第26話
ロランと別れたラビィは、一人で草原を駆けていた。背の高い草が風に揺れ、遠くには低い丘とまばらな木々が見える。
その時だった。
「出たぞー! 呂布が出たぞー!」
遠くの村の方角から、NPCの悲鳴が聞こえてくる。
「居た」
ラビィは迷わず声のする方へと走り出した。
土煙の向こう。巨馬に跨った大男が、長大な方天画戟を肩に担いで立っている。
「ん、何だ貴様は……」
低く響く声。視線だけで射抜かれるような圧。
ラビィは足を止め、まっすぐ男を見上げた。
「呂布さん……勝負、お願いしても良いですか?」
男の目が細まる。
次の瞬間、嘶きと共に馬が地面を蹴った。
「!」
土を巻き上げ、一直線に突っ込んでくる巨体。
ラビィは横へ跳ぶと同時に腰の後ろへ手を回し、二本のナイフを引き抜いた。
すれ違いざま、鋭い軌道で馬の前足を斬り裂く。
ギィンッ!
悲鳴のような鳴き声を上げ、馬が崩れ落ちる。
だが、男は空中で身を翻し、地面へと軽やかに着地した。
「やはり赤兎馬でないと弱いな……」
そう言い放ち、自らの馬にトドメを刺す。
ラビィは思わず目を瞬かせた。
(自分でやるんだ……)
男は戟を構え直し、ラビィを見据える。
「名を……」
「ラビィです」
「行くぞ、ラビィ!」
「はい!」
次の瞬間、間合いが消えた。
キィン!
ガギィン!
刃と刃がぶつかり、火花が散る。達人同士の応酬に、遠巻きに見ていた村人NPCたちはただ息を呑むばかりだった。
重く速い一撃を紙一重でかわし、ラビィは懐へ滑り込む。
「これなら……どうだー!」
二刀流の連撃が、嵐のように叩き込まれる。
斬、斬、斬!
「ぐっ……!」
呂布の動きが止まり、片膝をつく。
それでもその目の光は消えない。
「貴様の勝ちだ……好きにしろ」
そう言って、武器を地面へ放り投げた。
ラビィは荒い呼吸を整えながら端末を開き、手早く操作する。
――ピコン。
データ抽出完了。
「早くしろ! トドメを刺せ!」
覚悟を決めた声。
ラビィはきょとんとした。
「え? もう終わりましたよ? ありがとうございました、呂布さん!」
「……は?」
呂布が顔を上げる。
その視線の先では、ラビィがもう背を向け、スタスタと来た道を戻っていくところだった。
しばし呆然とした後、呂布は低く笑った。
「……面白い女だ」
◆
遡行施設に先に戻ってきたラビィは、装置の影でのんびり待っていた。
やがて、少し息を弾ませたロランが走ってくる。
「いやー。趙雲を説得するのに思ってたより時間かかりましたよ。でも、何とかデータ抽出は出来ました!」
嬉しそうに端末を掲げるロラン。
「ラビィさん、やっぱり呂布は諦めたんですね? 誰にしたんですか?」
自分より早く戻っている=強敵は避けた、という前提で話している。
ラビィは首をかしげた。
「え? 呂布さんのデータ抽出したよ? ほら」
端末画面を見せる。
【呂布奉先:データ抽出完了】
「………………マジか」
ロラン、完全停止。
「よし! 戻ろっか」
あっけらかんと言って装置へ向かうラビィの背中を見ながら、ロランは思う。
(本当にこの人は……規格外だ……)
二人の体が光に包まれる。
「遡行リセット」
景色が歪み、現代エリアへと引き戻されていった。
ここまでお読み下さり本当にありがとうございました。
《ブックマーク》や《評価》を頂けると大変励みになります!
更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




