37話 2人の大恩人(8)
眼鏡「前話の後書きに、過去はちょっと言いましたが、すいません、ほぼ過去です…最後の方にやっと現在に戻ってきます。では、見てください!」
輸送船に忍び込んだエアルとスノウはエクノイアに着くまで、倉庫の中で隠れていた。
「何やってんだ?」
スノウが置いていた鏡の前でハサミを持って、何かをしようとしているエアルに尋ねる。
「髪の毛整えようと思っているんだけど、どうしたらいいかな~」
けっこう荒く切ったので、長さが合っておらず、ボサボサの状態である。
「どうしたらって、普通に切ればいいじゃないか?」
「だって自分でやったことないし…てか、自分でやるの怖いし…」
それを聞いて、スノウがはぁとため息をしてから、エアルが持っているハサミをひょいと奪った。
「ちょっと!何するのよ!」
エアルが振り返って怒る。
「俺がしてやるよ。」
スノウがハサミをクルクル回しながら言う。
「できるの?」
エアルが半目を開け、疑う目で見つめる。
「俺の手先の器用さをなめんな。ほら、前向け。」
そう言われ、エアルは半信半疑で鏡の方を見た。そしてスノウは、チョキチョキと髪をカットし始めた。
そして5分ぐらい経って、エアルの髪はキレイに整えられた。
「こんなもんか?」
「う、うん。ありがとう。」
予想外の仕上がりに驚きながらお礼を言う。
「どうして切ったんだよ?」
「私の覚悟。あと元々から私はロングよりショートの方がよかったの。だから丁度いいかなって。」
「ふ~ん…さて、そろそろ着く頃かな。」
スノウが確認のため、外に出ようとした時、
「似合ってるぞ。」
と、呟いた。それを聴き、エアルは顔を赤らめながらも嬉しかった。
輸送船がエクノイアの港に到着した時には、キレイな月光が港を照らしていた。奴隷の服と王族のドレスでは目立つと思い、倉庫にあった、いたって普通の服に着替えたスノウとエアルは乗った時と似たような形で、スノウがエアルをお姫様抱っこをして、ピョーンと飛び下りた。そして、着地と同時に、闇に隠れて急いで港から立ち去った。
「で、今からどうするの?」
港の近くの小さな町を歩きながらエアルが尋ねる。
「全く考えてねぇ。」
スノウが言い切る。エアルがはぁと肩を落とす。
「とりあえず歩こう。何かが起きるかもしれねぇ。」
2人はとにかく歩くことにした。ひたすら歩いた結果、港町からけっこう離れた大きな町にたどり着いた。その頃には、月が消え、太陽が大地を照らし始めていた。
「結局、何も起きずじまいか…」
人がいない小さな路地で地べたに座って休憩しているスノウが呟く。
「私…お腹減ってもう動けない…」
エアルがスノウにもたれ掛かれ、眠ってしまった。
(俺ら…このまま死ぬのかな…)
そんなことを思いながら、スノウも眠りについた。そんな2人に、1人の男が近付いてきた。
「ん…」
スノウはとても美味しそうな匂いで目を覚ました。むくりと体を起こし、周りを見てみると、特に変なとこもない、シンプルな部屋が広がっていた。見た感じ小さな一軒家らしい。
(誰かの家か?)
少し警戒しながら隣で寝ていたエアルを起こした。目を覚ましたエアルも誰かの家だと思い、警戒する。その時、
「おっ、目を覚ましたか。」
長身で黒髪、黒色の瞳をした男が、部屋にあったキッチンの方から近付いてきた。
「誰だてめぇ…?」
スノウがゆっくりとエアルを後ろに誘導しながら睨み付ける。
「そう敵意を向けないでくれ。俺はただ君達を助けたかっただけなんだ。」
男が微笑む。
「そんな手にのるか…」
スノウが睨み続ける。
「俺の名前は『スタン』。ある大きな企業で働いているただの普通の人間さ。」
スタンと名乗った男は両手を上にやり、何もしないとアピールする。それを見て、少しだけスノウが警戒を解く。
「もう少し待っててくれ、もうちょっとで昼食ができるから。」
そう言いながら、スタンがキッチンに戻る。
「信じていいのか?」
警戒しながらも、ソファーに座る。
「どうだろ、悪い人じゃないと思うけど…」
エアルが周りを見ると、小さなタンスの上に写真が飾られているのを発見した。そこにはスタンと、紺色で先がカールしている髪をしている女性と、同じく紺色の髪をした女の子が2人の間にいた。
「俺の家族だ。」
昼食を作りながら、スタンが話しかける。
「家族がおられたのですね。」
「ああ。俺の大切な宝だ。」
そう言いながら、出来上がった昼食を机に乗せた。
「さ、食べてくれ。」
スタンに言われ、2人はがっつくように食べ始めた。そして、ものの2分で食べきった。
「ぷはー、食った食った。あんたっていい人だな!」
スノウが爪楊枝で歯に挟まったものを取りながら言う。
「さっきまであんなに警戒してたのに…」
エアルが苦笑いする。
「こんな旨い飯が作れる人間が悪いわけがない!」
「あっそ…」
「あははは、そこまで喜んでくれたら嬉しいよ。作ったかいがあったよ。」
スタンが嬉しそうに微笑む。
「さて、楽しいとこすまないが、本題を聞こう。どうしてあんなとこで寝ていたんだ?」
スタンが改まって尋ねる。
「それは…」
エアルがスノウの顔をちらりと見る。
「……分かった。あんたを信頼して、全て話すよ。」
スノウはスタンを信じ、自分達のことを話した。それを聞いたスタンは最初は驚いていたが、なんとか理解してくれた。
「ヴァスタリガ王の娘が逃亡か…これはヴァスタリガでは大問題のことだな…」
「確実にヴァスタリガは大騒ぎだと思います。」
エアルが言う。
「……君達は今から行くとこはあるのか?」
スノウとエアルは予想外の質問に驚くが、
「別にないけど…」
と、しっかり答える。そして、次の言葉に、2人が仰天した。
「じゃあ、この家に住みたまえ。」
「えっ!?あの、え、い…いいんですか?」
「大人として、子供を助けるだけ助け、元気なったら、さようならなんてダメだろ?それに俺は仕事であまり家には帰ってこないから、君達に使ってくれたらこちらも嬉しいしな。」
「王族の娘と、それを誘拐した同然の奴隷だぞ?」
「それがどうした。ここは『エクノイア』。身分なんて関係ない。」
そう言われ、スノウとエアルは顔を見合わせてから、
「よろしくお願いします!」
と、満面の笑みで頭を下げた。
「よし、じゃあ決まったとこで、家の説明するか。」
こうして、まさかまさかの、スノウとエアルはスタンの家に暮らすことになった。
暮らし始めて3年が経ち、スノウとエアルが13歳になった。
「もう3年か〜」
ベランダで洗濯物を干しながら、エアルが空を見上げる。
「スタンさん、あれから帰ってこないな。」
すっかり肩まで伸びた無造作ヘアーのスノウが呟く。
スタンは2人に暮らしたらと言った次の日から仕事で、それ以来家に帰ってきていない。
「そうだね、そんなに仕事忙しいのかな〜」
エアルが洗濯物を干し終え、部屋に入る。その時、ガチャリとドアが開き、スタンが帰ってきた。
「スタンさん!」
エアルがスタンに抱き付いた。
「すまないな。長い間留守にしてしまって。」
スタンがエアルを撫でながらソファーに寝転んでいるスノウを見ると、スノウが手をヒラヒラとし、お帰りとする。
「帰って来てそうそう悪いが、2人に話があるんだ。」
スタンが少し真剣な顔で言うので、スノウがソファーから下り、スタンの前に立った。
「実はな、この家から引っ越さなければならないんだ。」
「ええ!?」
2人が驚く。
「俺の仕事エリアが変わってしまったんだ。」
「つまり、俺らはこの家を出なければいけないってことだな?」
スノウに言われ、
「簡単に言えばな…」
スタンが頷く。
「すまない。俺から住めばいいと言ったのに、俺の都合で追い出すみたいなことになってしまって…」
スタンが頭を下げる。
「いえ、そんな、3年間も居させてもらっただけで、もう感謝仕切れないほど感謝してますよ。」
「そうだよ、あんたは十分過ぎるほど俺らの大恩人だ。」
2人に言われ、ようやくスタンが頭を上げる。
「だから、せめてもの償いで、2人には最初で最後の『プレゼント』がある。」
「プレゼント…ですか?」
「まあ、プレゼントというより、願いを叶えるための『チャンス』かな。……確か2人は魔法が使えるよな?」
スタンに尋ねられ、2人はコクリと頷く。スノウはこの3年間で、エアルから魔法の使い方を習い、今では自由自在に使えるレベルまでになっていた。
「2人は確か、前に電話で『学校に行ってみたい』と言っていただろ?」
2人がまた頷く。
「だから、その願いを叶えるためのチャンスを作った。」
「どういう意味だ?」
「流石に中学からは入れてやれないけど、高校からなら間に合うはずだ。」
「私達、高校に入れるんですか!?」
エアルの顔が明るくなる。
「俺の知り合いに、塾の先生がいるんだ。聴いたところ、エアルは小学校にいっていたが、スノウは全くらしいから、小学校レベルから教えるように頼んだ。あと、そいつは魔法の使い方や知識についても教えれるから、2人なら『魔法科』のある高校を狙えるはずだ。」
「でも、塾ってお金が…」
「大丈夫、タダにしてもらった。」
スタンが親指を立てる。
(絶対、後ろで何かが動いた…)
2人はそう思ったが、口に出さなかった。
「それで高校に入れるのか?」
「そこは2人の勉強に対するやる気次第だ。」
スノウとエアルは顔を見合わせてから、
「やってやるぜ!勉強!」
スノウが決意する。エアルはスタンの隣で頷く。
「そうか、家は塾の空き部屋を用意してもらったから心配するな。」
こうして、スノウとエアルは塾で勉強することになった。スタンは仕事のため、もう2人の前に現れることはなかった。そして、地獄の勉強の日々が2年流れ、無事に龍空高校に入れることができ、シャイン達に会うことになった。
「……で、今になるってわけだ。」
スノウが過去の話を終了する。
「長かったな~、2話と4ページも使うとは。」
シャインが素直な感想を呟く。
「まあ、私達が話を聴いた時間は1時間半ぐらいなんだけどね。」
サナが時計を見ながら呟く。
「あまり裏設定とか話さない方がいいのでは…」
ヒューズが苦笑いする。
「でも、ちゃんと説明しとかないと私達も1週間ぐらいで聴いたように思われるじゃない。」
サナが言い返す。
「そうですけど…」
ヒューズは苦笑いするしかなった。
「そんなことより、私はあなた達がパパと知り合いだったことにビックリよ!」
「ああ、俺も名前を聴いて驚いたね。」
シャインとレビィが驚いているが、あとの3人は首を傾げた。
「パパ?誰が誰のパパなんだよ?」
スノウがレビィに尋ねる。
「本名はスタン・『サファイア』。つまり、スタンさんは、私の『お父さん』なの。」
レビィが答えると、
「何だと!?」
スノウが叫んで驚くが、サテラがう~んと起きそうになったので、レビィがシーとする。
「すごい偶然ですね…」
ヒューズが唖然とする。
「これだけ聴いたら、世間が小さく思えるわ…」
流石のサナも驚いていた。
「じゃあ、あの時写真に載っていた、あの紺色の髪の女の子って…」
「絶対私だと思う。」
レビィが苦笑いしながら頷く。
「ある意味奇跡だな。」
シャインがふっと笑う。
「パパの仕事って一体何なんだろ?」
レビィがう~ん…と考えるが、答えが出るはずもなかった。
「さて、皆が聞きたかった2人の過去も聴いたことだし、そろそろ寝ましょう。もう夜も遅いし。」
サナがあくびをしながら、布団に入る。
「そうだな。スノウ、話してくれてありがとな。」
シャインがお礼を言いながら布団に入った。
「ああ。」
スノウも布団に入った。そして、レビィもヒューズも布団に入り、全員就寝した。
眼鏡「やっと過去が終わりました…こんなに続くなんて予想外でした…」
眼鏡「さて、今回は全く話すことがないのでここのへんで。では、次回をお楽しみに!」