?そうすると加減がやりにくくて命の保証が難しくなるが。」

シャインはズポッと風砕牙を地面から抜いて刃をロデに向ける。

「いいだろう。その姿のお前に勝利すれば俺の株はより上がるからな。」

ロデが怯むことなく小太刀を構える。

(意外だな…これほどの差の魔力を見せつけられて闘争心が折れないか。)

「なら、もう一段階上を見せましょう。」

そう言うとシャインは魔力を更に高くしていく。そしてハッ!と力を入れた瞬間、瞳と髪が白色となり、纏っていたオーラも白色と化した。

「これが『天空化(スカイモード)』だ。」

圧倒的魔力を放つシャインを目の前にしたロデの足は無意識にガクガクと震えている。

「流石にこの姿で戦うとお前の命はなくなるが…どうする?」

シャインが鋭い眼光でロデを見る。ロデは小太刀を構えるが、その掴む手が震えているためカタカタと小太刀が鳴る。

「俺は…お前に勝てないのか?」

ロデが下を向いたまま小さな声で聞く。

「ああ。お前は俺に勝てない。」

「へっ…言い切りやがって…。だがそうらしいな。俺の心はお前を越えたいと言っているが、体がお前の魔力に圧倒されて止めろと言うかのように言うことを聞いてくれない。」

ロデは小太刀を鞘に戻す。シャインはロデから戦意を感じなくなったので天空化(スカイモード)から普通の姿に戻った。

「お前にその力を見せられてようやく気が付いた。俺は壁を越えられない。」

ロデはゆっくりと雨が降ってくる鉛色の空を見上げる。しかしどこかスッキリした顔である。

「諦めるんっすか?天才に対する抗いを。」

「いや、抗い方を変えるよ。壁の前でも認められるように。」

「へっ…しつこいっすね。」

「ずっとしてきたことなんだ。そう簡単に諦めれないさ。」

ロデがフッと微笑を浮かべた。

「すまなかったな。変な言いがかりを付けてしまって。」

「ダメだぜ先輩、決闘の後に謝っちゃ。拍子抜けしちまう。」

シャインがスッと拳を突き出す。

「またやりましょう。俺はいつでも引き受けるんで。」

シャインがフッと微笑する。ロデもフッと微笑すると同時に眼鏡をクイッと少し上げてから、

「ああ。次は負けない。」

と、拳を合わせた。




 シャイン対ロデの戦闘を1匹の半透明のコウモリが龍空高校の上空からずっと見ていた。半透明コウモリは戦闘を見終えると、バサバサと羽ばたいてある所に戻っていく。その戻った先はなんと『虎神高校』であった。コウモリは開いている窓から教室に入った。

「やぁ『ゴーストバット』君、戻ってきたんだね。」

ゴーストバットを出迎えたのはとても爽やかな少年だった。

「どうだった?」

爽やか少年が話しかけると、ゴーストバットはギーッ!ギーッ!と鳴いた。

「そっか、能力解放の上をいったのか…。偵察ご苦労様、ありがとうね。」

爽やか少年が手のひらを上に向けると、そこにゴーストバットが吸収された。

「シャイン先輩…早く戦いたいな。」

爽やか少年が雨の空に向けて呟いた。

エ「龍空deラジオ~!」

サ「何か前書きで衝撃的なこと言ってるわね。」

エ「作者の情報不足が露呈しちゃったね。」

レ「てことはもしかしたらオパールをちゃんと白色の宝石だと認識していたら、サテラちゃんの髪や瞳は白色になってたかもしれないのか。」

サテ「えっ!?それは嫌です。」

エ「でもサテラちゃんは紫で良かったよ。」

サ「結果オーライね、結果オーライ。」

サテ「はい!私も紫で良かったと思います!」

レ「ふふ。では次回は、私が本編でポロッと言っちゃったけど、BOMが開催されます!楽しみにしていて下さいね。」


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