第8話
ベータテスト初日の朝。
ラビィは自室のテーブルに端末を置き、表示された任務内容をもう一度確認していた。
■指定任務
・最低3つの時代に赴くこと
・各時代でキャラクターデータを抽出
・抽出対象の最低1名は“消失”まで確認すること
「抽出は分かるけど……」
ラビィの指が止まる。
「消失まで、させなくちゃいけないなんて……」
胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
これがテストであり、仕事であり、未来のゲームを支えるための必要な工程だと分かっていても。
それでも。
「……うん。お仕事だもんね」
小さく呟き、端末を閉じた。
⸻
出社すると、ナナミが笑顔で小さなケースを差し出した。
「これが《クロノス・レジェンズ》のテスト端末。ラビィちゃん用に調整済み」
「ありがとうございます!」
受け取った端末は、どこかひんやりとしていて、ずしりと重みがあった。
昼前。
テスト開始時刻。
休憩室に設置されたベッドに腰掛け、ラビィは深呼吸する。
「いよいよかぁ……」
「しっかり仕事して来いよ」
ショーンが腕を組んで壁にもたれている。
「はい!」
ラビィは元気よく返事をして、ふと思い出した。
「あっ、そうだ。努さん」
「ひゃ、ひゃいっ」
「レガリアで仲間にしたデータって、レジェンズでは抽出できないんですか?」
努は慌てながらも頷いた。
「だ、大丈夫だよ……レガリアとは別物として扱っていい。システム的にも干渉しないようになってる」
「分かりました!」
ラビィはにこっと笑う。
「では、改めて……行ってきます!」
ベッドに寝そべり、端末を胸の上に乗せる。
その様子を見て、フィニスは静かに微笑んでいた。
⸻
《クロノス・レジェンズ 起動》
視界が光に包まれる。
次の瞬間——
壮大な音楽と共に、時代を超えて広がる世界の映像が流れ出した。
天空都市。
剣と魔法の王国。
蒸気機関が唸る鉄の都。
星々の海を渡る艦隊。
「……すご」
思わず声が漏れる。
オープニングが終わると、キャラクターメイク画面が表示された。
だが設定はすでに完了している。
ショーンが事前に作ってくれていたのだ。
表示されたアバターを見て、ラビィは瞬きをする。
「……私、こんな風に見えてるんだ」
どこか凛としていて、少し大人びた雰囲気。
自分で作るのとは違う、“他人から見た自分”。
「でも……うん、悪くないかも」
ゲームがスタートする。
地面の質感。空気の揺らぎ。遠くの鳥の羽ばたき。
すべてが、レガリアを明らかに超えていた。
「レガリアでも充分すごかったのに……」
感嘆が止まらない。
その時、視界の端に通知が表示される。
送信者:フィニス
夢中になって仕事を忘れないように
ラビィ、固まる。
「……バレてる」
苦笑いして、頬を軽く叩く。
「よし、ラビィ。お仕事モード」
深呼吸ひとつ。
「まずは三つの時代に行って、データ抽出だったね」
マップを開き、最寄りの施設を確認する。
《時代遡行施設》
各地に複数設置されているため、すぐ近くにも入口があった。
石造りの門のような巨大な装置が、淡い光を放っている。
ラビィはその前に立ち、わくわくを抑えきれない声で言った。
「よし……まずは、どこから行こっかな!」
新たな物語が、静かに動き出す。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




