第9話
「まずは……新要素、行ってみよっか」
ラビィは遡行施設の操作盤の前で腕を組んだ。
空中に並ぶ時代リストをスクロールしていく。
現世。未来。古代文明。
その中に、ひときわ異彩を放つ項目。
《神話時代》
「ふんふん、こーして……現世と神話……神話っと」
指先で選択。
「えーっと……天照大神さんは、高天原だったかな」
目的地を設定。
《設定完了。遡行準備OK?》
「OK!」
光が弾けた。
⸻
次の瞬間。
空気が違った。
澄みきっているのに、重みがある。
静かなのに、世界そのものが息をしているような感覚。
「……すご……」
ゲームの中のはずなのに、肌が粟立つ。
「ちゃんとキャラも時代ごとに変わってる……凄いな……」
自分の服装が、どこか神代風の装束に変わっているのを見て感心する。
少し歩くと、大きな社が見えてきた。
白木造りの立派な建物。張りつめた空気。
門の前には、大弓を背負った門番が二人立っていた。
ラビィは、ごくりと唾を飲む。
「あ、あの……?」
「ん?見ない顔だな」
門番の一人が近づいてくる。
「あの、天照大神さんって居ますか?」
二人の門番の顔色が変わった。
「天照様だと? お前!スサノオの手先か!」
「へ!? ち、違います!」
ラビィはぶんぶん首を振る。
「えっと……天照さんとお話したいなーと……」
もう一人の門番が深刻そうに頷く。
「本当に違うのか?スサノオのやつが前に来た時は大変だったんだ。天照様の侍女を殺すわ、糞を投げるわ……」
「そうそう。そのせいで天照様も岩戸にお隠れになってな。それはそれは大騒ぎであったのだぞ」
「わ、私はそのスサノオって人とは関係ありません!ただ天照さんに会いに来ただけです!」
必死の説明。
しばらく見つめ合ったあと、門番たちは小さく頷いた。
「……怪しいが、悪意はなさそうだな」
「失礼のないようにな」
門が開かれる。
「ふー……」
ラビィは胸を撫で下ろした。
「これ、データ抽出するだけでも大変かも……」
⸻
社の奥。
通された部屋の正面には、簾が下がっていた。
その向こうに、柔らかな光の中で揺れる影。
静かな声が響く。
「我は天照大神である。そちの名はなんと申す?」
「わ、私はラビィと申す者です……はい……」
思わず背筋が伸びる。
「ラビィ……変わった名じゃ。して?我に話とは?」
「は、はい。あ、あの……宜しければ、データを抽出させてもらえませんか?」
一瞬の沈黙。
「……でーた?ちゅうしゅつ?よく分からぬな」
ラビィ、冷や汗。
「ま、許す」
「許すんだ」
あまりのあっさりさに目が丸くなる。
「じゃ、じゃあ失礼して……」
端末を操作する。
「あれ?顔とか見えなくても大丈夫なのかな……とりあえずやってみよ……」
対象へロックオン。
スイッチ、ON。
…………ピコン!
《抽出完了》
「おお!顔見えなくても大丈夫なんだ。メモメモ……」
「あの、ありがとうございました!」
「ん、終わったのか?」
簾の向こうの影がすっと立ち上がり、静かに去っていった。
「……とりあえず一人目ゲット」
小さくガッツポーズ。
⸻
門番にも深々と頭を下げ、社を後にする。
遡行施設に戻り、端末を確認。
「えーっと元の時代に帰るには……」
メモを開く。
「遡行リセットでOKっと……OK!」
光に包まれ——
ラビィは再びスタートの街へと戻ってきた。
「抽出データはギルド内で登録と編成だったね」
石畳を踏みしめ、ギルドへ向かう。
⸻
ギルド内の登録端末を操作。
《抽出データ登録完了:天照大神》
「よし、と」
「んで、編成はと……」
ステータス画面を開く。
「あったあった、編成っと」
メンバー欄に表示された名前を選択。
天照大神——編成。
光が弾け、隣にキャラクターが表示される。
ラビィ、固まる。
「顔見てないのに、ちゃんと出てる……」
そこに立っていたのは、神々しい光を纏った、美しく気高い女性の姿。
「へぇ……こんなお顔だったんだ」
しみじみと呟くラビィの横で、神は静かに微笑んでいた。
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更新は毎日致しますが、2話更新に変更致します。
平日:7時頃、19時頃の1日2話
土、日、祝:12時頃、20時頃の1日2話
です。
また、前作《月の兎、時代を駆ける~目指すはフルダイブ型MMORPG無双~》はこの作品の過去のお話となっておりますので宜しければ、そちらの方もよろしくお願いします!




