第19話
グランドフィナーレの翌日。
ラビィは少し眠そうな目をこすりながら出社した。
昨日の熱気がまだ体の奥に残っている気がする。
部屋のドアを開けると、すでにフィニスが席についていた。
「あらラビィさん。昨日のスピーチ、素敵だったわよ」
「えっ、室長いたんですか?」
思わず声が裏返る。
「だって一応、運営だもの。イベント事は仕事の一環よ」
フィニスはくすりと笑った。
「いよいよサービス開始日も発表されたし、これから忙しくなるわよ」
「はい!」
ラビィが元気よく返事をした、その瞬間。
ブツンッ
部屋の電気が一斉に落ちた。
「えっ?」
一瞬、完全な暗闇。
しかし数秒もしないうちに、非常灯が点灯し、すぐに予備電源が作動する。
パッと照明が戻った。
「な、何だったんだ今の……」
ショーンが天井を見上げる。
その横で——
「あ……あああ……」
努が顔面蒼白で端末を見つめていた。
「どうしたの?努くん」
フィニスがすぐに席を立ち、努の元へ向かう。
「い、今の停電で……一部データにバグが発生してます!」
努は震える手で画面をフィニスに見せた。
表示されているのは異常ログの山。
「本来ありえない数値の魔物ステータス、装備品の効果の暴走……データ異常が複数……いえ、かなりの数見つかってます!」
部屋の空気が一気に張り詰める。
フィニスの表情が切り替わった。
「みんな、手分けしてデータ異常になっている箇所を探して!見つけ次第、努くんは修正対応お願い!」
「はい!」
即座に全員が動き出す。
ラビィも端末を開き、ログの海へ飛び込んだ。
異常な攻撃力のスライム。
防御力がマイナスになっている鎧。
回復量が一億を超えているポーション。
「なにこれ……めちゃくちゃ……」
冗談みたいな数値の羅列に、ラビィの背筋が寒くなる。
作業は終わらなかった。
朝から夜まで。
翌日も、その次の日も。
昼食もデスクでかき込み、
気付けば外は真っ暗。
それが、半月続いた。
そして——
「こ、これで……大丈夫だと思います……」
げっそりした努が、最後の修正ログを保存する。
「ふぅ……良かったわ。サービス開始前に何とかなって」
フィニスも珍しく、深く息を吐いた。
部屋のあちこちから安堵の声が漏れる。
ラビィは椅子にもたれかかった。
「はあぁぁ……長かった……」
その時、ナナミがぽつりと呟いた。
「でも……あの時の停電、何だったんですかね?」
皆の手が止まる。
「調べても何も情報出てこないし……この会社だけだったって話も聞きましたし……」
部屋に、静かな違和感が落ちる。
ただのトラブル。
そう片付けるには、何かが引っかかる。
フィニスは少しだけ視線を落とし、それから微笑んだ。
「……考えても仕方ないわ。今は目の前の仕事に集中しましょ」
「……はい」
ラビィは頷いた。
けれど。
誰も気付いていなかった。
修正ログの奥深く、ほんの一行だけ。
修正対象外:不明データ 隔離処理完了
その表示が、静かに残っていたことに。
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平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




