55話 作戦までの数日(6)
ス「龍空deラジオー。」
シ「話すことはない。」
ヒ「では、本編をどうぞ。」
ア「いいんでしょうか…これで…」
実行日まであと五日…
ヴァスタリガ南部の町『カプワノル』。その町にある一校の小学校。その正門の前に革命軍の3人が立っていた。今の時刻はAM10:00。まだ授業中なのだが、3人は何も気にせずに堂々と校内に入っていく。
「だ、誰だね君達は!?」
教師達が気が付き慌て始める。各教室で生徒達もザワめく。そんなことなど気にもしないフォーグが、
「どの教室だ?」
歩きながらイルファに尋ねる。
「6ー2の教室です。」
イルファが簡単に答える。フォーグは聞いた通り6年2組の教室のドアを開けた。それにより、教室の中が大パニックになる。
「いいか、お前らが何もしなければ俺らも目的を果たすだけで他には被害を加えない。ただし、警察など何だのを呼んだ場合…死人が大量にでると思え。」
フォーグは廊下にいる教師達を横目で脅した後、教室に入った。そして真ん中に座っている男子生徒に近付き、見下すようにその生徒を見つめる。
「お前が『カルマ』だな?」
鼻まで伸びている深い緑色の髪に他人を憎んでいるような目付きで赤い瞳をした少年が睨み付ける。
「あ、あなたカルマ君に用があるんですか!?」
担任の女性教師は怯えている。
「先生、カルマ君以外の生徒を教室から出してくれませんか?」
イルファが丁寧に頼む。
「えっ…」
担任は廊下にいる違う教師を見ると、校長らしき人がこっくりと頷いたので、イルファに言われた通りカルマという男の子以外の生徒を廊下に出した。
「……僕に何か用なの?」
カルマが前にいるフォーグを見上げながら短く尋ねる。
「お前、『神魔法』使えるだろ?」
フォーグに言われ、カルマが分かるか分からないか程度の反応を見せた。
「あなたが使える神魔法は『闇神魔法』、つまり闇属性の神の力よね?」
イルファが似た質問をする。カルマは少しの間黙っていたが、
「……何でおじさん達知っているの?」
そのことを認めて、フォーグ達が知っていた理由を尋ねる。
「おじ…」
フォーグはおじさん呼ばわりされたことに苦笑いする。窓の縁に座っていたカギスタはブハッ!と吹き出していた。
「俺の情報網をなめるな。」
「おじさん達何者?」
「俺らは革命軍。ある計画のため、お前の力を借りたい。だから、俺らに協力しろ。」
「協力?何をするの?」
「ある扉を開けるために必要なのだ。」
「扉?」
カルマが少し興味を持ったのでフォーグはエデンのことについて説明した。
「ふ~ん…まるでゲームのような話だね。」
「少しは協力してくれる気持ちになってくれたか?」
「断る。」
カルマがキッパリ言い切る。
「何故だ?」
フォーグが理由を尋ねる。
「どうせおじさん達も僕の力を利用したいだけだから。僕に寄ってくる大人なんて全員そうさ…僕の気持ちなんて何も考えずに己の欲のために僕を利用する!そんな奴ばかりだ…。」
カルマの表情が憎しみに染まる。
「なるほど…では交換条件だ。協力してくれたらお前の願いを叶えてやろう。」
「えっ?」
カルマの表情が憎しみから驚きに変わった。
「何だその顔は。」
フォーグが少し笑う。
「いや、そんなこと言ってきた奴なんて初めてだから…。」
「ほう…まあ何でもいい。早くお前の願いを言え。」
フォーグに言われ、カルマは今自分が欲しいものを考えた。そして、1つの答えが浮かび上がり、ボソッと呟いた。
「……居場所。」
「何?」
フォーグは聞き取れなかった。
「居場所!」
カルマは声を上げてもう一度言う。
「居場所だと?」
フォーグが聞き返す。
「うん。僕は僕でいられる居場所が欲しい!」
そう言うカルマの目は真剣だった。
「つまり、本能の赴くままに生きたいというわけだな?」
「そうだ。」
「なら話は早い…我が革命軍に入れ。」
「フォーグ様!?本気ですか!?」
それを聞いて驚いたのはイルファだった。
「ちょうど3大革命柱の一枠が空いている。こいつを入れればいい。」
「俺らと同じラインにいきなり立たすんですかい?」
流石のカギスタも聞き流せなかった。
「神魔法が使えるんだ、一般兵士から始めてもすぐにお前らと同じ3大革命柱になる。」
フォーグが二人を説得していると、
「その革命軍に入ると何をしてもいいの?」
カルマが尋ねてきた。
「ああ、俺が命令した時に絶対聞き、逆らわないのであれば、後は好きにしてくれていい。別に気に食わない奴がいれば殺してもいい。」
「ふ~ん…」
カルマが考えていると、運動場からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「フォーグさん、バカ教師どもが呼んじゃったようですよ。」
カギスタが窓辺に座ったまま運動場で騒いでいる警察官達をニヤニヤしながら見下ろす。
「たく…呼ぶなと言ったのに…カギスタ、片付けてこい。」
フォーグが呆れてから、カギスタに命令した。
「了解。」
カギスタが刀を抜き、運動場に飛び降りようとした瞬間、
「待って。」
カルマが立ち上がりながらカギスタを止めた。
「何だよガキ?」
カギスタは人を斬りたくてウズウズしている。
「僕が片付けてくるよ。」
そう言いながら窓に近付く。
「お前がだと?」
カギスタはとりあえず刀を鞘に戻す。
「協力してくれる気になったか?」
フォーグが尋ねる。
「だって僕に居場所をくれるんでしょ?」
「ああ。」
「気に食わない奴がいれば殺してもいいんでしょ?」
「ああ。」
そこで会話は一旦途切れた。そしてカルマはニヤッと不気味に笑って、
「最高じゃないか…。」
と、呟いた。
「……では改めて聞く、協力してくれるのか?」
「協力どころか、入らせてもらうよ、おじさんの革命軍に。」
カルマが不気味な笑みを浮かべたまま革命軍に入ることを承諾した。
「そうか。ならお前に最初の命令だ。外にいるうるさいハエどもを消してこい。」
フォーグがカルマに命令すると、
「了解です。」
カルマはピョンと窓から飛び降りた。そして余裕に着地した。着地した音に警察官達は反応し、一斉に銃を向けた。しかし、それがカルマだと分かると銃を下ろし、一人の警察官が近付いてきた。
「君は人質になっていたカルマ君だね。怖かっただろう、でももう大丈夫、さあこっちにおいで。」
警察官はカルマの手をとって警察官が集まっている場所に連れていく。だが、その途中でカルマがピタッと止まった。
「どうした?」
警察官が優しく声をかける。
「離せ。」
カルマが小声で答える。
「ん?何?」
警察官は聞き取れなかったので耳をカルマに向けた。
「離せ。」
カルマは聞こえるボリュームで言い放った瞬間、カルマを掴んでいた警察官の手を闇の力を纏い、剣に変化した自分の腕で切り落とした。
「あぁぁぁぁーー!」
警察官の苦痛の叫びに周りにいた他の警察官達が気が付き、手がない同僚を見付けて動揺する。そんな警察官に向けてカルマが黒色の玉を何個か飛ばした。
「[ダークニードル]。」
黒色の玉は警察官の目の前に停止した瞬間、鋭く黒いトゲが飛び出してきて警察官達を貫いた。
「キサマ!侵入した奴等の仲間か!」
周りの警察官が一斉に銃を向ける。
「ついさっきなったばっかりだ。」
カルマが魔力を高めた。すると、足下から闇のオーラが流れるように運動場を覆っていき、上から見るとまるで穴が空いたようであった。
「[ブラックホール]!」
次の瞬間、その闇のオーラに警察官やパトカーが引きずり込まれ始めた。突然の出来事に運動場が大パニックになる。そんなことお構い無しにどんどん引きずり込んでいき、さっきまで警察官達の悲鳴がしていた運動場から誰の声もしなくなり、無音と化した。誰もいなくなると、カルマは闇のオーラを運動場の中央に集め、闇の柱を作った。
「[解放]!」
次の瞬間、その闇の柱からさっき引きずり込んだ警察官やパトカーが飛び出してきた。パトカーはメチャクチャにストラップになっており、警察官は誰一人動くことはなかった。
「す、すごい…。」
イルファが脅威的な神魔法の力に圧倒された。
「ポニーテールのお嬢さんと炎の坊っちゃんの比べものになんねぇぞ…。」
カギスタも圧倒されていた。
「あいつが3大革命柱に入るのに異論は?」
フォーグがカギスタとイルファに尋ねる。二人は何も言わず顔を横に振った。
「決定だな、帰るぞ。」
フォーグ達は窓から外に出て、カルマに近付いた。そして、
「お前を我が革命軍に正式に入ることを許可する。そして、お前の地位は3大革命柱だ。」
「3大…革命柱?」
「平たく言えば幹部のことだ。」
「じゃあ幹部って言えばいいんでは?」
「それではパッとしないだろ。」
「まあ、何でもいいですが…とりあえず、お世話になります。」
「ああ。」
フォーグとカルマの会話が終わると、革命軍の4人は学校を後にした。学校の中にいる生徒や教師達は、比現実的な光景を目の当たりにして、ただただ呆然とするしかなかった。
実行日まであと四日…
「この新聞の記事、お前らの仕業だろ?」
シャインが椅子に座っているフォーグに新聞の一面を見せるため机の上にバンと置いた。一面の写真はカルマがいた学校が写っていた。
「俺に刃向かうのか?ならこちらも容赦はせんが…。」
フォーグが片手をパキパキと鳴らしながらシャインを睨み付ける。
「別に刃向かう気はねぇ、だがやり過ぎだ。」
「そうか、では命令を出そう。お前らは協力している間、俺らがすることは全て見て見ぬふりをしろ。」
「何だと!?」
シャインが反論しようとしたが、
「命令だ。」
フォーグが睨み付け威圧する。
「……くそ!」
シャインは従うしかなかった。そして、一旦怒りを静めてから別の話題にした。
「…ずっと気になっていたんだが、一体ここは何処なんだ?」
シャインとフォーグがいるところは、十分なスペースがあって、下に赤い絨毯が敷いてあり、周りの本棚にはいろんな本が立ち並んでいた。置いてあるものはフォーグが座っている社長室にありそうな椅子と前にある机、天井にシャンデリア、隅に植木があるぐらいのシンプルだが豪華な部屋である。
「俺の部屋だ。」
「ふ~ん…てことは、ここはお前らの拠点の中ってことか?」
シャインはSMCから直接この部屋にワープしたので、部屋の外を全く知らないのである。
「正解だが、お前らが入れるのはこの部屋だけだ。」
「何で?」
「同盟を組んでいるにしろ、結局俺らは敵同士。簡単に手の内を公開する方がどうかしている。」
「……それもそうか。」
「で、本題は何だ?新聞の一面を見せに来たのでないのだろう。」
今度はフォーグが話題を変えた。
「あーそうそう、お前にミリアが聞きたいことがあるらしいから、会ってくれるか?」
「別に構わないが。」
「どうも。」
シャインはミリアを呼びに行くため、ドアの近くにあるワープゾーンに乗ってSMCに帰った。そしてすぐに青髪ポニーテールのミリアを連れて戻ってきた。
「あなたがフォーグ?」
ミリアは確めながら椅子に座っているフォーグに近付く。
「いかにも、俺は革命軍のボス、フォーグ・サイバスターだ。」
フォーグは答えるように軽く自己紹介する。ミリアはフォーグの前に立つ同時に、ゾッと悪寒がした。
(なんて魔力…限界が見えない…。)
ミリアの魔力察知は長けており、魔力察知ができる者より詳しく見ることが可能なのである。
「俺に聞きたいことがあるのだろう?早く言え。」
「あっ、そうだった。えっと…この戦いって数日で終わるものじゃないでしょ?その間、私は学校どうしたらいいの?」
「学校だと?そんなもの休めばいいじゃないか。」
フォーグが素っ気なく答えると、
「嫌よ!これでも私は学年トップ3に入る学力なのよ!無断欠席なんてできるわけないじゃない!」
ミリアがプンプンと怒る。
「お前、そんなに頭良かったのか…!」
隣でシャインが驚いている。
「シャンと私の将来のために頑張っているの。」
ミリアがシャインの方を向き、モジモジする。
「将…来?」
シャインは嫌な予感がした。
「うん!だって〜結婚して、子供が産まれた時、親が両方バカって嫌じゃん?シャンには期待は持てないから、だったら私が頑張ろうと思ったの。」
ミリアが少し腰を曲げ、頬を赤くして上目遣いでシャインを見つめる。
「べ、別に俺はお前と結婚しねぇ!」
流石のシャインも少し照れながら怒る。
「え~〜〜、昔誓ったじゃ~ん。」
ミリアがプーと頬を膨らます。
「俺はそんなこと誓った覚えはねぇ!」
シャインとミリアがギャーギャーと言い争っていると、
「おい、その言い争いは俺を無視してまでここでしなければならないのか…!」
フォーグが鬼の形相で尋ねてきた。
「ご、ごめんない…。」
二人はフォーグの怒りの顔にビクッとなりながら謝る。
「たく、ガキどもめ……ま、お前がいなくなったことが原因で、何かこの作戦に支障を起こしたら面倒だ…どうにかしてやろう。」
フォーグは怒りを静め、ミリアの頼みを了解してくれた。そして、机の上の隅にあったボタンを押した。すると、すぐにイルファが部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか。」
イルファが眼鏡をクイッと上げる。
「この青髪が学校を休みたくないらしい。何か良い方法はないか?」
フォーグがイルファに尋ねる。イルファはう~ん…と考えてから1つ提案した。
「私が彼女の幻を作りましょうか?」
「そんなことができるのか?」
「可能です。」
「そうか、では頼む。」
「かしこまりました。」
イルファはクルッとミリアの方を向き、持っていた本を開ける。すると、ミリアの足下に魔法陣が展開され、調べ始めた。
「幻か…幻って言ったらあの幻しか出てこないな…。」
シャインは封円が作り出した龍空高校の生徒や教師を思い出して呟いた。
「そのあなたが思っている幻を作るのよ。」
その呟きを聴いていたイルファがミリアを調べながらシャインに話しかけてきた。
「何?俺が思っている幻は…」
「封円が作り出した幻でしょ?」
イルファに先に言われたが、当たっていたから驚いた。
「お前、封円知ってんのか?」
「当たり前よ……私もサナと同じ『エデン人』だから。」
「何だと!?じゃあ、お前も天使…なのか?」
シャインが驚きながら尋ねる。
「エデン人はみな天使じゃないわ。」
「そうなのか?」
「エデン人でも天使なのは魔戦天使団の者だけよ。一般人はアース人と何も変わりないわ。」
「そうだったのか…。」
そんな会話をしている間にミリアを調べるのが終わっていた。
「明後日には完成すると思うから。」
そう言い残して、イルファは部屋を出た。
「さて、頼みは叶えた。さっさと俺の部屋が出ていってくれ。」
フォーグが二人に帰るよう命令した。ミリアはペコッと頭を下げてからSMCにワープした。シャインも帰ろうとワープゾーンに向かったが、あることを思い出してフォーグの方に振り向き直した。
「そうだ、もう1つ頼み事があるんだ。」
「何だ?」
フォーグがイラッとする。
「俺の事じゃねぇんだが、バージェスが自分の仲間も連れていきたいって言ってんだが…いいか?」
「…足を引っ張らなければ構わん。」
「なら大丈夫だ。あのバージェスのお墨付きだからな。」
シャインはクラウドとレインの同行許可をしてもらい、SMCにワープした。
そして、日は一気に流れ、実行日まであと一日となった…
ヴァスタリガ首都『ザファールス』。シャイン達が起こした革命により、身分制度という鎖は断ち切られた。今は貴族も町人も奴隷もみな平民とされているが、やはり一朝一夕では差別の視線はなくならず、悩みの種となっている。王族という存在は、民や国を良い方に導くため消されてはいないが、権力は暴走させず、あくまで平民より少し上の位としている。
そんな王族の娘で現最高権力者のエアルは久々に自分の実家に帰ってきた。
「ただいまー!」
大きな門が開き、明るい声とともにエアルは城の中に入った。すると、中にいたメイドや兵士達が気が付き、
「エアル様!」
「お帰りなさいませ!」
などと口々に言って歓迎する。
「エアル様、お元気でなによりです。」
エアルの前にカエデがひょっこり現れ、微笑みながら深々と頭を下げた。
「ただいまカエデ婆ちゃん。」
エアルがニコッと笑う。
「今日はどうしたのですか?」
「えっ、あ~ちょっとね。明日からスゴいことに巻き込まれちゃうから、その前にお母様とお父様に会おうかなって。」
エアルが今日ここに来た目的を話す。
「はて?そのスゴいこととは?」
「う~ん…ちょっと言えない…かな。」
エアルが苦笑いする。
「そうですか。」
カエデはニコッと微笑み、そこから追及しなかった。
そして二人はエアルの母親クレアと父親ライズの墓がある中庭に向かった。
中庭の中心にある綺麗な噴水。その近くに二人の墓がある。エアルは墓の前に片足の膝をつき、目を閉じて両手を合わせた。
(お父様、お母様、大切な仲間を連れ戻しに神様に会ってきます。絶対に帰って来ますから見守って下さいね。)
10秒くらい手を合わせて、エアルは目を開けてスッと立ち上がり、カエデの方を向いた。
「今日泊まっていくから、夕食は久しぶりにカエデ婆ちゃんの手料理がいいな。」
エアルが明るく笑う。
「そうですか、分かりました。腕によりをかけて作らしてもらいます。」
カエデが笑い返した。
ザファールスの周りにある森、その中にある元奴隷の村『ルルハ』。そこはスノウの故郷である。
「一体どういう風の吹き回しだ?お前が里帰りなんて。」
水色の髪と瞳をしたテオンが、村で一番大きな木の上に座っているスノウに尋ねる。
「ついでだついで。」
スノウは青空を仰ぎながら短く答えた。
「何のついでだ?」
テオンが木にもたれかかる。
「エアルの奴が墓参りしたいって言って無理矢理連れてこられたんだ。だけど俺は別にザファールスでやることねぇからここに来たんだ。」
「へぇ…でも突然だね。」
「明日から非日常が始まるからな。最後の日常の間にしたかったんだろ。」
「非日常?スノウ、君達は一体何をしようとしているんだ?」
テオンが尋ねると、スノウは木から飛び降り、テオンの方を向いて、
「神をぶっ飛ばして仲間を連れ戻しに行ってくるんだ。」
ギラギラした目でニヤッと笑った。
同時刻のエクノイア…
龍空マンション…の近くにある大きな『メイビス家』の屋敷。
「え~〜!当分一緒に遊べないの〜。」
ソファーに座っているクリーム色の髪のティアがズーンと落ち込む。
「ごめんねティア、少し用事ができたの。」
隣に座っているサテラが謝る。
「して、用事とは?」
執事のフレデが尋ねる。
「ちょっと冒険してきます。」
「冒険!」
ティアが反応する。
「どこに冒険するの!?」
興奮ぎみにティアが尋ねる。
「い、いきなりどうしたのティア?」
ティアのテンションにサテラが少し圧倒される。
「あっ!ご、ごめん。私目が見えないからあまり遠いとこに行けないでしょ?だから私が遠いとこについて知る方法は誰かに話してもらって、想像するしかないの。だけどね!それがすっごく楽しいの!いつか目が見えるようになったら今まで聴いてきた場所に全部行ってみたいんだ。」
「へぇ~。」
サテラがティアのテンションについて納得する。
「で、サテラはどこに何しに行くの?」
ティアが尋ねる。
(エデンのことについてあまり話しちゃいけないよね…。)
サテラはどう言おうか少し考えてからこう答えた。
「えっとね…本の中のような幻想的な場所に大切なお友達を迎えに行くの。」
サテラがニコッと笑った。
龍空マンションの近くにある土手にシャインは寝転んで青空を眺めていた。
「あれ?何しているのシャイン?」
その時、シャインの頭の上に白い息をしているレビィが現れた。
「お前が何してんだよ。ここお前の家の反対だろ。」
シャインが寝転んだままレビィを見ると、レビィは今スカートだったのでパンツが見えてしまった。しかし、シャインは特に反応せず、
「すっげーの履いてんな。」
と、シレッと言った。レビィは最初何を言われているのか分からなかったが、理解した瞬間、顔を真っ赤にし、
「変態!」
と、シャインの顔を踏もうとした。だが、シャインはそれをヒョイと簡単に回避した。レビィはウー!と怒りながらシャインの隣にちょこんと座った。
「で、何してんだよお前?」
シャインはレビィの機嫌をこれ以上損なわないように話を変えた。
「私が先に聞いたんだけど。」
レビィが聞き返す。
「……別に、ただ家にいても暇だから外に出たんだ。でも結局暇だからゴロゴロしてるだけ。」
「サテラちゃんは?」
「友達に会ってくるって朝からいねぇ。」
「ふ~ん…てか、まだこの世界の季節は冬だよ。寒くないの?」
「別に。」
「あっそ。」
「ほら、答えてやったんだからお前も答えろ。」
次はシャインがレビィに尋ねる。
「散歩。」
レビィが単語1つで答えた。
「散歩?こんなところまで?」
「いけない?」
「別にダメだとは言ってねぇ。ただ散歩なら家の近くでいいだろ。」
「だって明日から当分の間エクノイアどころかアースにいないんだよ。もしかしたらアースの景色や空を見るのが最後になるかもしれないし…」
「……それは向こうで死ぬって言いたいのか?」
「でも可能性はあるでしょ?」
レビィが不安な顔でシャインを見つめる。シャインはその顔を横目で見てから、
「ねぇよ。」
と、呟いた。
「何でそんなこと言えるの?」
「俺が絶対守るからだ。」
シャインがキッとレビィを横目で見る。その目線はかなり真剣な眼差しだった。レビィはその眼差しに優しさを感じ、微笑んでうんと小さく頷いた。
「さて、さっきお前が言った通り、明日からこのアースの空を見れなくなる。だったら…」
シャインは上半身を起こし、レビィにスッと拳を向けた。
「神どもの野望をぶっ飛ばし、サナを連れ戻して、全員でアースの空を見るぞ。」
「……うん!」
レビィも拳を出し、コツンとシャインの拳にあてた。
この日の夜の革命軍本拠地。フォーグが1人夜空を眺めていると、
「似合わないことをしていますね。」
背後から誰かが声をかけてきた。フォーグは振り向くことなく、それが誰か言い当てた。
「こんな時間に何の用だ…ヒューズ。」
「すいませんね、本当は夕方ぐらいに来たかったのですが、色々と準備があり行けなかったんです。」
「まあ、何でもいいが…で、何の用だ?」
フォーグがヒューズの方を向いた。
「あなた達の同盟も明日までなのでね、最後にご挨拶をと思いましてね。」
「そうか。」
「あともう1つ、今回私は一切革命軍に肩を貸さないのでお見知り置きを。明日よろしくお願いしますね。」
ヒューズが背を向けると、
「待て。」
フォーグが呼び止めた。
「お前、いつまで『その名』でいるつもりだ?」
ヒューズはその質問に答えず、黙ったまま立ち去ろうとした。だが、
「私の名前は…『ヒューズ・クオーツ』です。」
それだけを言い残した。そして、振り返ることなくその場から立ち去った。
「はぁ…頑固な野郎だ。」
フォーグは去っていくヒューズの背中を見てため息をついた。
そして、遂にエデン突入の日となった。グゼット樹海の中にある時空の湖の前に…
《龍空高校》
『シャイン・エメラルド』
『レビィ・サファイア』
『スノウ・シルバー』
『エアル・ダイヤモンド』
『ヒューズ・クオーツ』
『サテラ・オパール』
『アレン・ルビー』
『レビィ•ウェルサイト』
《蛇帝高校》
『ミリア・ガーネット』
《虎神高校》
『バージェス・アルシオン』
『クラウド』
『レイン』
《革命軍》
『フォーグ・サイバスター』
『イルファ』
『カギスタ』
『カルマ』
エデンに行く総勢16名のメンバーが集結していた。
「では、今からエデンへ突入する!!」
フォーグが言うと、
「おう!!!」
あとのメンバーが一斉に気合いを入れた。
エ「龍空deラジオ~。」
サ「こっちも話すことはないわ。」
エ「じゃあ終わりってことで。次回をお楽しみに~。」
レ「これは…酷い…」