表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

第7話:魔女と呼ばれた少女


 警告音が鳴り響く中、俺とガイウスは大急ぎで服を着た。

 せっかく温まった体が、深淵の冷気で急速に冷えていく。


「方角は西だ。距離800」


 俺は濡れた髪を拭きながら、ステータス画面のレーダーを凝視する。

 赤い光点が、微弱だが確かに明滅している。


「急ぐぞ。信号が弱くなってる。発信源が破壊される寸前だ」


「承知した!」


 ガイウスがマストへと走り、監視台へ駆け上がる。

 俺は操舵輪を大きく切り、動力炉の出力を上げた。


 ドゥン、ドゥン、ドゥン……!

 エンジンの駆動音が重く響き、筏が波を砕いて加速する。


 数分後。

 ガイウスの声が風に乗って届いた。


「見えたぞ、船長! 前方、白いカプセルのようなものが浮いている! あれは……『脱出艇』か?」


 俺も目を凝らす。

 波間に浮かんでいたのは、卵のような流線型の白い船だった。

 貴族の船に搭載されている、緊急用の脱出ポッドだ。


 だが、問題はその周囲だ。


「……うわ、最悪だな」


 脱出艇の周りを、紫色のアメーバのような粘液状の怪物が、びっしりと覆い尽くしていた。


 『溶解スライム(アシッド・スライム)』。

 物理攻撃無効。触れた金属を瞬時に溶かす、船乗りの天敵だ。


 ジュゥゥゥゥ……。

 嫌な音が聞こえる。

 白い装甲板が溶解液で泡立ち、白煙を上げている。

 中身が消化されるのも時間の問題だ。


「船長! 斬り込みは不可能だ! 剣が溶かされる!」


 ガイウスが焦りの声を上げる。

 彼の言う通り、金属鎧の騎士にとってスライムは最悪の相性だ。


 だが、俺は冷静に『鑑定』を行い、ニヤリと笑った。


「安心しろ、ガイウス。あいつらは『敵』じゃない」


「なっ……船が溶かされているんだぞ!?」


「よく見ろ。あの紫色は、高純度の『酸性粘液』だ。金属加工の溶剤として使えるし、なにより……」


 俺は魔導砲の照準を合わせる。


「あいつらのコアは、極上の『接着剤』になるんだよ」


 俺は砲台の出力を調整した。

 最大火力バスターではない。拡散モード(ショットガン)だ。


「筏の補修材が向こうから来てくれたんだ。丁寧・・に狩るぞ」


 発射。

 

 ズババババババッ!!


 砲口から無数の光弾がばら撒かれる。

 俺の計算通り、光の粒はスライムの体を貫通し、その中心にある『核』だけを正確に焼き切った。


 核を失ったスライムたちは、形を保てなくなり、ただの紫色の液溜まりとなって海へ溶けていく。


「……相変わらず、デタラメな射撃精度だ」


 ガイウスが呆れたように呟く。

 俺はすぐさま脱出艇へと筏を寄せた。


「引き上げるぞ!」


 クレーン(元は井戸の滑車だ)のアームを伸ばし、半壊した脱出艇を筏の上へと回収する。

 白い装甲はボロボロで、ところどころ穴が開いている。


 俺はこじ開けるようにハッチを開放した。


 プシュゥゥゥ……。


 白い冷気と共に、中から一人の少女が転がり出てきた。


「……ぁ……」


 年齢は15、6歳だろうか。

 透き通るような銀色の髪。

 上質なローブを着ているが、あちこちが破れ、泥とすすで汚れている。


 彼女は薄く目を開け、俺とガイウスの姿――そして、ツギハギだらけのゴミの船を見て、怯えたように体を震わせた。


「こ、殺さない、で……。私は……何も……」


 蚊の鳴くような声。

 極度の衰弱状態だ。

 だが、俺の視線は彼女の顔ではなく、その『瞳』に釘付けになっていた。


 彼女の右目は、普通の青色だった。

 だが、左目は――黄金色の時計盤のような模様が刻まれていたのだ。


「鑑定」


---


## **【個体名:リア(衰弱)】**

**職業:魔導士(追放者)**

**スキル:『魔眼・天球儀カース・アイ』**

**効果:周囲の魔力を乱し、魔法発動を阻害する**


「……なるほどな」


 俺は状況を理解した。

 この『魔眼』のせいで、彼女は捨てられたのだ。


 周囲の魔法を勝手に乱してしまう目。

 魔法文明のこの世界において、それは『歩く妨害兵器』であり、忌み嫌われる『魔女』の証だ。

 味方の魔法すら不発にさせるのだから、パーティ追放どころか、国を追い出されても不思議はない。


 だが。


「……おい、人間」


 俺はしゃがみ込み、震える彼女の顎をクイと持ち上げた。


「ひっ……!」


 リアが悲鳴を漏らす。

 殺されると思ったのだろう。


「いい目だ」


 俺は心の底から称賛した。


「え……?」


 リアが目を見開く。


「魔力を乱すってことは、魔力の流れが『見えている』ってことだろ? しかも、周囲に干渉できるレベルで」


 これは呪いなんかじゃない。

 使い方を知らない連中が、勝手に恐れているだけだ。


 この目は、深淵の複雑な魔力海流を読み解く『ソナー』になり、敵の魔法攻撃を無効化する『ジャミング装置』にもなる。


 航海士として、これ以上ないSSRスーパースペシャルレアの人材だ。


「拾った(・・・)」


 俺は立ち上がり、ガイウスに指示を出した。


「ガイウス、客室(馬車)へ運んでやれ。あと、回復薬ポーション代わりのスープを用意だ」


「……また、拾うのか? 船長」


 ガイウスが苦笑する。

 俺は肩をすくめた。


「当たり前だろ。こんな高性能な『レーダー』、深淵のどこを探しても落ちてないぞ」


 リアは、わけがわからないという顔で、ポカンと口を開けていた。


 魔女。呪いの子。災厄。

 そう呼ばれて捨てられた自分が、『高性能レーダー』などという意味不明な理由で、この奇妙な船の一員にされようとしている。


 彼女がその本当の価値を発揮するのは、もう少し先の話だ。

 今はただ、温かいスープと毛布が必要だった。


 こうして、最強の戦艦『リベルタ』に、二人目のクルーが加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ