表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/23

第12話:神殺しのフルバースト


 狭い峡谷に、岩盤が砕ける音が反響していた。


 巨大な海蛇が、岩のかせを外そうと必死に身をよじっている。

 だが、動けば動くほど、鋭利な岩肌が鋼鉄の鱗に食い込み、火花を散らしてその巨体を締め上げていく。

 完全に嵌まっている。


「……ひどい光景だな」


 ガイウスが剣を構えたまま、ポツリと漏らした。

 正面から戦えば一瞬で全滅させられる神話級の怪物が、今はただの巨大な的でしかない。


「同情するなよ。あっちが勝てば俺たちが餌になっていたんだ」


 俺は冷たく言い放ち、甲板に固定された四門の魔導砲へ駆け寄った。

 冷却パイプからは白い蒸気が漏れ、砲身はすでに熱を帯びている。


 俺は砲台の制御レバーを握り、背後のコックピットへ声を飛ばした。


「リア、照準補正だ。あいつの弱点はどこだ?」


「喉元です! 鱗が剥がれている場所が一箇所あります。そこが心臓に直結しています!」


 リアの声には、もう迷いも震えもない。

 彼女の視界には、怪物の体内を流れる魔力の血管までが透けて見えているはずだ。


「了解。ガイウス、お前はトドメの準備をしておけ。俺がこじ開ける」


「承知!」


 俺はレバーを引き絞った。

 動力炉の回転数が跳ね上がり、船体が激しく振動する。

 本来なら安全装置が働くレベルの過剰供給。

 だが、今は燃え尽きても構わない。


 狙うは一点。

 海蛇が咆哮を上げるために喉を晒した、その一瞬。


「――撃てぇっ!!」


 ドォォォォォン!!


 四つの砲門が同時に火を噴いた。

 収束された熱線が空気を焼き焦がし、一直線に伸びる。


 海蛇が気づいた時には遅かった。

 光の束は、リアが指定した喉元の傷口へと正確に吸い込まれた。


 グギャアアアアアッ!!


 断末魔の叫び。

 肉が焼け焦げる嫌な臭いが峡谷に充満する。

 海蛇が苦痛に狂い、口からデタラメに雷撃を撒き散らした。

 紫電が岩肌を砕き、破片が雨のように降り注ぐ。


「ちっ、まだ死なないか! さすがは深淵の主だ、タフすぎる!」


 俺は舌打ちした。

 砲身が真っ赤に焼けつき、これ以上の連射は危険だ。

 海蛇は最後の力を振り絞り、その口に膨大な雷のエネルギーを溜め始めた。

 相打ち覚悟の極大ブレスだ。


 まずい。

 あの距離で放たれれば、峡谷ごと俺たちは消し飛ぶ。


「ガイウス!!」


 俺は叫んだ。


「任せろ!」


 返事は一瞬だった。

 ガイウスがマストの上から飛んだ。

 ボロボロの鎧。

 だが、その右手に握られた『魔剣グラム』だけは、妖しい紫色の光を放っている。


 かつて彼を殺しかけた呪いの剣。

 だが今は、レンによって船の動力炉からエネルギー供給を受け、その真の力を解放していた。


「騎士団長の一撃、受けてみろ!」


 ガイウスは空中で剣を振りかぶった。

 海蛇が彼に気づき、ブレスを放とうと口を開く。

 その口内へ向けて、ガイウスは自らの体を弾丸のように突っ込ませた。


 ズドッ!!


 重い衝撃音。

 ガイウスの魔剣が、ブレスを放つ寸前の海蛇の上顎から脳天へと深々と突き刺さっていた。


 バチチチチッ……!


 行き場を失った雷撃が体内で暴発する。

 海蛇の目が白目を剥き、巨大な体がビクンと痙攣した。


 やがて。

 ズズ……ン。


 山のような巨体が力を失い、峡谷の底へと崩れ落ちた。

 地響きと共に土煙が舞い上がる。


 静寂が戻った。


「……やった、か?」


 俺は煤けた顔を拭い、身を乗り出した。

 海蛇の頭上に立つガイウスが、剣を引き抜き、こちらへ向かって親指を立てて見せた。


「完全勝利だ」


 俺は操舵輪にもたれかかり、深く息を吐いた。

 膝が笑っている。

 本当にギリギリの綱渡りだった。


 俺たちは急いで筏を接岸させ、巨大な死骸へと降り立った。

 目的はただ一つ。

 こいつが守っていた、あるいは飲み込んでいた『ドロップアイテム』だ。


「レンさん、あそこです。心臓のあたりに、強い反応があります」


 リアの指示で、俺はナイフを使って分厚い肉を切り開いた。

 熱い血の海の中に、異質な輝きを放つ物体が埋まっていた。


 それは、人間の頭ほどの大きさがある結晶体だった。

 水晶の中に複雑な歯車が封じ込められ、手で持つとフワリと浮き上がろうとする不思議な力場を感じる。


「見つけた……」


 俺は震える手でそれを抱え上げた。


『古代の浮遊機関』。

 かつて天空都市を空に浮かべていた、失われたテクノロジーの心臓部。

 これさえあれば、重力なんて関係ない。


「ガイウス、リア。荷物をまとめろ」


 俺は二人に振り返り、ニヤリと笑った。


「深淵の底はもう卒業だ。こいつを船に取り付けて、空へ帰るぞ」


 俺たちはついに手に入れた。

 地獄から天国への片道切符を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ