61話 美の神ヴィーナス(12)
ス「なぁ、最近思ったんだけどさ。」
シ「何だよ?」
ス「この小説のタイトルって『~魔法学園~』じゃん。」
ア「そうだね。」
ス「でもさ、どこに学園要素があるんだ?」
シ「そういえば……」
ヒ「どこにもありませんね。」
ス「だろ!学園モノってさ、学園内でいろんな事が起きるもんだろ。なのに今俺らどうなってる?」
ア「別世界で神と闘ってるよ。」
ス「だろ!そんな学園モノあってたまるかよ!って感じだぜ。」
シ「いっそタイトル変えたらいいんじゃね。」
ス「それは良い考えだ!よし!考えようぜ!」
ヒ「その前に本編をどうぞ。」
無事に脱出した男チームと犬のヨゼルは人気のない森の中を歩いていた。
「なぁ、何でお前はウェルサイトをクトゥリアって呼ぶんだ?」
スノウが先頭を歩いているヨゼルに尋ねた。
「逆にお前らは何でクトゥリアをウェルサイトと呼ぶんだ?」
前を向いたままヨゼルが聞き返した。
「そりゃあ、あいつがそう言ったからな。」
「あいつがそう名乗ったのか?」
「ああ。」
「あの~いきなり話しに入ってすいません…。」
スノウとヨゼルが話している間にアレンが入り込んだ。
「まず何でヨゼルが話せるか教えてくれなきゃモヤモヤがすごいんだけど…。」
「何でって、喋れるから喋るんだよな?」
スノウが代わりに答えてヨゼルに確認すると、ヨゼルはバウと吠えた。
「どんだけ適当な説明だ!」
アレンがツッコむ。
「はぁ…細かい野郎だな。」
ヨゼルがアレンをチラッと見て呆れる。
「なー。」
何故か意気投合しているスノウ。
「まぁいい教えてやろう。俺は『話術魔法』って魔法が使えるんだ。この魔法を使うと人語を理解し話すことができるってわけだ。」
「知らない魔法ですね。」
ヒューズも会話に入った。
「そうなのか。じゃあエデン特有の魔法なのだろう。」
ヨゼルが言う。
「なぁ、その魔法って人間が使うとどうなるんだ?」
スノウが尋ねる。
「同じ事だ。自分が話している以外の言葉が理解でき話すことができる。国際的に働いている人間のほとんどは使える。ま、動物で使えるのはエデン中でも俺だけだろ。」
「その魔法は誰かから教わったのですか?」
次はヒューズが尋ねた。
「レビィの母親さ。」
「母親…フィリアさんですかね?」
「おおそうだ、やはり同じなんだな。俺はガキの頃あいつの母親に助けられたんだ。」
「助けられた?」
スノウが首を傾げる。ヨゼルは軽く頷いてから話しを続けた。
「俺は物心付いた時から親がいなかった。たった一匹でどうにか生きていたある日、狼の魔物の群れに出会ってしまって案の定襲われた。必死に抵抗したが左目をやられて瀕死に近くなってしまった。でもこの状況から助けてくれたのがレビィの母親『フィリア•クトゥリア』だった。あいつは狼の魔物を全滅させた後に横たわっている俺に近付き治癒魔法をかけながらこう言ったんだ…【どんなに相手が多勢でも恐れず立ち向かうその心…買った!お前、オレの相棒になれ!】ってな。そん時はまだ人語なんて理解できるわけなかったから、人語が理解できてから聞いたんだが…でも俺はこの人間に付いて行くと思ったんだ。」
ヨゼルがフィリアとの思い出を思い返して少し笑った。3人は嬉しそうな顔を見て、もう質問するのを止めた。
色々と話している間に3人と1匹は視界が広げた場所に出た。そこには3匹の2メートルぐらいの翼竜と1人の男がいた。
「敵か!」
スノウは戦闘体勢になるがヨゼルが仲間のトレイタだと言ったので戦闘体勢から戻った。男はスノウ達を見つけるとこっちだと手を振って呼んだ。
「よう、お前等がレビィが言ってたアース人だな。俺はレビィに頼まれてお前等とヨゼルをこの翼竜『プテラドン』でオリジン領土に連れて行けと言われているんだ。てなわけで、早く乗ってくれ。大丈夫、この魔物はトレイタで飼い慣らしている魔物だから襲いはしないさ。」
男がプテラドンの一匹をポンポンと叩く。
「レビィ達はどうすんだよ?」
スノウがヨゼルに尋ねる。
「女組は置いていく。」
「どうしてですか?」
今度はヒューズが尋ねる。
「ヴィーナスは美の神。そのせいか信者の大半が女だ。だから奴がいる教会には男が入れない封円を張っている。要するに、ヴィーナスを説得しようと倒そうとお前ら男は何も出来ないんだ。てなわけで、俺らはオリジンの説得か討伐をしに行く。」
「えらく急だな~。」
スノウが突然ハードな作戦を聞かされ苦笑いする。
「でもこんな人数で大丈夫でしょうか…。流石に相手は神ですよ…。」
ヒューズが心配する。
「どうだろうな、戦うことになればヤバいが…。」
ヨゼルがボソッと呟く。
「戦わない選択肢があるのですか?」
聞き逃さなかったヒューズが聞くと、
「まぁとりあえず行こう。実物を見れば分かるから。」
ヨゼルがフワッとした感じで言ったのでヒューズは少し首を傾げた。
「2人一組で乗ってくれ。」
男はそう言いながら一匹のプテラドンに乗った。言われてたスノウ達はジャンケンして、スノウ&ヒューズ、アレン&ヨゼルでプテラドンに乗った。
「よし!行くぞ!」
男を先頭に男チームは空へと飛び立ちオリジン領土に向かった。
(そう言えば、ウェルサイトの名前に関して解決しなかったな。)
アレンはふと思ったが口に発することはなかった。
ハールロッドから無事に逃げれた女チームとウェルサイトはポプラの近くの洞窟の中で待機していた。
「とまぁ、そう言うことで、オレらは今からポプラに戻ってヴィーナスを説得するか倒す。」
ウェルサイトは待機中にヨゼルがスノウ達に説明していた作戦と少し補足を伝えた。
「博打に近くないこの作戦…。話からするとスノウ達は大丈夫かもしれないけど、私達下手すれば死ぬっぽいよ…。」
エアルがすごく心配した顔になる。
「説得で終わることはないだろうからな。」
ウェルサイトが言う。
「でもやるしかないのよ。」
レビィは腹をくくっているらしい。
「とりあえず今からポプラに戻るぞ。」
ウェルサイトが洞窟を出るとレビィ、ミリアの順で出て行く。エアルはまだ心配した顔をしており、隣にいたサテラに、
「サテラちゃんは嫌だよね?こんな作戦。」
と、尋ねた。尋ねられたサテラはエアルを見つめて、
「あっ…えっと…何の話ですか?」
首を傾げた。
「何のって、今からヴィーナスのとこに行くことだよ。」
エアルが改めて言うと、サテラがあっ!と思い出した。
「大丈夫サテラちゃん?もしかして記憶が……」
「大丈夫エアルさん!それより行きましょう!」
サテラは誤魔化すように笑ってからダブルレビィとミリアの後を追った。エアルは変なモヤモヤが残ったままその後を追った。が、ある事に気が付きピタッと止まってポツリと呟いた。
「なんか結局行くはめになってんじゃん。」
レビィ達はポプラの入口の近くの茂みに身を隠して様子をうかがっていた。
「で、どうやって中に入るの?トレイタの幹部クラスと指名手配犯達なんて素直に入れてくれるわけないと思うけど。」
エアルが入口に立っている兵士二人を見ながら隣のウェルサイトに囁く。
「入れてくれるわけないだろ。」
ウェルサイトがシレッと答える。
「じゃあどうするんですか?」
サテラが尋ねると、ウェルサイトがあれを利用すんのさと指を指した。指の先には統一された白いローブを着た女性達が歩いていた。
「何なのあの人達?」
レビィが尋ねる。
「ヴィーナスの教会に入るためにはあの白いローブを着なくてはならないルールなってんだ。」
「何で?」
「無宗教のオレが知るわけないだろ。とにかくあのローブが信者の証みたいなもんらしいから、アレがあれば入れるってわけだ。」
「でも顔は出ちゃうし声だってそのままだよ。」
エアルが囁く。
「フードを被っていれば大丈夫だろ。」
「でも肝心のその白いローブがないですよ。」
サテラの言う通り、バレるバレない以前に自分達の手元に白いローブがなかった。
「オレらを舐めてもらっちゃ困るな。」
ウェルサイトがドヤ顔で人数分のローブをどこからともなく取り出し全員に配った。
「さ、行くぞ。」
ウェルサイト達は白いローブに付いているフードを深く被って顔を隠し、入口に向かった。だが、入ろうとすると、
「失礼、少しお顔をお見せ下さい。只今凶悪な指名手配犯達が逃亡中ですので。」
案の定二人の兵士が尋ねてきた。レビィ達にヤバいという緊張が走る。が、ウェルサイトの表情には余裕が見えた。
「ごめんなさい、顔は見せたくないの。」
ウェルサイトはモジモジして愛らしさを表現する。声も変えさらに愛らしさをアピールする。
「すいませんね、こちらも仕事ですので。」
ウェルサイトの行動に少しドキッとしたが平常心で兵士が言う。
「本当に見逃して下さい。後でお二人にはなんでも差し上げますので。お金でも……」
ここでウェルサイトは一息入れ、2人の兵士の耳元に近付き、
「私でも。」
と、囁いた。兵士2人は顔は平常を保っていても、心の中は大興奮していた。
「なんならそこの4人も一緒で構いません。なので通してくれませんか?」
ウェルサイトの追加の囁きに、兵士2人の心の中は仕事より己優先となり、
「どうぞ、お通り下さい。」
と、声を揃えて言い、入口を開けた。
「ありがとうございます。」
ウェルサイトは頭を軽く下げてからポプラに入って行った。レビィ達は町に入っていくウェルサイトを慌てて追いかけた。
「ねぇ、小声で聞こえなかったんだけど、あの兵士達に何言ったの?」
レビィが後ろから尋ねると、ウェルサイトがクルッと振り返って、
「男ってホントバカね。」
と、一言を言ってまた前を向いた。レビィは大体察し、
「もう二度とその作戦を使わないでね。」
と、苦笑いしつつも釘を刺した。
何はともあれ町に入ることが出来たレビィ達は魔戦天使団の警備をくぐり抜けて中央に建っている教会にたどり着いた。
「行くぞ。」
ウェルサイトが再度レビィ達に尋ねると全員黙って頷いた。4人の覚悟を確認したウェルサイトは教会の扉を開けた。
中に入ると、同じ白いローブを纏った女性が沢山立っていた。レビィ達は隠れるように隅の方に立って待つことにした。そして待つこと数分、教会の奥から絶世の美女が現れた。その姿を見た信者達はすぐに膝をつき祈りを捧げる。レビィ達も不自然にならぬよう周りと同じポーズをした。エアルは祈りのポーズのままチラッと姿を見て驚いた。
「あ、あの人が女神ヴィーナス…。」
「そう…あいつが四大神の1人、美の神『ヴィーナス』だ。」
身長は170㎝ぐらいでモデルのような完璧なスタイル。透き通った青空のような瞳に黄金のように綺麗なロング金髪。ローマ人が着ていそうな服は片方の肩が少しだけはだけているがそれが逆に気品と美しさを強調している。
「綺麗な人ですね~。」
サテラも見ており、素で感動していた。すると、ヴィーナスが外見と同じく美しい声で信者達の前で話し始めた。
「初めに少し遅れてしまったこと謝罪します。皆さんもご存知のように今日の朝、ポプラ内のホテルでトレイタとの衝突がありました。でもすでに鎮圧されておりますので安心して下さい。では、いつものように皆さんの悩みを聴いていきましょう。」
この教会では信者達の悩みをヴィーナスが聞き、その悩みに対して神の言葉という体の解決方法を言っていき、悩みが大体解決したらヴィーナスが全員に向かって有り難いお言葉を言って終了するという方法がとられている。ちなみに悩みといっても様々あるが、やはり一番多いのは美に対する悩みのようだ。レビィ達は別に悩みがあってここに来たわけではないので、このお悩み相談と有り難いお言葉が終わるまでジッと待っていた。そして約一時間経ち、ヴィーナスからの有り難いお言葉が終わり、信者達がぞろぞろと教会から流れるように帰って行く。それを見送ったレビィ達は隅から真ん中に移動した。教会の奥に戻ろうとしていたヴィーナスはレビィ達の姿に気が付き、
「どうされましたか?」
と、美しい笑顔で尋ねた。
「すいません、私人前で話すのが苦手だからさっき聞きそびれてしまったので今聞いてもらえますか?」
ウェルサイトが声を変えて言った。
「ええ、よろしいですよ。」
ヴィーナスが了承すると、ウェルサイトは口調も声も戻し、
「魔力吸収計画を中止しろ。」
白いローブを脱ぎ投げてキッ!と睨み付けた。レビィ達も同じタイミングでローブを脱いで同じように睨んだ。ヴィーナスはさっきまでの美しい笑顔から驚きの顔に自然変化した。
「驚いた…まさかこんなに早く戻ってくるとは思いませんでしたよ。よく今の厳重警備をくぐり抜けて来ましたね。」
「厳重に見えるだけで兵士達はちゃんと警備する気ないようだな。」
「そうですか、ご報告ありがとうございます。後で注意しておきますね。」
ここでヴィーナスの視線が後ろにいるアースメンバーに移動した。
「あなた達が噂のアースの方々ですね。」
「そうです。」
レビィが代表して頷いた。
「本当、『クトゥリア』にそっくりです。」
「クトゥ…リア?」
レビィがオウム返しに呟くと、ウェルサイトが話を遮るように前に立った。
「そんなことより、オレらはお前等の計画に用があるんだ。」
ウェルサイトが睨み付ける。
「はぁ…あなた達トレイタは本当にしつこいですね。どこまで私達に楯突くつもりですか。」
ヴィーナスは流石に毎度の反対運動に飽き飽きしており、呆れ顔でため息をついてから続けてた。
「この際聞きたいのですが、何故そこまでしてこの計画に抗うのですか?このまま何もしなければ魔力が枯渇し、我々は魔法が使えなくなるのですよ。」
ここで一旦間が空いてから、ウェルサイトが答えた。
「お前等の考えが単調過ぎだからだ。確かにこのままだとオレらは魔法が使えなくなる。でもそれだけだ。アースは魔力がなくなると人類どころか世界が滅ぶんだぞ。オレらトレイタはそんな大きな犠牲を望んでいないだけだ。」
「ではあなた方は魔法がこのエデンから消えても構わないというのですね?」
「オレらだって魔法がなくなるのは困るってぇの。オレらが訴えたいのはアースを滅ぼす以外の他に方法がないかってことだ。」
「それがないから魔力吸収計画となったのです。」
「だから決めんのが早いんだって!もっとちゃんと考えろよ!」
ウェルサイトの抗議に熱が入る。
「そうしている間に魔力がなくなったらどうするんですか!」
ヴィーナスにも熱が入る。2人の激しい応酬を聞いていたレビィが間に入り、応酬を止めた。そしてウェルサイトの代わりにレビィがヴィーナスに話した。
「私達アース人もエデンがどうなってもいいなんて思っていません。むしろエデンをどうにかして救いたいです。でも、アースを滅ぼすとなれば黙っていません…私達だって世界を失いたくないですから。だけど他の方法であれば全面的に協力します!そうすればトレイタの皆さんとも争わなくていいんです!だからお願いします!もう一度、もう一度だけ考え直してくれませんか!」
レビィは力強く頼んだ。しかし、
「どれだけ言われようと我々の計画は変わりません。」
返ってきた答えは冷酷なものであった。その返答を聞いた時、レビィの髪は黒色に、瞳は赤色に変化してナイトとなって薄く笑った。
「ふっ…どうやら我々はどこまで行こうとずっと平行線で交わることはないだろうな。」
ヴィーナスは突然目の前の相手の口調と雰囲気が変わったので一瞬驚いたがすぐにこれが夜叉魔法かと理解して話に乗った。
「そうですね。でも解決方法は簡単なのでは?」
「おっ、判ってるではないか。そう、二本の交わらない平行線…その状態で自分達の主張を相手に判らす方法は…」
ナイトは話しながら夜桜を抜いて、
「相手の線をへし折る! そしたら自分達の主張が正当化される。」
刃先をヴィーナスに向きキッと睨んだ。同時に後ろにいたサテラ、ミリア、エアル、ウェルサイトも各々戦闘体勢になる。でもエアルは結局闘う感じになっているしと心の中で落ち込んでいたがやるしかないなと覚悟を決めた。
「あまり争いで解決するのは好みませんが…こうも敵意を向けられたらやるしかないですね。」
ヴィーナスは一本の光の杖を出現させスッと構えた。ウェルサイトも周りと同じように闇桜を抜き、先頭でヴィーナスに向かって地面を蹴った。
「[無月]!!」
ウェルサイトが闇属性を纏った刀で斬りかかったが、
「[封魔天光]。」
天使と神しか使えない絶対防御魔法で防がれた。そしてヴィーナスはすかさず光る手のひらでウェルサイトに触れ、
「[ゴッドハンド]!」
衝撃波で吹き飛ばした。吹き飛んだウェルサイトは壁に激突して地面に倒れた。
「ウェルサイト!」
エアルが回復魔法を詠唱するのに気が付いたウェルサイトは、
「回復魔法は使うな!」
と叫んだが遅く、エアルはヒールを唱えた。しかしウェルサイトが回復せず魔法はヴィーナスの杖の先によって吸収されてしまった。
「えっ…?どうなってんの?」
ミリアは何が起きたか理解出来なかった。
「先ほどの回復魔法ならお返ししますよ。[ライトイーグル]!」
ヴィーナスが杖の先をミリアに向けた瞬間、二匹の光の鷲が現れ突進してきた。かなりのスピードと少々の混乱のせいでミリアは防御することが出来なかったが、ギリギリのとこでナイトが光の鷲を切り裂いた。
「お前、一体何をしたんだ?」
ナイトがキッと睨んだ。すると隣にウェルサイトが立って説明した。
「奴は相手の回復魔法を奪って攻撃魔法に転換し放つことが出来るんだ。」
「…てことは、ヴィーナスの前では回復が使えないってこと…。」
エアルがまとめながら苦笑いする。
「厄介ね…。」
ミリアが舌打ちをする。
「あなた達の作戦が決まるまで待つ気はないですよ。」
ヴィーナスが魔法を唱え始めた。
「[フレイムリング]!!」
数個の炎の輪が回転しながらナイト達に放たれた。
「[水神城壁]!」
ミリアが水の壁で防御してから、
「[水神剣]!」
水で作られた剣を造形して投げ飛ばした。ヴィーナスはジャンプして回避した。水の剣は地面に刺さる。
「[月光鳥]!!」
空中にいるヴィーナスに向かってナイトが闇属性の突き攻撃を放った。が、華麗に回避され、逆に杖で夜桜を飛ばされてしまった。
「終わりです!」
ヴィーナスはゴッドハンドを喰らわそうとしたが、ナイトが夜桜を持っていた逆の手に剣を所持しているのに気が付いた。それはさっき不発した水神剣だった。
「[水流斬]!!」
ナイトは横向きで回転してヴィーナスのはだけている肩を斬った。ヴィーナスは瞬時に気が付いたので深手にはならなかったがダメージはあった。ナイトは着地して剣を投げたサテラに礼を言った。ヴィーナスは傷を押さえながら降りてきた。
「良いチームワークですね。少し侮っていました。」
ヴィーナスはナイト達を褒めてからヒールで傷を癒やした。
「なら…私も本気で行きます!」
ヴィーナスが唱えると、閃光が教会を包んだ。そして光が弱まり、視力が戻った最初の光景を見てナイト達は驚いた。
「ヴィーナスがいっぱい…いる。」
サテラの呟いた通り、ヴィーナスが8人に増えていた。
「どうなっているの!?」
エアルが完全パニックになる。
「落ち着け!何かタネはあるはずだ!」
ナイトは夜桜を拾い油断なく構える。
「行きますよ!」
8人のヴィーナスは一斉に襲ってきた。ウェルサイトとナイトとミリアに2人、エアルとサテラに1人付き攻撃を開始する。ナイト達は激しい攻撃により防御するしかなかった。
「[水神烈破掌]!!」
ミリアが水の波動を放つが2人のヴィーナスは華麗に回避して反撃に入る。
「[ゴッドプレッシャー]!!」
ミリアを挟むように2人のヴィーナスがゴッドハンドを同時に放った。まともに喰らってしまったミリアは口から血を吐きかなりのダメージを受けた。
「ミリア!!」
ナイトが助けに行こうとするが、2人のヴィーナスに行く手を阻まれる。他のウェルサイトとエアルもかなり苦戦していた。だが、サテラだけまだ戦闘しておらず向かい合ったままであった。
「……何故攻撃してこないのですか?」
何もしてこないヴィーナスにサテラが警戒しつつ尋ねる。
「あなたの存在が我々エデン人の希望だからです。」
「希望?」
サテラは返答の意味が理解できず首を傾げる。
「そうですよ。あなたは我々の希望を託した研究の『完成体壱号』なのですから。」
それを聞いたサテラの頭の中に途切れ途切れで何かの記憶が蘇ってきた。
「うっ…!」
サテラは激しい頭痛に襲われ両膝をついて頭を抱える。だが記憶のフラッシュバックは続いていた。記憶はどこかの研究室、黄緑の液体に満たされたカプセルの中から白衣を着た人間達を見ていた。
「やめて…やめて…!」
サテラが無意識に脅える声で呟く。ヴィーナスはサテラがこうなってしまった原因が、
(記憶封印魔法の限界…。最近の記憶を封印し過ぎて過去に封印した記憶が押し出され頭の中に断片的に現れているのようですね…。)
と、推測してこう言った。
「大丈夫です完成…でなくサテラ。私達の所へ戻ってくれば全て解決します。さぁ、こちらへ来るのです。」
サテラは言葉に従うように、ヨロッと立ち上がり一歩一歩ヴィーナスに近付いていく。しかし、その歩みはある記憶が映し出された瞬間止まってしまった。
「どうして記憶の中にあなたが現れるのですか…!」
サテラの記憶の中にヴィーナスの姿が映ったのである。
「あなたは…あなた達は私に何をしたんですか!」
そう叫ぶと同時に、最後のフラッシュバックが映し出された。そこに出てきた人物は…
「サナ……さん…?」
サテラは最後に現れた人物の名前を口ずさんだ。その時、
「くっ!!」
何かの攻撃で吹き飛ばされたナイトが2人の間に割り込んだ。ナイトはすぐに体勢を立て直し自分を飛ばした2人のヴィーナスを睨んだ。が、隣にサテラがいるのに気が付きそちらに視点を変えた。
「サテラ無事か?」
顔色が悪いのに気が付いたナイトが尋ねる。
「あ、はい…大丈夫です。」
サテラは微笑を浮かべ誤魔化した。
「悠長に話している状況ですか。」
3人のヴィーナスが2人に杖を構える。
(くそっ…!せめて相手が1人であれば…!)
ナイトがそんなことを思った時、
「判ったぞ!お前のトリック!」
ウェルサイトが叫び、
「[闇霧隠]!!」
漆黒の霧を放つと教会が闇に包まれた。そして霧が晴れた時、ヴィーナスの姿がナイトとサテラの目の前にいるヴィーナスだけになっていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…どうなってんの?」
エアルが突然闘っていた相手が消えたので情報処理が追い付いていない。
「やれやれ、バレてしまいましたか…。」
ヴィーナスが少しため息をつく。
「お前は最初の閃光でこの教会の中の光を歪ました。それにより強力な屈折が発生し、さっきのような幻を作り出したんだ。でもそれだけじゃそっちもこっちも攻撃が当たらない。だから作り出した幻に同じ属性の封魔天光の膜を付け、幻に触れるようにした。……だろ?」
ウェルサイトがヴィーナスに尋ねる。
「その通りです。よく判りましたね。」
「分身なら最初の閃光の意味がないし、誰も魔法を使ってこなかった。使えるんだったら一方が物理攻撃で一方が魔法を使えばいいからな。」
「なるほど、見るところが違いますね。それで闇の霧によって光の屈折を直した訳ですか。」
ヴィーナスが褒める。2人が話している間に他がサテラとナイトのとこへ集合していた。ウェルサイトも加わり、全員がヴィーナスに敵意を向ける。
「だいぶ楽になったな。」
ナイトが少し笑みを浮かべる。
「振り出しに戻っただけです。むしろダメージが蓄積されているからあなた達は不利の立場ですよ。」
「いや、お前は負ける…今日、ここで!」
ナイト達はまるで打ち合わせしたかのような動きをする。最初に攻撃に移ったのはエアルだった。
「[ホーリーフェザー]!!」
無数の輝く羽がヴィーナスに向かって放たれた。しかしヴィーナスは動じることなく封魔天光で防御した。それを待っていたかのようにサテラが攻撃に移る。
「[ファントムイート]!!」
サテラの腕から放たれた青の炎は獣の口へと形を変え、封魔天光に噛み付いた。
「無駄です!たとえ青幽鬼でも破れませんよ!」
それを聞いたサテラはニッと口だけ笑い青の炎を放っている手をグッ!と握った。それに連動するように青の炎の口に力が入り封魔天光が砕け散った。
「ウソ!!」
流石のヴィーナスも予想外だったため動揺を隠せない。とりあえずブルーファントムは危険だと認識しているためバックステップで後退した足下には青色の大きな魔法陣が発動していた。そして待ってましたとミリアが唱え始めた。
「青き壮大な海に宿りし神よ…我が意志に答え、我に力を![ウンディーネ]!!」
唱え終えた瞬間、十字の水柱が立ち上り、ヴィーナスを巻き込んだ。ヴィーナスはかなりのダメージを受けた。水柱が消え、空中にいるヴィーナスの真下にウェルサイトが闇桜を構えて立った。そしてグッと踏ん張り一気に飛び上がった。
「[黒龍昇双牙]!!」
黒龍のオーラを纏ったウェルサイトが漆黒と化した闇桜でヴィーナスに強力な一撃を喰らわした。そしてウェルサイトは斬ったすぐに闇桜をこちらに向かって走ってくるナイトに投げた。ナイトは桜色に輝いている夜桜を構えて自分に飛んでくる闇桜に向かって飛び上がり、空中でキャッチして魔力を高めた。
「はぁぁぁぁぁ![闇夜乱楼斬]!!」
桜色と漆黒の二本の刀でヴィーナスをクロスに斬った。ナイトはヴィーナスより先に着地し、夜桜を鞘に納めた。ヴィーナスは力無く落ちていくが地面ギリギリで立ち直り着地した。が、体の限界により片膝をつく。そんなヴィーナスの前にウェルサイトが立った。
「どうしました……早くトドメを刺したどうですか?」
ウェルサイトは少し黙ってから話した。
「別にオレらはお前等を殺したい訳じゃねぇんだ。最初っから言ってるように計画を止めてくれりゃあそれでいいんだよ。てか、結局オレらもお前等もこの世界をどうにかして救いたいって想いは同じなんだからちゃんと話し合えば解り合えると思うんだ。だからよ、協力しようぜ。んで、全員でどうにかしようぜ!」
ウェルサイトはスッと手を出してニッと笑った。ヴィーナスはそれを聞いて、何かから目覚めたような顔をしてから、
「フフ…。そうですね。間違っていたのは私達かもしれません。判りました、あなた達と協力しましょう。」
と、笑顔でウェルサイトに承諾した。
「本当か!?でも他の奴等は…」
「私がどうにかして説得しましょう。」
「本当か!じゃ、じゃあ…よろしくな!」
ウェルサイトが嬉しさ満点の顔で契約の握手を求める。ヴィーナスがそれに答えようと手を伸ばした。…………その瞬間、
「ウェルサイト!!」
刹那に何かを感じたナイトが闇桜を捨てウェルサイトに走った。そしてウェルサイトに突進し今いた場所から無理矢理移動させた。次の瞬間、太刀並の長さの剣が二本、ヴィーナスの体を貫いた。
「えっ…。」
ヴィーナスは数秒何がこったか判らなかった。自然に倒れていく体に抵抗せず流れた血の上に倒れ、霞んでいく視界で犯人の影を見た。ヴィーナスはこれを最後に視界が真っ黒になった。
「ヴィーナス!!」
ウェルサイトが慌ててヴィーナスに近寄ろうとしたころにはヴィーナスの体は消え始めており、近付いた瞬間に消滅してしまった。二本の剣だけが残り、虚しく地面に落ちた。
「せっかく近付けたのに…また振り出しかよ…。」
ウェルサイトは残った血の上に落ちている剣を眺めて唇を噛んだ。
「キャーーーー!!」
そんな時サテラの悲鳴が響いた。ウェルサイトは反射的に声の方を向いた。映った光景はサナがサテラを光の玉で捕獲していた。光の玉の中のサテラは悲鳴の後はぐったりとしていた。
「サナ!何をする!」
ナイトが声を上げて尋ねる。
「久し振りねレビィ、いや、今はナイトか。」
サナは冷たい視線をあびせる。
「サテラちゃんをどうするつもり!」
エアルも同じように声を上げて尋ねる。
「どうするかは私達の勝手。あんた達に教える義理はないわ。」
サナが軽く答える。次の瞬間、ウェルサイトがサナに斬りかかった。だが、お馴染みの封魔天光で防がれた。
「血の気が多いわね…。」
「お前がヴィーナスを殺したのか…!」
「私はそこまでイかれてないわよ。」
サナはウェルサイトを衝撃波で吹き飛ばしてから全員に忠告する。
「あんた達早く逃げた方がいいわよ。魔戦天使団が捕まえに来るから。」
「もう通報されたの!?」
エアルが驚く。
「当たり前でしょ。目の前にいるのはその魔戦天使団よ。」
「あなたが通報したのね…。」
ミリアが睨む。
「ここで私があんた達を殺さないだけいいでしょ。ほら、さっさと行きなさい。」
「ならサテラを返してもらおう。」
ナイトがサナに落とした闇桜を拾いの刃を向けた。
「あんたに私が斬れるの?」
ナイトが少しためらっていると、外から多くの声が聞こえてきた。ナイトは刃を下ろしてサナの隣を通過した。その時、
「必ずお前もサテラも連れ戻す。」
と、耳元で囁いた。そして教会を後にした。エアルとミリアとウェルサイトはナイトを追いかけるように教会を後にした。増援の魔戦天使団は教会からナイト達が出たのを目撃してそちらに向かった。教会に1人になったサナは光の玉の中にいるサテラを見て呟いた。
「……あなたが…私の…」
同時刻のアース
「よーし、もういいだろ。」
バルスが『ある変身』をしているシャインに言った。これを聞いたシャインは変身を解いた。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
息を切らして座り込むシャインにバルスが近付いて褒めた。
「すごいな~、たった2日でマスターするなんて。」
「やっぱかなり魔力を使うな…。」
シャインが自分の手のひらを眺めて呟いた。
「だからあんま乱発すると闇落ちするから気を付けろよ。」
バルスが忠告する。
「……判ってるよ。」
「ならいいが、また暴走されたら困るのは周りなんだぞ。」
「あれは…普通に悪かった。」
シャインが頭をかきながら謝る。
「さて、今日はここまでだ。明日からは変身持続時間は伸ばす修行に変更すっぞ。」
そう言いながら、バルスは小屋へと戻っていく。シャインはヨロヨロと立って、空を仰ぎながら、
(レビィ等……無事であってくれよ…。)
と、心配しつつ小屋へと戻った。
レ「はぁ~、ホントにタイトル変わるのかな~。て、呟いてみたけど、皆まだかな~。」
エ「ゴメ~ンレビィ。ちょっとハガキの量が多くて。」
レ「ダンボール5つ分って!」
サ「5つじゃないわよ、5×3セットよ。」
サテ「お、重かった~。」
レ「なんて量…。一体何の質問なの?」
サ「めちゃくちゃ簡単な質問よ。一枚読むわね…『鬼神と人間の子はどうなったんですか?』」
サテ「この質問がこんだけ来たんです。」
レ「うわぁ~。でもこれは私達には判らないわよ。」
エ「てなわけで、作者を無理矢理連れてきました~。」
眼鏡「え~こんにちは。では説明したいと思います。えっとですね、この『~魔法学園~』の方がけっこうややこしいので、今のエデン編が一段落するまではこっちに集中しようかなっと思ってましてね。だから別に止める訳ではないので、気ままに待って下さい。」
エ「だ、そうです。」
レ「ま、頑張ってもらいましょう!では次回をお楽しみに!」