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5. 砂浜の決闘、勝つより脱いで撮れ高優先!?

 ジリジリと肌を刺す日差し。

 エメラルドグリーンの海が眩しく輝くビーチに、タケルたちの姿があった。絶好のバカンス日和だが、表情は真剣そのものだった。


「よし、今日はここでプロモーションだ! ヴァルガン、準備はいいか?」

「フン。この暑さを吹き飛ばすほどのアピールをしてやろう」


 アロハシャツを靡かせ、サングラスをかけたヴァルガンが得意げに胸を張る。

 今回試してみる作戦はビーチでのゲリラライブ。リゾート客が集まるこの場所で歌を披露し、エリオに流れた関心を奪い返す算段だ。


「あれ? 本家さんじゃん、やっほー!」


 ところが、その出鼻をくじくように聞き覚えのある声が響いた。

 タケルが振り返ると、そこにはまたしてもエリオが立っていた。さらに彼の背後には、ガラの悪い男──オフィス・グリード社長のリカルドと、魔導カメラを持った数名のスタッフたちが控えている。


「ビーチ撮影に来たら会えるなんて、奇遇だね~♪」

「げっ、エリオ……!」

「ちょうどいい。エリオ、撮影内容変更だ。こいつらと勝負しろ」

「我と勝負? なんのつもりだ」

「せっかく筋肉アイドルが揃ったんだ。『マッスルプリンス、ビーチの王者になれるか!?』ってやれば盛り上がるだろ?」


 リカルドが下卑た笑みを浮かべ、葉巻をふかした。

 彼らはタケルたちがビーチに来ることを読んでいたのか、それとも監視していたのか。どちらにせよ、またしても邪魔が入った形だ。


「断る。我は貴様らの玩具ではない」

「え~? 逃げるの? そんな態度じゃ、ガタイいいのに口だけなんだ~ってファンの子がガッカリしちゃいそうだなぁ」

「……ほう?」


 ヴァルガンのこめかみに青筋が浮かぶ。

 安い挑発だ。だが、魔王としてのプライドを傷つけられて黙っていられるはずがない。


「よかろう。その減らず口、二度と利けぬようにしてやる」

「交渉成立~! じゃあ種目は……ビーチバレーやっちゃおう!」


 エリオが指差した先には、あらかじめ設営されていたビーチバレーのコートがあった。用意周到すぎる。


「ルールは簡単、先に十五点取った方の勝ち! 負けた方は罰ゲームとして、ごめんなさ~いって情けなく頭を下げることにしよっか♪」

「……いいぞ。受けて立つ!」

「参加するのは二人でいいんだな? なら、俺とヴァルガンでぶっ飛ばしてやるぜ!」


 タケルも腹を括った。ここで逃げれば、余計エリオが調子に乗るだけだ。

 それに、純粋なフィジカル勝負ならこちらに分がある。ヴァルガンは言うまでもなく、相棒となるガルドも元Aランク冒険者。身体能力で負ける要素はない。


「オッケー! こっちはオレちゃんと、ん~……撮影スタッフくんでいいや」


 エリオが呼んだのは逞しい大男だった。見た目は強そうだが、その筋肉はトレーニングで作った見せかけのものに見える。


「我に勝負を挑んだこと、後悔させてやるとしよう」


 *


 ピーッ!


 審判役のスタッフが笛を吹き、試合が始まった。


「先攻は俺らだ! いくぜぇっ!」


 ガルドがボールを高く放り上げ、跳躍する。

 その背筋が鋼のように唸り、丸太のような腕が勢いよく振り抜かれた。


「オラァッ!!」


 ドゴォォォォンッ!!


 凄まじい打撃音と共に、ボールが発射される。それはサーブというより砲撃。

 エリオたちのコートへ突き刺さり、砂浜をえぐった。


「うおっと!?」


 エリオが一歩も動けず、ボールはラインの内側に弾丸のように着弾した。

 勢いが収まらず、砂の上でシュルシュルと回転し続けている。


「っしゃあ、まずは一点!」

「フン、ぬるいな。次は我が打つ」


 今度はヴァルガンの番だ。

 彼はボールを軽く放ると、魔力を込めた掌底で打ち出した。


「ハァッ!!」


 バシュゥゥゥンッ!!


 ボールが衝撃波を纏い、ネットを揺らしながらエリオの横を通過する。

 反応どころか、視認すらできない速度だ。


「……ははっ、マジかよ」


 エリオの顔から笑みが消えた。

 パワーもスピードも、次元が違いすぎる。助っ人のスタッフも、あまりの力量差に膝が震えている。


「どうだエリオ! これが本物の『筋肉アイドル』パワーだ!」


 タケルがコート脇で叫んだ。

 勝てる。これなら完勝できる。正々堂々とした実力勝負で決着をつければ、観客もRE:Genesisの凄さを認めるはずだ。


 スコアは瞬く間に十四対ゼロ。あと一点でヴァルガンたちの勝利が決まる。

 だが、エリオは小声で呟いた。


「試合で勝てねぇなら……別の土俵に持ち込むとするか」


 エリオはボールを拾い上げ、サーブを打つ構えをする。

 しかし、その目はボールではなく、コート脇に集まっている女性ファンたちに向けられていた。


「いくよ~……そーれっ!」


 へなちょこなサーブ。ガルドが難なくレシーブし、ヴァルガンへと繋ぐ。

 ヴァルガンがスパイクを打とうとした瞬間──


「うわぁっ!?」


 エリオがボールを追うフリをして、何もないところで派手に転倒した。

 砂まみれになり、観客の視線を意識しながら四つん這いになる。


「いってぇ~! こけちゃった♡」


 その言葉と同時にビキニパンツの紐を解き、鍛え上げられた臀部のラインが露わになった。さらに、わざとらしく肌を撫で回して艶かしいポーズをとる。

 ほぼ全裸になりそうな状態だが尻尾を動かして隠し、ギリギリ見えない角度にした絶妙なアピールだ。


「きゃああああ!! エリオ様ーっ!!」

「大丈夫!? 怪我してなーい!?」

「やだー! セクシーすぎー!!」


 観客席から悲鳴のような歓声が上がった。

 彼女たちは試合の行方など見ていない。砂だらけになりながら色気を振りまくエリオの姿に、釘付けになっているのだ。


「なっ……!?」


 予想外の展開に驚いたヴァルガンから、力が抜ける。

 それまでの勢いとは違う、弱いスパイクになってしまったが……エリオたちはボールを止めようとする素振りすら見せなかった。

 そのままボールはコートに落ち、RE:Genesisの得点。試合は十五対ゼロで、完全勝利のはずだった。


 なのに。


「うう、負けちまった……エロさしか才能がなくて、ごめんなさ~い!」


 エリオは顔を砂に埋めたまま、カメラ目線で悶絶しながら罰ゲームの謝罪をする。その撮れ高を見て、社長のリカルドが手を叩いて喜んだ。


「最高だぞ、エリオ。惨めな姿と露出、客ウケは抜群だ。今回のタイトルは『イジメられたマッスルプリンス』で決まりだな」

「どーもどーも。つーわけで本家さん、付き合ってくれてありがとね~♪」


 カメラが止まったのを確認したエリオは即座に元のテンションに戻る。

 立ち上がってビキニパンツの紐を結び直し、砂を払ってからタケルたちを見てニコリと笑った。

 その様子を見たファンたちの歓声が彼を包む。勝者であるはずのヴァルガンたちには、誰も見向きもしない。そこにあるのは「弱い者イジメをした悪者」を見るような、冷たい視線だけだった。


(くそっ、悔しいが上手い戦略だ……! ただのパクリ野郎じゃない……!)


 ただ真似ているだけの相手なんて、本家だからこその実力でねじ伏せられるとタケルは考えていた。でも、エリオは自分自身をコケにすることに躊躇がない。

 どんな形だろうとアピールに繋げて稼ぐというプロデュース戦略、気に食わない相手だがその手法は認めざるを得なかった。


「……ふざけんじゃねぇぞ、ったく。勝ったのに最悪の気分だ。あいつら、最初から試合なんざどうでもよかったわけか」

「スポーツマンシップの欠片もありませんね。不愉快な態度です」


 試合を見ていたセレイナも表情を曇らせ、エリオたちを咎めるような目を向ける。

 スポーツ勝負だったはずなのに、彼らは自分のプロモーションのためのショーに変えてしまったのだ。


「姑息な輩ではあるが、己を道具として使い潰すあの性根は理解できなくもない」

「ヴァルガン……?」

「プライドを捨て、泥を被り、笑い者になってでも注目を集める。あれもまた、一つの覚悟だ」


 かつては手段を選ばず、世界を支配しようとした魔王。

 だからこそ、エリオの中に潜む「目的のためなら何でもやる」という執念に、共感めいたものを感じたのかもしれない。


「だが、王道こそが覇道。小細工で得た人気など、砂上の楼閣に過ぎん」


 ヴァルガンは踵を返し、ゆっくりと歩き出す。


「行くぞタケル。あやつのやり方が通用するのはここまでだ。本番では、実力の差を骨の髄まで教えてやる」

「……ああ!」


 タケルは頷き、後を追った。でも、胸の中の不安は消えない。

 エリオのやり方は汚い。でも、確実に客の心を掴んでいる。あの「わかりやすい刺激」で毒された観客たちに、自分たちの魅力を正攻法で伝えられるだろうか?

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