夫に浮気された私は、毎夜寝言で夫の浮気相手の名前を絶叫してるらしい
貴族の家に産まれて、貴族の家に嫁いだ。
今は伯爵夫人。
何不自由なく生きてきた。
これまでは……
最近夫が私に優しい。
そして最近夫は、どんどんやつれていく。
明らかに夫はビビっている。
ほんの数日前に、私は夫の浮気を知った。
夫の浮気相手は私の知り合い。
夫の浮気相手は私の子供の時からの腐れ縁、私と仲の悪かった女。
私の夫は、そんな相手と浮気してた。
よりによって、あの馬鹿な女と……
大嫌いな、あの馬鹿女に夫を寝盗られた。
そう思うだけで私は気が狂いそうだ。
実際に狂ってしまったのかもしれない
少なくとも心は狂ってしまったかも……
「不倫は心の殺人だ」
とは良く言ったものだ。
(もう死んじゃおうかな?)
とか、考えて。
(どうして? 浮気された私が死ななきゃならないの?)
と、考えが変わって。
(復讐してやる。復讐してやる。復讐してやる。夫ちゃんと馬鹿女に復讐してやる)
と、思ってしまった。
朝食を夫と食べる。
昨日まで夫に不倫された怒りで、食事も喉を通らなかった。
でも、今日は朝から気分が良い。
「何だか覚めちゃった」
「!!!」
私の言葉に、夫はビクリ体を震わす。
(ん? 昨日までの夫と何か反応が違う)
昨日まで、私の夫は完全に気持ちを馬鹿女に持ってかれていた。
(私の夫ちゃんは……一体全体、何処に行ってしまった? 体はここにあるけど、心がここに、私の所にない)
昨日まで、私はそう思ったものだった。
私がそう思うくらいには、夫の態度は私に関心が無く酷かった。
なのに今日の夫は何だかおかしい。
ビクビクおどおど。
ちょっとした事でアワアワ。
堂々とした態度の私の夫は、どこに行ったのだろう?
(昨日までとは別の意味で、私の知ってる夫ちゃんは何処に行ってしまったのだろう?)
私はただ……昨晩
眠る夫の隣で、浮気相手の名前を、思いっきり絶叫しただけなのに……
夫の隣で眠る私は、夫の浮気相手の名前を寝言で絶叫。
屋敷中の使用人が慌てて駆けつけて来て、夫も目を覚まし、私は寝たフリ。
それを3セットやったった。
そしたら夫の様子が何だかおかしい。
夫はオドオド。
効果はあった。バツグンだ。
だから……
私は今日から毎晩、夫と浮気してる馬鹿女の名前を絶叫する事にした。
それから数日たった。
私の旦那は伯爵様、上級貴族の一員だ。
私は伯爵夫人。
家はお屋敷、使用人も沢山。
その使用人達が最近はソワソワしてる。
私が毎晩絶叫するせいだ。
夫の浮気を知ってる使用人は噂話を……
浮気をされた私、伯爵夫人の気がふれた。
毎晩浮気相手の名前を絶叫しているらしい
浮気相手の名前はダレダレだ!
それを聞いた使用人は尾ひれをつけて屋敷の外でも私達の噂話を……
上級貴族の奇行、ゴシップ、噂話。
面白おかしく広まった。
噂も貴族の武器の一つだ。
だけど今回の噂話は両刃の武器。
私も気がふれた伯爵夫人と名誉が傷つく。
それでも良い。
私は浮気されて心が荒れていたから。
私と私の夫ちゃんは有名になった。
浮気相手の名前は特に有名になった。
私は可哀想な気がふれた女として、夫と浮気相手は浮気者として、噂が広まった。
貴族から庶民まで娯楽のゴシップとして。
夫の浮気相手も名門貴族の女。
私とは昔からそりがあわなかった女。
だからといって、私の夫ちゃんに手を出すとは……
彼女はまだ結婚しておらず未婚。
縁談候補が常に幾つもあったけど……
不倫の噂が広まったせいで、尽く良縁は去った。
何せ彼女の不倫の噂ばなしに尾ヒレがついて、とんでもない悪女と噂になってるから。
私の奇行が人々から面白がられた結果、私の夫を寝取った彼女のほうの噂も凄い事になっていた。
彼女は性病、堕胎等。ありとあらゆる悪い疑惑をかけられている。
ざまぁ。
私の呪いを受けるが良い。
『人を呪わば穴2つほれ』
私の噂話話もドエライ事になってた。
私は穴に入りたく無かったので……
だから……2つの穴に馬鹿女と夫ちゃんを投げ込む事にした。
「夫が浮気に走り、私はきっと捨てられる」
私は弱々しく、出来るだけ可哀想に見える様に演技しておいた。
出来るだけ私が魅力的に見えるように振る舞うのも忘れない。
可愛そうでも、みすぼらしい感じや、荒んでる様に見えては意味が無い。
(同情をかって、味方を増やす為に、悪魔で魅力的に見えなければいけない。人は魅力的なものが大好きだから。魅力的で可愛そうな私に見える様に努力する)
私に同情する人が増えれば、その分、浮気した夫ちゃんと馬鹿女の敵が増える。
それは単純に私の得になる。
それは反対に夫ちゃん達の損になる。
私の夫ちゃんと浮気してくれた幼馴染の馬鹿女が国外に逃げ出した。
噂に耐えかねたようだ。
噂の届かぬ国外で結婚相手を探せと親から厳命されたそうだ。
実質国外追放。
その話を聞いて私は1言呟いた。
「やっと終わった。でも、まだ許さない。国外に逃げても。あの馬鹿女に男が出来たら、男に浮気した女だとばらして、破談させてやる」
私は夫と朝食中に宣言した。
私の言葉を聞いて、夫は私を驚いた顔で見る。
(ようやく気がついたか?)
私の言葉で、私の夫はようやく気がついた様だ。
今まで私が、わざと寝言で絶叫していた事に。
私は狂っていたわけで無く、狂ったふりをしていた事に。
(でも、もうバレても良い)
狂気は何をしでかすかわからないから狂気。
何をするかわからないから力がある。
それだからこそ狂気は恐怖をふりまける。
敵にコチラが正気だと気が付かれてしまえば、狂気の恐怖効果は半減してしまう。
だからさぁ〜
正気な私は、狂気のふりして毎晩馬鹿女の名前を絶叫していた。
私の目論見はある程度成功した。
馬鹿女も私の夫の名誉も落としてやった。
しかし……細心の注意をしたにもかかわらず、狂人のふりをした副作用で私の名誉も落ちていた。
私はただ……浮気された仕返しに狂人のふりをしただけなのに……
私は不倫されて気が狂った哀れな狂人。
そんな不名誉な称号を貰ってしまった。
正常な人間でも
狂人のふりをして大路を歩けば
すなわち狂人なり
その言葉通りになっています。
私は狂人認定されてしまった。
(まぁいいや)
私は狂人じゃ無い。
自分自身でそれを知っています。
私が狂人なら、この先破滅するだろう。
狂人は必ず破滅する。
でも、私はちゃんと先を計算できる正常な人間だから、破滅はしない策をねる。
後先を考える事が出来ないから狂人で、私は後先を考えられるから正常だ。
と思う事にします。
『 とりあえず夫からガッツリ慰謝料を取って、今の私に同情してくれる何人かの優しい人。そのうちの誰かと再婚する。か?
それとも浮気してくれた夫ちゃんをビシバシ再教育するか?
気の向くままに、運を天に任せて天秤にかけるとしよう。』
と、
今夜
同じベッドで眠る夫
ビクビクしている夫
その隣でそんなふうに、絶叫してみようと思う。
私の知ってる夫ちゃんは戻って来るだろうか?
それとも……このまま狂うだろうか?
夫が浮気をしてからと言うもの、夫ちゃんは浮気に狂っていた。
私は嫉妬と怒りに狂っていた。
私と夫、どちらが先に正常に戻るか?
それとも……完璧に狂うか?
私にも、まだわからない。
とにかく今夜も寝言で絶叫してみる
浮気をした夫よ
覚悟はいいか?
だんだん楽しくなってきた。
最近は私が毎晩絶叫すると……
それを聞いた夫もまた……
「許してくれ」と
絶叫している。
だんだん楽しくなってきた。
だから、まだ許さないよ。




