36話 自由への逃亡(7)
眼鏡「はい、今回はエアル&スノウの過去の話の続きです。過去とありまして一気に終わらそうとしたら6ページもいっちゃいました…読むのが大変かもしれませんが、どうぞ見てください!」
そこからエアルは何回も城を脱け出し、スノウのとこに通い始めた。それが約1ヶ月過ぎた頃、事件が起きた。
「何回も何回も城を脱け出して、一体何をしているんだ?」
こっそりと脱け出そうと廊下を忍び足であるいていたエアルにライズが声をかける。それによりエアルがビクッ!しながら、ライズを見る。
「お、お父様…何…か?」
「何かじゃない、王族の娘がそう毎度庶民のとこに下りてもらっては困るんだ。」
ライズが怒る。
「ごめんなさいお父様、でも、行かせて下さい。お友達を待たしているんです。」
エアルが頭を下げながら頼む。
「ダメだ。」
「お願いします!」
「ダメだ!」
「お願いします!」
2人が言い争っていると、
「ライズ様、少しよろしいですか?」
兵士が1人、ライズを呼びにきた。
「なんだ?」
「ヘイホ男爵様がエアルお嬢様のことでお話があると…」
兵士がエアルに聴こえないようにライズに耳打ちする。
「……分かった。エアルを城から出さぬよう見張っておけ。」
ライズは兵士に命令し、ヘイホ男爵の元に向かった。
「はっ!」
兵士は敬礼してから、エアルの方を見て、
「さっ、お部屋にお戻りください。」
と、部屋の方に誘導する。
「嫌です。」
エアルがプイッとして嫌がる。
「そんなこと言わず…」
次の瞬間、エアルは兵士に猫だましを食らわした。そして、兵士が怯んだのを逃さす、エアルはドレスの裾を踏まないようにちょっと上げ、逃げ出した。
「お、お待ちください!」
兵士が慌てて追いかける。
「もう!来ないで!」
エアルが走りながら術を唱え、廊下にトラップを仕掛ける。兵士は何かと思いながらも、そのトラップを踏んだ。その瞬間、足下から光の牢が現れ、捕まってしまった。
「[ライトプリズン]よ、じゃ。」
エアルが兵士にウィンクして、お友達のスノウの元に向かった。だが、城を出たエアルの後ろからは、尾行する兵士がいた。
「スノウ!」
エアルが、もう2人の本拠地にした廃墟の家に手を振りながら叫ぶ。
「やっと来たか。」
ソファーに寝転んで待っていたスノウが起き上がり、家の外に出る。
「遅いぞ。」
「ちょっとあってね。まあ、気にしないで。」
「そうか、で、今日は何がしたいんだ?」
スノウがニヤリとしながら尋ねる。
「う~ん…釣りがしたい。」
エアルが笑顔で答える。
「釣り?釣りがしたいだと?」
「うん。」
「釣りか~最近俺もしてないし、行くか?」
「うん!」
行き先が決まり、2人は釣りができる場所に移動する。その後ろを、偵察兵士が尾行する。そして、2人は釣りができる湖を見つけ、森の中で作った即席釣竿を使って、日が沈むまで釣りを楽しんだ。
その日の夜、エアルが寝ている時、偵察兵士がライズの部屋でライズに報告すると、
「なに!?エアルが会っていたのは、あの噂の銀野良だと…!」
と、怒りを露にしながらドン!と書類などが乗っている机を叩く。
「そのようで。」
「女子であれば城に招待してやろうとは考えていたのだが、奴となれば…」
「どうするのですか?」
「明日、ガキを捕まえて、この城に引きずって来い!」
ライズが怒鳴るように命令する。
「了解しました。」
兵士は素直に頷き、部屋を後にする。
「あのガキ…地獄を見せてやる。」
ライズがイライラしながら持っていた鉛筆をへし折った。
次の日、この日に事件が起きた。
エアルは、今日は誰も追いかけて来ないんだなと小さく疑問を持ちながらも、馴れたようにスノウの元に向かった。
「スノウ!」
いつも通り廃墟の家に着いたら、スノウが待っていた。
「今日は早かったな。」
スノウが言う。
「うん。今日は何もなかったから。」
エアルが笑って答える。その時、スノウが何かに気が付き、さっきまでの優しい顔が獣のような鋭く恐ろしい顔になって、エアルが来た方向を睨んだ。
「どう…したの?」
エアルがスノウの顔を見て、ビクビクしながら尋ねる。
「……今日はお友達も連れてきたのか、随分多いんだな。」
エアルはスノウの言っていることが分からなかったので、スノウが見る方向を見た。だが、そこには誰もいなかった。
「誰もいないよ?」
エアルが話しかけるが、スノウは応答せず、
「出てこいよ。もう気配で分かってんだよ。」
と、誰もいない方に言う。すると、物陰から沢山の兵士達が銃をこちらに向けながら現れた。
「兵士さん達!?」
驚くエアルを庇うように、スノウは無意識に前に出る。
「我々の任務は君を捕まえ、城に連行することだ。だが、君が自分の意思で来てくれるのが一番嬉しい。」
兵士の中から、仮面をかぶったリーダーが出てきた。
「『じゃあ行きましょう』って言うと思ったか?」
スノウが戦闘体勢に入る。だが、仮面男は冷静に言い返す。
「それくらい分かっていた。だから、この部隊は君を惑わせるための『フェイク』だ。」
それを聴いたスノウは一瞬意味が分からなかったが、理解した瞬間、バッ!と後ろを振り返った。それと同時に、ドン!という銃声が響き、スノウの右胸に銃弾がヒットした。スノウは撃たれた反動のままドサッと後ろに倒れた。約20メートル先の少し高い建物で、スナイパーがガチャリとリロードした。
「スノウ!!」
エアルがスノウに近付こうとした時、兵士数人がエアルの腕を掴み、無理矢理スノウから遠ざける。
「ご心配なくエアルお嬢様、ただの睡眠弾です。殺してはいません。先ほど言った通り、我々の任務は彼を連行することですから。」
仮面男がエアルに説明する。
「スノウをどうするつもりですか?」
掴まえられたまま、エアルが尋ねる。
「それは我々が決めることではありません。ライズ様がお決めになられるので。さ、行きますよ。」
スノウは巨大男に担がれた。そして、仮面男が他の兵士に命令し、城へと戻った。
城に戻ってきた兵士達は、王座に座っているライズの前に手足を縛ったスノウをうつ伏せにドサリと置いた。
「んっ…!?」
置いたと同時に睡眠弾の効果が切れ、頭がボ〜っとする中、自分のことを見下しているライズを睨み付ける。
「キサマ、何が目的でエアルに近付いた?」
王座に座ったままライズが静かな怒りを持ちながら尋ねる。
「近付くだ?ちげぇよ、お前の娘が近づいてきたんだよ。」
睨み付けたまま答える。
「この状態で嘘が通ると思ったか!」
ライズが怒鳴る。
「嘘なわけあるか!」
スノウが怒鳴り返す。
「エアルに聞いてみろよ。」
声をおとしてスノウが提案するが、ライズが聞くことはなかった。
「お前には地獄を見せてやる。おい、銀野良を牢屋に入れておけ。」
ライズが兵士に命令しながら、部屋を後にする。
「おい!ライズ!」
兵士に運ばれながら叫ぶが、ライズは当然振り返ることはなかった。
自分の部屋でウロウロと落ち着きなく歩き回っているエアルの元に、ライズがやって来た。
「お父様!その…スノウは?」
「銀野良は牢屋だ。」
それを聞いてエアルが走り出した瞬間、バン!とライズが勢いよくドアを閉め、エアルが行くのを遮った。
「お前はあの銀野良といた罰として、トイレ、風呂以外はこの部屋から出るのを禁ずる。」
「そんな……」
「お前がしっかり反省するまで出さんからな。」
それだけを伝え、ライズは部屋を出ていった。
「待ってください!お父様!」
エアルが出ていくライズを追いかけて部屋を出ると、ドアの両端にメカメカしい人型のガードロボが立っていた。ロボはエアルを感知し、一瞬で捕まえ、部屋の中に乱暴に戻し、ドアを閉めた。
どうしてもスノウのとこに行きたいエアルは部屋を出る方法を考えるため、中を探索する。ドアから出てもロボに戻される、かといって窓から出ようにもエアルの部屋はビルの3、4階に相当する高さ、とてもじゃないが無理があった。
エアルが出る方法が思い付かず、すっかり落ち込んでベッドの上で寝転んでいると、誰かがドアをトントンとノックした。
「誰?」
エアルが体を起こしながら尋ねると、ドアがキィと開いて、白髪で、腰が曲がっており、ふっくらした体を杖で支え、家政婦の服を着ている70歳ぐらいのお婆さんが入ってきた。
「『カエデ』お婆様!」
「エアルお嬢様、少しよろしいかい?」
目を細くして、優しく笑みを浮かべながら尋ねる。
「は、はい、大丈夫です。」
エアルは予想外の人物に驚きながらも頷く。カエデは杖をつきながら部屋に入って、ベッドの近くにあった椅子によっこらしょと座り、エアルの顔をじっと見て、
「そのお顔からして、あの銀髪の子の事がとても心配なのですね?」
と、笑みを浮かべたまま尋ねる。図星だったエアルは小さく頷いた。
「だって…唯一の同じ年のお友達なんですもの。」
少しどこか暗い顔をする。
「あの子を助けたいですか?」
カエデの言葉にエアルは驚いた。
「止め…ないんですか?」
「私が止める理由なんてありゃせんよ。エアルお嬢様が決めたように行動すればいい。」
「カエデお嬢様…」
エアルは何だか泣きそうになったが、グッとこらえ、カエデに向かって決意を言った。
「私、スノウを助けたいです!」
「…そうですか。では、少しお手伝いしましょうかね。」
カエデが優しい笑みを浮かべながらよっこらしょと椅子から立った。
カエデが部屋に入ってから20分ぐらい経った時、エアルがカエデと共に部屋から出てきた。その時、ガードロボが反応する。
「トイレです。」
エアルがガードロボに言う。
「私が付いていくからあんた達はそこで待っていなさい。」
カエデがガードロボに言うと、ガードロボが「リョウカイ。」と言い、持ち場に戻った。トイレに向かって歩いていき、角を曲がったと同時に、エアルはハァと一安心したようにため息をした。
「バレるかと思った…」
「ここを真っ直ぐ行ったら階段があるので、1階まで下りてください。そして、そこから右に行くと地下へと下りれる階段があります。そこが牢屋なのでそこに銀髪の子がいます。」
カエデが場所の説明をする。
「分かりました。ご協力、ありがとうございました。」
エアルが深々とお辞儀をする。
「メイドさんや他の家政婦達はあなたの味方なので捕まえたりしませんが、兵士さん達には見つかってはいけませんよ。」
「分かりました。本当にありがとうございました。」
エアルはもう一度お辞儀をして、スノウがいる牢屋に向かった。
「『クレア』、エアルお嬢様は『母親』のお前のように、友達想いの立派な女性にそうじゃよ。」
カエデは1人、天を見るかのように上を向いて呟いた。
途中、メイドや家政婦の協力があり、暗く肌寒い牢屋にたどり着いた。
「スノウ、どこ?」
小さい声でいいながら、何部屋かある牢屋の中を探す。そしてついに、一番奥にあった牢屋にスノウの姿を発見した。だが、エアルは、ムチや魔法などで攻撃されて、まるでボロ雑巾のようになって横たわっている姿を見て絶句した。
「エア………ル……か…」
スノウがエアルに気が付き、鉄のように重い体をズルズル動かし、エアルに近付く。
「スノウ…ゴメンね…私が近付いたばっかりにこんな目にあって…ゴメンね…」
エアルが涙を流しながらへたっと座って謝る。
「お前が謝る必要なんてねぇよ。俺とお前──奴隷と王族では生きる世界が違って…俺がその境界線を勝手に越えてしまったからこうなっただけだ。だから…お前は悪くねぇよ。」
スノウが今の力の最大で笑って見せる。
「だけど……」
「悪くねぇって言ってんだろ。だから早く帰れ。バレたらお前の罰が重くなるだけだ。」
スノウが部屋に帰らそうとするが、エアルは涙を拭いて、ブンブンと顔を横に振り、怒鳴るように言った。
「嫌!私はスノウを助ける!」
「王族のお前が、物でしか見られていない奴隷の俺に、何でそこまですんだよ!!」
スノウが怒鳴り返すように尋ねる。
「私の友達だから!!」
答えの中の『友達』というワードが、スノウの心の奥に響いた。そして、スノウはふっと笑って、少し間を空けてから、話始めた。
「……俺は自由に生きるのが夢だ。身分などで差別されず、自分がしたいと思った時にできる、何にも縛られない生き方がしたい。だけど、この夢はこの国では叶えられないみたいだ。」
「スノウ、何が言いたいの?」
エアルが首を傾げて尋ねる。すると、スノウがキッと真剣な顔でエアルを見つめ、
「エアル…自由になる覚悟があるか?」
と、尋ねる。エアルは大きく頷いた。
牢屋のちょうど上になる部屋で、2人の兵士が休んでいた。
「いや~寒いな~」
「今日は『クリスマス』だから~」
そんな話をしていると、いきなり地面がメキメキメキと盛り上がってきた。
「な、なんだ!?」
兵士が慌てて持っていた剣を構える。次の瞬間、
「うらぁぁぁぁぁ!!!」
完全に完治したスノウがパンチで突き抜けてきた。
「お前!!」
兵士2人がスノウだと確認した瞬間に、スノウの拳が顔をとらえ、ノックアウトした。それと同時に、城中に警報が鳴り響く。だがスノウは慌てることなく、
「さて、向かえに行くか。」
エアルの部屋へと走り出した。
非常事態に気が付いたライズは、真っ先にエアルの部屋へと走った。そして、部屋に入ると、エアルが部屋の真ん中に立っていた。
「お父様…」
エアルがライズに気が付く。
「お前だろ?銀野良を完治させたのは?」
「…はい。」
エアルが素直に答える。
「何でそんなことをしたんだ!」
ライズが壁をダン!と殴る。
「自由になるためです。」
「自由になるため、だと…」
エアルの答えに、ついにライズの堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけるな!!!自分の部屋もある、欲しい服も買ってやっている、金にも困らない!これほど自由なことがあるか!何が不満でそんなバカみたいなことが言えるんだ!」
「部屋やお金があるのが自由じゃない!」
エアルが叫ぶと、辺りに沈黙が流れてた。そして、エアルが話始めた。
「私はここで待っていても、私が求めている自由は手に入りません。だから待つのではなく、自分の手で掴みに行きます。明るく、何にも縛られない自由を!そのために私は城を出ます。スノウと共に。」
その時、エアルは何処からか取ってきたナイフを取り出した。
「お、おい、何する気だ!?」
ライズが慌てながら尋ねる。
「これが私の覚悟です。」
次の瞬間、エアルは背中ぐらいまで伸びた自分のキレイなオレンジ色のロングヘアーを束ね、うなじぐらいまでズバッ!と切り落とした。
「エアルお前…!!」
ライズがエアルに近付こうとした時、ドアが破壊され、警備していた2体のガードロボが壊れて飛び込んできた。
「何事だ!?」
ライズとエアルがドアの方を見ると、そこにはスノウが立っていた。
「銀野良!!」
ライズがスノウに気をとられた瞬間、エアルは窓を全開にした。
「エアル!何をしている!?」
ライズがエアルに気をとられた瞬間、スノウはダッ!とエアルがいる窓に走った。
「バイバイ…お父さん。」
エアルは最後にライズに向かってそれだけを言い、背を向けた。それと同時にスノウがエアルをひょいとお姫様抱っこをして、ビルの3、4階に相当する高さの窓から飛び下りた。
「ライズ様!!」
その時、兵士数人が駆けつけてきた。
「全兵士を城の外に向かわせろ!!」
ライズが怒鳴るように命令する。兵士達はいきなりすぎて少し戸惑ったが、「はっ!!」と言って、城の外に向かった。
窓から飛び下りたスノウは、ダン!!と見事に着地し、エアルを下ろして、エアルの案内のもと城を出て、クリスマスに染まっている貴族、町人エリアを突っ走っていた。その後ろを兵士達が追いかけるが、追い付けなかった。
これがルルハのみんなが言っていた『あの事件』、『クリスマスの大逃亡』である。
「ねぇ、今からどこに行くの?」
ザファールスを飛び出し、森の中を走り、息を切らしながらエアルがスノウに尋ねる。
「言ったろ?俺の夢はこの国では叶えられないって。」
「それってまさか…」
「他国に逃げるんだよ。」
「本気で言ってるの!?」
「ああ。」
「どうやってよ!?」
「『船』だ。」
「船?」
その時、森を抜けて、港が現れた。そこには大きな船が1隻停泊している。
「船ってこの船のこと?」
エアルが色んな物資が乗っている船を指す。
「ああ。あれは『エクノイア』に物資を輸送する船だ。あれに忍び込めばエクノイアに行けるんだ。」
スノウが説明する。
「どうやって忍び込むの?」
エアルが尋ねると、スノウはひょいとお姫様抱っこをして、ピョーンと船にジャンプした。そして、音をたてずに着地した。
「こうやって。」
スノウが笑いながら、エアルを下ろす。
「なるほど。」
エアルがふふっと笑い返す。
「さ、行くか、自由を手に入れるために。」
「うん!」
その時、ボ〜〜と音がなり、船が動き始め、平和国、エクノイアに向かった。
眼鏡「えっと…前話に、過去は終了といいましたが、過去の話はもう少し続きます。つまり、次回は過去を少しして、現在に戻ってくる。という形になります。……しかし気が付けば『ヴァスタリガ』編、もう『その7』になりました。どこまで続くのか…自分も不明です…まあ、途中では終わらせませんのでご心配なく!では、次回をお楽しみに!」