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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

【BL】復讐に甘えて

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/02/21


「恋をしたことがありますか?」

「当然」

「どんな感じでした?」


 彼は真っすぐ私を見つめていた。


 どうしてそんな話になったのか。

 ただ仕事帰りに飲みにいこうかと、軽く誘っただけなのに。


「照れるから、言うわけないだろ」

「今後の参考に聞かせてください」


 普段なら笑い飛ばしていたのに、酒が入っていたから私は饒舌になっていた。


「なんていう、その人のことを考えただけで、嬉しくなるっていうか」


 脳裏に浮かぶのは中学時代の教師。

 田舎には似合わない色白で、細面の美術の教師。

 その時まで、私は自分の興味が男に向っているなんて知らなかった。恋なんて知らない同級生は沢山いたし、馬鹿ばっかりやっていたからだ。

 自分にとって、その教師が特別だと気が付いたのはいつだったか。

 その人を見るだけでドキドキして、見つめられるだけで、顔が赤くなりそうになって、何度も顔を逸らした。

 だけど、少しでも彼の姿を見たくて、美術部に入ったり。

 絵の才能なんてからっきりだったのに。

 だけど、その人は私に丁寧に教えてくれた。

 手を重ねられ、震えてしまったこともある。

 思えば、気が付かれていたかもしれない。

 だけど、彼の態度は変わらなかった。

 卒業すれば会えなくなる。それが悲しくて、美術部のお別れ会みたいのを開いたっけ。

 その時は自分の気持ちを完全に意識していた。 

 だけど、彼は教師、しかも男同士。

 私は気持ちを押し殺して、笑って、さよならと言えた。

 それでも顔くらいもう一回見たいと思って、卒業した後訪ねたけど、彼はやめた後だった。

 都会の中学校に移動になったらしい。

 なんだか、避けられた気がして、被害妄想だけど、私はその人のことを忘れようとした。


「谷口先輩?」

「あ、ごめん。思い出に浸っていたみたいだ。まあ、恋は苦しい。叶わぬ恋は時にな」

「……思い出させてしまってすみません」

「いや、いいよ。随分懐かしい記憶を思い出した」


 十二年前。

 私は二十七になってしまった。

 彼は何歳だったんだろう。当時。

 先生に慣れるくらいだから、少なくても二十二歳は超えていたはず。

 となると、今は三十四以上か。

 二十七と三十四。

 思えばそんなに歳の差はなかったんだな。

 同性という問題はあるけど。


「谷口先輩」

「あ、また。本当にごめん。さあ、飲もうぜ」


 思い出は思い出だ。

 年齢の差はどうであれ、同性ではどうにもならない。

 おちょこに注いだ酒をあおって、注ごうとしたら、後輩の山下が継いでくれる。


「手酌でいいんだけど」

「入れてもらった方が美味しいですよ」

「そうかな」


 もう恋の話はしなくなり、安堵しながら注がれた酒をあおる。


「先輩~」

「飲み過ぎた~」


 次々に注がれる酒を飲んでしまい、私はべろんべろんに酔ってしまった。

 後輩に家にまで送ってもらうという醜態。


「山下。本当にごめん。これタクシー代。ちゃんと帰ろよ」


 ベッドに運んでもらった後、財布からお金を必死に出して渡してから、記憶がない。


「西治くんって先輩のことだったんすね」

「ううん?」


 ふと目を開けると、山下の顔が見えた。

 ちょっとおかしい。

 なんで、眼鏡……

 あれ?


「気が付きました。俺、兄ちゃんと苗字が違うんですよ。兄ちゃんから西治くんの話は聞いていた。気持ち悪いって思ってて、就職先で同じ名前の先輩見てびびりましたよ。珍しい名前だけど、別人の可能性もあるって思ったんだけど。西治くんも兄ちゃんのこと好きだったんだ。ふうん。教師と生徒か。兄ちゃん、随分こじらせていたけど、何かされませんでしたか?」

「は?」


 何言って。

 兄ちゃん。

 ……その顔。


「よく似てるでしょ?眼鏡かけると双子見たいって言われるんですよ。兄ちゃん死んじゃってさあ。最後まで西治くんの話してた」

「死んだ?兄ちゃん?野田先生が、死んだ?」

「そうだよ。去年。あっけなかった。ずっとあんたのこと話していた」

「な、なんで、死んだ?」


 酒が抜けてなくて、よく理解できない。

 ただ理解できたのが、野田先生が死んで、この山下が弟だってことだ。

 あと、なんでか、山下は私のことを憎んでる気がする。


「俺の事、見てくれなかった。なんで?なんであんたのことばっかり。俺は弟なのに。だから俺は復讐する。兄ちゃんができなかったことをやるんだ」

「ま、待て!」


 突然なんか、服を脱がされそうになって、抵抗したら気持ち悪くなって、一気に吐いた。


「最悪!吐きやがった!」


 山下は随分猫を被っていたのか。

 なんていうか酷い奴だ。

 と思ったけど、フラフラする私をその後介抱してくれて、吐しゃ物の処分までしてくれた。


「翌日、しっかりリベンジしますから!」


 二重人格?

 片づけが終わったころにはいつもの山下に戻っていて、帰っていった。

 なんだったんだ?


 けれども、それから一週間後、すっかりリベンジされてしまった。

 ……野田先生と同じ顔だから、抵抗できなかった。

 っていうかすがってしまったかもしれない。

 野田先生は病気で亡くなられていた。

 最後まで私の話を山下にしていたらしい。

 ……なんか知らなかったけど、好かれていたみたいだ。恋愛感情ありで。

 知っていたら?

 私は気持ちを伝えていたかもしれない。

 だけど、野田先生はもういない。


 過去の恋にすがって、山下の復讐に甘えて、体を許した。

 馬鹿みたいだ。 

 だけど、その時はなぜかとても幸せを感じられた。



 

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― 新着の感想 ―
切ないなあ…… ありまさんのお話は、キレイなだけの手触りじゃなくて、現実感や重みがあって好きです
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