64話 姉妹(15)
シ•レ•ス•エ•サ•ヒ•ア•サテ「祝!!!2周年ーーー!!!」
シ「てか、2周年とっくに過ぎちまってんぞ。」
レ「作者が色々バタバタしてて間に合わなかったんだって。」
ヒ「1ヶ月にも間に合っていませんしね。」
サ「もうボロボロね。」
サテ「皆さん2周年なんですからそんなに作者をディスらなくても…。」
エ「サテラちゃんの言う通りよ。悪口は後で言わなきゃ。」
サテ「いや、後からでもダメですよ…。」
ア「でも何はともあれ2年も続きましたよ。」
ス「1年でも驚いたのに…作者、なかなかしぶといな…。」
サテ「しぶといって…作者が書くの止めちゃったら私達消えちゃいますよ…。」
シ「俺もう疲れたから終わってもいいぞ。」
サテ「主人公がそんなこと言わないで下さい!」
シ「だって俺ずっとほっとかれてたし…。」
レ「もうすねないで。」
シ「別にすねてねぇし…。」イジイジ…
レ「はぁ…もうほっとこ。えっと、読者の皆さん!ここまで続けられたのも皆さんのおかげです!これかも『~魔法学園~』の応援よろしくお願いします!では!3年目の一発目をどうぞ!」
ヒ「チェックはしてあるようですが誤字、脱字などがあればごめんなさいね。」
エデンで大戦争が勃発する少し前のアース。グゼット樹海から少し移動した普通の森の中に建てられている小屋の中でシャインは目を覚ました。ボーッとしながら窓から外を見ると、バルスが朝の鍛練をしていた。
「おう、やっと起きたか。さっさと鍛練の用意しやがれ。」
バルスがまだ少し寝ぼけているシャインに言う。シャインはうーっすと生返事をしてから顔を洗うべく洗面所に向かった。そして顔を洗いキチッとしたシャインは外に出た。
「さて、今日はけっこうデカいの頼むぞ。」
朝の準備運動は食料調達である。シャインはあいよと返事してから能力解放となった。
前までは自分もしくは周りの仲間の命が危機に陥った時、または魔力集中によりなれていたが、今はいとも簡単になれるようになっていた。
シャインは食料調達のため森の中に入った。そして数十分後、3メートル級の虎型魔物を引きずって帰ってきた。
「おー早くなったな。」
バルスは褒めてから狩ってきた獲物を確認して合格と呟いた。そして2人は料理が面倒だったので二等分してから丸焼きにした。
「てか、いつになったらお前はエデンに行くんだよ?」
バルスが肉をかぶりつきながらシャインに尋ねる。
「行きたくても行けねぇんだよ。」
同じく肉にかぶりつきながら答える。
「と言うと?」
「扉を開けるには神魔法か天使魔法の魔力を注ぎ込めばいいんらしいだけど、肝心のその魔力を持っている奴が周りにいないし、仮に見つけられても開けるときに3人でやっとだったから1人分じゃ意味がねぇ。」
「ふ~ん…つまりさ、かなり絶望状態ってわけだな?」
「そんなとこだ。」
シャインは小さくため息を付いて、残った骨を森に投げ、中から骨を噛み砕く音がしたがガン無視で時空の湖を方を向いて立った。
「奇跡が起こればいいんだがな…。」
シャインがポツリと呟いた瞬間、奇跡は起きた。時空の湖の方がピカッ!と光ったのだ。それを見たシャインは扉が開いたんだと理解した。そうと分かればシャインは急いで時空の湖へ走り出した。
「ん!?おい!どこ行くんだよ!」
突然シャインが走り出したのでバルスは慌てて追いかけ、追い付いたところで走行しながら尋ねた。
「おい!いきなりどうしたんだよ!」
「誰かが向こうで扉を開けたんだ!今ならエデンに行ける!」
「そうか!なら見送ってやるよ!」
2人は会話しながら走り続け、グゼット樹海はそのまま入ってしまうと迷うので大樹の頂点を、つまり森の上を走った。そしてあっという間に時空の湖に到着した。湖には確かに扉が開かれていた。
「うひゃ~!こりゃすげぇ!夢でも見てるみたいだ!」
目を真ん丸にして驚いているバルスに背を向けたままシャインは扉に飛び込もうとした。その時、感動していたバルスが、
「もう行くんだな?」
と後ろから尋ねてきた。シャインは振り向かないまま、あぁそうだと短く答えた。
「最後に『あの言葉』を言ってくれたら俺は嬉しいんだけどな~。」
バルスが何かを言ってほしい顔でシャインの背中に眼差しを送る。
「……お前が願っている言葉は口が裂けても言わない。ただ、強くしてもらったことだけは感謝する。」
シャインの冷たい応答にバルスはガクッと肩を落としたがすぐに立ち直り、
「まぁいいさ、いつか言ってもらえる日が来ると信じてるわ。」
と、笑って見せた。そんな時、
「最後に聞いていいか?」
シャインが突然尋ねてきた。バルスは少し驚いてから何だと訊いた。
「『あの草原』はまだあるのか?」
「あー、あの草原か。俺も最近行ってねぇけどあるぜちゃんと。お前に残っている記憶のまんま。」
「……そうか、なら良かった。」
シャインは少し安心した面持ちだった。
「そんなことより!今はその力でいっちょ暴れてこい!」
バルスの応援にシャインは微笑を浮かべて、
「おう。」
握り拳を少し上げてから扉に飛び込んだ。シャインを見届け1人となったバルスは、
「口が裂けても言わない…か……そこまで嫌われていたとはな…。」
どこか悲しい空気を纏って自分の小屋へと戻った。
扉に入ったシャインはアースとエデンの狭間である真っ白な世界を進んでいた。しかし頭の中はレビィ達のことでいっぱいなので周りを観察する余裕はなかった。そんなシャインの前からこの扉を開けた革命軍が接近してきた。シャインとフォーグは一切会話することなく、ただ睨み合っただけで終わった。シャインはフォーグの後ろにいた恐ろしいカルマの姿を見て、こいつが開けたんだなと認識した。そして扉が閉まり始めているのに気が付いたので、隼を発動させて加速し、トップスピードのままギリギリの隙間を抜けてエデンへと『入国』ならぬ『入世界』した。しかしかなりのスピードだったので勢いを止められず上空に舞い上がった。その上空から見る初めてのエデンにシャインは一時だけ観光気分になった。すると、ある光景が目に入った。それはレビィとウェルサイトがサイエンから飛び出してきた光景だった。その後に自分と同じ姿をしたハールロッドが高速で出てきたのも微かに見えた。
(レビィ!ウェルサイト!)
シャインは森の中に着地した瞬間に2人を助けようと走り出したが、目の前に3つの首を持った犬『ケルベロス』が立ちふさがった。
「奇妙な犬もいるもんだ。」
こちらに敵意むき出しのケルベロスを目の当たりにして、しつけるのは無理だなと思ったシャインは風砕牙を抜いてスッと構えると、ケルベロスが3つの口を開けて襲いかかってきて、そして牙が生えている口を3つ同時に勢いよく閉じた。しかし、シャインはいなかった。シャインはケルベロスの真上を舞っていた。そして一言、邪魔だと言ってケルベロスを上半身と下半身で一刀両断した。シャインは消滅したのを確認すると急いでレビィ達の元に向かった。そしてシャインが着いた時に見たのは斬撃がレビィを襲うところであった。シャインは咄嗟に隼を発動させ、風砕牙で斬撃の軌道を変えた。そして……………………
……………今に至る。
「主、やっとこちらに来れたのだな。」
ナイトは前にいるシャインの背中に言う。
「遠目では分からなかったがナイトの方だったのか。ま、どっちでもいいがな。」
シャインはクルッと振り返るとナイトの前に屈み、傷負ったナイトに掌を見せるような形で停止した。
「何をしている?」
ナイトが尋ねるとシャインは黙ってろと言って掌に魔力を集中させた。すると優しい風がナイトを包むように発生した。そして、
「[治癒風]。」
と、唱えた瞬間にナイトの傷が癒え、ダメージが減ったのであった。
「治癒魔法が使えるようになったのか。」
立ち上がったナイトが驚く。
「強力じゃねぇけどな。」
答えながらシャインも立ち上がり、風の剣によって地面に固定さてれいるウェルサイトに歩み寄った。そしておもむろに左掌と右肩に刺さっている剣を抜いた。すると当然ウェルサイトには激痛が襲って…こなかった。理由は簡単、シャインが抜いたと同時に治癒風を傷にピンポイントで当てたからである。ウェルサイトは癒えた自分の掌を見ながら立ち上がり、シャインを横目で見て、
「サンキュー。」
と、一言だけ言って視線をハールロッドに変えた。シャインは素直じゃねぇなと思いつつ、おうとだけ答えて、同じくハールロッドに目線をやった。ナイトも同じようにハールロッドの方を向いていた。
「3対1で来る気か?まぁ、それでも俺の方が上だと思うがな。」
ハールロッドはイキイキした顔で刀を構える。
「いや、多分俺だけで十分倒せると思うぞ。」
シャインは挑発気味にフッと笑った。ハールロッドはまんまとその挑発に乗り、何だと?と眉が無意識にピクンと動いた。
「手加減しているサナにボコボコにされた奴がよくもそんな口がたたけるな。」
「あん時はあん時だ。今はサナでもお前でも負ける気がしねぇ。」
「減らず口が…!!そこまで言うのなら証明して見せろ!」
ハールロッドが刃をシャインに向ける。シャインはその言葉を待っていたかのようにニヤリと笑い、風砕牙を構えた。そしてバトルが勃発する…かと思いきや、
「ちょっと待ってくれ。」
ウェルサイトが遮った。
「何だよウェルサイト?」
シャインは戦闘を遮られ少しイラッとする。
「こいつはオレに倒させてくれねぇか?」
「何で?」
シャインが尋ねるとウェルサイトは落ちていた自分の刀を拾って刃をハールロッドに向ける。
「直接こいつが殺ったわけじゃねぇが、こいつの隊がオレらの本拠地を襲撃して母さんを殺したんだ。」
それを聞いたハールロッドは知ってたのかと心の中で呟いた。そんなことシャイン達は知るよしもないので会話が続く。
「つまり復讐ってわけか。」
「悪いかよ。」
「別に構わねぇが…」
「が?」
「いや、何でもねぇ…。なら俺は四大神を討ち取りに行こうかね。」
「四大神の中のヴィーナスとキトリスは死んだ。オリジンはこちらに敵意はない。残りは神の王ゼウスだけだ。」
ナイトがシャインの後ろから状況を要点だけまとめ囁いた。
「そうなのか?俺が思っていた以上に状況は進んでいるようだな。なら俺は神の王をぶった斬ればいいんだな。」
「お前がゼウス様を斬るだと?」
ハールロッドが反応する。
「そしたら全てに終止符を打てるだろ。」
「そうか、斬れるとは思えないがまぁ止めやしねぇよ。行くなら早く行きな、俺の気が変わる前に。」
「おや?普通そこは『そんなことさせねぇよ。』的なこと言って攻撃するところだろ。」
シャインが予想外のハールロッドの言動に少し驚く。
「俺は正直なところ無宗教でね、どの神にも崇拝していない。ゼウス様…いや、ゼウスにもただ従っているだけで奴を守る気はない。」
「えらく忠誠心のない部下だな。でもよ、なら何でお前は魔戦天使団かにいる?」
シャインが訊くと、ハールロッドは一言で答えた。
「このエデンを守るため。」
「エデンを守る…?」
ナイトが少し首を傾げていると、ハールロッドは頭をポリポリとかきながら勢いで喋り過ぎたかなと1人で反省してから、
「無駄話は終了だ。そろそろ任務を再開する。」
と、刀を構え戦闘体勢になる。
「臨むところだ…!」
ウェルサイトも殺意満タンの目で刀を構える。
「ナイト。」
その時シャインがナイトを呼んだ。ナイトは何だと訊いた。
「主からの初命令だ。お前はウェルサイトを守れ。」
「……心得た。」
ナイトは素直に受け入れ、ウェルサイトの前に並んだ。
「ちょっと待て、オレは1人で大丈夫だ。お前らはゼウスのとこに行ってくれ。」
ウェルサイトはそう言うが、
「俺はナイトに命令したんだ。お前の意見なんて求めてねぇ。」
と、シャインはウェルサイトの言葉を聞こうとしなかった。
「主の命令に従うのが夜叉の使命だ。お前が大丈夫だと言っても命令に背くわけにはいかない。だから勝手でも居させてもらうぞ。」
ナイトの言葉もあってウェルサイトははぁとため息をついてから勝手にしろと言って共闘を許した。シャインはゼウスを探すべく飛んでいった。
「話し合いの結果、2対1でいいんだな?」
ハールロッドが確認する。
「ああ、待たせちまったな。じゃあ…始めようぜ!」
ウェルサイトは刀を握っている手に力を入れて地面を蹴った。その後ろからナイトが続く。ハールロッドも同時に地面を蹴り、『ウェルサイト&ナイトvsハールロッド』の戦闘が開始した。
『実験体保管室』ではアレンとソルージュが未完成実験体軍団と戦闘を繰り広げていた。
2人の実験体がアレンの背後から魔法剣で攻撃してきた。アレンはそのことを察知し、華麗にバク転で回避して逆に背後をとった。そして二丁の拳銃で2人の実験体の両足を撃ち抜き、行動不能にさせた。しかし、一息も付けぬまま次の実験体がまた背後か襲いかかってきた。少し反応が遅れたアレンは無防備の状態である。そんなアレンをソルージュは実験体を斬り裂いて助けた。
「あまり殺さないで下さいよ。この人達には罪がないんですから。」
背中合わせのままアレンが注意する。
「それは分かっているが、そんな甘い考えでこの今の状況を打破出来るとは思えんぞ。」
ソルージュは息を切らしている。やはり魔法なしで身体能力だけではキツいのかとアレンが心配する。その時、またも立体映像でゼウスが現れた。
「なかなか頑張っているようだな。」
ゼウスは状況を見てバカにしたように褒めてから続ける。
「撃たれている奴は全員急所を外していて殺していない…弟さんはちゃんと思いやりがあるようだな。その方がこちらも助かる。まだかなり残っているが、この実験体共も無限じゃないんであまり殺されると困るのだ。分かったかお姉さん?」
ゼウスは少しため息をついて呆れ目でソルージュを見る。
「なら早くこいつらを解放しろ!」
ソルージュが声を上げる。
「そりゃ出来ない相談だ。」
ゼウスがキッパリ断る。
「ゼウス、お前はこの人達を『未完成』と言ったな。では『完成』した者がいるのか?」
アレンが尋ねると、ゼウスは少し意外な顔をした。
「何だ、気が付いていなかったのか。」
「?何のことだ?」
「お前はもうこの実験の完成体に会っているぞ。」
「何だと!?」
アレンは記憶を遡り始めた。ゼウスはその間ヒントを言っていく。
「奴の実験が成功したのは2年前。ある優秀な研究員によって成功された。だが、あまりにも力が強く奴は力を暴走させ、入れた魔法のこともあって一時大混乱となった。その暴走を止めたのはその優秀な研究員『イルファ』だ。イルファは奴の記憶を封じ、暴走を止めた。だが、イルファはその暴走の日の数日後、謎の失踪を遂げた。しかも奴と共にな。そして2年が経った今、イルファはアースの革命軍とかいう輩共にいて、奴はお前等と一緒にエデンへと来た。これでもう誰か分かったろ?」
ゼウスがアレンに訊くと、アレンは頭の中に浮かんだ人物の名前を言った。
「『サテラ』…。」
その答えを聞いたゼウスはフッと笑い、
「ご名答アレン君。」
とバカにするように拍手をした。
「何かの実験体であったことは知っていたが、まさかこの実験のだったとは…。」
アレンが誰にも聞こえないくらいで呟く。そしてゼウスが区切りを付けるようにパンと手を叩いた。
「さてと、人当てゲームも終わったことだし、そろそろ消えてもらおうか。流石に逃がすわけにはいかないのでな。でもこれ以上実験体を殺されては困る。だから新たなものを用意しよう。」
次にパチンと指を鳴らすと大人しく待っていた未完成実験体達がアレンとソルージュに目もくれず、一直線に自分が入っていたカプセルに戻っていった。行動不能の者と死亡している者は当然戻っておらずそこら辺に転がっている。
「何をする気だ?」
呼吸が整ったソルージュが呟く。その数秒後、ゼウスが2人に尋ねた。
「お前等『改造人間』って知ってるか?」
「改造人間?」
アレンがオウム返しする。
「名前の通り改造された人間だ。」
「合成獣ではないのか?」
ソルージュが尋ねるとゼウスが首を横に振る。
「キメラは獣と獣を合わせた生物。改造人間とは言わばロボに近い存在だ。」
「ほう…で、その改造人間がどうかしたのか?」
「今からその改造人間と戦ってもらう。それでお前等が勝てばこの未完成達を解放してやろう。」
「本当か!」
「勝てばと言っただろ。」
その時、部屋の奥から何かが歩いて来るのが見えた。姿が確認できた瞬間、2人の目は丸くなった。その姿とは、ガッチリとした長身の男の体なのだが、右手はチェーンソー、左手はガトリングになっており、両足と顔の右部分はどう見ても機械化している。
「……これはもう人かどうか疑わしいな。」
ソルージュが険しい顔をしながらも剣を構える。
「こいつは元々実験の失敗作で一度は死にかけた者だ。その時に俺が暇つぶしに改造してやったのだ。でもただ改造するだけじゃ面白くないから戦闘用に色々付けてやったのさ。」
「お前、人間を何だと思ってる…!」
アレンに怒りの心が生まれる。
「道具に過ぎない。だが、そのまま放っておけば消える命の火をもう一度灯してやったのだぞ。むしろ感謝してほしいね。」
「何故キサマのようなものが神なんだ!」
アレンは怒りが動かすまま二発魔法弾放つが映像のため当然当たらない。
「止めておけ、見苦しいだけだ。」
そう言ったゼウスは突然何かを察知し警戒体勢をとった。そして何かが分かるとハハハと笑った。
「どうやらこちらにアースからの最後の招かざる来客が来たようだ。てなわけで、せいぜい『改造人間弌号』に勝つことだな。」
この言葉を最後にゼウスは通信を切った。それが合図のように改造人間弌号がガトリングを放ち攻撃を開始した。アレンとソルージュは左右別々に回避し、そのまま反撃体勢になる。改造人間弌号はソルージュをターゲットしてそのままガトリングを撃ち続ける。ソルージュはそれを走って回避する。その間にアレンが改造人間弌号の背後をとった
「[銃変換:ガトリング]!」
ガトリングとなった二丁のハンドガンで少ない肉体目掛けて弾を連続で放つ。だが、気が付いた改造人間弌号はソルージュへの攻撃を中断してチェーンソーで弾を防いだ。そしてターゲットをアレンに変え、チェーンソーを不気味に鳴らして回し始める。予想以上にヤバいと感じたアレンはバックステップで間合いを空ける。だが機械化した足から空気が吹き出し、ホバー状態でかなりのスピードで滑るように間合いを詰めてきた。アレンは予想外の動きに戸惑いながらも振り下ろしてきたチェーンソーを紙一重で回避するがバランスを崩し転んでしまった。そこにガトリングを向けられ万事休すとなる。
「隙だらけだぞ!!」
そこにソルージュが改造人間弌号の背後から背中を斜めに斬った。しかし相手はケロッとしておりダメージを負ったように見えなかった。その攻撃によりターゲットがソルージュに戻り、チェーンソーで斬りかかってきた。ソルージュは剣で防御したが、その瞬間かなりの火花が起きた。
(火花!?このチェーンソーどれだけの速さで回っているんだ!?)
火花を散らしながら鉄が鉄を削る音が数秒鳴り響いた後、バキン!という大きな音ともに剣がはじかれソルージュはバランスを大きく崩してしまった。その瞬間に改造人間弌号はガトリングの銃口を向ける。
「ソルージュさん!!」
アレンは助けるべく走り出し、ソルージュを抱きかかえるように庇い、ガトリングを回避した。2人はゴロゴロと3、4回転した後に止まり、ソルージュが起き上がる。
「すまない助かっ……」
ソルージュがふとアレンの方を向くと、左太股と右肩から血が流れていた。
「ルビー!」
ソルージュが膝をついてアレンを見る。
「弾は貫通していますのでヒーリングをかければ大丈夫です。」
アレンは応急用回復魔法をかけ、完全ではないが傷を塞いで立ち上がった。
「しかしどうしますか?」
アレンが尋ねる。
「チェーンソーかガトリング、どちらかを壊せば勝機はある。」
ソルージュがチェーンソーとガトリングに一回ずつ目をやる。
「どちらにします?」
「……やはり遠距離のガトリングを狙うか。」
「同意見です。」
「よし!行くぞ!」
狙うものが決まった2人は改造人間弌号に走り出す。すると改造人間弌号はアレンの足下目掛け機械化している右目からレーザーを放った。アレンはそれをジャンプして回避する。ソルージュにも同じくレーザーを正面に放ったが剣ではじかれた。アレンは着地すると同時に加速して一気に背後をとった。
「[属性変換:サンダー]!」
そして魔法弾に雷属性をのせ、ガトリングに放つ。魔法弾は見事に命中しガトリングに雷が走る。しかし何も起きずに反撃がきた。アレンは連続バク転で後退しつつ回避する。
「ちっ…流石にあの程度ではショートしないか。」
バク転を止めて舌打ちをしてから他の方法を考える。アレンが攻撃している間に高く飛び上がったソルージュは勢いよく剣でガトリングを貫いた。それにより改造人間弌号はガアァァ!と叫んで暴れ出した。ソルージュは暴れる改造人間弌号をロデオのようにしがみつきなかなか落ちない。改造人間弌号はソルージュを落とすべくチェーンソーで攻撃しようとする。
「かかったな!」
ソルージュは当たる寸前に剣を抜いて飛び降りると、改造人間弌号はチェーンソーでガトリングを斬り自爆した。ガトリングは取れることはなかったがかなり深くえぐったようでボン!と起爆して機能が停止した。
「やりましたね!」
アレンがソルージュに近付いて喜ぶ。
「ああ、だがまだ奴を倒したわけではない。気を抜くな。」
ソルージュに言われ、アレンは了解ですと改めて気を引き締めた。改造人間弌号はガトリングが使用不可能だと理解すると、目からのレーザーを連射してきた。
「こいつ!回避できないようにちゃんと足を狙ってくる!」
レーザーの八割は足へ飛んで来るので2人はジャンプで回避している。
(相手の動きを止めるべく足を攻撃するのは別に変なことではない。ただ何か引っかかる…。)
ソルージュは何か腑に落ちない感じでいた。すると、改造人間弌号はレーザーを止め、ホバーでアレンに接近して、またも足を狙いチェーンソーで攻撃してきた。
「僕が狙いのようだね。」
アレンは反撃したいがずっと足を狙ってくるのでなかなか反撃出来ない。
(ルビーに気を取られているなら…!)
ソルージュは背後から攻撃をしようと走ったが、あることを思い出しピタッと止まった。
(そう言えば、ルビーの奴『足』を撃たれていた。あの改造人間に知性があるのなら、その傷が完全に塞がっていないのに気が付いている可能性がある…。そうだとしたらあいつが頑なに足を狙っている理由は足に負荷を与えるため『わざと跳ばしていた』のか!)
「ダメだルビー!それ以上跳ぶんじゃない!」
ソルージュが叫んだが、無念にも届かず、恐れていたことが起きてしまった。アレンは着地した瞬間、左太股に激痛が走り膝をついてしまった。何だとバッと足を見ると、ガトリングで受けた傷がまた開いており、血がダラダラと流れていた。この時を待っていた改造人間弌号は大きくチェーンソーを振り上げた。
(ヤバい…!!死ぬ…!!)
アレンはもう諦める以外選択がなかった。次に見る景色は自分の血が噴き出ている景色だろう…そう思っていた。だが、ザシュ!っという斬られた音は自分から鳴らなかった。そして目の前に見える景色は絶望的なものだった。
「ソルージュさん!!!!」
なんと、ソルージュがアレンを守るべく間に割り込み盾となったのだ。ソルージュは腹部に深くチェーンソーを受け、血が大量に溢れた。そして倒れる途中に一言、
「頼む…ぞ…。」
と言って仰向けに倒れた。
「ソルージュさん!!!」
アレンはソルージュを優しく抱きかかえ、傷に回復魔法をかける。だがソルージュが目を開ける気配はない。アレンはそっとソルージュを寝かせ、
「少しの間、待っていて下さい。」
と言って立ち上がり、改造人間弌号を殺意以外ない目で睨んだ。
「[銃変換:ショットガン]。」
二丁のハンドガンをショットガンの構造に変え、無表情でゼロ距離で連射し始めた。隙なく連射するので改造人間弌号も怯むしかなかった。そしてアレンは思い切り回し蹴りを喰らわして距離をあけた。
「お前は…お前は…ここで殺す!!!!」
アレンは生きてきた中で一番の殺意のこもった顔で二丁のハンドガンの引き金を同時に引いた。
「[裁判]!」
すると魔法弾ではなく巨大な魔法陣が目の前に展開された。
「[判決]!」
次に引き金を引くと、ターゲットマークが大量に発射され、全て改造人間弌号をマークした。
「本来この技は多数の敵に使う技だが、今はお前を潰すために使う!散れ![死刑]!!!!」
ジャンプして魔法陣の真ん中で二丁ハンドガンの引き金を引いた。するとターゲットマーク分だけ光線が放たれ、ターゲットマークへ一直線に飛んでいき、改造人間弌号を貫いた。大量の光線を喰らった改造人間弌号は至る所から煙や火が立ち、やがて爆発した。着地して残骸が燃えるのを見て倒したことを確認したアレンは急いでソルージュの元に寄って、再度抱きかかえて回復魔法をかける。すると、気を失っていたソルージュが重々しく目を開いた。
「どうやら……もう長くないみたいだな…。」
「何を言っているんですか!」
アレンはソルージュに回復魔法をかけ続ける。
「伝言……私の本当の弟に……伝えてくれるか…?」
「そんなの自分で言って下さいよ!」
「強く…たくましく…生きて…くれ……と…。」
「あなたも生きるんです!諦めないで下さい!」
必死に回復魔法をかける。しかしそんな努力も虚しくソルージュの命の灯火はどんどん消えていく。
「最後に……お前らに会えて……良かった……。私の死を無駄にするなよ…。」
ソルージュはあの凛々しい瞳から一滴の涙を流し、小さく微笑んだその数秒後、静かに目を閉じた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アレンはもう力が入ることないソルージュの手を握り締めた。
ドーム状の庭園の中ではヒューズ&ミリアvsサナの激闘が未だ繰り広げられていた。
「[ダークネスゼロ]!!」
サナが唱えるとミリアを闇で包み、その闇がはじける前にミリアは水の防御技を発動して攻撃を防いだ。
「[水神鮫噛]!!」
ミリアは水の鮫を何匹か形成しサナに向かって放った。
「[封魔天光]!」
サナは光の防御魔法で防ぐ。
「[矢舞刺雨]!!」
サナが解除したところにヒューズは連続で水属性の矢を放った。
「[フレアトルネード]!」
サナは自分の目の前に炎の竜巻を発動させ矢を燃やした。
「あんた達舐めてんの?さっきからぬるい攻撃ばっかで私を殺す気あんの?」
サナは攻撃を中断して不満顔で2人を睨む。
「私達はあなたを殺すために来たわけではなく連れ戻しに来たんです。だから殺意は元々から持ってませんよ。」
ヒューズが答える。
「まだそんなこと言ってるの?とんだおバカさんね。」
サナがやれやれとバカにする。それを聞いたヒューズはクスッと笑った。
「殺意を持っていないのはあなたも同じでしょう。」
「何ですって?」
サナの眉が無意識にピクッと反応する。
「私もヒューズと同じこと思ってた。」
ミリアがヒューズの意見に賛同する。
「ふざけんじゃないわよ!私はあんた達を殺すって何回も言ってるでしょ!」
サナは頭に血が上り怒鳴る。
「ダメですね~自分の気持ちに嘘をついては。」
ヒューズの茶化す態度によってさらにサナの機嫌が悪くなった。
「バカもいい加減にしなさい!!あんた達を殺す!それが私に命じられた命令よ!」
「そんな命令、初めから従う気なんてないんでしょ?」
「ミリア…!あんたまでそんなことを…!」
「私は魔力察知ができる並の人より長けているわ。あなたが本当に本気を出せば今のフォーグくらいの力を使えるくらい分からないとでも思った?そんな力があるのに使おうとしないのは私達を殺すつもりなんてないからでしょ?」
「……!!あんた達に何が分かるの!」
「まぁとにかく一旦落ち着きましょう。互いに敵意がないなら戦う意味がないですし。」
ヒューズは弓を異空間に直す。ミリアも戦闘体勢から戻った。
「何勝手に戦いを止めてんのよ!私は…!」
「私達を殺すんでしょう?もう聞き飽きましたよ。とにかく戦いは一旦休戦ということで話し合いましょう。」
ヒューズがサナが予想しなかった提案をしてきた。
「だからふざけんじゃ…!!」
「ふざけているのはあなたです!先程言ったようにこっちには殺意なんてありません。それとも、あなたは敵意のない奴を痛めつける趣味がおわりで?」
「……流石にそこまでゲスじゃないわ…。……もう!分かったよ!何を話すの!」
サナは遂にし、イライラではあるが戦闘体勢をといた。
「あなたがこの魔戦天使団にいる理由です。」
「私が魔戦天使団にいる理由?そんなの私が天使だからよ。このエデンでは天使は強制的に魔戦天使団に入団させられんのよ。」
サナが腕組みをして答える。
「ううん、あなたは元々天使ではないじゃない。」
ミリアが首を振って言うと、サナは一瞬驚いてからはぁとため息をついた。
「何よ…知ってたんだったらそう言いなさいよ…。」
「何故偽りの天使になってまで魔戦天使団に入団したんですか?」
ヒューズが尋ねるがサナは黙ったままだった。
「あなたの性格では自らの意志で入るとは思えない。何か理由があるはずだからそれを教えてほしいの。」
ミリアが尋ねてもサナは黙ったままだった。
「『人質』。というのが濃厚ですか?」
ヒューズの一言にサナはピクンと反応した。それを見逃さなかったヒューズは質問を続けた。
「誰が一体人質になっているんですか?」
サナがまだ口を閉ざしていると、流石のヒューズも痺れを切らして、
「早く答えなさい!」
と、怒鳴った。数秒の沈黙があった後、ようやくサナは口を開いた。
「そうよ。私は家族を人質にとられているわ。家族を殺されたくなかったら天使魔法の魔力を蓄えたエルクワタストーンを装備し、魔戦天使団に入れってゼウスに脅されているの。」
「成る程、でも確かあなたが入団したのは今から10年前、当時6歳のあなたにそんな人質だの脅しだのよく理解しましたね。」
「頭が良すぎるのも難点ってことよ。入団しなければ家族も私も死ぬ、でも入団すれば私が苦しむだけで誰も死なない。そういう嫌なことまで理解してしまったのよ…。」
サナの顔が少し曇る。
「でもあなたが魔戦天使団にいる理由がそれだけなら家族を助ければあなたは私達のとこに帰って来れるんじゃない!」
ミリアがそう言うとサナはキッ!と睨んだ。
「そんな簡単なことじゃないのよ!家族を人質されたこともないのに勝手なこと言わないで!」
サナのあまりの怒りにミリアは圧倒され言葉が出なかった。
「落ち着いて下さいサナ。家族とは母親と父親ですか?」
ヒューズが訊くと、サナは濁った笑みを浮かべて答えた。
「……もう1人いるわ。しかも…あんた達と接触済みよ。」
「何だって!?」
ヒューズとミリアが大きく驚いた。
「私が魔戦天使団に入る2年前、当時4歳だった頃にその子は産まれた。でも当時の私は自分が姉になったことなんて知らなかった。その子は産まれてすぐに魔戦天使団の実験体として連れて行かれた…天才の頭脳を持つ姉の『妹』だからって理由だけでね。」
「お母さんとお父さんは何で妹さんを?」
ミリアが尋ねる。
「多分その当時から私は魔戦天使団からマークされていたはずよ。だから両親は必死に私を魔戦天使団に連れて行かれるのを阻止していた。でも妹が産まれた時、向こうはある条件を出してきた。『サナを諦める代わりにその子供をこちらに渡せ。』と。その条件を飲んだ両親は妹を渡した。でも2年後、魔戦天使団は簡単に条件を破棄し、両親を捕らえ、私が自ら入団するように仕向け、結果、無理矢理入団させた。」
「何故そこまで魔戦天使団はあなたにこだわったんですか?」
ヒューズが尋ねる。
「欲しかったのは私じゃなくて私の頭脳。この世界に頭脳を取り出せる方法があったなら、魔戦天使団は頭脳だけ奪ったはずよ。………てか、もう分かってんじゃないの?誰が私の妹か…。」
サナは答えた後、逆に2人に尋ねた。正直2人はある人物が思い浮かんでいた。いや、もうその人物しか思い当たらなかった。ヒューズとミリアは顔を見合わせ頷いてからサナに視線を戻し、ミリアが代表して答えようとした瞬間、庭園に入るためのドアを突き破ってスノウとエアルが乱入してきた。
「いててて……。」
打った頭をさすりながらスノウは立ち上がり、ヒューズとミリアを見つけて驚いた。
「ヒューズ!ミリア!お前等こんなところで何やってんだよ?」
「それはこちらの台詞です。何をしているんですか?」
ヒューズが呆れ顔で尋ねるとスノウが血相を変えて答えた。
「俺等ヤバい奴に追われてんだ!」
「ヤバい奴?」
その時、エアルが叫んだ。
「スノウ来たよ!」
エアルとスノウはグッと身構えた。ヒューズとミリアとサナは何が何だか分からないがとりあえず2人が入ってきたドアを見た。その瞬間、魔力察知が使える3人は背筋が凍るほどの恐ろしい魔力を感じた。
「この魔力…!サナと戦う前に感じた魔力だわ!
」
ミリアが思い出して叫んだ。
「てことは……」
その時、恐ろしい魔力を放っている者の姿が現れた。それは悪魔のような姿となってしまった少女『サテラ•オパール』であった。
「やはりサテラでしたか…。」
ヒューズは弓を異空間から取り出した。
「サテラ!」
サナが叫ぶ。
「おっ!何だサナもいたのか。」
その声でスノウがサナの存在に気が付いた。
「何よ、気付いてなかったの。」
サナが鈍いわねとため息をついた。
「あっ!ホントだサナだ!良かった~また会えた!」
エアルもサナに気が付き、会えたことに安心した。サナはエアルにも認知されていなかったんだと思うと、自分は影が薄いのか内心不安になった。
「殺すターゲット、2人追加。」
サテラは青く燃える瞳を見開いた思ったらいきなり青幽鬼の炎を放ってきた。
「…!!散れ!」
最初に動きに気が付いたヒューズが叫んだ。それにより全員が散開して攻撃を回避した。その時、サナと同じ方向に逃げたヒューズが尋ねた。
「サナ、こんな時に話を戻しますが、あなたの妹…サテラですね?」
「……正解、私とサテラは同じ血が流れた『姉妹』よ。」
サナが答えると、既に分かっていたミリアはやっぱりと呟いた。
「な、何ーーーー!?」
前の話を全く聞いていないスノウはいきなりの超カミングアウトに超驚いた。
「ウッソー!!でもそう言われれば似てるかも…。」
エアルがサナとサテラを見比べて呟いたが、
(今はサテラちゃん闇落ちしちゃっているから何とも言えないけど…。)
と、心の中で苦笑いした。
「どういうことだヒューズ!」
遠目にいるスノウがヒューズに叫ぶ。
「今は説明している暇はありません!とにかくサテラを止めなくては!」
「私も同意見よ。」
サナが薄ピンクの天使の羽を生やして戦闘体勢になる。
「私達を殺すという任務はどうするんですか?」
「私だって優先順位くらい分かるわよ。」
その時、サテラがヒューズとサナに攻撃してきた。
2人はバラバラに回避する。
「私が天使魔法の力で闇落ちを止める!それに時間がかかるからその間あんた達はサテラの気を引いといて!でも万が一!致命的なダメージを与えたらあんた達を『本当に』殺すからね!」
『本当に』という言葉を聞いた他の4人はその言葉に隠された意味を理解し、ニッと笑い合った。
「行くわよ!」
サナが構えると魔力を高めると、真下に魔法が展開され、額に小さめの赤いエルクワタが浮き出てきた。それと同時サテラが動き始めた。
「あなた達は私が殺す!」
最初にサテラが選んだターゲットはスノウであった。スノウは戦いずらいなと思いながらも一応戦闘体勢になった。
「[ファントムニードル]!!」
サテラは青い炎で長いトゲを数本造形してスノウに放ってきた。しかしそんなに速くなかったのでスノウは簡単に回避した。だが、回避した方向にサテラに先回りされていた。
(しまった!今の攻撃はフェイクだったのか!)
「[デーモンテイル]!!」
サテラはその場で横回転して悪魔の尻尾でスノウを弾き飛ばした。吹き飛んだスノウは壁に激突し、かなりのダメージを負った。
「スノウ!!」
エアルがスノウを回復すべく走り出した。だが、次にサテラが標的にしたのはエアルだった。サテラはエアルの前に先回りすると、腕から放出した炎で鎌を形成した。
「[ブルーデスサイズ]!!」
サテラは炎の鎌を振り下ろした。だが、当たるギリギリでスノウがエアルを突き飛ばしたことによって直撃を免れた。
「無事かエアル?」
スノウが倒れているエアルに手を伸ばす。
「ありがとうスノ……」
エアルが手を掴もうと顔を上げたら、スノウの体を青炎の剣が貫いている風景が目に入ってきた。
「スノウ!!!!」
「がっ……!?」
スノウは伸ばしていた手をブランと下ろし、両膝をついてしまった。だが、剣が消滅した時、スノウはきょとんした顔でさっきまで剣が刺さっていた自分のきれいに割れている腹筋を見た。
「今回復を…!」
エアルが慌てて治癒魔法をかえようとすると、
「いや、しなくていい。」
と、スノウが拒否した。
「何言ってんの!早く止血しないと……あれ?傷がない…。」
エアルが見たのは何も起きていない普通の腹筋だった。
「確かに刺さった感触も衝撃もあった…でも何で傷もないし血も出ていないんだ?」
スノウは自分の身に何が起きたか意味不明だった。スノウとエアルが頭を悩ましていると、サナが魔力を維持したまま叫んだ。
「青幽鬼は直接魂に攻撃が出来るのよ!つまりあんたは体じゃなくて魂にダメージを負ったの!」
「それってどうなるんだ!」
「色々と説明すると面倒だけど、結論から言うと寿命が縮むのよ!」
「な、何だと!?」
スノウは血の気が引いた。
「まともに喰らったから5~6年は縮んだはずよ!」
「マジかよ…。」
スノウは実感がないため何とも言えない感情に浸る。
「ちょっとーーー!!話は後にしてこっちを手伝ってよーー!!」
サナとスノウが会話している間、ミリアは必死にサテラからの攻撃を回避していた。
「あと30秒頑張りなさい!!」
サナが残り時間を告げる。
「長い30秒になりそうですね…。」
ミリアと同じくサテラからの攻撃を回避しているヒューズが呟く。
「[ファントムダンス]!!」
幽鬼の炎が踊るようにミリア達を襲い始めた。
「全員隠れて![水神城壁]!!」
ミリアは神の水の城壁を発動させる。他の3人は急いで後ろに隠れ難を逃れた。しかし、予想外の炎の力によりもう水の壁が壊されそうである。
「サナ!まだなの!」
ミリアが残り時間を訊く。
「あと5秒だから!」
「5秒も無理!」
ミリアの頑張り虚しく、驚異的な力によって壁が破られた。そして炎がミリア達を襲う瞬間、遂にサナが魔法を発動した。
「[絶魔大神鏡]!!!」
サナが唱えた瞬間、サテラを炎と共に囲むように巨大な鏡の壁が四方に出現し、最後に鏡の天井で蓋をしてサナを捕らえた。
「何だこの壁は!出せ!ここから出せ!」
サテラが鏡の壁に向け炎を当てまくるがビクともしない。
「もう大丈夫よ。たとえ青幽鬼でも壊せないわ。」
サナの言葉に4人はホッと安心した。
「しかしこの魔法は一体何というものですか?」
ヒューズが鏡の壁に触れながら訊く。
「四大神とハールロッドと私しか使えない絶対防御魔法『封魔天光』。それよりさらに上、最上絶対防御魔法『絶魔大神鏡』。これは四大神の中のゼウスと私にしか使えない魔法よ。」
そう説明しているサナはかなり魔力を消耗しているらしく息が荒い。
「何でサナは使えるの?」
エアルが尋ねるためサナの顔を見るやいなや、驚きに変わった。サナの額から浮き出てきた赤いエルクワタが左目付近まで広がっていたのだ。
「サナ!それ…!」
サナはエアルが自分の左目を見ているのでスッと左手で触って確認した。そして自分の今の状況を理解してあ~と言ってから説明を始めた。
「ただのエルクワタの暴走よ。エルクワタに蓄えてある魔力を使いすぎるとエルクワタが暴走して体を蝕んでいって、最終的には自分自身がエルクワタ化してしまうの。」
「そんな…!」
「大丈夫よ。ちゃんと調整さえすれば元に戻るわ。あと、さっきの何で私が使えるかって質問だけど、簡単に答えるなら研究したからよ。」
「……そっか。」
エアルはまだ心配だがとりあえず納得した。こうやって会話している間も、
「出せ!私を出せ!」
サテラは鏡の檻の中で暴れていた。
「で、実際どうやってサテラを元に戻すんだ?」
スノウがサナに尋ねる。
「方法はないわけじゃないけど、私にしか出来ないわ。私に全部任せてくれるならやるわよ?」
この提案に反対する者はいなかった。その時、サナが思い出してスノウに言う。
「そういえばあんた寿命が縮んでいたわね。」
「……ああ、でももう戻せないだろ?」
「私を舐めんじゃないわよ。」
サナはスノウの心臓に掌をあてると、微かに体が光った。
「[リボーンハート]。」
光はサナの左手を通ってスノウに到達するとスノウの体を少し光らせて消えた。
「これであんたの失った分の寿命を戻したわ。」
「ホントかサナ!やったぜ!」
「良かったねスノウ!」
スノウとエアルが喜び合う。
「あんた達も寿命が減ってんなら戻すわよ。」
サナがヒューズとミリアに訊く。
「何回かかすった程度ですから大丈夫です。」
ヒューズが拒否する。
「私もいいわ。せいぜい数時間ぐらいしか減ってないと思うし。そんな程度でサナも寿命削りたくないでしょ?」
ミリアの発言に喜んでいたスノウとエアルがピタッと止まった。
「リボーンハート、その技は自分の寿命を相手にやる技でしょ?」
ミリアが尋ねると、サナはため息をついてから、そうよと言って認めた。
「でも何で分かったのかしら?」
「死者蘇生魔法や不老不死になる魔法、そういう命が関わってくる魔法ものには確実に何らかの大きなデメリットがある。じゃなきゃ誰も死なない世界となってしまうからね。今回のリボーンハートもそう。寿命という命が関わってくる魔法だから何らかのデメリットがある。そのデメリットが、自分の寿命を削る…でしょ?」
「はぁ…大変良く出来ました。」
サナはパチパチと拍手する。
「えぇっ!?そうならそうと言ってくれよ!」
スノウが驚く。
「あんたは気にしなくていいわよ。私が私の独断でしたんだから。」
サナにそう言われたのでスノウは返す言葉がなかった。
「さて、あんた達私に全部任せてくれるのよね?」
「まぁあなたですから何か考えがあると思うので。」
ヒューズが代表で頷く。
「なら手出しは一切無用よ。何があっても。」
サナは4人に釘を刺してから鏡の檻に穴を開け中へと入っていった。サナが入ると穴は自動的に塞いだ。
「お前が私を閉じ込めたんだろ!出せ!」
サテラが牙を向けながら青き炎を放った。サナは封魔天光を体に纏い、炎を防ぎながら一歩一歩サテラに近付いていく。
「来るな!お前は私の殺す相手ではない!」
「あんたに殺す相手なんていない!」
サナが叫んだ。サテラは突然叫ばれたので困惑する。
「あんたが殺そうとしているのは自分の仲間よ!」
サナが叫ぶとサテラはさらに困惑する。
「仲間…そんなはずない!私は神の王にあいつ等を殺せと…!」
サテラの困惑が増すのに比例して炎の威力も増していき、今はもう鏡の檻の中は青炎の海と化している。
(神の王?…ゼウスの奴!あいつ私がサテラをかくまっていたことに気が付いていたのね!そして記憶が封じられているサテラにテレパシーでスノウ達を殺すという嘘の記憶を植え付けた…!殺意という負の感情だけ生み出し闇落ちさせるために…!)
サナはゼウスに対する怒りを今は抑え、サテラを止めるのに集中した。
「聞いてサテラ!あんたは今完全に記憶を封じられている!でもそれは失ったんじゃない、ただ忘れているだけよ!だから思い出せれるわ!そのためにあんたの記憶封印魔法にある細工をしたわ!あんたが何か1つでも思い出した時全ての記憶が甦るように!だから…!だから何でもいいから思い出して!」
「うるさい!お前も邪魔をするなら殺すまでだ!」
サテラは何か吹っ切れたように言い放ち、サナに向かって走り出す。
「[ソウルスラッシュ]!」
右手から一本の炎の剣を作り、サナの魂に直接斬りかかってきた。サナはそれを華麗に飛び上がって回避してから説得を続ける。
「お願いだから思い出して!あんたは記憶を忘れたままでいいの!」
「記憶なんていらない!そんなものなくたってこうやって生きている!」
サテラの反論を聞いた瞬間、サナは間を置き、少し怒りが混じった表情で話を続けた。
「そうね、記憶なんて所詮情報の寄せ集めでしかないもの…なかったって生きていけるわ。でもね、記憶は生物特有のものよ。生物だから…人間だからこそ記憶が必要なのよ。それが人間である証になるから。でも今のあんたはスノウ達を殺すというデータだけをアップロードされたロボットよ。でもあんたはロボットじゃない!あんたは人間!私の妹である正真正銘の人間よ!人間は自分で記憶を作り、自分の意志で生きれる権利があるわ!それなのにあんたは記憶を捨て、全ての権利を捨て、ただ誰かに操られるロボットに自ら成り下がろうとしている!本当にそれでいいの!あんたは自分の未来を自らの手で作りたくないの!」
「うるさい!!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」
サテラの頭の中はもうグチャグチャである。どの記憶を信じ、どの記憶を疑えばいいかさっぱり分からない。サテラの動揺に比例し炎の威力は最大となり、遂に封魔天光が破られた。しかしサナはそのまま炎の中を歩き、サテラを優しく抱きしめた。
「は…離せ!」
暴れるサテラの耳元でサナが囁いた。
「あんたにとって私達との思い出は簡単に捨てれるほどのものだったの?」
この言葉によりサテラの頭の中にシャイン達との思い出が断片的に浮かび上がってきた。この記憶は漆黒の闇の中で眠っている心のサテラを微かに目を開けさせた。
「ち…が…」
それによりサテラの意識が少し戻り、炎の威力が弱まった。
「私達の絆は…そんなに薄っぺらいものだったの!」
サナの叫びを切っ掛けにサテラの頭の中に自分がシャイン達と笑い合っているたわいない光景が鮮明に浮かび上がった。その瞬間、サナの細工が発動し、記憶封印魔法が消滅した。
「違います!」
そう叫んでいるサテラは姿はまだ変わっていないが声と感じる雰囲気は元に戻っていた。
「違います…皆さんとの思い出は…ずっと一人ぼっちだった私にとってかけがえのない思い出です。忘れたくても…忘れられません。」
サテラの体は話しながら徐々に戻っていき、話し終えた時には完全に元に戻った。
「そう、なら良かったわ。」
サナが耳元で囁く。
「ごめんなさい…私、皆さんを傷付けてしまいました…。」
サテラの目から涙がこぼれる。
「いいのよ別に。あんたが元に戻ったならそれでいい。」
サナはサテラをキュッと抱きしめた。その時、鏡の檻が砕け散って消滅し、スノウ達も近付いてきた。
「ごめんなさい皆さん…私…」
サテラは立ち上がってしょんぼりした顔で下を向いて謝ろうしたらエアルが喜びながら抱き付いた。
「良かったーー!エアルちゃんが戻ったーー!」
「ちょっ…!エアルさん痛いです~!」
サテラが微笑みながら注意する。エアルはごめんごめんと謝って離した。その時、立ち上がっていたサナがグラッとバランスを崩し倒れそうになる。それを隣にいたミリアが支え何とか倒れずに済んだ。
「大丈夫サナ?魔力察知で見たところかなり魔力が消耗しているわよ。」
「心配いらないわ。ちょっと魔力を使いすぎたのと、突然急激に寿命が縮んだのに体が慣れていないだけよ。」
サナは肩を貸そうとしたミリアを拒否して自力で立つ。
「やっぱり…私のせいで…。」
サテラの顔がまた曇る。そんなサテラを見てサナはサテラの頭に掌を優しく乗せた。
「あんたのせいじゃないと言えば嘘になるわ。でも気にしなくていいわよ。この私が何の計画もなしにしたとでも思ってんの?ちゃんと策はあるから心配しなくていい。」
サナがサテラを撫でると、サテラはサナを信じ、はいと言って微笑んだ。サナも一瞬だけだが微笑み返してから真剣な顔になった。
「さて、私が寝返った以上、残る敵はゼウスとハールロッドだけね。」
「アレンとソルージュ、レビィとウェルサイトもいませんね。」
ヒューズがいない人を確認する。
「魔力が少ないせいで魔力察知の範囲が狭まっていなければ分かるんだけど…。ま、今はとりあえず走って探すわよ。近くなれば私とミリアとヒューズが気が付くでしょ。」
他の5人はサナの意見に賛成し、6人は移動を開始した。だがその直後、魔力察知が出来る3人が何かを感じ急停止した。魔力察知が出来ない3人も慌てて停止した。
「どうし……」
エアルが前にいるヒューズに尋ねようとした時、何かが森側の窓からとてつもない速さで突き破ってきた。全員の視線が突き破ってきた何かに集まる。
「ゲボッ…!ゲボッ…!クソガキが…!」
煙の中から現れたのは無造作金髪に鋭い赤い瞳、神の王ゼウスだった。
「ゼウス!!」
サナが身構えた。
「こいつが…!!」
スノウ達も始めて見た神の王素警戒し早く身構えた。
「お前等に今興味はない!邪魔だ!」
ゼウスは窓の方に歩きながらサナ達に罵声を浴びせる。そしてサナ達には目もくれず、上を向きある者を睨んだ。サナ達はゼウスが睨む同じ方向を見上げた。その空中にはシャインがゼウスを見下して浮かんでいた。シャインの姿見たスノウ達は普通は喜ぶ場面なのだが、全員がとった行動はあれは本当にシャインなのかと疑った。
「シャイン…ですよねあの人?」
サテラが首を少し傾げる。
「ええ、魔力からすると確かにあいつはシャインよ。でも…何なのあの姿と魔力は…。」
サナの言う通り、今のシャインは全員が知っているシャインではなかった。いつもの黄緑と黒が混じった髪と黄緑の瞳は艶やかに光る白一色と化し、体から放たれているオーラも同じく白色となっていた。
「お前等離れてろ。その神は俺が潰す。」
シャインは風砕牙を構え、殺意がこもった笑みを浮かべた。
眼鏡「はい!朝見てる人おはようございます!昼見てる人こんにちは!夜見てる人こんばんは!作者の眼鏡純です!え~最初に投稿が遅れたことをお詫び申し上げます。その分、アレンの話とサナの話を1つにまとめました!さて!この『エデン編』も予定では残り2話となりました!もう自分で書いていてもどこに学園要素があるだと思っていますがそこはあまり触れないで下さい…。え~これからも『~魔法学園~』を応援よろしくお願いします!では、次回をお楽しみに!」