65話 新たな時代へ(16)
ス「なぁ知ってっか?」
シ「何が?」
ス「この『エデン編』の最初の投稿は『2012年5月6日』なんだ。つまりもう一年以上この編しているんだってよ。」
シ「マジかよ…。苦笑いもんだなそりゃあ。」
ヒ「でもこの話でようやく完結するらしいですよ。」
シ「あれ?でも前話の後書きであと2話とか言ってなかったか?」
ヒ「まぁそこら辺の詳細は後の後書きの方で。」
ス「そうだな。1ヶ月以上も待たせちまったんだ。さっさと本編に行くぜ!」
ス•ヒ•シ「では!見て下さい!」
ア「誤字、脱字など読みにくいところがあったらすいません。」
「お前等離れてろ。その神は俺が潰す。」
シャインは風砕牙を構え、殺意のこもった笑みを浮かべた。
「クソガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!俺の神魔法に勝てると思うな!」
ゼウスは激怒ながらシャインのところに飛び上がって目の前に停止した。そして右手を天に、左手を地に向けた。すると、シャインの真下の地面がボコッと盛り上がり浮き上がり、真上の空では大気が凝縮し、大気の地面が出来上がった。
「[グランドエアプレス]!!!」
そして右手と左手を体の正面でパン!と合わせた。その動きに合わすように2つの地面がかなりの速さでシャインを押し潰した。地面同士がぶつかり合った瞬間、当然のようにかなりの衝撃波と砂煙が起きた。衝撃波はスノウ達にまで届き、飛ばされないように踏ん張った。少し経つと衝撃波は消えたが砂煙はまだ発生しておりシャインの姿が確認出来ない。
「シャイーーーン!!!」
サテラが空に向かって叫んだ。すると、砂煙の中から銀色に光る風のバリアに守られたシャインが現れた。そしてシャインがバリアを解除すると、解除の勢いで周りの砂煙が晴れた。
「すっげぇなあいつ…。」
スノウが突然強くなっているシャインを見て圧倒される。
「さっさと俺に殺されろ!」
シャインがゼウスに向かって突進する。ゼウスは異空間から聖剣を取り出してシャインに向かい撃った。
(あれは聖剣『フリーダム』。あれを取り出すってことはそうとう追い詰められているわね。)
サナがそんなことを思っていると、2人は風砕牙と聖剣を交わしながら空へ上がっていく。
「何がどうなってんの?」
ミリアは自分の目の前で起きていることをまだ理解出来ていない。これはミリアだけでなくその場にいる誰も理解出来ていない。その時、空からスノウ達の近くに大きめの火の玉が降ってきた。スノウ達は一斉に戦闘体勢になる。
「何だ全員集合……じゃねぇがほとんどいんじゃねぇか。」
燃え上がる炎から現れたのは赤髪に変化しているバージェス•アルシオンであった。その姿を見たスノウ達は戦闘体勢から戻った。
「バージェス!何であなたがここに?魔戦天使団本部側じゃなかったっけ?」
ミリアが近付いて尋ねる。
「本部の方はほとんど制圧した。ターゲットしていた3人がいなかったからスムーズだったよ。」
「ちょっと!あんた達何勝手に本部を制圧してんのよ!」
それをサナが驚くとバージェスはサナの方を向いた。
「何だ、もう仲良し子良しになっちまったのかよ…。面白くねぇな、お前とも戦ってみたかったんだが。」
「ご期待に添えなくてごめんなさいね。それより本部をどうするつもりなの?あんた達に寝返ったからどうでもいいけど、あそこにはまだ私の私物とか色々あんのよ。爆破とかしないでしょうね?」
「さぁ?俺はそんなことに興味はねぇ。ただ俺は強い奴と闘って潰したいだけだ。」
「この脳筋バカ…。……どうするつもりなの?」
サナが尋ねる相手をミリアに代えた。
「そ、そんなに睨まなくて大丈夫だよ。制圧って言ったって動きを止めるためだよ。」
「ふ~ん…ならいいけど。」
サナは納得してバージェスに視線を戻した。
「で、このタイミングで現れたんだから何かこの状況を知っているんでしょ?さっさと話しなさい。」
「あーそうだったそうだった。俺らはとんだ茶番に付き合わされていただけのようだぜ。」
「茶番?」
エアルが首を傾げる。
「実は………」
バージェスがこうなるまでの話を始めた。
広めの部屋には通信用の機械と椅子や机、棚があるだけでそれ以外は特に置かれていない殺風景な状態であった。
「どうやらこちらにアースからの最後の招かざる来客が来たようだ。てなわけで、せいぜい『改造人間弌号』に勝つことだな。」
ゼウスは実験体保管室にいるアレンとソルージュにそう言い残し通信を切った。そして自分の元に現れた招かざる客の方を向いた。
「お前が神の王だな。」
そこには既に風砕牙を抜刀しているシャインが立っていた。
「なかなかいないぞ、神を目の前にして祈るどころか刃を向けるとは。」
ゼウスがハハハと笑ってから疑問を訊いた。
「てか、よく俺を見つけられたな。」
「お前の声を頼りに見つけたんだよ。」
「声を?」
「俺は元々耳が良いんだ。その耳の良さに魔力をプラスして聴こえる範囲を広げたんだよ。その名も『風聴』。まぁ集中している時無防備なのが傷だがな。」
「ほう。でも俺の声なんて聴いた事ないのによく分かったな。」
「ああ、すぐに分かったよ。バカな神のバカな声なんて。」
シャインが挑発剥き出しの笑みを漂わせた。
「……あ?」
ゼウスはその挑発に答えるように眉をピクンと動かした。
「はぁ…あまり神を怒らすものじゃないぞ。今謝るなら許してやる。」
ゼウスが丁寧に提案するが、
「バーカ、お前に謝る労力がもったいねぇよ。」
シャインがまたも挑発する。ゼウスは無言で掌をシャインに向け衝撃波を放った。シャインは上に跳び上がって回避するが、ゼウスに先回りされておりオーバーヘッドキックで地面に叩きつけられたシャインが地面を突き破ると砂煙が発生して何が起きているか分からなくなった。ゼウスは砂煙の近くに着地した。
「たかが人間のくせに神を舐めるからこうなるんだ。」
ゼウスが服に付いた埃を落としながら砂煙を眺める。しかし、なかなかシャインが現れない。
「何だ、くたばったか?」
ゼウスは確認すべく風を発生させ、砂煙を吹き飛ばした。しかし、砂煙が消えてもシャインの姿はなかった。
「な!?どこに…?」
その瞬間、自分の足下の地面が盛り上がったのに気が付いた。すると、地面からシャインが飛び出してきて風砕牙で斬りかかってきた。ゼウスは咄嗟にバックステップをしたことによってギリギリで回避した。
「驚いた…まさか地面を掘るとは思わなかったぜ。」
「ちっ…そううまくはいかねぇか。」
シャインが意表作戦が失敗してしまったことに舌打ちする。そして2人が睨み合っている時、火の玉が壁を突き破ってきた。2人の視線が火の玉に変わる。
「やっと見つけたぜ神の王。……あぁ?何で面倒な風野郎もいんだよ。」
炎の中から現れたのはシャインの幼なじみのバージェスであった。既に髪は金髪から赤髪へと変化している。
「バージェス•ドラグニルか?」
ゼウスがバージェスに訊く。
「ちげぇよ。俺はバージェス•アルシオンだ。」
バージェスは答えながら少しずつシャインに近付いていく。
「何でお前がここにいんだ?」
予想外の人間の登場にシャインも流石に驚いた。
「それは俺が先に聞いたんだよ。さっさと答えろ。」
バージェスがシャインに近付いていく。
「うるせぇお前が答えろよ。」
シャインもバージェスに近付いていく。そして2人は顔面を数センチまで近付け、ゼウスそっちのけで火花が飛び散りそうなくらい睨み合う。
「おいお前等、俺を無視するな。」
ゼウスがあまりにも自分を無視するので2人を呼ぶ。
「うるせぇ黙ってろ!」
「お前に関わってる時間はねぇ!」
しかし2人はゼウスに罵声浴びせるとまたゼウスそっちのけで睨み合う。ゼウスは何か疎外感を感じ一瞬小さく落ち込んだ。
「そもそもお前はあの神に何の用なんだ?」
シャインが睨んだまま尋ねる。
「俺は金髪ガリ勉女が何だのこの世界が何だのどうでもいい。ただ強い奴と闘い、そして叩き潰す…それだけだ。」
「だから神の王であるゼウスを狙うってわけか。」
「そういうことだ。」
「そうか…。だがな、俺もあいつを叩き潰したいんだ。俺の仲間を返してもらうためにな。だからあいつは俺が潰す。」
「ほう、ならばこうしよう。」
バージェスがある提案を持ちかけた。
「『狩り勝負』といこうじゃないか。」
「狩り勝負?」
「どちらが先にあの神を狩るかって勝負だ。」
その提案を聞いたシャインはニヤッと笑い、
「面白い、受けて立とうじゃねぇか。」
と、提案を承諾した。
「決まりだな。そうとなれば、早速始めるぞ!」
「ああ!」
バージェスとシャインは今までほっていたゼウスを方を向き剣および風砕牙を構えた。
「やっと終わったか、待たせんじゃねぇよ。」
ゼウスは首をゴキキと鳴らし、小さくほくそ笑みながら2人を睨んだ。その睨みの威圧は2人も感じたことないものだった。
「話は聞こえていたが、流石にお前等俺を舐め過ぎている。そんな余裕をかましている暇があれば共闘するのを勧めるぞ?」
「こんな奴を共闘するならまだ猿とした方がマシだ。」
バージェスとシャインは完璧にハモってお互いを毒づいた。それによりまた2人は睨み合った。
「キサマら…!いい加減にしろ!」
流石に堪忍袋の緒が切れたゼウスは2人に向かって大きめの光線を放った。2人は一瞬で反応し、左右別れて回避した。シャインは能力解放となり一気にゼウスへ走り出し風砕牙を構えた。
「[斬極嵐]!!!」
シャインは風砕牙に斬撃の風を纏って斬りかかった。しかし、ゼウスに右腕でガキン!という有り得ない音を鳴らして防がれた。
「おいおい、何だよその腕…。」
シャインはゼウスの右腕がガラスのようなもので守られているのを見て苦笑いする。
「『絶魔大神鏡』。封魔天光より強い防御魔法だと思ってくれればいい。」
ゼウスは簡単に説明する。
「ちっ…面倒な技だ…。」
シャインは一旦間合いを空けようとバックステップをしようとした時、2人の真上に剣を構えたバージェスが現れた。
「[炎神飛竜剣]!!」
バージェスが剣を2人に向かって振ると、炎の竜が一直線に突進してきて爆発した。
「やったか…?」
着地したバージェスは燃え盛る炎を眺める。その時、炎の中から守護風陣で守ったシャインが飛び出してきた。
「てめぇこの野郎!俺まで燃やす気か!」
シャインが怒鳴って怒る。
「当たり前だ。これは狩り勝負だぞ。お前とは組んでいない。」
「だから巻き込んでも構わないってことかよ。」
「そう言うことだ。」
2人が言い争っていると、とてつもない速さでゼウスが炎の中から無傷で現れ、2人の目の前で急停止した。2人は完全に反応が遅れ、バージェスは裏拳、シャインは回し蹴りで吹っ飛ばされ壁に激突した。
「いっ…て…。」
シャインは頭をさすりながら立ち上がる。
「ちっ…。」
バージェスは血が混じった唾をペッと吐いてから立ち上がる。
「仲間割れしながら闘うとはよっぽど死にたいみたいだな。だったらその望み、神として叶えてやるよ!」
ゼウスは掌の上で光の球体を形成し、自分の真上に投げた。すると光の球体はピタッと空中で静止した。何かヤバそうだとシャインはいち早く走り出した。
「[スターダストレイン]!!!」
次の瞬間、光の球体から無数の光のレーザーが上に放たれ、シャインとバージェス目掛けて降り注いできた。
「ホーミング系かよ!」
シャインは華麗に回避しているが誘導光線の数が多く翻弄されている。
「ゼウスーー!!!」
バージェスは誘導光線の中をかいくぐり、ゼウスに斬りかかる。しかし絶魔大神鏡の鎧によりまたも防がれる。
「キサマ、『イフリート』と契約していてその程度の力とは…これは契約者に問題ありか?」
ゼウスが挑発する。それを聞いたバージェスはピクンと反応してから魔力を右の拳に集中させた。
「[炎神紅破拳]!!」
そして炎上する拳はゼウスの顔面をとらえ、ゼウスは回転しながら吹き飛んでいって壁に激突し砂煙が立つ。
「おい、口は災いの元だと覚えとけ。」
激怒寸前の顔でバージェスが砂煙に向かって忠告する。ちなみにこの間もシャインは誘導光線に踊らされていた。
「そうか…ならその忠告、お前等にそっくりそのまま返してやるよ。あんな舐めた口を叩かなければ、苦しみながら死なずに良かったんだよ。」
この言葉が聞こえたと同時にゼウスがバージェスの目の前に現れ、顔に掌を向けた。そして衝撃波を放ったがバージェスは思いっきり上体を反らして回避した。しかし、ゼウスの驚異的な反応により支えていた足を払われ一瞬宙に浮いた。ゼウスは立て続けにバージェスと地面に足を入れ、バージェスを空へ蹴り上げた。そして自分も跳び上がってバージェスを追い抜き、斜め下に蹴り飛ばした。
「ゴホッ…!ガハッ…!」
地面に叩きつけられ、かなりのダメージを受けたバージェスは血を吐いて倒れたままであった。そこにゼウスがゆっくり近付き、バージェスの首を片手で掴んで持ち上げた。
「さらばだ…バージェス•アルシオン!」
ゼウスが掴んでいる手に力を入れる。絶体絶命のその時、向こうの方でパキン!という光の球体が破壊された音がしたと思うと、
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
先ほどまで誘導光線に遊ばれていたシャインが叫びながらこっちに向かって走って来ており、そしてバージェスを掴む腕を手首部分で切り落とした。
「ぐっ……!!!!」
ゼウスが怯んだところにシャインは閃風拳を喰らわし吹き飛ばした。
「ゲホッ!ゲホッ!……何故助けた?」
バージェスが隣にいるシャインに尋ねる。
「これ狩り勝負なんだろ?対戦相手が死んじまったら勝負もへったくりねぇだろうが。」
シャインはバージェスを横目で見ながら答えた。
「あと、てめぇを殺すのはこの俺だ。他の奴に取られてたまるかよ。」
この言葉には何故か毒は感じなかった。
「ふっ…それはこっちの台詞だ。」
バージェスが鼻で笑う。シャインもヘッと鼻で笑い返し、お互いゼウスに視線をやった。
「さてどうするゼウス?片手を失った状態じゃあ流石にキツいんじゃねぇか?」
シャインの心に少し余裕が戻る。しかし、ゼウスに焦りの色は見えず、かなり余裕のように見えた。
「俺は神だ。この程度で焦るかよ。逆にお前らに絶望を与えてやろう。」
そう言うとゼウスき切られた手首を真横に向ける。その瞬間、バチバチバチと電気が流れたような反応が切断部分でしたと思うと、なんと切断された手が再生したのだ。
「再生能力持ちかよ…。」
「これは反則級だな…。」
それを目の当たりしたシャインとバージェスには驚きと唖然が心に宿った。他にも、炎神紅破拳や閃風拳で受けた傷もバチバチと反応を起きると共に再生した。
「初めから俺を倒すなんてことは不可能だったんだよ。」
ゼウスが2人を嘲笑う。
「さ、再生能力があるだけでそ、そうと決まったとはい、言えねぇぞ。」
そう言うシャインの顔は引きつっていた。
「はぁ…無理な強がりは止めておけ。」
バージェスが強がるシャインに呆れる。
「そもそも俺の計画はお前らごときが足掻いてどうにかなるようなものではない。つまり、お前らは無駄死にするだけだ。」
ゼウスがまた嘲笑う。
「計画ってアースから魔力を吸収することだろ?そんなのサナがこっちに戻ればどうにでも…」
「ははははは!」
突然、シャインの話の途中でゼウスが高笑いした。
「何がおかしい?」
バージェスが尋ねる。
「魔力吸収計画など俺の『真の計画』の中の1つに過ぎない。」
「真の計画だと?」
シャインがオウム返しする。
「出血大サービスだ。冥土の土産に教えてやるよ。俺の本当の目的を。」
ゼウスがニヤリと笑ってから話し始めた。
「お前等、この国の名と中央の名を何と呼ぶかは知っているだろう?」
ゼウスが聞くとシャインはえ~っと…と手を顎にあてて考え始めた。
「国の名が『カーラーン』、中央の名が『セントラル』だろ。それがどうした?」
「あーそれだそれ。その名前が何だってんだよ?」
バージェスの回答にシャインは完全に乗っかる。
「その2つの名がどういう意味か分かるか?」
ゼウスの問いかけに2人は黙ったまま少し首を傾げた。
「この2つの名は合わせるとエデンという世界を創り出した『正真正銘最初の神』の名前になるのだ。」
「正真正銘最初の?」
シャインは余計理解が出来ない。
「エデンを創ったのは起源の神オリジンではないのか?」
バージェスが尋ねるとゼウスが首を振る。
「オリジンが創ったのはお前等の世界アースだ。エデンを創ったのは『カーラーン•セントラル』、別名『創世の神』だ。」
これを聞いたシャインはあることに気が付いた。
「ん?カーラーンって神がエデンを創り、そのエデンで生まれたオリジンがアースを創った。てことは、アースはエデンより後にできたのか。」
「そうではあるが今はどうでもいい。」
ゼウスは軽くあしらって問いかけた。
「では何故、エデンの民はそんな大昔の神の名を今も国と中央部に付けていると思う?」
バージェスとシャインは同時に考え始め、先にバージェスが気が付いた。
「今もエデンの民の心の中にカーラーン•セントラルを崇拝する心がある…。」
「そうだ。」
ゼウスがピッと指を指した。
「それがどうしたんだよ?」
シャインが聞くとゼウスの顔に怒りが浮かび上がった。
「俺はそれが気に食わないんだ。この世界を創ったとはいえ、もういない大昔の神をいつまでも崇拝している意味が分からない。この世界にはこうして俺のように神が実在しているんだぞ。ならば普通今いる神を崇めるものではないか。」
「まぁ一理あるけどよ、それってただのお前の嫉妬じゃねぇか。」
シャインがはぁと呆れる。
「何と言われようと俺はこのことが気に食わないんだよ!だから、思い付いたんだ…民全員がカーラーンおよび他の神に目もくれず、俺だけを崇める方法を…。それは、この世界にある魔力を全て俺の手中に納めるんだ。」
「何だと?」
シャインがピクッと反応する。
「魔法は生きていくために必要不可欠の存在になるほど生活に浸透している。そんな魔法を使うためには当然魔力が必要とされる。その魔力がこの世界からなくなり、俺だけが持っているとなれば、民どもはどうすると思う?簡単なことだ。己の生活を豊かにするため頭を下げ!崇み!ひれ伏せる!そして欲するあまり自ら俺の奴隷となる。そしたらどうだ?俺はこの世界で真の神となるのだ!」
ゼウスはヒャハハハハハ!と不気味な笑いを響かせる。
「何が真の神だ。やっていることは完全に独裁者じゃねぇか。」
バージェスが反論するとゼウスがギロリと睨む。
「もう俺の計画は誰にも止まらねぇよ。お前等は指をくわえて無力な自分を悔やみながら死んでいけ。」
その時、シャインが何かに気が付いた。
「おい、お前さっき魔力を手中に納めるって言ったよな?それって…」
「おっ、気が付いたか。そうだ、今エデンの最大の問題である魔力枯渇、その元凶は…この俺さ!俺は陰でサナよりも早く吸収魔法を作り、誰にもバレずエデン中の魔力を少しずつ集めていたのさ!そして表向きで魔力枯渇阻止のためアースの魔力を集めると発表すれば民も、魔戦天使団も、他の神どももアースの方に目が行き、誰も俺が元凶だと気付く訳がない!そして奴等が真実を知った頃には、もうこの世界は俺のものだ!」
ゼウスの高笑いを聞くシャインの風砕牙を持つ手に力が入る。
「じゃあ何だ…!てめぇの嫉妬で生まれたくだらない計画に泳がされて…!トレイタから…!魔戦天使団から…!無駄な血が流れたってことかよ!この2つは無駄に争い!無駄に死んでいったことかよ!」
シャインの魔力が急激に上昇する。
「その通りだ!俺にとって魔戦天使団の奴等も他の神どもも駒に過ぎない!奴等が死のうが俺には関係ない!俺は自分の計画さえ完遂すればそれでいいのだ!」
「この腐れ神が!!!!てめぇは絶対に許さねぇ!!!」
その時、シャインの体から放たれている黄緑のオーラに紫のオーラが混じり始めた。それに気が付いたバージェスが咄嗟にシャインの怒りを抑えようとする。
「シャイン、それ以上怒るな。ここで闇落ちしたら何もかもお終いだぞ。」
「この状況で怒らずにいられるかよ!!!」
「闇落ちして自我を失えば本当に終わるぞ。きっちり奴をぶった斬りたかったら今は抑えろ。」
バージェスの説得により、ようやくシャインは落ち着きを取り戻した。
「ふぅ…ありがとな。」
「なに、本当の理由はここで暴走されると狩る相手が2体になって面倒だっただけだ。」
「ああそうですか。でも、お前のお陰でせっかく習得した力を出さずに人生終わるところだったよ。」
シャインは風砕牙を鞘に戻し、能力解放を解除し、深呼吸をしてからゼウスを睨んだ。
「おいクソ神、お前なら分かるクイズだ。」
「ああ?何だよ急に?」
シャインはゼウスの疑問を無視してクイズを出題する。
「8つの源魔力の内、朝を司る光と夜を司る闇を除いた6つの中で、人類が生きれる星を造るのに最も必要な3つの源魔力は何だと思う?」
「源魔力は『火•水•風•地•氷•雷•光•闇』の8つ。その内で光と闇を除いた6つの中で最も必要なものだと?全て必要だから源魔力と呼ばれているんじゃないのか?」
バージェスがゼウスが答えるより先にシャインに尋ねる。
「それはそうだけど、群を抜いて必要なものがあるんだよ。」
シャインがチッチッチッと指を振る。
「『地』と『水』と『風』だろ?」
その時、少し落ち着いたゼウスが回答する。それを聞いたシャインはパチンと指を鳴らし、正解と言った。
「何故だ?」
バージェスが腕を組んだまま尋ねるとシャインが、
「読者の中にも分かっていない奴がいると思うから説明してやるよ。」
と、メタ発言を言ってから説明を始めた。
「『地を大地』に、『水を海』に、『風を空』と変換すれば大体分かるんじゃねぇか?」
「……あ~なるほど。『大地』がなければ人類が生きる場所がない。『海』がなければ重要な水が手に入らない。『空』がなければ息をするための酸素がない。この三拍子が揃わなければ人類は生きられないってことだろ?」
「そう、つまり人類が生きるための最低限度の属性ってわけだ。あとの3つ『火』と『氷』と『雷』は大地と海と空が生まれた後に生まれた属性だ。『火』を発生させるには燃やすものと燃やされるものが必要になる。その2つは海と空では揃わない。つまり大地がなければ火は生まれなかったんだ。後の2つは簡単だ。『氷』は海がなければ出来ないし、『雷』は空がなければ出来ない。」
「長々とした説明をして読者も多分理解してくれたと思うが、それが結局何だってんだよ?」
バージェスは少しイライラしているようだ。
「地、水、風属性はやはり星を造る元のようなものだから他の5つと違って『特殊なエネルギー』を持っているんだ。俺はその特殊エネルギーを解放出来るようになったのさ。」
シャインはニッと笑ってから能力解放なる。
「つまり、俺自身が『空』になるんだ。」
(空に?)
バージェスは理解出来ず眉をしかめた。そんなバージェスを置いてシャインの魔力はドンドンと上がっていく。そして比例するかのように髪の色がジワジワと白へ変色している。
「悪いがバージェス、この狩り勝負勝たせてもらうぞ。」
バージェスにそう告げると、ハッ!!!と最後に力を込めた瞬間に爆発的な衝撃波が発生した。そして衝撃波が消えた時、髪の色が艶やかな白一色となり、瞳もオーラも同じ色に変化していた。
(な、何だこの魔力は…!?革命軍のフォーグと同等…いや、下手すればそれ以上の魔力だ…!!)
バージェス自身は認めたくないがシャインの力を前にして身震いしてしまった。
「どれほど凡人が強くなろうがこの神の王である俺に勝てるかよ!」
ゼウス怒鳴って馬鹿にする。
「おいおい分かってんのか?今の俺は空と同じエネルギー、つまり空そのものだぞ。例えお前が神だとしても、自然の力を相手にしてただで済むと思うなよ。」
シャインは余裕の笑みを浮かべてから真剣な顔になった。
「『天空化』の力…存分に味わえ!!」
次の瞬間、フッとシャインの姿が見えなくなった。肉眼で確認出来た時にはゼウスの目の前で蹴りの体勢であった。そしてシャインはゼウスを蹴り飛ばした。ゼウスは強力な蹴りによりとてつもない速さで飛んでいき、壁を突き破り森の方まで飛んでいった。シャインは間髪入れず追撃しに行った。
(な、なんて速さだ…!!この俺が追い付けなかっただと…!!)
バージェスは突然のシャインの力に困惑しながら2人を追いかけた。
森の中を吹き飛んでいるゼウスは途中で強引に体勢を戻して急停止した。
「クソが…!!!何だあの力は…!!」
ゼウスは突然強くなったシャインに対して動揺を隠せない。
「お前はもう…許さねぇ!!!」
シャインはゼウスが動揺している間に背後に回り込み、風砕牙で斬りかかった。
「くっ…!!」
ゼウスは跳び上がって回避した。
「遅い!!!」
シャインはまた消えたように見えるスピードで跳び上がり、ゼウスを追い抜いた。
「消えろ!!!」
ギロッと睨んだ瞬間、ドーム状の屋根に向かって蹴り飛ばした。ゼウスが屋根を突き破ったことにより中が露わとなった。そこは植物などが生えており庭園のようだった。そして中からサナ達がこちらを見ていた。
「お前等離れてろ。その神は俺が潰す。」
シャインは風砕牙を構え、殺意のこもった笑みを浮かべた。
「………とまあ、これがこの世界で起きていた真実だ。」
バージェスが話し終える。
「あの野郎…!許さねぇ!」
スノウが激怒した状態でゼウスの方へ行くのをエアルが手首を掴んで止めた。
「ダメだよスノウ!今行ったところで足手まといになるだけだよ!」
「エアルの言う通りよスノウ。今ゼウスに太刀打ち出来る奴なんて私達の中にいないわよ。ゼウスはシャインに任せて、私達は私達なりのことをするわよ。」
サナが説得すると、スノウはふぅ~っと自分の心を平常心に戻した。
「じゃあ私達は一体何をすれば?」
ミリアがサナに尋ねる。
「あいつは魔力を自分の手中に納めるって言ったんでしょ。てことは、集めた魔力はどこかに溜めているはず…それを探しに行くわよ。」
「探しに行くってどこをですか?」
ヒューズが場所を尋ねる。
「サイエンの地下よ。考えれる場所はあそこしかないわ。」
「ならさっさと行こうぜ!」
スノウが掌と拳をバチッ!と合わせ気合いを入れる。
「バージェス、あんたはシャインの所に行って。多分分かっていると思うけど……」
「ガス欠した時の援護だろ。」
バージェスが食い気味に言う。サナはコクッと頷いた。
「ええそうよ。どうやってあの力を得たか知らないけど、あんな力長時間保つわけがないわ。確実にガス欠が起きる。その時に誰かが援護しなければ絶対殺される。正直なところ、闘いに関しては紛れもない天才のシャインが殺されれば私達の敗北も決まったものよ。だからあんたにはガス欠になったシャインの回収と援護を頼むわ。」
「はっ!ふざけるな。あの風野郎が死んだら俺らの敗北?どれだけあいつに肩入れしてんだよ。あんなクズ神この俺が始末してやる。」
「あんたね~…どこまで脳筋なのよ…。」
サナがハァと大きくため息をついた。
「だが、シャインも殺すのはこの俺だ。ゼウスなんぞに渡さん。」
バージェスがニヤッと笑う。サナは言葉の意味を理解すると、
「あんた達変な関係ね~。」
と、鼻で笑う。
「お前には関係ない。」
バージェスがキッと横目で睨んでから火を纏った。
「ま、何でもいいわ。とにかく頼んだわよ。」
サナの頼みをバージェスは了解と答え、ここに来た時のように火の玉となって飛んでいった。
「さて、私達も早く奪われた魔力を取り戻しに行くわよ。」
サナの言葉にスノウ達はそれぞれ返事をした。そして一向は魔力があるであろうサイエンの地下へ走り出した。
色々な真実が明らかとなっている時、ずっと森の中で戦い続けている者達がいた。それはダブルレビィVSエデンのシャイン、ハールロッドであった。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
頬の傷から血が流れているナイトは肩で息をしている。だが、赤い瞳から闘志は消えていない。
「ハァ…ハァ…ハァ…やっぱ強いな…。」
エデンのレビィ、ウェルサイトも同じく肩で息をしているが、ナイトより少々荒いようだ。
「ハァ…ハァ…いいぞお前等、ここまで楽しめるとは思わなかったぜ。」
ハールロッドも少し息を切らしているがまだ余裕があるように見える。
「だが流石に…ここまでだ![風神嵐斬]!!」
ハールロッドが隣同士にいるナイトとウェルサイトに向かって風の斬撃を連続で放った。
「[加護闇]!!」
ナイトは闇のバリアで防ぐ。ウェルサイトは上に飛び上がって回避した。
「バカ!空中に逃げるな!」
ナイトがウェルサイトに叫ぶが遅かった。ウェルサイトの目の前にハールロッドが回り込んでいた。
「上に逃げるのを狙っていたんだよ![風縛]!」
ハールロッドが掌をウェルサイトにバッと向けると風がウェルサイトを囲み身動きを封じた。
「終わりだ![風爆殺]!」
少し離れたハールロッドが指を鳴らすと、ウェルサイトを封じていた風の球体が爆発した。まともに喰らったウェルサイトは力なく地面に落ちていく。しかし、地面に叩きつけられる寸前でナイトがキャッチした。
「おい!ウェルサイト!目を開けろ!」
ナイトはウェルサイトの体を抱きかかえるようにしてから揺さぶるが目が開く気配はない。
「流石に限界のようだな。もう諦めて死んで貰おうか。」
着地したハールロッドはダブルレビィの所へゆっくり近付いていく。ナイトは優しく気を失っているウェルサイトを寝かせると、ゆっくりと立ち上がり、夜桜を構える。
「ここで全てを諦め殺されてしまったら、主の命令に背くことになる。それは夜叉として一番犯してはならない罪…だから私は、こんなところで死ねないのだ!」
ナイトはキッ!とハールロッドを睨んでから突進し二回素速く斬りかかるがバックステップで回避される。しかし間髪入れずに連続で斬りかかる。ハールロッドはバックステップしながら刀で防御する。そして時空の湖付近まで後退させると連撃を止めた。
「ウェルサイトから離れられた。これで私も全力で戦える。」
ナイトはヒュッと夜桜を振ってから構える。
「そういうことだと思ったよ。ま、俺も全力で来てくれる方が楽しめていいんだけどな。」
ハールロッドはニヤッと笑ってから同じく刀を構える。数秒睨み合った後、同時に姿が見えなくなった。すると2人がいた周辺からキン!キン!と刀同士が交じり合う音だけが不気味に響き渡る。かなりの高速攻防が繰り広げられているようだ。しかし、そんな攻防は長く続かなかった。ナイトの左腕に風神餓狼喰によって受けた傷の痛みが走ったのだ。その一瞬の隙を見て、ハールロッドが攻撃に移る。
「[風神裂空斬]!!!」
ハールロッドは縦回転をしてナイトを斬った。ナイトは夜桜でギリギリ軌道を変え急所は免れたが、左肩を斬られた。だがナイトは何とか堪え反撃の一撃を左脇腹に喰らわした。
「くっ…!!やるじゃねぇか…。だが、これで終わりだ!」
ハールロッドはナイトの方を向き直し、魔力を高める。すると足下に巨大な魔法陣が展開され、詠唱を始た。
「天翔る風に宿りし神よ、我の意志に答え、我に力を…[シルフ]!!!」
ハールロッドは刀を一振りした。その瞬間、ナイトの足下から巨大な竜巻が発生した。
「斬撃の風か!!!」
ナイトは加護闇で防御するが向こうが強力過ぎて破られてしまい、全身切り刻まれながら巻き込まれた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
悲劇の断末魔が聞こえなくなったと同時に竜巻が消え、空中に上げられていたナイトは地面に落ちた。
「ハァ…ハァ…やっぱキツいなこの技は…。」
かなり魔力を消費し息を荒くするハールロッドがうつ伏せで動かないナイトに近付いていく。その時、ピクンとナイトの指が動いたと思うと、重々しく上半身を起こしてハールロッドを睨む。
「ま…だ…だ…。」
「はははは!もう執念のレベルだな。だが、終了だ。」
ハールロッドは振り上げていた刀を振り下ろす。しかし、刀がナイトを斬る前にピタッと止まった。その代わりにハールロッドの右脇腹を一本の刀が貫いていた。
「ウェルサイト…!!!」
ハールロッドの背後から突き刺したのは目が覚めていたウェルサイトだった。ウェルサイトは右脇腹から闇桜を抜き、付いている血を一振りで飛ばしながらバックステップで間合いをあける。だが息は荒々しく、ギリギリなのは確かである。
「てめぇ…!!!」
ハールロッドはウェルサイトの方を向いて睨む。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
ウェルサイトが渾身の一撃を放った。しかし、ハールロッドに手負いの状態とは思えない俊敏な動きで回避され、逆に風神拳で反撃されて吹き飛ばされてしまった。だがウェルサイトはやられたというのにニッと笑った。
(ウェルサイト!!!……だが!お前が作ったチャンス!無駄にはしない!!!)
そう、ウェルサイトの目的はハールロッドに隙をつくること。それを察したナイトは自分に残るわずかな力を使って立ち上がり、背を向けているハールロッド目掛けて渾身の一撃を放つ。
「[黒月斬]!!!」
完全に隙を突いた攻撃だった。しかし、それは全てハールロッドに見破られていた。ハールロッドは瞬時に反転し、ナイトの攻撃を刀で跳ね返した。その時、ぶつかり合った衝撃でナイトが持っていた夜桜が砕け散ってしまった。
「刀がなくなった今!本当に終わりだ!アースレビィ!」
ハールロッドは勝利を確信した。だがその時、自分の真上を一本の刀、闇桜が回転しながら飛んでいることに気が付いた。闇桜は寸分狂いなくナイトに飛んでいき、ナイトはすぐに折れた夜桜を捨てて見事にキャッチした。ハールロッドはナイトが攻撃に移る前にトドメを刺そうとした。しかし、ウェルサイトから受けた傷で激痛が体中を巡り、行動に移せない。ナイトはそこを逃さず強力な一撃を喰らわした。ハールロッドは力を振り絞り、攻撃は防いだが吹き飛んでしまう。そして30メートルくらい飛んだ後、体勢を立て直して止まったのはいいが、反撃も防御も出来ず、立っているのでやっとの状態である。そこに向かってナイトが闇桜を構えながら走り出す。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!サファイアァァァァァァ!!!」
後ろで立ち上がっていたウェルサイトが叫ぶ。
「鮮血の花!!咲き乱れよ!![百花繚乱]!!!」
ナイトは花びらが舞うように華麗に切り裂いてから強力の一撃を喰らわした。しかし、斬った直後は何も起きず、背後に回ってから鞘に納めた瞬間、全ての攻撃のツケがハールロッドを襲った。まともに喰らったハールロッドは全身から血を流しながら仰向けに倒れた。勝利を確信したナイトはその場でバタッと横向きに倒れてしまった。
「すげぇ…!魔戦天使団隊長を倒しやがった…!」
ウェルサイトの顔が喜びで溢れていく。その時、くたばったと思ったハールロッドがゴフッ…!と血を吐いたのであった。それを見たウェルサイトの顔から喜びがなくなった。
(何だよ…結局自分の主の顔をした奴は殺せねぇってことかよ…!なら…オレが冥土に送ってやる…!)
ウェルサイトはヨロヨロと歩き、ナイトが捨てた折れた夜桜を拾うとその足でハールロッドに向かう。そして付近に到着した時、ハールロッドが微かに目を開けてウェルサイトを睨んでからフッと笑った。
「母親の仇か…俺を殺してその復讐の心が晴れるなら…殺すんだな…。」
「ああ…そうさせてもらうよ!」
ハールロッドに向けて折れた夜桜が振り下ろされた。だが、ハールロッドにトドメを刺す前にナイトが闇桜で夜桜をはじき未遂となった。
「サファイア!てめぇ何しやがる!」
ウェルサイトがナイトの胸ぐらを掴もうとした時、ナイトがウェルサイトの首に刃先を向け、ウェルサイトの動きを止めた。
「その男を殺すのは私が許さない。」
「何だよ…!やっぱり自分の主と同じ顔をしているから殺させねぇってのかよ!」
そう怒鳴るウェルサイトの顔を眺めるナイトは首を横に振った。
「違う。私はお前を『お前自身』から守ったのだ。」
「オレ…自身から?」
ウェルサイトは理解が出来なかった。ナイトは闇桜を鞘に納め話を続けた。
「お前は今、『憎しみを晴らす』、ただそれだけの行為に蝕まれている。その激情のままハールロッドを殺してしまうと、お前は必ず畜生の道を歩むことにだろう。そんな道を歩むことをお前の母親は望んでいたのか?」
ウェルサイトは頭の中に笑顔の母親が浮かんだ。
「…………望んでいなかった。オレには…普通の女の道を歩んでほしいと言っていた…。」
ウェルサイトは下を向く。その目にはうっすらと涙が出ている。
「ならばその道を歩けばいい。ハールロッドを殺し、自ら道を間違える必要などない。」
ナイトがウェルサイトの肩に優しく手を置いた。
「いや、オレは既に自分から道を間違えているさ。血に染まる戦の道を歩んでしまっている。もう母が望んだ道には戻れない。」
「心配ない、その道は今日で途切れる。」
その言葉でウェルサイトが顔を上げる。
「どういう意味だ?」
「闘っていて気が付かなかったが、今私の主がおそらくゼウスだろう強力な力と戦闘している。そして私の主が勝ち、エデンは『新たな時代』を歩むことになる。それと同時に、お前も新たな道を歩めばいい。」
「……えらくエメラルドを信じているんだな。」
「当たり前だ。私が認めた男だぞ。」
ナイトが少し自慢気な微笑みをする。
「はは…何だよそれ。でもそうだな、そうするよ。」
ウェルサイトがナイトに笑顔を見せた。その笑顔はやはり女の子であった。その時、倒れているハールロッドがクククと笑う。
「同じ顔同士で悟り合うんじゃねぇよ。」
ウェルサイトはキッと睨んでからナイトに尋ねる。
「で、こいつはどうするんだよ?」
「ここに置いておく。そうしたら魔戦天使団の者達が気が付くだろう。」
「やっぱ生かしておくのかよ。」
「さっき言っただろ。エデンは新たな時代を歩むと。それはつまり一度時代が無になることになる。何も知らない国民は当然パニックになるだろう。その時必要なのは人を導くことが出来る優秀な人材だ。それにこいつは該当する。だから生かすのだ。勿論お前もだウェルサイト。」
「オレも?」
「ああ。お前にも人の前に立って引っ張っていける力がある。だからお前も生きる義務がある。」
「………分かった。」
ウェルサイトは強く頷いた。ナイトは頷きを見てから視線をハールロッドに向ける。
「そう言う訳だからお前にも生きる義務がある。」
「そんな簡単に…敵である俺を信じんの…かよ…?」
「無論だ。トレイタも魔戦天使団も、世界を守りたいという志は同じなのだからな。」
ナイトはハールロッドに微笑みかける。ハールロッドはその笑顔を見て何も言い返すことなく目を背けるだけだった。
「さて、多くの魔力が移動している。おそらくスノウ達だろう。合流するぞ。」
「了解!」
ナイトとウェルサイトはハールロッドを置いてスノウ達と合流するべく走り出した。
セントラル上空では神の王VS最強高校生の壮絶バトルが今も続いている。途中経過としては天空モードとなったシャインが優勢である。
「[ゾーレイルスラッシュ]!!!」
ゼウスが炎を纏った聖剣フリーダムで斬りかかる。シャインはそれを易々と回避して頭上から、
「[天翔脚]!!」
白色のオーラを纏った脚で蹴り落とす。ゼウスは真っ逆さまに落ちていくが、途中で体勢を戻し急停止したと思うと、一瞬でシャインと同じ高さまで戻った。
「何故だ…!何故神の王である俺がたかがガキ1人にここまで血を流さなければならないんだ…!」
ゼウスは今自分に起きていることが信じられない。
「そんなの簡単さ。お前より俺が強いからだ。」
シャインが見下す目で挑発する。しかし、シャインは内心少し焦っていた。
(あと天空化でいられる時間は15分あるかないかくらいだな…。正直切れたら絶望的だ…。それまでにぶった斬らないと…。)
「俺は神だ!神なんだー!」
ゼウスは聖剣を異空間にしまい、魔力を高める。すると、周りを浮遊していた白い雲がどんどん黒い雷雲へと変化していく。
「天候すら操れるのか…。」
シャインは危険を感じ雲の上に回避する。そして下を見ると、完全に雷雲の地面が出来上がっていた。ゼウスも同じく雷雲の上に出て来てシャインを睨む。
「何がしたいのか知らないが、お前の準備が整うまで待つ気はないぞ!」
シャインは空を蹴りゼウスに突進する。それと同時にゼウスがパチンと指を鳴らした。すると、下の雷雲が蛇のように伸び、蜷局を巻いてシャインを閉じこめた。
「[エンドライトニング]!!!」
次の瞬間、雷鳴と共に雷が中にいるシャインを襲った。しかし、
「[守護銀風]!!」
シャインは銀色に光る風のバリアで防いだ。そしてバリアを解くと同時に雷雲を吹き飛ばした。無傷のシャインを見てゼウスが歯ぎしりをする。
「俺をどこまでコケにすれば気が済むんだガキ!!!」
ゼウスは再度聖剣を取り出しシャインに突進する。シャインも再度風砕牙を構えて迎え撃った。
「何だ!突然豪雨が降ってきたぞ!」
通路を走りながらスノウが窓から外を見て驚く。
「ハァ…ハァ…多分ゼウスが天候を操ったんでしょ…ハァ…ハァ…。」
そう説明するサナの顔色はかなり悪い。
「大丈夫サナ?すごくしんどそうだけど…。」
隣を走るエアルが心配そうに尋ねる。
「心配無用よ…。」
サナが強がっているのはすぐに分かった。でもエアルは何も言わず回復をするだけにした。そうこうしているうちにサナ一向は目的の部屋へたどり着いた。それはシャインとバージェスがゼウスと最初に戦った部屋であった。
「荒れていますね…。」
周りを見渡すヒューズが呟く。
「戦闘後って感じ~。」
同じく周りを見渡すミリアも呟く。
「おそらくシャインとバージェスは最初にここでゼウスと戦っていたんでしょう。」
サナは何かを探しながら言う。その時、豪雨の中壁に空いている穴からダブルレビィが入ってきた。
「ウェルサイト!ナイト!」
エアルがいち早く2人に駆け寄る。他のメンバーも後に続いて歩み寄った。
「良かった、合流できたようだな。」
ウェルサイトが一安心する。
「それに目的の方も完遂しているようだ。」
ナイトがサナとサテラの顔を一回ずつ見る。
「てか2人とも酷い傷!回復してあげるよ!」
エアルが2人に治癒魔法をかける。
「あんた達がここにいて、ハールロッドの姿が見えないってことはあんた達が勝ったのね。それで、あいつは殺したの?」
サナがナイトに尋ねる。
「いや、生かしている。後々奴は必要だろ?」
「ふ~ん、流石ナイトね。今後のことをよく分かっているわ。」
「ありがとう。それよりお前も大丈夫なのか?その結晶、あまりよくない感じはするが。」
ナイトがサナの顔に浮かび上がっているエルクワタを見る。
「まぁ大丈夫ではないわ。でもちゃんと考えてあるから大丈夫よ。」
サナはエルクワタに触れながら答える。
「はい、治療終わったよ。」
その時、エアルの回復が終わった。
「助かったよエアル。」
ナイトが礼を言うとエアルは笑顔で答えた。そして次にウェルサイトの回復に移った。その間にナイトは心の中にいるサファイアに語りかけた。
(さて、これで入れ替わっても動けるだろう。)
【どうしたのナイト?】
レビィが尋ねる。
(もう魔力が限界なのだ。このままいたら闇落ちしてしまう。だから入れ替わってくれるか?)
【そっか。いつも無理させてゴメンね。】
(ふっ、自分に謝ってどうするんだ。とにかく後は頼んだぞ。)
【うん!】
会話が終わると同時に髪の色が紺、瞳が青に戻り、本当のレビィに戻った。
「あっ、レビィが戻った。」
ミリアが最初に気が付く。
「ナイトはどうしたのよ?」
サナが尋ねる。
「魔力が限界なんだって。無理させちゃったから…。」
レビィが曇った顔で答える。
「ふ~ん、ホントに肉体でしか繋がっていないのねあんた達は。」
サナが呟く。その頃にはウェルサイトの治療も終わっていた。
「で、目的の地下室への入り口は見つかったんですか?」
ヒューズがサナに尋ねると、サナは頷いてから本棚に近付いた。
「この裏よ。」
「ベタな所にあるんだな~。」
スノウがハハハと笑う。
「多分仕掛けがあると思うけど、面倒だからぶっ壊しちゃって。」
サナがスノウを指名する。スノウは任せろとノリノリで本棚の前に立ち、
「[フレイムナックル]!!」
炎の拳を一撃入れた。すると本棚はこっぱ微塵に砕け、後ろから地下に下りられる階段が現れた。
「おお!ゲームのダンジョンみたいだぜ!」
スノウははしゃぎながら下りていく。その後を他のメンバーが続く。そして最後尾となったサナとウェルサイト。サナが下りようとした時、
「サナ•クリスタル。」
ウェルサイトがサナを呼び止めた。サナは振り向き何よと尋ねる。
「お前はサファイヤ達の仲間に戻った。でもやっぱり、オレはお前と打ち解けることはできない。」
「はぁ…何を言い出すかと思えば…当たり前でしょ、私があいつ等のとこに戻ったところで過去が消えるわけないじゃない。私とあんたは打ち解けることは極めてないと思うわ。でも今は私達で争っている時間なんてない。とにかく全ての元凶であるゼウスの計画をぶっ壊すのが先。対立するのはその後にするわよ。」
「ゼウスが元凶?どういうことだ?」
ウェルサイトが驚いた顔で尋ねる。
「そっかあんたは話聞いてなかったわね。ならレビィにも一緒に説明するから急ぐわよ。」
2人は急いで追いかけるために階段を下りていった。
『光苔』というその名の通り光る苔によって階段はいたって明るい。石で出来ており幅は人1人分くらいである。その階段の途中でサナとウェルサイトはレビィに追いついた。そしてサナは先程バージェスから聞いた話を簡単に説明した。
「ちっ…!あんなクソ野郎に踊らされていたなんて…!絶対に生かしちゃ置けねぇな…!」
真実を知ったウェルサイトから怒りが迸る。
「私も絶対に許さない。人を持て遊ぶ神様なんて最低よ。」
流石のレビィも今回ばかりはかなり怒っている。
「とにかくゼウスに対する怒りは抑えて魔力のことに集中して。」
レビィとウェルサイトの間にいるサナが言う。その時、階段が終わり、幅は変わりないが一直線の道になった。そこを抜けると、かなり広く天井も高い丸い形をした空間となっていた。その中央には優に4メートルはあるであろう水色の巨大なエルクワタがドンとあった。
「でっけぇ…!」
ウェルサイトが大きさに圧倒される。
「とても綺麗…。」
レビィが宝石のように輝くエルクワタに少しうっとりとする。
「こんな大きなエルクワタ生まれて初めてだわ。」
サナは呟きながら周りを見渡す。壁は同じく石でと光苔があるためこの空間全体も結構明るい。そして所々にそこそこ大きいエルクワタらしき輝く岩が埋まってあるのにサナは気が付いた。
「このエルクワタの中からかなりの魔力を感じるってことはこれが奪われたエデンの魔力でいいですね。」
サナに話しかけてきたのは先に到着して隅に落ちていた岩に座っているヒューズであった。
「そのようね。」
サナが簡単に答える。その時、巨大エルクワタの裏からスノウ達が現れた。
「一周してきたけど別に変な物も他の道もなかったわ。」
ミリアが調査の結果を報告する。
「そう。ならちゃちゃっと調べますか。」
サナは巨大エルクワタに近付いて、
「[データスキャン]。」
と、唱えてるとサナの周りを難しい記号や言葉が回り出し調べ始めた。その瞬間、壁に埋まっていたエルクワタ全てが赤く光った。
「やはり…そう上手くは行きませんね。」
ヒューズはよっこいしょと立ち上がり冷静に弓を構える。それに合わせ他のメンバーも各々戦闘体勢になる。
「分析が済むまで私は何も出来ないから任せたわよ。」
サナはそう言ってから分析に集中した。そして遂にエルクワタが砕け、中から女性の姿をしている赤い結晶で作られたゴーストが現れた。
「『クリスタルゴースト』!物理が効く幽霊だが奴等に触れられると体が結晶化しちまうから気を付けろ!」
ウェルサイトは叫んでから頭上を浮遊するクリスタルゴースト達を警戒する。次の瞬間、一斉にクリスタルゴースト達が襲いかかってきた。
「幽霊ごときに負けるか![ウィンドウナックル]!!」
スノウが拳型の風を放ち、直撃したクリスタルゴーストは粉々に散った。
「何だ!?一匹はそんなに強くねぇのか!」
スノウが大したことないんじゃないかと油断した時、背後からクリスタルゴーストに抱き付かれてしまった。
「やべぇ!」
スノウが振り解こうとするが想定外の力でなかなか振り解けない。
「スノウさん!!!」
スノウの緊急事態を察知したのはサテラであった。
「[デーモンテイル]!!!」
サテラは青き炎の尾でクリスタルゴーストを倒した。
「大丈夫ですかスノウさん?」
「ああ助かったぜ。やっぱサテラは頼りになるな。」
スノウがニッと笑って礼を言った。
「はい!」
サテラは頼りになると言ってもらったことがとても嬉しく、満面の笑顔で答えた。
「サナ!あとどれ位かかる?」
レビィがクリスタルゴーストを斬りながらサナに尋ねる。
「ゼウスの奴、直接エルクワタに吸収魔法をぶち込んで自動吸収式にしているわ。これを解除してから色々と細工しなきゃいけないから10分が最速よ!」
「分かったわ!皆!10分間頑張るよ!」
レビィが全員に聞こえるように叫ぶと、
「おう!!!」
と、全員が気合いを入れた。
レビィ達が地下で奮闘している間も、雷雲の上ではゼウスとシャインは激闘を繰り広げていた。その時、ゼウスがはめていた指輪が赤々と光った。
「巨大エルクワタのところに侵入者だと…!ちっ!どいつもこいつも俺の計画の邪魔しやがって…!」
1人呟くゼウスの怒りは頂点と達している。それを見ているシャインはかなり焦っていた。
(やべぇな…もう天空化が限界だ…。そろそろ決着つけねぇと…!)
「そろそろ終わりにしてやるぜ!」
シャインは魔力を高め勝負を決めるためゼウスに突進し斬りかかった。ゼウスは上に回避してから反撃に移った。
「[ゴッドプレッシャー]!!!」
掌からの衝撃波をもろに喰らったシャインは雷雲向かって落ちていく。
「[守護銀風]!!!」
シャインは雷雲に接触する寸前で守護銀風を発動し身を守った。そしてそのまま雷雲の下に飛び出た。そんなシャインの姿を真下で待機していたバージェスが確認した。シャインは落ちながら守護銀風を解除してさらに魔力を高めて唱え始めた。
「吹け!閃風の風!その形、不死の鳥となり!無限の闇を切り裂く!」
風砕牙を両手で握り、雷雲に刃先を向ける。その瞬間、背中から閃風の羽が生えた。そしてゼウスが雷雲から姿を現した瞬間、一気に突進した。
「[閃風鳳凰斬]!!!!」
そして強力な一撃をゼウスを捉えた。
「がっ…!!!」
ゼウスは動くことなく重力に任せて真っ逆さまに落ちていき、時空の湖に沈んでいった。シャインは疲労により目の前が真っ暗になったと同時に天空化から元に戻ってしまい、ゼウスと同じく真っ逆さまに落ちていく。しかも時空の湖からずれており、このままでは地面に叩きつけられてしまう。だが、地面スレスレでバージェスが見事にキャッチした。
「おいシャイン、目ェ開けろ。」
バージェスはシャインを地面に下ろしてからビンタした。すると重々しくシャインが目を開けた。
「てめぇ…人を叩く時は掌に炎を纏ってはいけないって習わなかったか…。」
シャインはバージェスに注意しながら横を向いて時空の湖を見た。
「どうなった…。」
シャインが呟いたその時だった。時空の湖の真ん中からゆっくりとゼウスが現れた。傷は全て再生されていた。
「どうやら形勢逆転したようだな。」
ゼウスは地面に着地してからニヤリと笑う。
「ちっ…もう少し喰らった感じしてくれよ…。」
シャインが舌打ちする。
「よくある傷は癒えてもダメージは蓄積されているってパターンを信じるか。」
バージェスは呟いてから立ち上がり、ゼウスを睨む。
「何だ?次はお前かバージェス?まぁ誰が来ようと俺には勝てねぇがな。」
「はっ!シャインが潰れた瞬間調子戻しやがって。てめぇみたいな雑魚、俺が焼き殺してやるよ!」
バージェスは剣を抜いて挑発する。そしてシャインにしか聞こえない声で囁いた。
「認めたくないが今の俺じゃゼウスは倒せない。奴を倒せるのはやはりお前だ。だからその動かない体をどうにかしやがれ。」
「バージェス…。」
「頼むぞ。」
バージェスはシャインを横目で見てからゼウスに走り出す。そしてゼウス対バージェスの戦いが始まった。
(あのバージェスが俺を頼りやがった…。へっ、そんなことあんだな。だが参ったな……マジで体が動かねぇ…!)
シャインは必死に動かそうとするが全く言うことを聞かないのであった。
シャインが奮闘している時、サイエンの地下の戦いもかなり激戦となっていた。
「数が多すぎます!」
ヒューズが愚痴をこぼしながらクリスタルゴーストを射抜いて撃墜する。
「あと何分なのサナ!」
レビィがサナに叫ぶ。
「もうすぐ終わるわ!」
サナが叫び返す。その時、クリスタルゴースト達が一カ所に集結し始めた。そして3メートルはあるだろう一匹の巨大なクリスタルゴーストとなった。レビィ達は全員集結する。
「デカくなりやがった!」
スノウが驚く。
「多数で襲いかかってくるよりマシね。」
ミリアが呟く。
「でもあんなにデカかったら触れられた瞬間一発で結晶化だぞ!全員気を付けろ!」
ウェルサイトの忠告に他のメンバーが警戒する。その時、クリスタルゴーストが突進してきた。
「全員回避!」
ウェルサイトの号令と共に全員回避した。しかし回避した方向が悪くエアルだけ孤立してしまった。クリスタルゴーストはそんなエアルを標的にした。
「あっ…あっ…。」
エアルは恐怖で足が動かない。しかも既にクリスタルゴーストが攻撃に入っているから助けが間に合わない。だが次の瞬間、
「[デスヴァイルフレイム]!!!」
火属性の銃弾が大量にクリスタルゴーストに命中し、大きく怯んだ。それを狙っていたように獣の形をした黒い影が攻撃をしかける。
「[両断犬]!!!」
黒い影はクリスタルゴーストを縦に真っ二つにした。それによりクリスタルゴーストは不気味な悲鳴を上げて消滅した。
「アレン!ヨゼル!助かったよ~!」
エアルが自分を助けてくれたアレンとヨゼルに礼を言った。
「いえ、怪我がなくて良かったです。」
アレンがニッコリと微笑む。
「何だあのデカいエルクワタは?」
ヨゼルはすぐに巨大エルクワタの方に目を向ける。
「それにサナさんもいますね。」
アレンはエルクワタの前に立っているサナを見る。
「よくここが分かったね。」
レビィが闇桜を納めながらアレンに近付く。
「ヨゼルがウェルサイトの匂いを追ってここまで来たんです。」
「へぇ~あの豪雨の中よく嗅ぎ分けれたな。」
ウェルサイトがヨゼルを見ると、
「俺の嗅覚を舐めるな。」
ヨゼルが短く答えた。
「あれ?ソルージュさんは?」
エアルがキョロキョロと辺りを見渡す。アレンは名前を聞いた瞬間顔を曇らせ口を閉ざしてしまった。ヨゼルはそんなアレな代わりに答えた。
「ソルージュは殺されたらしい。死体は安全なとこに移動してある。」
それを聞いたレビィ達は驚きと唖然の感情に襲われた。
「嘘だろ……あの…イスラが……。」
ウェルサイトはまだ信じられないようだ。
「ごめんなさい…僕がいながら……。」
アレンが俯いたまま謝罪する。レビィ達の周りの空気が重くなり誰も喋らなくなってしまった。そんな状況を打破したのは細工を終えたサナだった。
「あんた達人が1人死んだくらいで暗くなり過ぎよ。」
「……!何だと!!!」
ウェルサイトがサナの胸ぐらを掴む。
「ならそうやって落ち込んでいたらイスラ•ソルージュは生き返るの?」
「そ…それは…」
「死んだ人間は生き返らない。これは常識よ。ならあんたが今出来ることはイスラ•ソルージュの分まで生きることよ。違う?」
「………そんなこと分かってるさ。」
ウェルサイトはサナから手を離した。そして一旦沈黙があってからレビィがサナに尋ねた。
「調査は終わったの?」
「ええ。吸収魔法を取り除いて逆に解放魔法を装着して自動放出式にしたわ。だから何もしなくてもエデンに魔力は戻る。あとはゼウスさえ潰せば私達の勝利よ。」
「そうですか。なら早く地上に戻りましょう。」
ヒューズの一言に全員頷き、地上を目指し走り出した。
地上に戻ったレビィ達はレビィとウェルサイトが入ってきた穴から豪雨の森に出ようとしたその時、
「待って!」
全員を誰かがえらく子供声で呼び止めた。その声に全員気が付き辺りを見渡す。その時、全員の目の前に小学三年くらい身長で白銀色の髪に金色の瞳をした少年が現れた。その名は起源の神オリジンであった。
「オリジン!?何であんたがここに?」
サナが突然の人物に驚く。しかしオリジンはサナを無視してヨゼルの前に屈んだ。
「ねぇワンちゃん、ゼウス兄は何をしているの?」
オリジンが顔を曇らしてヨゼルに尋ねる。
「……俺もついさっき聞いたんだがゼウスはお前達を、いや…世界を騙していたらしい。」
ヨゼルとアレンは階段を上がっている間にサナから真実を聞いていた。
「………本当にゼウス兄は僕達を騙したの?」
愛らしい目に涙を浮かべる
「……ああ。」
ヨゼルがゆっくり頷く。
「ゼウス兄……何で……」
オリジンがヒックヒックと下を向いて泣き始めてしまった。レビィは咄嗟に隣に屈んで頭を優しく撫でる。
「………戻るかな…」
オリジンがポツリと呟く。ヨゼルは何だ?と聞き直す。
「ゼウス兄……一度負けたら戻ってくれるかな!」
ガバッと顔を上げ、泣きっ面でヨゼルを見つめる。その時にはレビィは慰めるのは止めて立ち上がっていた。
「……それは、俺らに協力してくれると解釈していいんだな?」
ヨゼルがニヤリと笑って確認する。オリジンはうん!と強く頷いた。
「よっしゃ!ゼウスと同じ神が味方になったんならあいつに勝てるだろ!」
スノウが拳を合わせながら喜ぶ。
「ううん、流石の僕でも全力のゼウス兄を相手するのは容易じゃないよ。」
オリジンが首を横に振るとスノウが分かりやすく肩を落とす。
「ん?待って、ゼウスと戦っているのシャンじゃない。バージェスになってるわ。」
ミリアが魔力察知で戦場の様子を伝える。
「ガス欠。それが大いに考えれますね。」
ヒューズが予測する。
「それってヤバくない?」
エアルが心配する。
「そうですけど、僕達が行ったところで何とかなるとも思えません。」
アレンが冷静に分析する。
「ゼウスの奴で一番厄介なのは『再生能力』。でも逆にそれさえどうにかすれば勝機があるはずよ。オリジン、あんた何か知らない?」
サナがオリジンに尋ねる。
「知ってるよ。『再生血液』と言ってゼウス兄は自分の血液に再生魔法をかけたんだ。だからゼウス兄はその血が循環している限り何度でも再生出来るんだよ。」
「じゃあゼウスの血から再生魔法を取り除けばいいのね?」
「何か考えがあるのですかサナ?」
ヒューズがサナに尋ねるとサナはさぁ?と言った。その時、レビィがある物を思い出した。
「『Oウイルス』!」
「Oウイルス?何だそれ?」
スノウが首を傾げる。
「学校でサナがバラまいた魔力を分解するウイルスよ。」
レビィが説明するとスノウはあーと言って思い出す。
「ねぇサナ!あれなら行けるんじゃない?」
「Oウイルスなら今持ってるけどどうやってゼウスに感染させんの?」
サナは異空間から一本の試験管を取り出す。中には緑色のウイルスがウヨウヨしている。
「それは……」
レビィの口がごもる。
「空中にバラまいたとしてもこの豪雨じゃどうにもなんないわよ。」
サナがレビィに追い打ちをかける。レビィはあう…と落ち込んだ。
「銃弾にOウイルスを入れ込み撃ち抜くのはどうでしょうか?」
突如提案してきたのはアレンであった。
「………まぁその方が確実にあいつの体内にOウイルスを感染させられるわ。でも、それって誰がやるの?」
サナがアレンを見つめる。
「勿論、僕がやります。」
アレンが力強く頷く。
「まあ他に良い作戦なんてないことですし、それで良いのではないでしょうか?」
ヒューズが賛成すると立て続けに他のメンバーも賛成する。
「Oウイルスの量からして弾数は一発。外したら承知しないわよ。」
「はい。」
サナの忠告にアレンは強く返事をした。それを聞いたサナはアレンが造形した魔法弾にOウイルスを込め始めた。その時、オリジンが何かに気が付いた。
「ねぇ、そのウイルスに何か混ざっていない?魔力みたいなの?」
オリジンに言われてサナが思い出す。
「あー…そうよ。でも取り除く時間なんてないわ。このまま……」
「そのままじゃ効果が薄れちゃうから僕が取り除くね。」
そう言ってオリジンが試験管に触れると柔らかく光った。
「はい、これでいいよ。」
「………ありがとうね。」
サナは礼を言ってから作業を再開する。オリジンは解除した時に何かに気が付いたらしく、レビィの方を見てニッコリ笑い、
「愛されているね。」
と言った。
「どういうこと?」
レビィが少し膝を屈めて尋ねる。
「あのね、今取り除いたの君達の魔力なんだ。」
「私達の?」
レビィが首を傾げていると隣にヒューズが寄ってきて成る程と言った。
「Oウイルスに私達の魔力を混ぜて覚えさせ、私達の魔力だけ分解させないようにさせたのですね。」
それを聞いていたエアルが近付いてきた。
「てことは私達は最初から助かるようになってたってこと?」
「そう言うことになりますね。」
ヒューズがニッコリと頷く。サナは作業に集中しているためこの会話は聞こえていないらしい。
「フフ…そっか、最初からサナは私達を助けてくれていたんだね。」
レビィが作業中のサナを見て微笑む。そしてそこから数分経った時、サナの作業は成功し、魔法弾にOウイルスが組み込まれた。
「上手くいったわ。」
サナは一発の魔法弾をアレンに投げ渡す。アレンはそれを受け取り拳銃に込めた。
「さて、準備は整った。私達は確実にアレンが撃ち込めるように一瞬でいい…一瞬でいいからあいつの動きを止めるわよ。」
サナの言葉に全員頷き豪雨の中を走り出した。
サナ達が向かっている間もゼウスとバージェスは激闘を繰り広げていた。
「どうしたアルシオン!俺を焼き殺すんじゃなかったのか!」
ゼウスが嘲笑いながらバージェスに聖剣で攻撃し続ける。
「ハァ…!ハァ…!」
防戦一方のバージェスは顔には疲労は見せないが息はかなり荒々しく限界が近い。
「くっ…!!」
バージェスは一旦大きく間合いをあけ、
「[炎神飛竜剣]!!!」
飛竜の形をした炎を放った。
「馬鹿が!」
ゼウスは掌を飛竜に向けると、絶魔大神鏡を発動して防いだ。
「ちっ…!」
バージェスは分かりやすい舌打ちをする。
「これ以上魔力を使うと闇落ちしてイフリートに体を乗っ取られて暴走しちまうぞ。」
ゼウスがクスクスと笑いながら忠告する。
「お前をぶっ殺せるんならそれでも構わねぇさ。」
バージェスがニヤッと笑ってから魔力を高める。その時、
「それじゃあ私達が困るのよ。戦う相手が増えるから。」
どこからか女の声が聞こえた。ゼウスとバージェスが聞こえた方向を見るとそこにはサナ達が到着していた。
「てめぇら……」
バージェスは思わぬ者達の出現に驚く。
「何だ増援か?ま、何人来ようが俺を倒すことは出来んがな。」
ゼウスが余裕の笑みを浮かべる。
「いいわねあんた達!さっき言った通り一瞬でいいからあいつの動きを止めるわよ!」
「オーケー!」
スノウを先頭にサナ達は戦闘に移った。
「[銃変換:スナイパーライフル]。」
アレンは拳銃の構造をスナイパーライフルに変え、目のスコープでゼウスを狙う。
「[フレイムナックル]!!」
スノウは真っ向からゼウスに殴りかかる。ゼウスは馬鹿だと少々呆れ気味に回避してから懐に入り込んで服を掴み見事に投げ飛ばした。投げ飛ばされたスノウは木に叩きつけられた。
「スノウ!」
エアルが回復のためスノウに走り出す。
「[ダークデスサイズ]!!」
サナは闇で造形された鎌でゼウスに斬りかかる。しかしゼウスに絶魔大神鏡の鎧で覆われた腕で防がれた。
「裏切るのだなサナ。」
「ええそうよ。」
「そうか、残念だよ。君のような天才が死んでしまうのは。」
ゼウスが聖剣フリーダムを構える。
「サナさんから離れて![ファントムオロチ]!」
サテラが青い炎の大蛇を放つ。流石に青幽鬼は危険なのでゼウスは空中へ回避する。
「今ですレビィさん!」
「うん!」
空中へ回避したゼウスに向かってレビィは闇桜を槍投げのように投げた。放った闇桜は一直線にゼウスに向かって飛んでいったが、ゼウスが体を捻らせ回避した。だが、レビィは全く動じることなくある名前を叫んだ。
「ウェルサイト!」
その瞬間、ゼウスは背後に気配を感じた。振り返るとそこにはこちらを殺意の目で睨んでいるウェルサイトがいた。ウェルサイトはレビィが投げた闇桜を見事に掴むと刃が青白く光った。ゼウスは危険だと分かっていても体勢が不安定なため回避が出来ない。
「[夜断月光刀]!!!」
ウェルサイトは青白く光る刃でゼウスの背を深く斬った。それによりゼウスは大きく怯み動きが止まった。
「今よアレン!!」
サナがアレンに向かって叫ぶ。
「了解!狙い撃つぜ![ウイルスショット]!!!」
アレンから放たれたOウイルスが入った魔法弾は見事にゼウスの心臓を貫いた。
「無駄だ…!たとえ心臓を撃ち抜かれようが俺には……!グッ…!!!」
ゼウスは自分の体に異変が起きたことにすぐ気が付いた。何故ならさっき斬られた傷が再生の途中で終わったからである。
「まさかお前等…!俺の再生血液を…!」
ゼウスは左胸を押さえながらサナ達に近付いていく。その歩みを、
「[キャプチャーアロー]!!」
ヒューズが捕獲矢で封じた。
「もういいミリア、離れてろ。」
ミリアは回復魔法が多少使えるのでずっとバージェスを治療していた。そんなミリアを自分から離れさしたバージェスは拳に魔力を集中させた。
「おい銀髪!てめぇもやれ!」
バージェスが自分の近くでエアルに治療してもらっていたスノウに命令した。
「言われなくても!」
スノウは立ち上がると同じく拳に魔力を集中させた。そして2人同時に拳に炎が上がった。2人は並んだままゼウスに向かって走り出した。そして、
「[炎神紅破拳]!!!」
「[覇王火竜拳]!!!」
2人の全力の拳がゼウスを捉えた。まともに喰らったゼウスは天高く吹き飛んだ。そして雷雲の手前でキャプチャーアローを破壊して止まった。
「おのれガキ共がぁぁぁぁぁ!!!」
ゼウスは雷雲で巨大な龍を創り出した。その時、サナ達から少しズレたところに自分を一瞬追い詰めたあの姿をした男が目に入った。
「シャイン…エメラルド…!」
そう、シャインは立ち上がり、天空化になってこちらを見上げていた。
「何故あいつが…!?あいつはもう魔力の限界だったはず…!」
チラリと見たシャインの隣に答えたはあった。
「オリジン……!!」
ゼウスは憎しみの視線で同じ神であるオリジンを睨んだ。
「いい?さっき言ったように僕が治したのは魔力だけ!傷や体力は治っていないからね!」
オリジンがシャインに忠告する。
「大丈夫だオリジン、一撃で決めてくるからよ。」
シャインはオリジンの頭を優しくポンと叩いてから風砕牙を両手で掴み魔力を高めた。その瞬間、背中に右翼は金、左翼は銀という羽が生えた。そしてゼウス向かって飛び上がった。
「消えろ!忌々しいガキ共!」
ゼウスが創り出した巨大な雷雲の龍をシャイン目掛けて放った。シャインはそんな龍を真っ正面から迎え撃ち、一振りで切り裂いた。
「エデンは!!『新たな時代』を歩んだ!!そんな時代にお前のいる場所はない!!この終わり行く時代で!!朽ち果てろ!![閃風鳳凰銀翼斬]!!!!!!」
シャインの渾身の一撃がゼウスを斬り、銀色の羽達が後から全身を切り裂いた。その瞬間、まるでエデンが抱えていた闇が晴れるかように雷雲が弾け散り、空に青空が広がった。
「勝った……勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」
スノウの勝利の雄叫びをきっかけにそこら中からトレイタ達の歓声が地上を埋めるほど響いた。
「スゴい…ホントに勝っちゃった…!」
レビィは感極まって体が震えている。エアルとサテラはエアルがサテラを持ち上げるような状態でクルクルと回っている。
「終わったんだ…オレらは…勝ったんだ…!」
空を見上げるウェルサイトの目から一滴の涙が流れた。その見上げる空には勝利を祝福するかのように虹がかかっていた。
エ「いや~~遂に終わったね~~。」
レ「長かったね~。」
サ「前書きの男達が言っていたけど一年以上もしてたらしいわよ。」
エ「なっが!」
サテ「でもあと1話続くんですよね。」
サ「そりゃそうでしょ。あんな終わり方して次の話に行ったら作者の眼鏡頭おかしいわ。」
サテ「で、ですよねー…。」
レ「まぁサナの言う通り、次話は『エデン編完全完結』となります。」
エ「では!次回をお楽しみに!」