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魔法学園  作者: 眼鏡 純
67/88

67話 新学期、始まる

シ「よう、約6ヶ月ぶりだな。随分と作者のせいで待たせて悪かったな。だが、この話から『~魔法学園~』の『第2章』が始まりだ!今回は俺だけしかこの放送室にいないが、次回からはスノウ達もいるから安心しな。じゃ、早速見てくれ!魔法学第2章!始まりだ!」

 エデンから帰ってきたシャイン達に一時の平和が訪れた。その平和の間に、サテラはティアと涙の別れを告げ、シャインの家にある自分の部屋から必要な物をまとめて家を出た。サナは校長に中退届を出し、正式に学校を中退した。そして2人はシャイン達に見送られ、時空の湖を通ってエデンへ帰って行った。





────1ヶ月後






 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ

「ん……」

目覚まし時計の音で、黄緑の髪と黒の髪が混ざって生え、黄緑の瞳を持ったシャインが布団の中で目を覚ました。寝ぼけた顔で目覚まし時計を止め、寝室を出て洗面所に行き、顔を洗ってサッパリしてリビングに向かった。そしてリビングに入った時、サテラがいないのに不自然を覚えた。

(……いつの間にか俺はあいつがいるのが普通になっていたのか…。)

そんなことを思いながらシャインは1人分の朝食を作って食べ、久々に制服に腕を通して家を出た。龍空(たつぞら)マンションを一階まで降りると、そこにはマンションの大家のおばさんが朝の日課の体操をしていた。

「あらおはようシャイン君。今日から学校だね。」

「そうっすね。」

「気を付けてな。」

「分かってるよ。」

シャインはおばさんと別れ、龍空高校に向かった。


 龍空高校に到着したシャイン。校舎内の桜の木は満開で、舞った桜の花が生徒を歓迎する。そんな中、シャインは正門をくぐり校舎に向かっていると、背後から、

「おはようシャイン。」

紺色の髪と青色の瞳を持ったレビィが話しかけてきた。

「レビィか。何か久々の感じだな。」

シャインは横に並んで歩くレビィを横目で見る。

「そうだね。サナとサテラちゃんをエデンに送った以来かな。」

2人は話しながら昇降口に入り上靴に履き替える。

「シャインは何してたの?」

「別に。食う、寝る、修行のサイクルをただしていただけだ。」

「ふ~ん…。」

2人は話しながら1年1組の教室に入っていく。今日に組み替えをするのでまだ1年の教室であっている。いつもの席に行くと、そこには茶色の髪と茶色の瞳を持ったヒューズが座っていた。

「おや、久し振りですね。」

いつもの紳士態様のヒューズが2人に挨拶をすると同時に眼鏡をクイッと上げる。

「久し振りヒューズ。」

レビィが挨拶を返す。シャインは、ようという一言で終わらした。

「ヒューズはこの1ヶ月何してたの?」

「特に特別話すほどの変わったことはしていませんよ。それより、あなたは夜桜に代わる刀は見つかったのですか?」

レビィの愛刀だった夜桜はシャイン・ハールロッドとの戦闘のうちに折れてしまい、現在新しい刀を探している途中なのである。

「しっくりくる刀はあるんだけど、どんな刀も夜叉魔法がちゃんと発動しないの。」

「なるほど。つまり夜桜はかなり特殊な刀だったというわけですね。」

「そうだったみたい…。あ~!あの時クトゥリアから闇桜貰っとけば良かった~!」

レビィが大きな声でうなだれて後悔する。

「どうしたんですか新学期早々大きな声なんて出して?」

そこに緋色の髪をうなじの後ろで三つ編みにし、赤色の瞳を持ったアレンが登校してきた。

「気にすんな。後悔に襲われているだけだ。」

シャインが簡単に説明する。

「あははは…。」

アレンが落ち込んでいるレビィを見て苦笑いした。

「お前はレビィのことより革命軍だろ?居場所分かったのかよ?」

シャインが尋ねると、アレンが首を横に振った。

「それが全く…。最近事件とかも起こさないし…。」

「平和でいいじゃないですか。」

ヒューズが話に参加する。

「しかし嵐の前兆のようで…なのでSMCはかなり警戒態勢です。」

「まぁあいつ等が黙って消えるなんざ天地が引っくり返っても有り得ないだろ。」

シャインが言うと、

「それには同意見。」

アレンが頷いて賛成した。

「ねぇ、そういえばまだヴァスタリガの2人が来てないね。」

そこにどうやら後悔から抜け出せたらしいレビィが参加して話題を変えた。

「そういやそうだな。スノウは知らねぇが、エアルは数日前の『4国一斉演説放送』で見たぞ。」

シャインが思い出す。

「たまに忘れますよね。エアルが一国の王女ということを。」

ヒューズが言うと、他のメンバーが激しく同意した。時刻は8時30分。あと5分で新学期最初のチャイムが鳴る時、教室の生徒が正門の方を見てざわざわしているので、シャイン達も何だと正門の方を見た。するとそこには豪華なリムジンが一台停車しており、そこから純白のドレスを身に纏い、前より少し伸びたオレンジの髪をうなじ付近で結んで赤色の瞳を持った、現ダイヤモンド財閥最高責任者でありヴァスタリガ国の王女であるエアルが現れ、学校指定カバンを前に持ってトコトコと登校してきた。

「エ、エアル…!?」

レビィが苦笑いしつつ驚く。

「エアルさんが王女ということは学校側も知っていると思いますが…まさかドレス姿で登校してくるとは…。」

アレンも唖然状態である。

「はーい皆座って―。」

教室の前のドアを開けて入ってきたのは黒色ショートヘアーで眼鏡をかけたこのクラスの担任であるナナリーであった。

「どうしたの皆?」

ナナリーは生徒達が驚いた顔をしているので首を傾げる。

「大丈夫だ先生。先生も俺達と同じ気持ちになれるから。」

ナナリーはシャインの言葉が理解できなかったが、

「おはようございまーす!」

元気に教室に入ってきたエアルの姿を見て、ナナリーはシャイン達と同じ反応をした。

「エ、エアルさんですよね?その…格好は?」

ナナリーが皆の代表で一番聞きたいことを尋ねた。

「あっ、ごめんなさい。早朝からエクノイアの政治家の人と会談をしていたんです。あの人朝にしか会えないって言うわりには話が長いんです!正直苦手な人なのに…ホントやんなっちゃいます!」

エアルがプンプンと怒る。

「あははは…。ご立派に政治界の愚痴が言えるようになったのですね…。」

ナナリーが苦笑いする。

「それで制服は?」

「あと10分もすればメイドが持ってきてくれるらしいです。」

「そ、そう…。じゃあ、後で着替えて下さいね。皆も座って下さいね~。」

ナナリーに言われ、生徒達は自分の席に着席した。勿論エアルはドレスで着席した。シャインも座ろうとした時、窓に小石がコツンと当たる音を耳にした。シャインは気になり窓を開けた瞬間、銀髪の少年が、

「どりゃああああああああああああ!!!!」

と、叫びながら入ってきた。それと同時にチャイムが響き渡った。

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!せ、先生…ち、遅刻にはならないっすよね…?」

窓から入ってきた少年…スノウが死にかけの状態で聴く。

「は、はい。セーフですけど靴を脱いで、そして後で上靴に履き替えて下さいね。」

「う…うっす…。」

とても騒々しい感じであったが、何とかSHRが始まった。


 SHRが終わると、いつものメンバーが教室の後ろに集結した。

「ホントに久し振りだね!」

ちゃんと制服に着替えたエアルが嬉しそうに皆の顔を見る。

「僕はスノウとエアルさんはいつも会っていると思っていました。」

アレンが少し驚いた様子である。

「バカか。相手は王女だぞ?そんな友達の家行く感じで行けるかよ。」

ミネラルウォーターをゴクゴク飲みながらスノウが呆れる。

「スノウはこの1ヶ月何やってたの?」

レビィが尋ねる。

「とにかく鍛えてた。遅かれ早かれ結局は革命軍と決着をつける必要があるんだ。その時に足手まといにはなりたくないからな。」

「はぁ…本当脳筋ですねお2人は…。」

ヒューズが小馬鹿にするようにため息をついた。

「今さらっと俺を入れやがったな。」

シャインがツッコむが完全に流された。その時、チャイムが鳴り、ガラガラとドアを開けてナナリーが入ってきた。

「はーい!では今からそれぞれのクラスを発表しますねー!」

「先生!席には座らないのですか?」

レビィが質問する。

「どうせあなた達、友達と同じクラスかどうかとか確かめるために立ち歩くでしょ?だったら最初から立ってなさい!」

「何で私今怒られたんだろ…。」

レビィが苦笑いでツッコんだ。

「今から出席番号順に呼んでいきますから、呼ばれた人は前にクラスと次の出席番号が書かれている紙を受け取ってね~。」

ナナリーが番号1番から呼び始めた。そしてシャイン達も呼ばれ、全員が受け取ってから一斉に紙を見た。

「ねぇねぇ、何組だった?」

エアルがレビィに尋ねる。

「私は2組だったよ。」

「ウソ!?私も2組!」

「ホント!やったー!」

エアルとレビィがハグをしたままピョンピョン跳ねて喜び合う。

「シャインは何組だったんだ?」

スノウが尋ねる。

「俺は3組だった。」

「あん?お前と同じクラスかよ。」

「何だよ、お前も3組かよ…。」

シャインがハァとため息をついた。

「何で残念な感じになんだよ!」

「バカが移る。」

「それはこっちの台詞だ!」

スノウがそうツッコむが、

(いや、もう手遅れだよ2人とも…。)

レビィ、アレン、ヒューズの頭良いトリオが心の中でツッコんでいた。

「アレンとヒューズは何組なったの?」

エアルが尋ねる。

「僕達は1組になりました。」

アレンが答えた時に、ちょうど最後の人が紙を受け取った。

「はーい、これで全員次のクラスが分かりましたね?では今から10分後に教室を移動してもらいます。そして新しい担任の先生からその後の説明があるので教室から出ないで下さいね。」

ナナリーの連絡に生徒達は素直に返事をした。

「ねぇねぇ、今日カラオケ行こうよ!」

エアルが提案する。

「私は構わないけど、エアルは大丈夫なの?」

レビィが賛成してからエアルの予定を心配する。

「う~ん…誰かと会談があったと思うけど、別に重要なことじゃないし、後でカエデお婆ちゃんにパスしてもらうから大丈夫!」

エアルがグッ!と親指を立てる。

(こんな王女でヴァスタリガの未来は大丈夫なんだろか…。)

レビィ達に全く同じことを思われているなんてエアルが気付くことはなかった。

「スノウは来てくれるよね?」

スノウはエアルの頼みならあまり断らないことをエアル本人およびシャイン達も知っている。そして予想通りスノウは行くことに賛成した。

「ヒューズとアレンは?」

「私も構いませんよ。」

「僕も今日はSMCの仕事はありませんので大丈夫です。」

ヒューズとアレンも賛成する。

「……シャインは?」

エアルが最後に残ったシャインに尋ねると、視線がシャインに集まった。シャインはこういうイベント事には参加しないのが普通であった。だが、

「……まぁ久々にあったんだ。仕方がないから行ってやる。」

と、まさかの賛成にエアル達が驚いた。

「やっとお前もノリがよくなったか~!」

スノウが笑いながらシャインの背中をバンバン叩く。シャインが、いてーよバカ!とツッコむとレビィ達も笑い出した。そんなことを約束していると、教室を移動する時間となり、シャイン達は一度解散した。シャインはスノウと共に3組の教室に入りしばらく2人で話していると、新しい担任が入ってきた。

「はーい!皆さん座って下さーい!」

しかし入ってきたのは見なれたナナリー先生であった。

「何だ、また先生かよ。」

シャインがフッと微笑を浮かべる。

「そのようですね。私もまた頭を抱える日々が来るとは思っていませんでした。」

「さらっと俺達のこと問題児扱いしたな…。」

スノウが苦笑いする。

「はいはい、そんなことより早く座って。」

新担任ナナリーに言われ、シャインとスノウは着席した。


 後の行事も無事終わり、午後には解放されたシャイン達はカラオケに行くため正門で集合した。そして全員で龍空高校から徒歩15分にある龍空生徒御用達のカラオケ店『ニャンパラ』に到着した。

「さあさあ歌ってもらいましょうか!」

部屋に入った瞬間にエアルがシャインにマイクを向ける。

「何で俺からなんだよ…。」

「だってシャインの歌声聴いたことないもん。」

エアルが強引にマイクを押し付ける。

「そうならヒューズやアレンもだろ。」

「2人よりシャインの方がレア度が高いでしょ!それにここまで来て歌わないって選択肢はないよ!」

反論を繰り返すシャインにエアルは無理矢理マイクを持たした。

「たく……」

シャインがしぶしぶマイクを受け取ったとき、画面で流れていたロングの水色髪に水色の瞳を持ったアイドルのPVにエアルが反応した。

「あっ!『ルコード・グレイシャー』だ!」

「ルコード?誰ですか?」

優雅にコーヒーをカップで飲んでいるヒューズが尋ねる。

「知らないの?ヴァスタリガ出身で氷魔法が使える、今アイドル界のトップの『ルコード・グレイシャー』、通称『ルコルコ』。年は二十歳で、綺麗な歌声と完璧なダンス、そして自身の氷魔法で作り出される幻想的なパフォーマンスが売りなの。」

「へぇ~。私も知らなかった。」

レビィも初耳だったらしい。

「皆アイドル業界に疎いな~。」

エアルが少し優越感に浸りながらやれやれと呆れる。

「さ、1つアイドル知識が増えたところでシャインに歌ってもらいましょう!」

エアルがタンバリンを鳴らしてシャインに早く歌えと急かす。

「………たく、分かったよ。」

シャインはルコードのPVを見ながらピッピッと歌を入力した。



 同じ時間。カラオケで流れていたルコードのPVを青髪ポニーテールに銀色の瞳を持ったミリアはハンバーガー店で友達のスマートフォンで見ていた。

「どう!可愛いでしょ!」

スマートフォンの持ち主である茶髪の友達が目を輝かして、机を挟んで前に座っているミリアを見る。

「ど、どうって言われても…アイドルに興味ないからよく分からないよ…。」

ミリアは少し圧倒されつつ答える。

「はぁ…ダメだねミリアは。ルコルコを好きじゃない時点で人生の8分の1は損しているね。」

(えらく中途半端ね…。)

ミリアが心の中でツッコむ。

「今のアイドル業界でルコルコに並ぶアイドルはいないね。うん。」

友達の熱い力説にミリアは苦笑いするしかなった。その時、ミリアの頭の中に1人アイドルが浮かんだ。

「昨日のニュースで見たけどあの子はダメなの?」

「あの子って?」

「ほら、私達より1つ年下で…人気急上昇アイドルって言われてる…」

「ああ。『フロウ・アドページ』、通称『フウたん』ね。」

「そうそう。」

「う~ん…あの子は確かにあ能力は高いけど、まだまだルコルコには程遠いかな。でもあの子にはあの子個性があってね……」

評論家のように分析を始めてしまった友達。これは長くなりそうだと心の中でため息をつくミリアであった。その予想は的中し、話は30分続いた。

「………だから、ルコルコとフウたんに差が………て、聞いてるミリア!」

友達がバンと机を叩く。

「き、聞いてるよ。」

「いいや!聞いてないね!こうなったら徹底的にアイドルを凄さを教えてやる!」

完全に熱が入ってしまった友達にミリアは無理矢理コンサートの映像を見せられながら熱く語られた。

(だ、誰か助けて~~!)

ミリアが心の中で助けを求めた。



 ミリアが見せられているドームコンサートの映像は今日同じドームで『ルコルコ』こと『ルコード・グレイシャー』のコンサートが行われていた。

「皆~!今日は私のコンサートに来てくれてどうもありがとう~!」

自分で造形した氷のドレスを身に纏ったルコードがドームの中心で周りにいるファンに手を振ると、ファンからワァァァァァ!!!という凄い声援が返ってきた。そんな中をルコードは手を振り続けながら舞台裏に帰っていき、コンサートは無事成功した。

「お疲れ様でした~!」

ルコードはすれ違う人全員に笑顔で挨拶しながら自分の楽屋に入った。その瞬間、笑顔はなくなり、とても不機嫌な顔で椅子に乱暴に座った。

「あ~疲れた~…!」

う~ん…と背伸びしながらあくびをするルコードからアイドルオーラは全く見受けられなかった。そして力を抜くと、パリパリパリと音を立てて氷のドレスが剥がれ、その前に着ていたアイドル衣装が現れた。

「本当にその能力は便利だし、衣装代が浮くからこっちも助かる。」

そこに水色のフレームの眼鏡をかけたスーツ姿の20代後半の男が入ってきた。

「あっ、マネージャー。お疲れ~。」

ルコードが手をヒラヒラさせて挨拶する。

「そのガサツな態度、どうにかならないのか?」

マネージャーがハァとため息をついた。

「うるさいな~。あんたの前でしか『本当のルコード』を見せないんだからいいじゃん。」

ルコードはよっこいしょと立ち上がり、テレビを付けた流れで楽屋の冷蔵庫を開け、中を見るなり、

「あれ、酒ないじゃん。」

と、愚痴をこぼした。

「楽屋にあるわけないだろ。それにアイドルなんだから酒なんてイメージ悪い。」

「はぁ?何それ?アイドルが酒飲もうが勝手でしょ。私はファン共が想像しているような陽気で元気な性格じゃないくらい、あんたが一番知ってるでしょ?私だって二十歳の女だし、アイドルはただの仕事(ビジネス)。仕事後の酒が美味しいのはあんたも分かるわよね?」

「……俺は下戸だ。」

「あら~、あの快感を味わえないなんて可哀想に。」

ルコードが小馬鹿にするようにクスクス笑う。

「ねぇ、ちょっとコンビニ行って酒買ってきてよ。」

「断る、そんなに飲みたかったら今日の仕事はコンサートだけだから自分で買って帰れ。」

「………冷酷マネージャー。」

ルコードが冷たい目で毒づく。

「パシりは俺の仕事外だ。」

それを綺麗に流した時、コンコンと楽屋のドアがノックされた。

「はーい!大丈夫ですよ~。」

とてつもない速さでアイドルスイッチをONにしたルコードが陽気な声で応えた。すると1人の女性スタッフが入ってきた。

「失礼します。ルコードさんにお会いしたいと申している人がいますがどうなさいますか?」

「私に会いたい人?誰ですか?」

「『フロウ・アドページ』さんです。」

「ほう、現在人気急上昇中アイドルが。でも何でこんな所に?」

マネージャーが尋ねる。

「このドームの近くで仕事があり、そのついでにご挨拶を、だそうです。」

「どうするんだルコード?」

マネージャーがルコードに尋ねる。

「いいですよ。私はいつでも大歓迎です。」

ルコードが笑顔で返答する。

「では呼んで参りますので少々お待ちください。」

そう言って女性スタッフがドアを閉めると、ルコードの顔から笑顔がなくなり、

「仕事のついでに挨拶とか、一応こっち先輩なんですけど。」

と、少し怒り気味で言う。

「それでもちゃんと会うんだな。」

「そうした方が好感度上がるでしょ?」

「……そんな理由だと思ってたよ。」

マネージャーが呆れた時、コンコンとノックされて開くと、さっきの女性スタッフが顔だけ見せて呼んで参りましたと言ってドアを閉めた。そして次にドアが開いたとき、入ってきたのは例のアイドルであった。

「初めまして!『フウたん』こと『フロウ・アドページ』です!お会いできて光栄です!」

身長は155㎝と少し小柄で、尾てい骨まで伸びた長い髪はツインテールに結ばれており、若草のような綺麗な黄緑色である。瞳も同じく黄緑色で、まるで宝石のエメラルドのようであった。

「ルコード・グレイシャーです。こちらこそあえて嬉しいわ。」

ルコードは満面の笑みで近付き、フロウと握手を交わした。

「うわぁ~!憧れのルコードさんにそんなこと言ってもらえるなんて感激です!私ホントに大ファンなんです!」

フロウの視線が完全にファンの目であった。

「ありがとう。」

ルコードがニコッと笑う。

「あ、あの!サインいいですか!」

どこからともなく取り出してきた色紙と黒ペンをルコードに渡す。

「ええ、いいですよ。」

ルコードも断ることなく笑顔でサインを書いた。

「はい。」

「あ、ありがとうございます!」

受け取ったフロウはスゴいスピードで頭を下げた。

「あ、あの、もう1つお願いしてもいいですか?」

「何かしら?」

「魔法を見せてもらってもよろしいですか?」

「氷魔法を?別に構わないけど。」

ルコードは魔力を高め、掌の上に白鳥の氷像を作り出した。

「これでいいかしら?」

「うわ~!キレイ~!いつもテレビとかで見ますけど生はスゴいですね~!」

「そんなに喜んでもらうとこっちも嬉しいわ。」

マネージャーは今のルコードの笑みは本当の喜びの笑みだなと思っていた。しかし、

「ホントにスゴいですね!……『氷神(ひょうじん)魔法』。」

フロウの言葉によって楽屋の空気が一瞬にして凍りつき、テレビの声だけが聞こえる。

「あれ?もしかして禁句でしたか?」

フロウの笑顔が不吉な笑みに変わる。

「……何で知っている?」

ルコードからも笑顔が消え、フロウを睨み付ける。

「どう頑張って隠そうとしても、分かる人には分かっちゃいますよ。」

フロウがニコッと笑いながら言うが、ルコード自体には笑えない状況であった。

「……貴様一体何が目的だ…。」

マネージャーがフロウに近付こうとするのを、

「やめて『イアス』。妙な争いはこちらもデメリットを背負うわ。」

と、ルコードがマネージャーの名前を呼んで止めた。

「そうですよ。私はただご挨拶をしにきたと言ったじゃないですか。氷の神『セルシウス』に仕えし『氷騎士イアス』さん。」

フロウが笑顔をイアスに向けた。

「俺の存在も認識済みか…。」

イアスがチッと舌打ちする。

「私達に接触して何を企んでいるの?」

ルコードが警戒のまま尋ねる。

「何も企んでいませんよ。ただ自分がいるアイドル業界にいるのを知ったのでご挨拶と、本当なのかどうか確認をしに来ただけです。別に殺したりルコードさんの力を利用するなんて考えていません。」

「………信用は出来る?」

「私はルコードさんのファンですよ?自分が応援している人に悪いことするなんて有り得ません。」

フロウがキッパリ言い切る。その眼差しと睨み合ったルコードは、

「……分かったわ。信用してあげるから今日は帰りなさい。でも……」

「大丈夫です。外では誰にも言いませんよ。」

「………ならいいわ。」

「はい、今日はお会いできて良かったです。次に会うのは生放送の『音楽駅』ですね。その時はアイドルとしてお会いしましょう。」


《※音楽駅とは…毎週金曜日夜8時から生放送されている音楽番組である。》


フロウがペコッと頭を下げて楽屋を出ようとしたとき、

「待ちなさい。」

ルコードが呼び止めた。

「何か?」

「あなたは何でアイドルなんかしているの?」

「?どうしてそんなことを聞くのですか?」

「なんとなくよ。早く答えなさい。」

「……『ある人』に私という存在を知ってもらうためにです。」

フロウはそう答えて、楽屋を後にした。

「……何者なのあいつ。」

ルコードがフロウが出て行ったドアを見つめて呟いた。

「とりあえず、要注意人物には変わりないな。」

イアスもドアを見つめて呟いた。その時、誰にも見られていないテレビにニュース速報が流れた。その内容とは、『エクノイア、虎神高校付近の解体中ビルで暴力団が高校生3人により壊滅。』というものであった。



 ニュース速報の現場である虎神高校付近にある大きな解体中のビルには警察がたくさん集まっており、遠い所からは野次馬が見ていた。ビル内には10人以上の暴力団が倒れており、少しずつ救急車に乗せられて病院に連れて行かれていた。そして今、警察が取り調べを行っているのは暴力団を壊滅させた3人の高校生である。

「だ、か、ら!さっきから言ってんじゃねぇか!俺達は正当防衛だって!」

桜色の髪で少し小柄の男、『クラウド』がイライラしながら答えている。

「その証拠はどこにあるんだこっちは言っているんだ。」

警官が同じ事の繰り返しに少し飽き飽きしてきた時、

「黙っていろクラウド。」

クラウドの前に出て来たのは、黒縁眼鏡で黒髪の『レイン』であった。

「何だよレイン!ポリ公どもの肩を持つのかよ!先に喧嘩売ってきたのはあいつ等だったろ!」

「そんなに頭ごなしに怒鳴っては解決するものも解決しない。それに我々は……」

「弱者を無闇に攻撃しないからな。」

レインの言葉に重ねて現れたのは、金色の短髪に金の瞳を持ち、右頬の十字傷が特徴の『バージェス・アルシオン』であった。

「それが正当防衛を主張する理由だと?」

警官に聞くと、バージェスはそうだと言った。

「自分より弱者を倒して強者と名乗る者は愚かが単なる馬鹿だ。本当の強者は己より上の者を倒し、常に高みを目指している者だ。だが、今回のように相手が弱者であろうと、殺そうとしてきているなら例外だがな。」

「何だと…!」

バージェスの言葉に反応したのは倒れていた暴力団リーダーであった。暴力団リーダーはヨロヨロと立ち上がり、バージェスの胸ぐら掴んだ。

「俺らがてめぇらガキより弱者だと…!ふざけんな!」

暴力団リーダーが怒鳴るが、バージェスは一切動じることなく、

「弱者ほどよく吠えるというのは本当のようだな。実際俺らに負けたというのに…本当に愚かな人間共だ。」

腕を払ってから煽ったのだ。しかもその眼光は獣の如く鋭かった。

「おい警官。」

バージェスがそのままの眼光で警官の方を向いたので、警官は少しビクッと怯え、

「は、はい!」

と、恐怖のあまり敬語を使ってしまった。

「こいつが先に自分達がしかけたって認めたら、俺らが正当防衛になるか?」

「は、はい!なります!」

まだ敬語の警官であった。

「そうか。よし、白状しろ。」

バージェスがリーダーを睨み付け、白状するように要求する。

「ふ、ふざけんな!元はと言えばお前らが先に……!」

「お前らが…先だったよな?」

バージェスの鋭い眼光が更に鋭くなり、リーダーは完全に圧倒されてしまった。

(何だよこいつ…!本当に高校生かよ…!)

恐怖に飲まれたリーダーは、

「は、はい…。俺らが先に…しかけました…。」

と、白状する以外選択肢が残っていなかった。

「聞いたか警官?」

バージェスが警官に訊く。

「は、はい!聞きました!」

まだまだ敬語の警官さんが答えた。

「よし、なら俺らの正当防衛は立証されたな。だからよ、俺らこのまま行っていいか?」

「は、はい!どうぞどうぞ!」

警官が簡単に承諾した。

「そうか。じゃ、お疲れさん。」

バージェスはポンと警官の肩を叩いてからビルから出て行った。クラウドとレインもバージェスの後ろを追いかけてビルを出た。

「たく…お前がアイスごときでもめるからこんな面倒なこになったんだぞ。しかもバージェス様も巻き込んで。」

レインがクラウドに呆れる。

「すいませんバージェスさん。」

クラウドがバージェスに謝る。

「まぁいいさ。良い運動にはなった。だが、次からアイスを食べるときでも前を見て歩け。」

「へーい。」

そんな話をしながら、バージェス達はどこかに行ってしまった。バージェス達が去ったビル内は少しの間誰も喋らず、沈黙の風が吹いた。



 ビル内に吹いた沈黙の風は大空を舞い、大陸を渡ってある森の中に建っている木の小屋のドアにぶつかり消滅した。それがノックだったように、ある男が小屋から出てきた。

「春なのにちょっと冷たい風だったな。」

少し長めの黄緑の髪に、左が紫で右が白という奇妙な瞳を持った『バルス』が体を少し震わせる。

「まぁいいや、とりあえず飯でも狩りに行くか。」

バルスが夕食の食材を狩りに行くため準備体操をする。その時、何かを察知したらしく、バルスは大きくため息をついた。

「たく…ここ結構気に入ったんだけどな~。」

うなじを掻いて呆れてから、一瞬で大木の太い枝に飛び乗った。そして枝に飛び乗ったと同時に、森の奥からロケットランチャーが飛んできて小屋を爆破させたのだった。

「あ~あ、弁償してくれるんでしょうね…政府の(いぬ)の皆さんよ。」

枝から降りたバルスはロケットランチャーが飛んできた方向を見つつ苦情を言う。すると森の中から軍服を身に纏い、ガッチリした体型で、顔に大きな古傷が走る男が現れた。

「とうとう見つけたぞバルス!貴様はこの『セイヌマカ』少佐が引導を渡してやる!」

セイヌマカと名乗った男が叫んだ瞬間、バルスを包囲するように迷彩服の兵士達が魔法銃を構えて現れた。上空にはヘリコプターも旋回しており、かなり厳重な包囲であった。

「大層に警戒しやがって…。しかし本当に『とうとう』だな。1年ぶりかな?」

「キレイに雲隠れしよって。かなり手間がかかったぞ。」

「俺はそんな気はなかったけどな。お前らの仕事不足だろ?ワンコちゃん達。」

バルスの分かりやすい挑発に兵士達は一瞬ムッとなるが、

「あれくらいの挑発に乗るのではない!」

セイヌマカの一喝でまた真剣な表情へと戻った。

「てか、お前らしつこいね〜。そろそろこっちも平和に暮らしたいんだけど。」

バルスがうなじを掻いてわざとらしくため息をついた。

「黙れ!『国滅のバルス』!貴様が犯した『12年前の大罪』が消えると思っているのか!」

セイヌマカのある言葉に、バルスはピクッと反応した。

「『国滅』…ねぇ。別に国を滅ぼした記憶はねぇんだけど…何でそんな(あざな)が付いたのかね~。」

バルスは頬をポリポリ掻きながら苦笑いする。

「貴様のやったことは国を滅ぼすと同等だ!」

セイヌマカが言い切る。

「でも12年間でちゃんと復活しただろ?なら良いじゃねぇか。」

「そんなことがまかり通ると思っているのか!あれほどの事件を起こした者がこうやってのうのうと生きていることによって!どれほどの国民に恐怖を植え付けていると思う!我々はそんな国民の恐怖を根絶やし!国民の『命』を守ることが使命なのだ!」

セイヌマカの言葉に、バルスは大きく反応を示し、紫と白の眼光でセイヌマカを睨み付けた。

「命を守る?……だったら『レゲネラ』の命も守ってくれよ!」

珍しく声を張り上げるバルス。その言霊には少し恨みが窺える。

「レゲネラ……本名『レゲネラ・ツィーオン』。確か12年前に『不運』にも病により亡くなった女性か。」

「不運…だと!てめぇらが殺しておいて何だその言い草は!」

「違う!レゲネラ・ツィーオンは病で亡くなったのだ!」

「その病を発症させたのはどこの誰だ!」

バルスがセイヌマカに近付こうとすると、兵士達が一斉に射撃体勢に入った。それによりバルスの歩みはひとまず止まった。

「レゲネラはてめぇら政府に殺されたんだ…!だから俺は…てめぇらをぶっ殺す!!!」

そう言った瞬間、バルスの姿がフッと消えたのだ。兵士達は突然目標が消えたため、辺りを見渡して探し始める。

「どこに消えた!」

セイヌマカも同じように辺りを探す。次の瞬間、上空を旋回していたヘリコプターが爆発したのだった。そしてヘリコプターは残骸と化し、森に落ちてメラメラと燃える。その燃える炎の中から、見えるほどの殺意を全身から放ったバルスが現れた。兵士達はその殺意に完全に怯えてしまうが、

「かかれー!」

という上官のセイヌマカの命令により、一斉に剣を抜いて全方位から襲いかかった。しかしバルスは動じることなく、その場で刹那の速さで一回転すると、周りの兵士達が全員斬られたのであった。

[輪斬風(りんざんふう)]。」

どうやら回転の時に生じた風で斬ったようだ。

「怯むな!数で押せ!」

またセイヌマカは命令を下して兵士を動かす。兵士達はそれに従い、また一斉に襲いかかった。だが相手悪過ぎた。数秒後、兵士達は誰一人立っておらず、血の海に無数の肉塊が倒れていた。

「こ、これほどまでとは…!」

セイヌマカは少し後ずさりする。

「大丈夫だぜ、セイヌマカ少佐。兵を無闇に殺さしたことで処罰はされねぇ。だって…ここでお前も死ぬんだからな。」

バルスが殺人鬼の眼光でセイヌマカを睨む。

「くっ…!仕方がない…私が直々に相手をしてやる!」

セイヌマカが魔力を上げると、軍服の上からでも分かるくらい筋肉が盛り上がった。

「強化系魔法でドーピングか…。ま、相手が俺じゃあ意味がねぇがな。」

バルスが格闘を構える。

「ゆくぞ!」

セイヌマカはガン!と拳を合わせてからバルスに向かって突進する。巨体なわりにはなかなかの速さであった。

「ぬうっ!」

セイヌマカが拳を放った。しかしバルスには当たらない。セイヌマカは一旦間を空けてから次は連続で拳を放った。だがやはりバルスに全て回避された。そしてバルスはグッと低く屈んでから、セイヌマカの顎にアッパーカットを喰らわした。顎が揺れれば脳が揺れるため、セイヌマカは平衡感覚を失い、ガクッと膝をつくかと思いきや、なんと根性で立ったのである。

「へぇ…無駄に根性はあるんだな。なら、これはどうだ!」

バルスはセイヌマカにラッシュを喰らわした。セイヌマカはまだ平衡感覚が治っていないため防御するのがやっとであった。ラッシュを全て受けたセイヌマカはボロボロで、立っているのがやっとの状態である。

「素直に倒れて死んだふりでもしたらどうだ?そしたら命は取らないでやるぞ?」

一切息が切れていないバルスがセイヌマカに提案する。

「お、俺は軍人だ…!罪人の言いなりになるなど死より恥!!!」

「……そうか。なら遠慮なく殺すぞ。」

「正義は死なん!正義は死なんのだーー!!!」

セイヌマカが渾身の力を込めて拳を振り抜いた。バルスはそれに応える形で真正面から同じく渾身の力で拳を振り抜いた。2人の拳はぶつかり合った瞬間、爆発のような衝撃波が発生し、森の木々をなぎ倒した後、静寂の空気が流れた。そして、

終了(チェックメイト)だ。」

と、バルスが囁いた瞬間、セイヌマカの振り抜いた拳は肩ごと吹き飛び、切断部分から血潮が溢れた。セイヌマカは力無く仰向けに倒れた。しかし、まだセイヌマカは生きていた。

「か…神よ…!こ…この罪人にさ…裁き…を…」

それが最後の言葉であった。血の海の中に立つバルスは、

「本当に神が罪人を裁くんだったら、俺はとっく地獄巡りをしているさ。」

と、セイヌマカに語りかけるような呟きをしてから、森の中から姿を消した。



 セイヌマカが最後に願った相手である『神』が存在するパラレル世界『エデン』。その世界にある国『カーラーン』の中央部『セントラル』。そこに新しく建てられた教会に金のショートヘアーに金の瞳を持ち、現在『導きの神』であるサナはいた。サナは自分の部屋で神になる前と同様に机の上で何かの研究に没頭していた。そこに紫8割、黒2割のロングヘアーに紫の瞳を持った妹のサテラが姉を呼びに来た。

「サナ姉~、そろそろ『神のお言葉』の時間だよ~…て、また研究してるし…。」

姉の変わらぬ状態に妹が呆れる。ちなみに『神のお言葉』とは、週に1回、サナから国民に向かって有り難い言葉を捧げる儀式のことである。

「サナ姉!早く支度して!」

「分かった分かった。この研究に一区切りされたら勝手に行くから。」

そう言うサナは片手で頭を抱えながら何か難しい文を書いている。

「そう言って先週来なかったでしょ!」

サテラが両腕を腰にあててプンプン怒る。

「そうだったっけ?なら別に今日もなかっても大丈夫じゃない?苦情がきてるとか聞いてないし。それに人の気?神の気?どっちでもいいけど、それも知らないでちょっとコンビニ寄ろうかなの感じでいつも相談しに来るんだし。」

「神様が愚痴を言わないで下さい…。」

サテラが苦笑いしていると、

「苦情はこっちに来てんだよ。」

と、文句を言いながらある男が現れた。黄緑色と黒色の髪が混じり、黄緑色の瞳を持ったその男の名はシャインであった。しかしここはエデンであるため、名字は『ハールロッド』である。

「『サナ様は何故出て来ない。』『サナ様は我々を見捨てたのか?』っつう感じの苦情が大人気アーティストのファンレター並に殺到してんだよ。だからさっさとお言葉を捧げてくれよ。」

腕組みをして壁にもたれ掛かるハールロッドがため息をつく。ハールロッドの声に気が付いたサナは作業を中断させてハールロッドとサテラがいるドアの方を見た。

「あんたの顔を見てるとアースなのかエデンなのか分かんなくなってくるわ。」

サナがそんなことを言いながら2人に歩み寄る。

「んなこと俺に言われても知るかよ。そんなことより早く国民どもにお言葉をやってくれ。」

「はいはい分かったわよ。たく…神に命令するなんて生意気ね。」

サナが廊下を歩きながら左横を歩くハールロッドに少し怒る。

「うるせぇ。お前は元俺の部下だろうが。」

「でも今はあんたより遥か上の位よ。」

「どうでもいいだろ。」

「どうでもよくないわよ。いい?この世界のトップは……」

仲が良いのか悪いのか。いがみ合いを止めない2人の背中を少し後ろから見ているサテラはそんなことを思っていた。

「あ。やっと来たわねサナ。やっぱりハールロッド君を行かせて正解だったわ。」

廊下を歩いている途中、ある夫婦に遭遇した。声をかけてきた女性はサテラと同じ紫の髪に黒の髪が少し混じったロングヘアーに紫の瞳を持っており、名は『イヴ・ダイヤモンド』。隣にいる男性は長身でサナと同じ金髪に金の瞳を持っており、名は『アダム・ダイヤモンド』。もうお分かりの通り、この夫婦はサナとサテラの両親である。

「あんた、お母さん達の差し金だったのね。」

サナがキッとハールロッドを睨んだが、ハールロッドは違うとこを向いて知らんふりしている。

「ほら、皆待っているから早くしなさい。あと、そんな服じゃダメよ。」

今のサナの服は俗に言う部屋着であり、神としては不合格の服であったため、イヴはトンと指でサナの服に触れ、キレイなドレスへと変身させた。

「こういう服苦手なんだけどな…。」

サナは小声で文句を言ってから、国民が待っている教会へと移動した。そして教会の裏に到着し、サテラ達はそこで待機をした。サナは1人教会へと入っていき、自分の銅像の前に立ち、教会内を埋め尽くす国民の方を向いた。

「おお!サナ様ー!」

「おお、何てお美しい。」

「サナ様ー!」

待ちに待っていた国民達が各々サナに向けて声を上げる。それを数十秒聞いてから、サナは静まりなさいと言って沈黙をつくった。

「まず始めに先週の件について深く謝罪する。私のミスだ。言い訳はしない、すまなかった。しかし安心しなさい。私は決してあなた方を見捨てない。それを今一度ここで誓おう。……では、今から神の言葉を捧げよう。」

そう言ってサナは今週のお言葉を捧げ始める。その言葉を国民は胸の辺りで両手を合わせて聞いている。そんな群集の一番後ろに、元トレイタの『レビィ・クトゥリア』が犬の『ヨゼル』と共に眺めていた。

「すっかりサナ教が浸透したな。」

クトゥリアがヨゼルに話しかける。

「まぁ奴が神である限り平和だからいいんじゃないか。」

話術魔法(スピークマジック)で人語が話せるヨゼルが応える。

「そう言えばクトゥリア、刀どうしたんだ?」

ヨゼルはクトゥリアの腰に闇桜がないことに気が付いた。

「もう争う必要がなくなったんだ。だからちゃんと持ち主に返しておいた。」

「持ち主?フィリアにか?」

「……ああ。」

クトゥリアの母、『フィリア・クトゥリア』の墓の前には、闇桜がそっと供えられていた。

「でも、また刃を振るうことになった時には借りるさ。」

クトゥリアが冗談混じりにほくそ笑んだ。

「へっ。そんなのもうゴメンだぜ。」

ヨゼルはそう言うと、四足歩行で教会を出て行く。

「おい、どこに行くんだよ?」

クトゥリアはヨゼルを追いかけて後ろから聞いた。

「決まってんだろ。イスラの墓だ。」

振り向かず短く答えたヨゼルは歩いて行く。

「はぁ…そんな毎日墓参りされたら、ソルージュもあの世でうんざりしてんだろうよ。」

クスッと笑ってから、クトゥリアはヨゼルの後を追いかけた。



 雲がかかっていないため、キレイな星空の下。カラオケ『ニャンパラ』の前に午後1時から7時まで歌っていたシャイン達がいた。

「あ〜楽しかった!」

う〜んと背伸びをするエアルの顔はご満足のようだ。

「久々のカラオケも良いものです。」

ヒューズも楽しんだ感の顔をしている。

「俺はただ疲れたよ。」

大きくため息をついたのはシャインである。

「でもアレンの野郎が最後までいなかったのは残念だったたな。最後らへんの盛り上がり半端なかったのに。」

さっきまでの事を思い返してスノウがゲラゲラ笑う。

「あれは盛り上がったというよりただの馬鹿騒ぎっていうの…。はぁ、我ながら自粛しないと…。」

レビィがスノウとは裏腹に反省している。

「しかしSMCの緊緊急召集は何なのでしょう?」

ヒューズが全員に問いかけた。

「ま、大方革命軍の居場所でも分かったんだろ。もし俺らに関係があるんなら話してくれんだろ。」

そう答えたのはシャインであった。他のメンバーの中に異議を申し立てる者はいなかったので、ひとまずこれが回答となった。

「さて、そろそろ帰るか。」

このスノウの言葉を機に、シャイン達は龍空高校へと戻った。高校に到着し、スノウ、エアル、ヒューズは寮へとこっそり戻った。何故こっそりか。流石に7時となると教師に見つかったとき厄介になるからである。

「じゃ、俺も帰るから。」

レビィの家と反対方向のため、シャインがレビィに背を向けて帰ろうとした。

「あ、待ってシャイン!」

それをレビィが呼び止めた。シャインは歩みを止めてクルッと振り返り、

「何か用か?」

と、尋ねた。

「あ、あのね…!」

もうちょっと2人っきりで居よ!…そう言いたかった。しかし、

「また、明日。」

口から出た言葉は違った。シャインはそれを言うために止めたのかと不思議な表情をしてから、

「おう。」

とだけ返事して背を向けて自分の家に帰って行った。1人になったレビィは、

「もう…私のバカ…。」

と、小さい声で自分を怒ってから家へと帰って行った。



 SMCのある人物の部屋の前にアレンは立っていた。

「第一調査部隊隊長兼第三戦闘部隊隊長のアレン・ルビーです。」

アレンが名乗ると、扉がウィンと機械音を鳴らして独りでに開いた。中に入ると、赤い絨毯が敷いており、家具も余計なものがなくシンプルで、ゴミ一つないところから家主は綺麗好きだと伺える。

「すまないなこんな時間に呼んでしまって。」

「いえ、僕も歌っていただけなので。」

アレンは両手を腰の後ろで組み、礼儀よく立っている。

「コーヒーでも飲むか?」

清潔感溢れる金髪と青色の瞳を持っている男が尋ねる。

「いえ。先程までジュースを大量に飲んだので。」

アレンが断ると、男はそうかと言って自分用のコーヒーだけを用意した。

「さて、早速だがこれを見てくれ。」

男はカップでコーヒーを飲みながらアレンに一枚の紙を渡した。

「何ですかこの紙は……」

アレンは紙に書いてあった内容を読んでハッと息を飲んだ。

「これは……急過ぎではありませんか?」

「それは俺も思った。」

「革命軍が雲隠れしているから標的を変えたのでしょうか?」

「そう考えるのが妥当だと思うが、革命軍は別に殲滅して消えたわけじゃない。あくまでも隠れただけだ。上の者達もそんなことも分からないほど馬鹿ではないはずだ。」

「では何故急に…。」

「何か裏がある。しかも我々SMCや政府にとって不利益のな。」

男がコーヒーを飲み干し、カップを近くの机に置いて話を続ける。

「だが実行は今年中としか書いていない。つまり我々のタイミングで行えるということだ。だからギリギリまで延ばす。その間に裏の闇を調べる。お前にはそれの協力をしてもらいたい。勿論、極秘でな。」

「それは…大丈夫ですが…」

アレンが浮かない顔をする。

「『奴』を捕まえるのが嫌か?」

男が尋ねるが、アレンが答えないため男が質問を続ける。

「『奴』はお前ら弟妹の(かたき)じゃないのか?」

ここでアレンが口を開いた。

「あの人自身は敵ではないです。」

「でも間接的にはそうだろう?」

またアレンが口を閉ざした。男はハァとため息をつき、

「時間はまだ十分ある。それまでに己の気持ちを整理しておけ。今日は急に呼んでしまってすまないな。もう下がっていいぞ。」

と、帰るように命令した。アレンは浮かないまま頭を下げてから男の部屋を出た。







───シャイン達の新たな物語が新学期とともに始まった。

眼鏡「どうだったでしょうか?急に登場した新キャラ『フロウ・アドページ』『ルコード・グレイシャー』『氷騎士イアス』、そして最後にアレンが話していた『謎の男』は今後の物語にどう絡んでいくんでしょうか。乞うご期待です!」


眼鏡「さて!前書きでシャインが言ったように、『~魔法学園~』の『第2章』が始まりました!こちらをメインに書いていきたいので、もう一つの作品『鬼神と人間の(はざま)』はまたのんびり投稿になると思います。ご了承下さい。では!作者自身も新しい生活に戸惑ってヘトヘトですが頑張って書いていきます!なので応援よろしくお願いします!では!次回をお楽しみに!」

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