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第20話:追跡者、灰色の猛禽

 轟音と共に船体が大きく左に傾く。


 船尾から立ち上る黒煙が、視界を灰色に染め上げた。

 リアの魔眼に映し出されたのは、霧の中から牙を剥く魔導師団の高速艦だった。


 上層の連中、なりふり構わず来やがったな。


 レンは操舵輪を必死に抑え込み、リベルタ号の姿勢を立て直す。

 先ほどのグリフォン隊は、こちらの戦力とリアのジャミング能力を測るための捨て駒に過ぎなかったのだ。



「レンさん、損傷が……! 第3推進器が停止しました!」



 リアの悲鳴が伝声管を伝って響く。

 ヘルメット越しに伝わる過負荷のせいか、彼女の声には苦痛が混じっていた。



「慌てるな、リア。まだ飛んでいる。……キリル、面舵おもかじだ! 奴の射線から外れろ!」



「了解ニャ! でも旦那、あの船、こっちよりずっと速いニャ!」



 キリルが叫ぶ通り、敵の高速艦は雲の合間を縫うようにして、リベルタ号の背後を執拗に狙い続けている。

 さらに、一度は退けたはずのグリフォン隊が、手負いと見たのか再び距離を詰めてきた。



「……させんと言っている」



 甲板で立ち尽くしていたガイウスが、魔剣を低く構えた。

 彼の周囲の空気が、紫色の魔力で歪み始める。

 肉薄してきたグリフォンの一体が、鋭い爪を立ててガイウスへと襲いかかった。



 一閃。



 鋼鉄の肉体を持つはずのグリフォンが、その羽の一枚すら揺らすことなく、音もなく真っ二つに裂かれた。

 だが、ガイウスの顔に余裕はない。

 敵の魔導兵たちが放つ遠距離魔法が、雨のように甲板を叩いている。



「レン殿、このままではジリ貧だ! 一度懐に入られると、こちらの重火器は使い物にならんぞ!」



「わかってる! ……リア、聞こえるか」



 レンはコックピットの通信を開いた。



「はい……っ、レン、さん」



 リアの呼吸は荒い。

 バイザーの奥の黄金の瞳には、かつて自分を虐げた魔導師団の紋章が焼き付いている。

 恐怖。

 それが彼女の魔力を、そして精神を内側から蝕んでいた。



「怖いのは百も承知だ。だがな、リア。……お前があの霧を晴らさない限り、俺たちはあの船に一方的に撃たれ続ける」



「私、が……」



「呪いじゃない。お前のその目が、俺たちの道を照らす灯火なんだ。信じろ、自分を。……そして、俺を」



 レンの静かな、だが熱を帯びた言葉がリアの胸を突く。

 リアは震える手で、レンズの出力レバーを握り直した。



 ここで私が逃げたら、またゴミに戻ってしまう。

 レンさんがくれたこの居場所を、守りたい。



「……魔眼、フルドライブ。……視界スコープ、全開!」



 リアが叫ぶと同時に、リベルタ号の動力炉が爆発的な回転を見せた。

 バイザーに収束された黄金の光が、扇状に霧を焼き払っていく。



「捉えた……! 左舷30度、雲の中、魔力集束点を確認!」



「上等だ! 主砲、全門旋回! リアが見せたその場所を、根こそぎ消し飛ばせ!」



 レンが発射レバーを叩き込む。

 四門の魔導砲が同時に咆哮を上げた。

 放たれた熱線が霧を貫き、隠れていた敵艦の右舷を正確に撃ち抜く。



 ズガァァァァンッ!!



 大気を震わせる大爆発。

 高速艦は火だるまとなり、激しく傾きながら霧の底へと沈んでいった。



「やったニャ! 直撃だニャ!」



 キリルが歓喜の声を上げる。

 残されたグリフォン隊も、母艦を失ったことで統制を失い、散り散りに逃げ去っていった。



 勝利。

 だが、リベルタ号の被害も甚大だった。

 船尾からは未だ火の手が上がり、何よりコックピットから出てきたリアの姿が、痛々しかった。



「……レン、さん……私……」



 リアの目からは、一筋の血が流れていた。

 限界を超えた魔眼の使用が、彼女の華奢な肉体を確実に削っている。

 そのまま、彼女は糸が切れたようにレンの胸の中へと倒れ込んだ。



「リア! おい、しっかりしろ!」



 レンは彼女を抱き留める。

 その体は、驚くほど熱を持っていた。

 機械は直せても、人の命を繋ぐ術を、レンは持っていない。



「クソッ、この船にはまだ、足りないものが多すぎる……」



 レンは強く奥歯を噛み締めた。

 リベルタ号が再び動き出すためには、そしてリアを救うためには。

 どうしても、あの闇市に潜むという毒医者の力が必要だった。


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