第17話
ベータテスト期間が終わり、
新作は最終調整段階に入っていた。
モニターの光が並ぶ開発室。
キーボードの音、端末の起動音、誰かの小さなため息。
そんな中、フィニスは会議のため席を外していた。
「あれ?」
ナナミがフィニスの机を見て首を傾げる。
「これ、会議資料の不足分だよね……?」
綺麗にまとめられた追加資料が、机の端に置きっぱなしになっている。
「ラビィちゃーん」
「はい?」
「これ室長に届けてあげてくれる?」
「分っかりました!」
ラビィは元気よく返事をし、資料を抱えて部屋を出て行った。
──数分後。
「あれ……?」
ラビィは廊下の真ん中で立ち止まった。
「さっきここ通った気が……」
左右に伸びる似たような廊下。
ガラス張りの会議室。
見覚えのある自販機。
「……え?」
ぐるりと見回す。
「ここ……どこ……?」
だだっ広い社内。
ラビィ、迷子になる。
その頃。
ガチャ。
「もう……資料持っていくの忘れちゃったわ」
部屋に戻ってきたフィニスが自分の机へと向かう。
「あれ?室長、もう会議終わったんですか?」
ナナミが顔を上げる。
「いえ、ちょっと資料忘れちゃって……あれ、無いわね?」
「えっ? 少し前にラビィちゃんに届けるよう頼んだんですけど……来てないですか?」
「えっ?」
フィニスが固まる。
「来てないわよ。あっ、会議始まっちゃう!……資料データだけ持っていくわ。ラビィさん来たら帰らせておくから。じゃあ、後お願いね」
そう言って、足早に再び出て行った。
しばし沈黙。
「迷子っスね……」
マヤがボソリと言った。
「ま、まさかぁ……社内だよ?」
ナナミは笑いながらも、目が泳いでいる。
信じてはいる。
でも、どこか信じきれない。
ガチャ。
「おはよー!」
ショーンが元気よく入ってくる。
「ショーンさん、来る途中でラビィちゃん見かけなかった?」
「ん? ラビィ? 見てないけど。どうしたの」
ナナミが事情を説明する。
数秒の沈黙のあと。
「ブハッ!あいつ絶対迷子だわ!!」
ショーン、大爆笑。
その時。
ガチャ……
「ヒック……ヒック……」
泣き声と共にドアが開く。
「も、もう大丈夫だから……」
努に支えられながら入ってきたのは——
資料をぎゅっと抱えたまま、半ベソのラビィだった。
「ラビィちゃん!?」
「努くん!?」
どうやら努がドリンクを買いに行った帰り、
廊下で右往左往しているラビィを発見したらしい。
「努ざん……ありがどうございまずぅ……」
安心した反動で、本格的に泣き出すラビィ。
「はいはい、もう大丈夫ですから」
おろおろしながらも優しく背中をさする努。
その光景を見て。
ぷっ。
そして——
「あははははは!!」
部屋に笑い声が溢れた。
ラビィは泣きながら言う。
「社内ひろすぎるんですぅ……ダンジョンですぅ……」
「ボス部屋は会議室かな?」
ショーンが追撃し、
「トラップは自動ドアっスね」
マヤが乗っかり、
ナナミは涙を拭きながら笑った。
戦神を倒したトッププレイヤーは——
現実世界の社内で迷子になるのであった。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




