41話 心からの…(12)
眼鏡「はい、今回はスノウvsナルバーでございます。では、早速見てください!」
赤い絨毯が敷かれたエアルの部屋で、スノウvsナルバーの戦いが繰り広げられていた。
「[サンダーナックル]!!」
スノウの雷を纏った拳と、ナルバーの鉄の拳がぶつかる。
「いって~!」
スノウが殴った手をブンブンと振る。
「どんな属性を纏おうが、俺にはダメージなんて残らない。」
ナルバーが平気な顔で言う。
「くっそ~、どうするかな~?」
スノウがう~ん…と考える。
「さて、ここはエアル様の部屋、壊されては困る。場所を変えさせてもらうぞ。」
ナルバーがカッ!と目を開いた瞬間、衝撃波が放たれ、スノウが吹き飛んだ。そして、そのまま窓を突き破り、中庭に落とされた。スノウは地面ギリギリで体勢を立て直して着地し、キッ!と窓の方を睨んだ。そこにはナルバーがこちらを見下していた。
「[アイビーム]!!」
すると、ナルバーの目から光線が放たれた。スノウは気が付き、回避する。光線はそのまま飛んでいき、奥の方で爆発した。
「あっぶねぇ…」
スノウが驚いていると、ナルバーが窓から下りてきた。
「たく…なんでもありの体だな。」
スノウが拳に風を纏う。
「[ウィンドウナックル]!!」
拳を突き出した瞬間、拳の形をした風の衝撃波が放たれた。ナルバーはまともに喰らって吹き飛び、壁を突き破った。
「ちょっとは効いたか?」
スノウが様子を見ていると、ナルバーが平気な顔をして現れた。
「ちっ…頑丈だな…」
スノウが戦闘体勢に戻る。
「人間にはできないことをしてやろう…[スキルコピー]。」
ナルバーがさっきのスノウの技を分析し始めた。
「分析完了…」
そう呟いた瞬間、ナルバーが拳に風を纏う。
「[ウィンドウナックル]!!」
ナルバーがスノウとまったく同じ技を繰り出した。スノウは回避することができず、まともに喰らい、木などを折りながら吹き飛び、壁にぶつかり、倒れる。
「ゲホ…ゲホ…そういえばこいつ…人の技パクれたな…」
口から血を吐きながら立ち上がり、睨み付ける。
「どうだ?自分の技は?まあ、威力はお前の数倍になっているがな。」
「あ~、流石に効いたな。だって『俺』の技だからな。『てめぇ』の技ならへでもないんだけどな。」
スノウが嫌みな言い方で答える。
「そうやって言っていられるのも、時間の問題だ。」
「お前がそうやって意気がっているのが、時間の問題じゃないのか?」
2人は同士に地面を蹴る。そして肉弾戦にもつれ込む。
(さて…とりあえずこいつの頑丈な体をどうにかしないとな…でも、どんだけ頑丈でもしょせん鉄は鉄…)
スノウは闘いながら勝つ方法を考えていると、
(そうだ、あの方法があったな…!)
何かを思い付き、間合いを空けると、右拳に魔力を集中させる。すると、ボッ!と炎が付いた。
「なんだ、フレイムナックルではないか…」
ナルバーの拳にも炎が付く。
「はぁぁぁーー!」
スノウが魔力を上げると比例して、炎も大きくなる。
「どれだけ魔力を上げても同じだ!」
ナルバーが炎の拳を繰り出すが、スノウが一瞬で回避し、懐に入り込む。
(速い…)
「[フレイムナックル"改"]!!」
スノウがナルバーの腹に強力な一撃を入れた。それにより、初めてナルバーが怯んだ。
「お次は…」
スノウは右拳をそのままで、左拳に魔力を集中させる。すると、拳から冷気が立ち上る。
「はぁぁぁーー!」
さっきと同様魔力を上げる。すると、スノウの左拳が凍り、氷に包まれる。
「[アイスナックル"改"]!!」
怯んだナルバーに、同じ場所に強力な一撃が入る。それにより、またナルバーが怯む。
「[乱舞氷炎拳]!!」
炎、氷の順に同じ場所を殴り続けた。
「調子に乗るな…ガキ![フィンガーガン]!」
指が銃に変わり、初めて感情を露にしながら、スノウの脇腹に銃弾を撃ち込んだ。
「ぐっ…!」
それにより、スノウは怯み、ラッシュが止まった。
「[ウィンドウナックル]!!」
怯んだスノウに風の衝撃波が襲う。まともに喰らったスノウは吹き飛び、地面を転がる。
「はぁ…はぁ…どれだけ殴ろうが、俺には傷ひとつ付けられない。」
倒れているスノウにナルバーが言う。
「いや…自分の体…見てみろよ…」
スノウはよろよろと立ち上がりながら言う。それを聴いたナルバーは自分の体を見てみると、そこにはヒビが走っていた。
「な…!?」
その状態に、ナルバーが驚く。
「やっぱりな…」
プッと血が混じった唾を吐きながらニヤリと笑う。
「お前…何をした?」
「お前の体はどれだけ丈夫であろうと、しょせん鉄は鉄だ。鉄は熱せられるのと冷やされるのを急速に何度もされると、そこからヒビが入るんだ。……って昔どっかのテレビで言っていたような気がする。」
スノウがドヤ顔で話すが、中身はあやふやであった。
「そんなふわふわした記憶で、俺が傷を付けられるとはな。だが、こんなヒビ程度では、痛くも痒くもない。」
「ヒビが入ったなら上出来だ。ほぼ俺の勝利が決まったもんだからな!」
スノウがナルバーに向かって走り出す。
「[アイビーム]!!」
ナルバーが放った目からの光線を、スノウは簡単に回避し、一気に間合いを詰めた。
「[ストーンレッグ]!!」
岩を纏った脚で、ナルバーのヒビをとらえた。それにより、ヒビから欠片が落ちる。
「[ウォーターナックル]!!」
立て続けに、水を纏った拳で攻撃する。それにより、また欠片が落ちる。その時、ナルバーがスノウの顔を掴んだ。ナルバーの掌には小さい穴が空いていた。
「[インパクトハンド]!!」
その穴から衝撃波が放たれ、スノウはまともに顔に受け、吹き飛び、壁に激突する。それにより、壁が壊れ、下敷きになってしまった。
「終わったな。」
ナルバーが立ち去ろうした瞬間、ガラガラガラと瓦礫が落ちる音がした。気が付いたナルバーが振り返ると、そこには頭から血を流し、息が荒れているスノウが立っていた。
「バカな…衝撃波を顔面に喰らったんだぞ…」
ナルバーが驚きながら、戦闘体勢に戻る。
「てめぇらは…あいつから『あるもの』を奪った。」
スノウの右拳に炎が付く。
「あるもの?」
「それは…『心の底からの笑顔』だ!」
魔力が高まり、炎の威力が上がる。
「我々が笑顔を奪っただと?そんなわけないだろ、エアル様は城でも何度も笑っておられたのだぞ。」
「その笑顔は心の底からじゃねぇ!俺の前であいつが初めて笑った時、とてもぎこちなかった。その時思ったんだ、こいつ、ちゃんとした笑顔になったことないんだって…」
魔力がさらに上がり、炎が腕全体に広がる。
「だから、俺はあいつと約束したんだ!『2人で自由になったら、お前を心の底から笑顔にしてやる。』ってな!」
スノウが魔力を最大にする。炎も今まで以上に強くなる。
「くだらない!お前はエアル様にとって害ある人間だ!だから、お前はここで死んでもらう!」
ナルバーが右拳に雷を纏いながら、地面を蹴った。それと同時に、スノウも地面を蹴った。
「サンダーナッ…!!」
ナルバーが雷の拳を放とうとした瞬間、スノウの姿がヒュッと消えた。そして、約0.5秒にいきなりナルバーの目の前に現れた。
(速すぎる…こいつ本当に…)
「言っただろ?人間は成長すんだよ!」
スノウはおもいっきりナルバーを空中に蹴り上げた。その時、炎の形がドラゴンの顔に変わった。
「[覇王火竜拳]!!」
スノウはナルバーに向かって飛び上がり、渾身の力を込めた火竜の拳で、ヒビの走った場所を殴った。拳はナルバーを貫き、ナルバーの体が上半身と下半身に真っ二つとなり、そのまま地面に落ちた。
「バ、バカな…この俺が、奴隷ごときに負けるなんて…」
まだ信じられない顔でナルバーが呟く。
「そのままで喋るんじゃねぇよ。」
着地したスノウが上半身だけで倒れているナルバーに近付く。
「本当に…成長するとは…」
「最後にお前のデータに書き込んどけ。人間は…仲間のためなら、無限に強くなれるんだ。」
スノウの言葉を聞いたのを最後に、ナルバーは機能停止し、動かなくなった。スノウはそれを見送ってから、エアルを探しに行った。
スノウvsナルバー、中庭での戦い。勝者:スノウ・シルバー。
落ちたら即死レベルの高さの屋根の上で、ナイト(レビィ)vsカギスタの戦いが繰り広げられていた。
「[飛燕夜鳥爪]!!」
ナイトが、門を切り崩した漆黒の斬撃を放つ。だが、カギスタはそれを意図も簡単に切り裂いた。
「う~ん…期待外れだったかな。」
カギスタが頭をポリポリかきながら、はぁとため息をする。
「もうちょっと夜叉魔法って強いイメージがあったんだけどな。」
カギスタに失望した顔をしながらナイトを見る。
(こいつ…本当に強い…このまま闘っていても…私の敗北以外ないな…)
ナイトが息を切らしながら、顔についた傷から流れる血を手で拭う。その時、カギスタが刀をフッと構え、
「[瞬風刃!]」
突進しながら、風を纏った突き攻撃を放った。ナイトはそれを夜桜で受け止めた。だが、威力が強くて吹き飛ばされる。そして、屋根のギリギリまで転がり、落ちる寸前で停止した。
「くっ…!」
ナイトが起き上がろうとした時、カギスタに首をガッと掴まれて持ち上げられた。
「確か…夜叉魔法って自分で主を見つけ、その主と契ることで本来の力が使えるんだったっけ?」
「それが…どうした…」
苦しそうにナイトが尋ねる。
「てことはよ…主に問題があるじゃないのか?」
その言葉にナイトがピクリと反応する。
「どういうことだ…?」
「多分だが、夜叉族って主の力も関係あるんだと思うんだよ。自分が契った主が強ければ、自分も強くなる。逆に主が弱ければ、自分も弱くなる…」
「何が言いたい?」
ナイトがカギスタを睨む。
「つまり、お嬢ちゃんの主、シャイン・エメラルドが弱いから、お嬢さんも弱いんじゃないかってことだよ。」
それを聞いて、ナイトの魔力が上がる。
「私のことは弱いだの期待外れだの、何とでも言えばいい。だが…我が主を侮辱するのは許さない!!」
ナイトがヒュッとカギスタの手元から消え、一瞬で背後に回った。
「夜刀…[如月]!!」
闇と少しの氷を纏った夜桜が、月の弧を描きながら攻撃する。カギスタは一瞬で気が付いて振り向き、刀で受け止めた。
「なあ、俺と契らないか?俺と契った方がお嬢さんも強くなれるぞ。それか…主はあの閃風の坊っちゃんのままでいいから、俺の女にならないか?」
カギスタが刀を受け止めたまま、片方の手でナイトの顎をそっと触れる。
「我が主シャインは、私が認めた最強の主だ。それと…私を口説きたければ、もっと男を磨くのだな。」
ナイトがカギスタを睨み付けならがら答える。カギスタはナイトの眼差しを見て、はぁ〜とため息をついて、夜桜をはじき、間合いを空ける。
「ずいぶんと閃風の坊っちゃんのことを信頼されているようだな。さらっとフラれたし…。よし、決めた!お嬢ちゃんはホントに死ぬにはおしい女だが、ここで殺すことにした。」
カギスタが決定する。
「私はもとからキサマを切り刻むつもりだったがな。」
ナイトが刃先を向けながら言う。
「かぁ~最高だねその性格。俺の好みのタイプにストライクだ。ホント、今死ぬにはおしい女だ。」
「なら、生かせてくれないか?」
「そうはいけねぇ。どれだけ好みのタイプの女だったとしても、一回俺をフッた女の言うことは聞かない主義なんで。」
カギスタがポリポリと頭をかく。
「…面倒くさい男だ。」
ナイトが少し呆れる。
「よく言われるよ。」
カギスタがゲラゲラと笑う。そして、笑い終わったあと、カギスタが何かを思い付いた顔をする。
「そうだ…冥土の土産にいいもん見せてやるよ…」
カギスタの魔力が上がると同時に、周りを風が舞い始める。
「ま、まさか…」
それを見たナイトが目を見開いて驚く。
「お、感ずいたか…?」
カギスタの魔力がどんどん上がる。それと平行して、風も強くなっていく。
「はっ!!」
そして、カギスタが一気に魔力を上げた瞬間、カギスタの髪の色が黄緑一色になり、体から黄緑色のオーラを放つ。
「せ、『閃風魔法』…!?」
「正解だよ、お嬢ちゃん。」
カギスタがニヤリと笑う。
眼鏡「さて、どんどんと戦闘も終了していき、長い長い『ヴァスタリガ編』が終わりに近付いてきております。予定だと、あと4、5話ってところですかね。まだやるのかよ~と思った人もいるかも知れませんが、どうか見続けてください。では、次回をお楽しみに!」