40話 消えてゆく記憶(11)
眼鏡「祝40話ーー!いや〜あっという間に40まできてしまいました。だけどまだまだ『ヴァスタリガ編』は終わりません。飽々している人もいるかもしれませんがどうか見てください!では、どうぞ!」
清潔感を感じられる、白くて大きな家がメインで建っている『貴族エリア』では、ヒューズVSロイクの戦闘が繰り広げられていた。
「[伸身拳]!!」
ロイクの黒い腕が伸び、ヒューズに向かって放たれる。ヒューズはそれを簡単に回避する。
ここでロイクの魔法を説明しておきましょう。ロイクの魔法はスノウと似ており、体の一部に魔力を溜めて攻撃するという魔法である。違うとこは、スノウの方は属性を変えることができるが、ロイクの方は属性を変えることはできず、その代わりに、体の強度を変えたり、伸縮が可能である。ちなみに、スノウは伸縮などはできません。では、続きをどうぞ。
「[魚雷矢]。」
回避したヒューズは、2本の矢を地面に放った。放たれた2本の矢は、地面の中を走り、ロイクに近付いた瞬間に爆発した。
「[アイアンボディ]!」
爆発する数秒前に気が付いたロイクは、体の強度を鉄に変えて防御する。だが、爆風により、空中に吹き飛ばされる。
「[天矢]!!」
ヒューズが空中にいるロイクに向かって、光属性の矢を放つ。ロイクはそれをギリギリで回避し、
「[鉄伸脚]!!」
鉄に硬化された足を放った。ヒューズはまともに喰らい、誰かの家を貫いて吹き飛んだ。ここに住んでいた人は避難をしているので大丈夫である。着地したロイクは、ヒューズがどうなったか見ようとすると、砂煙が上がっている家の方から矢が飛んできた。ロイクはそれを簡単に回避した。矢は地面に刺さる。
「ビックリだよ、お前がここまで強くなるなんて。初めて見た時はここまでならないと思っていたのに。」
服に付いた汚れをパンパンと落としながら微笑む。
「裏切って、のうのうと生きているお前よりは強いと思うが。」
『裏切る』というワードに、ヒューズがピクリと反応する。
「俺は別に裏切ったてはいない。ただ、自由が許されているだけだ。」
「なるほど、お前の『肩書き』ならそれが可能ってことか。」
「まあ、俺の肩書きは誰がどうしようと絶対に変えられないし、ちゃんと『あの人』の了承を得ている。」
「帰ってくる気はないのか?」
「まだ高校生活を楽しみたいからな…まだかな。ただ…」
ヒューズが弓を構える。
「お前が3大革命柱という席に座っているのが気にくわない。だから…消す!」
「ふざけるな!お前の個人的なことで消されてたまるかよ!俺がお前を消してやる!」
ロイクの腕が巨大化する。
「[ジャイアントナックル]!!」
巨大な腕が迫ってくるが、ヒューズは動じない。
「なんか忘れていないか?放った光の矢は、ただの不発ではないぞ。」
次の瞬間、ヒューズが放った『天矢』が急降下してきて、ロイクの巨大化した腕を貫いた。
「がっ…!?」
腕がもとに戻って怯んだ。それと同時にヒューズは地面を蹴り、ロイクを空中に蹴り飛ばした。
「もう一度言っておくぞ…お前に3大革命柱の称号は荷が重かった。」
ヒューズが、オーロラのように輝く、青色の矢を放つ。放たれた矢はロイクの目の前で無数に分裂し、360度取り囲んだ。ヒューズはクルッと振り返り、
「[無双幻矢]!」
パチンと指を鳴らした。次の瞬間、無数の矢がロイクを貫いた。貫いた矢は消え、ロイクは地面に落ちた。
「お、お前…本気で…裏切る…気か…」
血だらけのロイクが最後の力を振り絞り尋ねる。
「だから、裏切っていませんって。ただ、今はシャインの仲間です。だからあなた達を敵と見なす。それだけです。まあ、あなたを倒したのは、個人的ですけど。」
口調を紳士的に戻し答えるが、ロイクにはもう届かなかった。
「私は今の生活が好きなんです。邪魔をしないでください。」
もう動かなくなったロイクに言い、城の方に向かった。
ヒューズVSロイク、貴族エリアでの戦い。勝者:ヒューズ・クオーツ。
赤茶色の絨毯が敷かれた秘書室で、サナとイルファが睨み合っていた。サテラは、サナに言われ部屋の隅に待機している。
「知ってる?魔法を極めた人間の弱点って?」
イルファが尋ねると、サナが首を傾げる。
「それは…」
次の瞬間、イルファがサナに向かって走り、サナを蹴り飛ばした。まともに喰らったサナは吹き飛び、本棚に叩き付けられ、倒れる。
「『肉体』よ。魔法を極めた人間は、どうしても体を鍛えるのを怠ってしまうの。だけど、私は両方鍛えているから、それが弱点にならない。」
イルファが眼鏡をクイッと上げる。それを聞いたサナはフフッと笑いながら立ち上がる。
「じゃあ、あんたみたいな奴の弱点って知ってる?」
「さあ、何かしら?」
「それは…」
次の瞬間、イルファの足下に魔法陣が現れ、そこから雷が放たれる。イルファはそれをまともに喰らいって倒れる。
「両方とも『中途半端』になってしまうことよ。あんたの言った通り、体は鍛えられていない。だけど魔法だけを見ると、あんたより上よ。」
イルファはヨロヨロと立ち上がり、壊れた眼鏡のレンズを魔法で直す。
「なるほど。あなたの言う通り、魔法だけを見ればあなたの方が上ね。だけど、それはあくまでも魔法『だけ』を見た時。総合的に見ると私の方が上よ。」
「そんなの分かんないわよ。しかも、あんたからは聞き出さないといけないことがあるのよ![アイスニードル]!!」
氷柱がイルファに向かって乱れ飛ぶ。
「それはサテラのことかしら?[フレイムスネーク]!!」
炎の蛇が氷柱を溶かし、そのままサナに襲いかかる。
「[封魔天光]!!」
とっさに光の防御系魔法でガードする。それを見たイルファは、
(!今の技…!ということは、この子…!)
イルファが何かに驚いるのを、サナが「ん?」となる。
「あなた…生まれはどこ?」
イルファの質問に、サナは答えるのを戸惑う。
「答えられないの?」
「……エクノイアよ。それが何?」
「……そう。」
「…今は私のことなんか関係ない!私はサテラの事を聞きたいのよ!」
サナが何かを隠すように、怒鳴りながら尋ねる。
「はぁ…いいわ、話してあげる。」
イルファはサナの一点張りに負け、話すことにした。
「私はある研究施設の元研究員よ。そこで私がしていたのは…『人体実験』。その実験に耐えきれなくなった私は、その研究施設を飛び出した。そして、飛び出す前に実験した最後の人間が…」
イルファが部屋の隅で震えているサテラを見る。
「サテラってこと?」
サナが尋ねると、イルファが頷く。
「てことは、記憶封印魔法をかけたのは…」
「私よ。」
「なんで記憶を封印する必要があったのよ?」
「基本的、実験は失敗してしまうから、使われた人間は死んでしまう。だけど、サテラだけは成功した。それにより、とてつもなく魔力が上がった。だけど、魔力が高すぎて、サテラにその能力を扱えず、暴走してしまった。誰も止めることができず、どうすることもできなかった。その時、思い付いたの。魔力を封印すれば、この暴走を止められるって。だから、私はサテラの魔力を封印して暴走を止めたの。」
「なら、魔力だけでよかったじゃない。なんで記憶まで封印する必要があったのよ?」
「あなたも知っているんでしょ?記憶と魔法はどこかで繋がっているという理論。だから私は記憶も封印したの。だけど…」
「だけど、その記憶封印魔法が拡大して、徐々に最近の記憶まで封印し始めているのね?」
「…そうよ。」
「なら、記憶を解きなさい!じゃなきゃサテラの記憶が全て失ってしまうわ!」
「…いいけど、そんなことすれば、一緒に封印している魔力までも解かれ、サテラの力が暴走して、私達も、あなた達も、ザファールスいる全員死ぬことになるわよ。青幽鬼の恐ろしさなら、知っているでしょ?」
「記憶が無くなれば、人は感情だって無くなってしまう。そんなの人形同然じゃない!」
サナが怒鳴る。
「じゃああなたは、サテラ1人のために、この国いる全員を殺すの?」
「そ、それは…」
サナが答えるのに戸惑っていると、
「記憶を解く必要はありません。」
サテラがヨロヨロとサナに近付き、イルファに言う。
「バカ!このまま放っておくと、あなたの全ての記憶がなくなっちゃうし、この先生きても、記憶が残らないのよ!」
サナが怒るが、
「だけど、皆さんを傷つけるくらいなら、その方がいいです。」
サテラがサナに優しく微笑む。そんなサテラに、サナは言い返す言葉が出てこなかった。
「昔に、私とあなたの間に何があったかは思い出せません。だから私は、今の記憶に従い、シャイン達の仲間として、あなた達を倒します!」
サテラの体から青色の炎が上がる。イルファはそれを見て、戦闘体勢になる。
「[幽鬼槍]!!」
青色の炎の槍が放たれる。イルファはそれを回避して、サテラの目の前まで走る。
「敵になるんなら、たとえ子供だとしても容赦はしないわよ。」
イルファはサテラに囁いてから、思い切り蹴り飛ばした。
「[プラントネット]!!」
吹き飛んだサテラが本棚にあたる寸前に、草の網がうまくキャッチした。
「ありがとうございます、サナさん。」
サテラがお礼を言いながら、草の網から出る。
「私もいることを忘れないでね。」
サナがニヤッと笑う。
「いいの?私を倒すと、サテラの記憶を解く人間がいなくなるわよ?」
「それくらい、私が解いてやるわよ。何年経ってもね。」
「そう…じゃあ、最後に聞かせて。何故あなたがそんなにムキになるの?」
「そんなの、私だって分かんないわよ。ただ、なんかムキになんのよ。」
サナが小さく笑う。
「そう。これで私のモヤモヤが解消されたから、死んでもらうわ。」
「そうはいかないわ。行くわよサテラ!」
「はい!」
「死になさい![デモンズハンド]!!」
イルファが唱えると、サテラの頭上の空間に穴が空き、中から悪魔の腕が現れ、サテラを掴んだ。
「キャッ!!」
「[エンジェルリング]!!」
サナが唱えると、悪魔の腕を囲むように大きな天使の輪が現れ、悪魔の腕とともに消滅した。
「そう簡単にはいかないか…なら…」
イルファがサナに向かって走り、
「格闘でいこうかしら。」
蹴りを喰らわす。サナはそれを腕で防御する。そのまま、格闘戦にもつれ込む。
「へぇ…少しはできるのね。」
イルファがクスリと笑う。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
慣れない格闘戦で、サナが息が上がる。
「サナさん!」
サテラが援護しようとすると、
「ダメよ!あんたにもう魔力がないんだから!」
イルファの攻撃を受けながら、サナが叫ぶ。
「1人でこの状況をどうするつもりなの?」
攻撃を続けながら尋ねる。
「大丈夫よ。だって…」
次の瞬間、
「[幽鬼鞭!!」
数本の青色の炎の鞭が、イルファを後ろから捕獲した。それにより、イルファが身動きがとれなくなった。
「な、何!?」
「1人で闘う気なんてないんだもん。」
サナがニヤッと笑う。
「サテラが…なんで…魔力がないんじゃ…」
イルファがサナに尋ねる。
「説明は後。先に…トドメをさしてやるわ!」
サナの周りに電気が走る。そして、右の掌をイルファに向けると、電気が右手に集中する。
「[サンダーボルト=キャノン]!!」
次の瞬間、巨大な一本の青色の雷がイルファを貫いた。イルファが喰らったと同時に、サテラは青色の炎の鞭を解除する。イルファは焦げて感電しながら倒れこんだ。
「さて、タネ明かしといきましょうか。私が仕掛けたのは、人間の心理を利用した罠よ。あんたは、私の言葉で『サテラには魔力がない』、つまり攻撃がこないと思ったでしょ?実はサテラにはまだ魔力が十分あったの。だけどあんたは私に攻撃していたから、そんなことを魔力察知とかで確認する暇なんてなかった。だから、あんたの頭の中では無意識にサテラを敵対象から外した。それにより、サテラに対して油断ができ、隙ができる。それが罠よ。」
それを聴いてイルファが、
「私は、まんまとあなたの罠にかかった。てことね?」
力を振り絞り、尋ねる。
「そういうことよ。」
サナが頷く。
「そう……じゃあ最後にあなたに言わせて……嘘はダメよ…『同族』さん…」
イルファはクスリと笑い、囁くように言ってから目を閉じ、力尽きた。サナはイルファの言葉にピクリと反応してから、
「はぁ~疲れた…やっぱり格闘はダメね…」
と言いながら、へたりと座り込む。
「死んでしまったんですか?」
サテラがイルファに近付き顔を覗く。
「死んじゃないないわ、気を失っているだけよ。」
サナがゆっくりと立ちながら答える。
「この人、昔に私を助けてくれたんでしょうか?」
「さあ、知らないわ。」
サナが腕組みをする。
【嘘はダメよ…『同族』さん…】
サナの頭の中に、イルファの最後の言葉がよぎる。
(同族…そんなことを言うということは、あいつも『あっちの世界』の人間……でもなんで私があっちの世界の人間だと分かったのかしら…… ! 『封魔天光』!でもあの技を知っているのはごく一部の人間のみ…てことは、イルファがごく一部の人間の1人ってこと?………)
「サナさん!!」
サテラが叫ぶ。それにより、サナがビックリする。
「な、何!?」
「だから、これからどうするかということです。」
「あ、あ~そうね、とりあえずここから移動しましょう。」
サナとサテラは、倒れているイルファをおいて、秘書室を出た。
サナ&サテラvsイルファ、秘書室での戦い。勝者:サナ&サテラ。
眼鏡「少し記憶封印魔法について捕捉説明をしておきます。」
・記憶封印魔法は、文字通り、記憶を『封印』する魔法ですので、記憶が消えたわけではありません。そして、この魔法は、過去から順に封印していき、拡大していくにつれ、最近の記憶なども封印してしまうのです。ですが、記憶喪失と似たようなものなので、記憶が甦るような強い刺激があれば、記憶は解かれます。
眼鏡「う~ん…捕捉になっていたのか不安です…もし分からなければ、感想などで質問してください。」
眼鏡「では、次回をお楽しみに!」