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第11話:泥沼のデッドヒート


 グオオオオオオッ!!


 背後から迫る咆哮は、もはや音というより衝撃波だった。

 空気が震え、俺たちの鼓膜を容赦なく叩く。


「速い! 速すぎるぞ、レン殿!」


 ガイウスがマストにしがみつきながら叫ぶ。


 俺たちの筏は、オーバーロード状態のエンジンの推力で水面を滑るように疾走していた。

 だが、それでも『深淵の守護者』との距離は縮まっていく。

 あいつは泳いでいるんじゃない。その巨体から放つ電撃で水を爆発させ、ロケットのように加速しているんだ。


(化け物め。ゲームのデータよりも3割は速いぞ!)


 俺は操舵輪を逆に切り、ジグザグ走行で狙いを絞らせないようにする。

 そのたびに船体からミシミシと悲鳴が上がる。

 急造の結合部が剥がれそうだ。


「レンさん! 来ます! 高エネルギー反応、ブレスです!」


 伝声管からリアの悲鳴が飛んでくる。


「衝撃に備えろッ!」


 俺が叫んだ直後だった。


 カッッッ……!


 世界が白く染まった。

 海蛇の口から放たれた極太の雷撃が、俺たちの筏のわずか数メートル右を通過した。


 ジュボオオオオッ!!


 海水が一瞬で蒸発し、凄まじい水蒸気爆発が起きる。

 熱風と衝撃が横殴りに襲いかかり、筏が45度近くまで傾いた。


「うわあぁぁっ!?」


 ガイウスの体が宙に浮く。

 積み込んでいた資材の樽が、海へと転がり落ちていく。


「耐えろ! 舵が効かなくなる!」


 俺は歯を食いしばり、全体重をかけて舵を戻した。

 ここで転覆したら終わりだ。全員、あの電気ウナギの餌になる。


 バタンッ、と船体が海面に叩きつけられ、水平に戻る。

 だが、減速してしまった。


 ズズズズズ……。


 背後に、巨大な影が覆いかぶさる。

 振り返らなくてもわかる。

 生臭い息と、バチバチという放電音が、すぐ耳元で聞こえる距離だ。


 食われる。


 ガイウスが絶望の表情で剣を抜こうとした。

 だが、俺はニヤリと笑った。


「ちょうどいい距離だ」


「は……?」


「リア! 峡谷の入口まであとどれくらいだ!」


「すぐそこです! 10時の方向、あの岩山の割れ目です!」


 霧の中から、切り立った断崖絶壁が姿を現した。

 その中央に、ナイフで切ったような細い亀裂がある。

 『海底火山の亀裂』だ。


 幅はわずか10メートルほど。

 俺たちの筏ならギリギリ通れるが、進入角度を間違えれば壁に激突して木っ端微塵だ。

 しかも、今の速度は通常の倍以上。


「ブレーキなんてついてないぞ。……舌を噛むなよ!」


 俺はエンジンの出力を維持したまま、裂け目に向かって突っ込んだ。


「レン殿!? ぶつかるぞ!」


「ぶつからない! 滑るんだ!」


 俺は裂け目の直前で、舵を思い切り左に切り、同時に左舷側の逆噴射口を開放した。

 ただの穴だが、圧縮した蒸気を吹き出すには十分だ。


 ザザザザザザッ!!


 船尾が大きく外へ流れる。

 ドリフトだ。

 筏は横滑りしながら、慣性の法則を無視するような挙動で、岩の隙間へと滑り込んだ。


 ガリガリガリッ!!


 船の側面が岩壁を擦り、火花が散る。

 馬車小屋の屋根が削れ、木片が飛ぶ。

 だが、抜けた。


「……入った!」


 薄暗い峡谷の中へ。

 俺は息をつく暇もなく、急ブレーキ代わりの錨を落とした。


 そして、その直後だ。


 ズガアアアアアアンッ!!!


 背後で、天地がひっくり返るような衝突音が響いた。


 勢いに乗って俺たちを追ってきた『深淵の守護者』が、止まりきれずに狭い峡谷の入り口に突っ込んだのだ。


 メリメリメリッ……。


 百メートルの巨体が、岩と岩の間に挟まり、無様にのたうち回る。

 強引に進もうとするが、硬い鱗が岩盤に食い込み、完全にロックされている。


「……地形ハメ、成功だ」


 俺は操舵輪から手を離した。

 手のひらがジンジンと痺れている。心臓がうるさい。

 だが、口元には笑みが張り付いて離れなかった。


「見たか、ガイウス。これが俺たちの狩りだ」


 ガイウスは腰を抜かしたまま、ポカンと峡谷の入り口を見上げていた。

 そこには、身動きが取れず、ただ顔だけを出して威嚇する巨大な蛇の姿があった。


「……信じられん。本当に、あの怪物を封じたのか」


「封じただけじゃない」


 俺はコックピットから降りてきた、ふらふらのリアを抱き留め、ガイウスに向かって指を鳴らした。


「さあ、ここからは一方的なボーナスタイムだ。魔導砲の準備をしろ。動けない的を撃ち抜く仕事だぞ」


 俺たちの反撃が始まる。

 神殿の主が、ただの『素材の山』に変わる瞬間だった。

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