12. 転んでもタダでは起きない! 地元コラボ大作戦
サザンクロス島の太陽は今日も容赦なく降り注いでいる。
メインストリートでのプロモーション活動は、相も変わらず微妙な成果。
ほとぼりが冷めた頃合いと考えてヴァルガンも参加したが、「露出狂の人」と微妙に距離を置かれてしまう。
「ぐぬぬ……! ポロリ事件の影響、どれだけ強いんだ……!」
「フン。愚民どもめ、我の肉体美を理解できんとは修行が足りんな」
「そういう問題じゃねーんだよ!!」
隣でアロハシャツ(下は厳重に紐を締めたハーフパンツ)を着たヴァルガンが、ジュースを飲みながら不満げに言う。
この魔王には羞恥心という概念がない。それが強みでもあり、今回は最大の弱点となっていた。
(大人しく待っているだけじゃ、何も変わらない……。考えろ、この状況を好転させる一手を……!)
大ピンチだが、プロデューサーとしてここで諦めるわけにはいかない。
マイナスをプラスに変える。炎上を燃料に変える。タケルが現代日本で良く見てきた、オタク的生存戦略を活かす時。
「……待てよ。隠すから怪しまれるんだよな」
何か思いついた表情でタケルは顔を上げた。
腫れ物扱いされている現状を打破するには、あえて開き直るしかない。
「そうだ、笑いに変えるんだ! あの事件を、エンタメに昇華させる!」
そう閃いた瞬間、パン! と手を叩き、タケルは立ち上がった。
ようやく見えた突破口に、テンションが上がっている。
「ヴァルガン、お前はみんなとここにいてくれ。俺は観光協会に行ってくる!」
「ぬ? また説教されに行くのか?」
「逆転のシナリオを売り込みに行くんだよ!」
*
観光協会のオフィス。
冷房の効いた室内で、ノノは山積みの書類と格闘していた。その大半は魔獣騒動に関する報告書とフェスの安全性確保に関する資料、そして各所への謝罪状の下書きだ。
「クラーケン退治の報告書より、露出のお詫び状の方が多いってどういうことなの……」
げんなりした顔でノノが作業を続けていると、バン! と勢いよくドアが開いた。
「すみません、ノノさん! 相談があります!」
「ひゃっ!? タ、タケルさん!? また何かやらかしました!? 今度はどこを露出したんですか!?」
「違います! これからのプロモーション戦略についてです!」
ずかずかとノノのデスクに近寄り、タケルは身を乗り出した。
その瞳には異様な熱気が宿っている。
「単刀直入に言います。コラボ企画をやりたいんです!」
「コラボ……?」
「はい。エリオのやり方は派手で、客の欲望を直接刺激するものです。正直、今の俺たちが同じ土俵で戦っても勝てません。しかも今は変質者というデバフまでかかってる」
タケルは冷静に現状を分析する。
イメージを払拭するチャンスがなければ、変質者デバフが解除されることはない。何もしなければ、永続デバフとして残り続けるだろう。
「だからこそ、戦うフィールドを変えます。狙うのは『地元密着』と『食』です! サザンクロス島には美味しい屋台やお店がたくさんありますよね? そことコラボして、RE:Genesis公認メニューを出すんです!」
タケルは懐から殴り書きのメモを取り出し、ノノへと差し出す。
まともな企画書ではない、思いついたことをとにかく書き連ねたものだ。
「でも、ただ美味しいだけじゃ弱い。なので、あの騒動を利用します。キャッチコピーはズバリ、『あの筋肉アイドルも絶賛!? 服が弾け飛ぶほどのウマさ!』です!」
「そんな自虐ネタを……!?」
「ええ、ギャグにします! 今回の騒動を逆手に取って、マイナスイメージを自分からネタにして笑い飛ばすんです!」
笑いは緊張を緩和する。人々がヴァルガンに対して抱いている「怖い」「変態かも」という警戒心を、「面白い」「バカなことやってる」という親しみに変換するのだ。
「たとえば、とびきりサイズのバナナを使った『RE:Genesisチョコバナナ』! これを食べればあの筋肉ゲットだぜ、とアピールします!」
「色んな意味で直球過ぎません!?」
「それから、激辛スパイスを効かせた『灼熱噴火カレー』! 食べた瞬間に熱くて服を脱ぎたくなる、という触れ込みで出しましょう!」
「確かに、それなら笑って許してもらえるかも……?」
話していくうちにノノの表情が少し緩んだ。
提案内容は突飛だが、理にかなっている。このまま腫れ物扱いされ続けるより、笑いに変換した方が島全体の雰囲気も明るくなるはずだ。
「それに、地元とのコラボで島の人たちも味方につけられます。エリオが観光客向けの派手なショーなら、俺たちは地元の人たちと一緒に盛り上げるんです!」
その言葉に、ノノはハッとした。
マンネリ感を打破したいと考えていた観光協会にとっても、これは渡りに船の企画かもしれない。
「……わかりました。やりましょう! タケルさんのその『転んでもタダでは起きない』っていう姿勢、すっごくいいと思いますっ!」
ノノは立ち上がって、タケルの手を握る。
彼女の顔は、いつもの明るい笑顔に戻っていた。
「みなさんには、島を救ってもらった恩がありますからね。私にできることなら、全力で協力します! お店への交渉、私が口添えしますよっ!」
「ノノさん……ありがとうございます! よーし、そうと決まれば善は急げだ!」
*
一時間後。二人は、島のメインストリートにある人気の大衆食堂『海猫亭』にやってきた。頑固そうな店主の親父さんが、腕組みをしてジロリと睨んでいる。
「で? ウチの自慢の料理を、そのアイドルのネタに使いたいだと?」
「……は、はい! その通りです! ぜひお願いします!」
タケルは冷や汗を流しながらも、深々と頭を下げた。
「ふざけた内容だな」
親父さんがドスの効いた声を出す。そう簡単にはいかないかとタケルが恐る恐る顔を上げると──親父さんは豪快に笑った。
「面白ぇじゃねぇか!!」
「えっ?」
「俺もあの騒動、見てたんだよ。クラーケンを一撃でぶっ飛ばしたあと、丸出しでドヤ顔! あんな豪快な馬鹿、久しぶりに見たぜ」
親父さんは笑いながらタケルの背中をバシバシと叩く。
「男なら、恥かいた分だけデカくなりゃいいんだよ! で、どんなメニューにするんだ?」
「あ、ありがとうございます! えっと、この店の名物である海鮮と焼飯をアレンジした料理になるんですけど……」
タケルは提案用の資料を取り出して説明を始める。
ノノと協力して作った、手描きのイメージ画像を添えた簡単な企画書だ。
「焼飯の上に、とろ~りとソースをかけます。これを、服を着てる状態に見立てて……食べ進めると中からドン! と巨大な海鮮が出てくる『ポロリ海鮮飯』はどうでしょう!」
「ハハハ、くだらねー! 気に入った、採用だ! じゃ、試しに作ってみるから待っててくれよ!」
親父さんは大爆笑し、即座に厨房へ向かう。
その様子を見て、タケルとノノは揃ってガッツポーズをした。
「いける……! この流れならいけるぞ!」
*
コラボ営業に成功し、タケルとノノは次に提案を持ちかける店を探すことにした。二人は手元の資料と島の地図を見比べながら歩いている。
「この近くにあるお店は~……ジェラート屋か。どれを提案してみようかな」
「私としては、マンゴーとパッションフルーツのダブルが食べたいのよね~」
「確かに! 南国といえばフルーツアイスですよね、ノノさん」
「あの、今の私じゃないですけど……」
タケルが「え?」と目を向けると二人のすぐ横、パラソルの下のベンチに優雅に脚を組んで座っている女性がいた。
大きなサングラスに、つばの広い麦わら帽子。露出度の高いサマードレスを着こなし、手には小洒落たジュース。完全にバカンスを満喫している観光客そのものの姿だ。
女性はサングラスを少しずらし、見覚えのある瞳でタケルにウインクした。
「よっ。相変わらず賑やかにやってるわねー」
「ルミナス!? なんでこんなところに! サボってリゾート来るなよ!」
「失礼ね、仕事よ仕事」
そこにいたのは彼をこの世界に呼び出した張本人、女神ルミナスだった。ルミナ・シティならともかく、まさかリゾート地で遭遇するとは。
「仕事って何だよ。どうせまた『魔力濃度測定』とかいう建前で遊んでるんだろ?」
「あら、今回は本当よ。ちゃんと調査することがあって来たんだから」
「じゃあ前回は大嘘ってことじゃねーか! 職務怠慢だぞ!」
「……ゴホン。ま、とにかくアイスのコラボはやっておいてよね。こういう暑いところで食べると最高だから。じゃ、バイバーイ」
ルミナスは一方的に要望だけ伝えると、飲みかけのジュースを持って人混みの中へと消えていった。その足取りは、これから仕事に向かうとは到底思えないほど軽やかだった。
「言うだけ言って、なんだったんだあいつは……」
「あの人もRE:Genesisの関係者ですか? すっごい美人でしたけど」
「うーん、関係あるようなないような……通りすがりの変な人ってことにしといてください。あんまり関わるとロクなことないんで」
タケルは曖昧に笑って誤魔化した。まさか「女神様です」とは言えない。
今回ばかりは本当に仕事だと言っていたが何を調査しに来たのか。よくわからないが、思考を切り替えてコラボ提案へ向かうことにした。
*
その後、ノノの口添えもあって多くの店がコラボに協力してくれることになった。クラーケン退治の英雄という事実は大きく、島の住人たちはヴァルガンに対して好意的だったのだ。
そして夕方、メインストリートには手書きの新しい看板があちこちに立ち並んでいた。
『RE:Genesis公認! 一撃必殺のパンチが効いた味、クラーケン焼き』
『注意! 暑くなりすぎてポロリしちゃうかも!? 激辛スナック』
『筋肉アイドルも絶賛☆ ヴァルガン印のバナナトロピカルジュース』
とにかくネタに走りまくった、開き直り全開のキャッチコピーたち。
お馬鹿な代物だが、そのインパクトは絶大だった。
「ちょっと何あれ、アホくさー!」
「筋肉アイドルってあの露出狂の? こんなのやってるんだ」
通りを行く地元の人たちが、看板を見てクスクスと笑いながらも店に入っていく。警戒心という壁が「笑い」によって取り払われた瞬間だった。
「フン。我をこんなふうに扱うとはいい度胸だ」
「でも、美味いだろ?」
「うむ。ネタにしておいて味が不味かったら、店を叩き潰していたところだ」
店の前で看板を見上げながら、コラボジュースをぐびぐびと飲んでいる魔王。その姿を見て、通りがかりの子供が指を差す。
「あ! でっかいバナナの人!」
「こらっ、指差さないの! ……でも、美味しそうに飲んでるわねぇ」
母親もつられて笑う。そこに恐怖や嫌悪感はない。
あるのは面白い名物キャラを見るような、温かい視線だ。
「エリオみたいな派手さはないけど、島全体を巻き込んだ流れができてる。プロモ合戦も勝機が見えてきた……!」
一時はどうなるかと思ったが、最悪の状況はひっくり返せた。これなら、フェス本番に向けてバトンを繋げるはず。
「よーし、この調子で他の店も回るぞ! 全メニュー制覇だ!」
「うむ。次は甘いものが食いたい。あそこのパフェはどうだ」
「パフェはコラボしてなかったな……そうだ、ついでに提案しちゃおう! 『筋肉の甘い誘惑』みたいな感じでさ!」
意気揚々と次の店へ向かう二人。
その姿を見送りながら、ノノは深く安堵の息をついた。
「……タケルさん、本当にすごいなぁ」
普通なら心が折れてもおかしくない状況で、瞬時に切り替えて周りを巻き込んでいく行動力。それはきっと、心から「アイドル」という存在の力を信じているからなのだろう。
「私も頑張らなきゃ。フェス本番、最高のステージを用意しないとっ!」
ノノもまた、自分の仕事に戻るべく走り出した。
南国の夕暮れ。祭りの本番に向けた熱気は、笑いと食欲と共に高まっていた。




